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第五話 魔が住む洞窟


 休憩も終えしばらく洞窟内を歩き続けたのだが一向に出口に出れない。

 最初は一本道だったのに奥に進むにつれ道が2つ3つとどんどん別れていき、今は五つに分かれる穴道の前で悩んでいた。


「多いな」

「そうだね」


 俺もレイリスも四回目の分かれ道を前にして遠い目をする。

 そろそろ方向感覚が鈍くなってきた。

 もう数十分は歩いてるが全く外に出れる気配がない。

 あの神様ネズミ法螺吹いたんじゃないだろうな。

 今度はどっちに進んだものか。


「よし、せっかくだから俺はこの真ん中の穴を選ぶぜ!」

「どうして真ん中?」

「勘」


 ちなみに今まで選んだ道も全部勘だ。

 だって仕方ないじゃない。

 道わからないんだから。


「ちょ、待った待ったァ!」


 真ん中の道に進もうとする俺たちを止める声が響く。

 あの神様ネズミだ。

 神様は大慌てで俺たちの足元をすり抜け、選んだ道の前で両手を広げ立ち塞がる。


「この道はダメだよ!誰だいこの道選んだの!?」

「俺だよ。勘で選んだ」

「素晴らしく運がないな君は!」


 そりゃ運が強かったら瓦礫の下敷きになって転生なんかしてないよ。


「いいかい?この洞窟は住処としている魔物が穴を掘ったんだ。つまり、この穴のどこかにその魔物がいるってことなんだよ?闇雲に進んでたらそいつと鉢合わせして食べられちゃうんだよ?」

「道が分からないんだから仕方ないだろ。案内役がいなかったんだし」


 でも神様の口ぶりからして俺の選んだ道に魔物がいるらしい。

 つくづく運がないな俺は。

 やれやれと頭を垂れると神様は俺の足から左肩まで登り耳元で囁く。


「せっかくだし、君に贈り物としてあげたその体の使い方を教えてあげよう」

「言い方が気持ち悪い」


 耳元で囁かれ全身に鳥肌が立ち、肩に乗った神様を落とそうと手で払うが反対側の肩まで移動されてしまう。

 右肩に乗った神様はちょうど右眼がある顔の側面まで手を伸ばしてきた。


「右眼に力を入れてごらん」

「力を入れる?どうやって?」

「右眼に意識を集中してぇ。瞼を閉じるように力を入れるんだよぉ。あ、ほんとに閉じちゃダメだからね」


 とりあえず言われた通りにしてみる。

 右眼に意識を集中する。

 瞼を閉じるなと言われたので人を睨む時ぐらいの力加減を入れ続けると、右眼がだんだん熱くなってくる。

 まるで眼球の中から何が溢れ出そうとするみたいに奥から不思議な感覚が湧き上がってきた。

 すると右眼に何が見えた。

 今目の前にある光景ではない。

 この穴の先がどうなっているのか、その地形が詳細に見えた。

 縦穴の先だけではない。

 見えている洞窟内の光景も今までより鮮明になっている。

 岩の形や足元の土の凹凸までよりはっきりと。


「うわ、なんだこれ!?」

「よしよし、使えてるみたいだね。そのまま出口を探してごらん」


 右眼だけに見える不可思議な光景に酔いながらも出口を探せと言われ、他の穴も右眼に意識を集中させながら覗いてみる。

 すると確かに出口が見えた。一番左の縦穴。その先に薄っすらと光が見えている。


「こっちだ!みんな、こっちに出口があるぞ!」


 俺の言葉に子供たちがハッと表情を変え走り出す。

 突然走り出した皆を追いかけレイリスもそれに続く。

 俺を残しみんな一斉に出口のある一番左の縦穴へと進んで行った。


「おい神様、何なんだこの眼」

「便利でしょう?その眼はマナに呼応して力を発揮するんだ。なんと夜目が利くようになるんだよ!」

「あんなに力を込めてそんだけ!?夜目利くだけなのかよ!」

「意外と使えるもんなんだよ?不満なのかい?」

「どうせなら眼の模様がクルクル回ったり、凝視した所に黒い炎が出るようにして欲しかった」

「そんなことしたら君の眼、爆発しちゃうけど」


 マナ込めたら夜目が利くだけとかしょぼすぎだろ。

 もう一回他の縦穴を覗いてみる。

 どうやらこの右眼の夜目が利く能力、眼に力を込めてる間だけしか発動しないらしい。

 見える範囲は5mちょっとぐらい、更に意識を集中すればもっと先まで見えるけど少し疲れる。


「やっぱしょぼい」

「失礼だね君!僕が転生する君の為にせっかく」

「見つけたぞぉ!!」


 洞窟内に野太い男の声が響き渡る。

 驚いて振り向くとゲイルとか名乗ってた眼帯ハゲが息を荒げて立っていた。

 他にも部下五人がいて全員身体中に土や泥だらけになっている。

 俺の背後から来たってことは、まさかあの抜け穴から追いかけてきたのか!?

 あそこの抜け穴小さかったから通れないと思ってたのに無理矢理通ったんだろう。

 無茶苦茶だなぁ。

 でもまずいぞ。

 せっかく出口を見つけたのにここで捕まったらまた牢屋に逆戻りだ。

 今度は逃げられないように縛られたり、抜け穴を塞がれたらおしまいだ。


「なぁ神様、俺のこの眼に他の能力とかないのか?相手を屈服させるとか石化させるとか」

「ブフッ!そんな能力を人間の眼に付けられる訳ないじゃん。ファンタジーじゃあるまいし」


 こんのクソネズミがァァァァ!!

 てめぇの存在はファンタジーじゃねえのかよ!

 何だその哀れみの目は腹立つぅぅぅぅ!


「白髪のガキ。あれがそうか……おい、他のガキはどこだ!」


 肩に乗ったネズミに腹を立てているとゲイルが話しかけてくる。

 どうやら出口に繋がる縦穴に皆が走って行ったのは見られていないらしい。


「逃げた悪いガキには罰を与えないとなぁ?でも他のガキがどこに逃げたのか教えるなら罰を軽くしてやっても」

「誰が話すかハゲ!その肩パッドダセぇんだよ!」

「こんのガキィィィィ!!」


 何で付いてるのか分からない謎の肩パッドを指摘するとゲイルが逆上する。

 その隙に俺は皆が走った縦穴とは別の先程俺が選んだ真ん中の縦穴へと走り込む。


「待てクソガキィィィィ!てめぇは鞭打ちの罰だァァァァ!!」


 作戦通り逆上したゲイルたちは俺を追いかけてきた!

 これでレイリスたちが向かった方には行かない!


「ちょっとちょっと相棒!なんでこっちの穴に入るの!?」

「レイリスたちと同じ穴に行ったら追いつかれて皆捕まっちまうだろ!だから別の穴に逃げたんだよ!」

「いやいいんだよ!さっきの穴を抜ければ外に!」

「だから外出れても捕まったら意味ないだろう!」


 右肩の上で叫ぶネズミと口論しながら走り続ける。

 右眼に意識を集中したまま走れば、影に隠れた岩や段差などを事前に目視し避けることができる。

 この力をフルに使って洞窟内を走り続ければ、あいつらを撒くことだってできるはずだ!

 そう思っていたのだが──


「あれ、行き止まり!?」


 右眼の能力で行き先を視るとそこは行き止まりとなっていた。

 奥まで走ってみるとそこに壁があり、これ以上先には進めなかった。

 マズったよ本当に運がないな俺は!

 後ろから追いかけていたゲイルたちも行き止まりだと分かると下卑な笑顔を浮かべながら近づいてくる。


「残念だったな。ここは行き止まりらしい」


 やべぇよ!本当にやべぇよこれ!

 もうこれ以上逃げる場所がないのはもちろんだけど、ゲイルたちから逃げる手立てがねぇ!


「さぁ、覚悟はできてんだろうなぁ?」


 腰に備えた鞭を手に取りゲイルがニタニタと笑う。

 嫌だなーあの鞭で打たれるんだろうなぁ。

 あんなので打たれたら皮向けちまうよ。

 じりじりと壁際に後退する。

 何か、何かないのか。

 神様、何かいい案は……っていねぇ!さっきまで肩に乗ってたはずのネズミがいねぇ!

 どこに行きやがったんだあの神様ネズミは!?

 まさか逃げたのか?一人で?

 ちっくしょうあの野郎は!

 何が信じてればより良き未来に行けるだよ!

 大事な場面でいなくなりやがって!

 もう二度とあいつのことは信じな


「グルルルル」

「……え?」


 突然背後から何かの呻き声が聞こえた。

 背後には壁しかないはずなのに背中には風を感じる。

 しかもこの風生暖かい。

 恐る恐る振り返って見ると、壁の上部に二つ目があった。

 俺がその目を見上げているとギョロッと鋭い目が俺を見下ろしてくる。

 よくよく背後の壁に手を触れてみると、この壁ザラザラしてる……しかも突き出るように滑らかな 曲線を描いてる。

 いや、そもそもこれ──壁じゃない?

 鋭い目が俺をじっと見つめてくる。

 背後で何かが開く。

 それと共に生暖かい風が強くなる。

 あ、やばいこれ……今すぐここから逃げないとやばい。

 動け俺の足!ビビってないで早く逃げるんだよ!

 動け、動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!


「動けぇぇぇぇ!!」

「シャァァァァ!!」


 俺が走り出すと同時に背後の何かが大口を開け噛み付いてくる。

 それを間一髪で躱すと俺は全速力でゲイルたちの脇をすり抜ける。

 突然動き出した何かにゲイルたちも気づき数歩後ずさる。


「ボ、ボス!なんスカあれ!?」

「魔物か!?お前ら来た道を戻れ!」


 ゲイルの命令に部下たちが一目散に走り出し俺を追い抜く。

 だが一人逃げ遅れた部下が口を開けた何かに悲鳴を上げる間もなく飲み込まれた。


「く、喰われた!一人喰われた!」


 振り返っていた俺はその光景を目撃し戦慄する。

 あれは人間を喰う。

 神様が言ってた魔物ってもしかしてあれのことなのか!?

 だからこの穴に入るなって言ってたのか!?

 右眼に意識を集中してその正体を確かめようとする。

 そいつには鋭い目があった。

 翠の鱗があった。

 長く細い舌があった。

 口の中に鋭利な牙が四本あった。

 それは蛇だった。

 生前でも写真やテレビで見たことある姿の蛇だった。

 だが圧倒的に違うのはその大きさだ。

 そいつの正面から見た姿はとても巨大だった。

 大の大人一人を一口で飲み込んだのだ。

 言うなれば奴は大蛇。

 人間を簡単に飲み込んでしまう程巨大な蛇だ。

 大蛇は餌を飲み込むとまた新たな餌を求め前進してくる。

 それはもちろん俺たち。


「シャァァァァァァァァ!!」


 大蛇が大口を開け追いかけてくる。

 走り逃げる俺たちに鋭い牙を持つ口が眼前まで迫ってきた!

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