表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
60/253

第五十七話 クロノス 怒りのお誕生日会

私苺のショートケーキって好きなんですけど、食べ続けてるとクリームの甘さに耐えきれなくて気持ち悪くなっちゃうんですよね。


そんな私でも甘い物は大好きなので、モンブランが一番好きです。


 六年前にこの屋敷を追い出されたジルミール・バルメルドが帰ってきた。

 彼はジェイクとユリーネの本当の子供だった。

 つまり、ジルミールは俺の兄にあたる人物となる。

 しかし彼の帰還を喜んでいる者は誰もいない。

 全員が戸惑いながらジルミールを警戒していた。

 だがジェイクとユリーネは再会を喜ぶジルミールを前に絶望したかのように佇んでいる。

 両腕を広げて抱擁を待っているジルミールだったが、一言も話さず動かない両親を見て首を傾げる。


「どうしたの二人とも?六年ぶりの再会なんだから、もっと喜んでよ」

「……ど、どうして戻ってきたんだ?お前は、お前はもう……!」

「仕事で王都に来たんだ。それでどうしても一度みんなの顔を見ておきたくて戻ってきたんだ。すっごく迷ったんだけど、やっぱりパパとママには会いたかったからさ」


 無邪気な声でジルミールを前にジェイクとユリーネが狼狽える。

 どうしてジェイクとユリーネはあんなに震えているんだ。

 ジルミールは問題を起こして家を追い出されたのは知ってるが、一体何をしでかしたんだ。


「奥様!プレートを忘れてます!」


 再び廊下から声が聞こえ、メイドさんが両手にメッセージプレートを乗せて現れた。

 だが重苦しい食堂の雰囲気に足を止め、ジルミールの姿を見て手に乗せていたプレートを床に落としてしまう。


「ジル……お坊っちゃま?」

「メアリーさん!お久しぶりです!」


 メアリーと呼ばれたメイドさんが大きく後ずさる。

 ジルミールは彼女が落としたメッセージプレートプレートを拾おうと歩み寄る。


「大丈夫ですかメアリーさん?落としましたよ?……ふーん」


 メッセージプレートを拾い上げたジルミール。

 そこに描かれていた文字を読むと興味深そうにする。


「クロノス君。君、今日が誕生日なんだ?」

「……!」


 こちらに振り返りメッセージプレートを見せて来る。

 そこのには確かに「クロノスちゃんお誕生日おめでとう」とチョコで描かれていた。

 俺はジルミールの質問に対し、肯定も否定もしない。

 ただ黙っている。

 しかしジルミールは俺から答えを得られないとわかると、ジェイクとユリーネが引いてきたワゴンカートへと目を向けた。

 カートの上、クロッシュが被せられた皿を見つめる。

 クロッシュに手をかけるとジルミールはそれを取り除き、皿の上に置かれた物を確認した。

 皿の上に置かれた物……それは苺が沢山乗せられ、七本のロウソクが立てられたケーキだった。

 俺の為に作られた、誕生日ケーキ。

 ケーキを前にジルミールは渇いた笑いを浮かべる。


「ははは、やっぱり誕生日ケーキだ。これ、ママが作ったんだよね?いいなぁ、こんなの作ってもらえて」


 感情の篭ってない声でジルミールはケーキが乗せられた皿を持ち上げる。

 何をするつもりなのかとジェイクとユリーネは止めに入ろうとし、


「ジルちゃん……何を」

「僕の時はしてくれなかったのにさ!」

「待って!やめて!」


 ユリーネが悲鳴を上げ止めようとする。

 だがそれよりも先にジルミールはケーキの乗せられた皿を思い切り地面に叩きつけた。

 皿が割れる音が食堂に響き渡る。

 ケーキは床に飛び散り、無残にも原型を無くしてしまう。

 それを見てユリーネが嗚咽する声が聞こえる。


「ジルミール……!お前ぇ!」


 床に叩きつけられたケーキと嗚咽するユリーネを目にジェイクが激昂する。

 腕を振り上げ、握りしめた拳をジルミールに振り下ろし、


「またそうやって僕を殴るの?」


 頬を殴りつける前に止まる。

 ジルミールの言葉にジェイクが苦しそうな表情を浮かべる。

 怒りと後悔、その二つがせめぎっているかのような姿を俺は初めて見る。


「パパはいつもそうだ。僕が何かするとすぐに殴って、バルメルド家の息子ならバルメルド家の息子ならって、いつもいつも僕を殴って……!」

「ち、違う!私は、お前の為に……!」

「僕を殴るのは僕の為じゃなくて、自分の為じゃないの!?」

「なっ!?何を……!?」

「勉強が出来なければ僕を叱って殴って!剣術が出来なければ僕を叱って殴って!パパが僕を殴るのは僕の為じゃなくて、自分の──家の名前に傷を付けないようにする為でしょ!!」


 家の名前に傷を付けない為、そう言われた瞬間激昂していたジェイクから怒りが抜けるのがわかる。

 「違う、違うんだ」と呟きながら後ずさる。

 もう見てられないとイルミニオが駆け寄ろうとし、


「俺が行きます」


 手で俺が制した。

 大きく息を吸い込むと、ゆっくりとジルミールへと進む。

 あいつの乱入のせいで楽しかった場の雰囲気は最悪になってしまった。

 しかもケーキは台無しにするし、ユリーネは泣かせるし、俺はもうおこだよ、激おこだ。


「ん?なんだいクロノス君?もしかして、ケーキを台無しにされて怒った?」


 ジルミールの正面に立ち拳を握る。

 この世界に来てからこんなに怒りを感じるのは二度目だ。

 

「ごめんね〜、せっかくの誕生日を台無しにしちゃってさ」


 拳を強く握りしめ腕を振りかぶる。

 俺とジルミールでは身長差があるから、ここからだと殴っても痛くないだろうな。


「怒ったのなら殴ってもいいよ。そしたら僕も殴るけどね!」

「黙れ」


 だから振りかぶった拳を開き、ジルミールの頬を全力で平手打ちした。

 食堂に気味の良い打撃音が響き渡る。

 平手打ちされたジルミールは驚いたのかよろめくと足をもつらし尻餅をついた。

 俺に打たれた頬は赤く腫れており、ジルミールは目の端に涙を滲ませこちらを見上げる。


「あっ、兄にむか、向かって、なにする……」

「謝れ」

「へ……?」

「ユリーネお義母に謝れッ!!」


 腹の底から大声で怒鳴り声を上げる。

 俺の怒鳴り声にジルミールはビクッと震え、子猫のように大人しくなってしまう。

 ふんっと鼻を鳴らすと俺はまだ涙を流すユリーネの正面に屈んだ。


「大丈夫でしたかお義母さん?お皿の破片が刺さったりしてませんか?」

「だ、大丈、夫よ。でも、ケーキが……」


 失意の目で床に散らばったケーキに見つめる。

 せっかく用意してくれたのに、これじゃあもうみんなで食べられないな。

 みんなは……な。


「坊っちゃま?」


 床に散らばったケーキ欠片から大きめの選んで手で掴む。


「クロちゃん?」

「坊っちゃま、どうするつも……駄目です!落ちたのを食べては!」


 メイドさんの制止を無視してケーキを口に運ぶ。

 口に入れた瞬間、クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが広がり思わず笑顔が溢れてしまう。


「あっ、これ甘くて美味し……いや本当に美味しい!お義母さん、これすごく美味しいです!」


 咀嚼しながらケーキの美味しさを素直にユリーネに伝える。

 それを聞いてユリーネに、少しだけ笑顔が戻った。


「お、おい!クロノス!」


 ケーキを食べているとジルミールが怒鳴り声が聞こえた。

 どうやら復活したらしい。


「お前、兄である僕を叩くとはどういうことだ!?」

「あんた、昔この家から追い出されたんだろ。だったら今は俺の兄じゃないだろ」


 手に付いたクリームを舐めとりながら答える。

 うん、やっぱ甘くて美味しい。

 いい牛乳使ってるわ。


「歳上に向かってその態度……!」

「歳上なら!俺よりも先に謝る相手がいるだろ?」


 立ち上がりもう一度尻餅をついたままのジルミールを見下ろす。

 それが気に入らなかったのか、ジルミールは唸り声を上げると勢いよく立ち上がり憤怒する。


「もういい!見てろよ……僕に楯突いたこと後悔させてやる!」

「謝ったら後悔してやる」

「教団の恐ろしさに気づいて謝っても、許さないからな!」


 ジルミールは舌打ちすると足早に食堂から出て行く。

 彼がユリーネに謝ることはなく、目をくれる訳でもなく、ただ険悪な雰囲気だけを残して去ってしまう。

 結局俺の誕生日会はそのままお流れになってしまった。

明日で一週間!

連続投稿の記録を維持できるといいなぁ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ