第五十六話 血の繋がり
マリオカート8DX買ったんですけど、マリカーとかやるのGCのダブルダッシュ以来で上手く操作できなくて楽しいwww
同じ地球から転移・転生してライゼヌスにやってきた坂田とセシールとの話は久々に故郷を思い出せて楽しかった。
セシールの研究室から出た時には既に月が昇りかけていた。
「あぁ、もう夜になってしまったね。すまないねクロノス君。長く引き止めてしまったよ」
「いえ、坂田さんたちと話ができて楽しかったです」
「そう言ってもらえると助かる。家まで送ろう。馬車を手配するから待っていてくれ」
そう言うと坂田は大急ぎで馬車を用意してくれた。
来た時の豪華な馬車ではなく、質素な外観の馬車だった。
正直、来た時に乗った豪華な馬車だと恥ずかしいから質素な方が助かる。
「クロノス君」
馬車に乗り込もうとすると背後から呼び止められる。
振り返ると、そこに立っていたのはベルだった。
わざわざ見送りに来てくれたらしい。
「ベル、見送り来てくれたのか?」
「はい。これからお帰りになると聞いたので、挨拶しておきたいと思いまして」
「別にいいのに」
「いえ、今日は私からご招待したのです。ならば帰りを見送るのも当然です」
義務だといわんばかりに頷く。
さすが国のお嬢様、そういうとこまでしっかり教育されている。
「また、遊びに来てくれますか?」
「おうともさ。あ、でもその時はもっと普通の馬車で迎えに来てくれると助かるかなぁ……豪華なのは目立つから」
「ふふふ、わかりました。私が直接お誘いに参りますね」
「それは余計に目立つから止めてくれ!!」
ベルの提案に全力で首を振る。
そんなことされたらバルメルド家総出で出迎えかえる騒ぎになってしまう。
慌てる俺を見てベルはまた小さく笑った。
馬車に乗り込みライゼヌス城を後にすると、ベルはその姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
「随分とティンカーベル王女様に気に入られたみたいだね」
小さくなっていくベルの姿を眺めていたら同乗していた坂田がニタニタと笑いながら話しかけてくる。
知ってるぞこの顔、他人の事情を知りたがる野次馬の顔だ。
「まぁ、同世代の友達ってことで、彼女には気に入られたみたいです」
「確かに、ベル王女様の周りは歳が離れた人が多い。でも王城に招待された同世代の男の子は君が初めてだと思うよ?」
「……何が言いたいんですか?」
「いやいや、例えお友達でも、王女様と交友関係を持っておくのは悪くないとは私は思うよ?」
「言っときますけど、ベルが俺に仲良くしてくれるのは裏でギルニウスが動いてたからですよ。神様が彼なら友達になってくれるだろうって根回ししてたらしいんです」
「あぁ……ギルニウス様なら、やるだろうねぇ」
心当たりがあるのか、坂田は遠い目をして納得してくれる。
「だが、神様に言われたからと言って、君と無理に仲良くする必要はない。ベル様が君を気にかけているのは、本心から仲良くしたいと思っているからだろう。その気持ちを疑う必要はないと思うぞ」
「……そう、ですかね」
俺だってわかってはいる。
彼女の行動に裏なんてないのは、だが神様が介入していると思うとどうも素直に好意を受け取れないのだ。
城を出てから数十分してバルメルド本家の屋敷に到着する。
屋敷の門の前に馬車が止まると、まるで帰ってくるのがわかっていたかのように屋敷の中から使用人たちが飛び出してきた。
使用人たちは門前から玄関までの道に規則的に並び立つ。
「「「「おかえりなさいませクロノス御坊ちゃま」」」」
綺麗に揃った使用人たちの声が出迎えてくれる。
馬車を降りた俺の元に、サティーラメイド長とジェイク家のメイドさんが来てくれる。
「おかえりなさいませクロノス御坊ちゃま」
「ただいまです。サティーラメイド長。遅くなってしまってすいません」
「せっかく王城にご招待されたのです。明日までごゆっくりしていっても良かったのですよ?」
「それは勘弁ですよ」
つまり、何故泊まって来なかったのかということだ。
絶対嫌だわ!
もしベルに泊まっていってもいいと言われても全力で拒否する。
王城に泊まるとか落ち着ける気がしない。
「それじゃあ坂田さん。今日はありがとうございました」
「もしライゼヌス城に寄ることがあったら、また会いに来てくれ。その時は君がいた場所の話を聞かせてくれ」
「ええ、是非」
「何か困ったことがあった時は手助けするよ」
『重ね重ね、ありがとうございます』
最後だけ日本語でお礼を言う。
坂田は頷くと馬車を走らせた。
俺は使用人たちと共にそれを見送ると、改めてサティーラに向き直る。
「すっかり帰るのが遅くなってしまいました」
「お夕飯の準備は既に出来ております。皆様食堂でお待ちかねでございます」
「わかりました。着替えてから向かいます」
かしこまりましたとサティーラは頭を下げ、手を叩く。
それを合図に使用人たちは一斉に屋敷の中に戻る。
俺も後に続き自室に一度戻り着替えて食堂へと足を運ぶ。
食堂の扉の前ではウチのメイドさんが待っていた。
「お待たせしました」
「いえ、丁度全ての準備が整ったところでございます」
「今日のメニューはなんですか?」
「本日はクロノス坊っちゃまの好物ばかりでございます」
「え……?なんでまた?」
「なぜなら今日は──」
メイドさんが言葉を区切り食堂の扉を開ける。
「クロノス坊っちゃまの歓迎会でございますから」
目の前に広がっていたのは、天井一面に飾られたパーティテープと、豪勢な料理の数々、そして拍手をしながら迎え入れてくれる親類たちの姿だった。
「お誕生日おめでとうクロノス!ほら、早くこっち来なさいよ!」
クラウラが俺の腕を引きテーブルまで連れて行く。
その間にも親類たちから拍手と祝福の言葉をかけられる。
いまいち状況が分かっていない俺は一人首を呆然としていた。
「どうしたのよクロノス。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」
「久しぶりに聞きまたしたよその言葉……と言うか、これは一体?」
呆然とする俺にジェイクとユリーネが肩に手を置く。
二人とも優しい顔で微笑んでいた。
「クロノス、もうすぐ君が我が家に来て二年目になる」
「せっかくお祖父ちゃんの家に来たんだから、今年は皆に祝ってもらいましょうってなったの。皆喜んで今日のパーティーの準備を手伝ってくれたのよ」
イルミニオやクラウラ、それに他の甥や姪たちもみんな笑って頷く。
その光景に俺は言葉が出ず、目を瞬きさせていた。
「クロノス、黙ってないで何か言いなさいよ」
「……あ、いや、すみません。その……なんか、言葉が出なくて……えと、みなさん、俺に為に──ありがとうございます!」
頭を下げて感謝を述べる。
気を緩めると涙が出そうだったけど、皆の前で泣いている姿を見せたくなかったので堪えた。
それを察してなのか、ユリーネが俺の背を優しく撫でる。
「クロちゃん。良かったわね」
「お義父さんとお義母さんも、ありがとうございます」
「どうしたんだい、改まって」
「身寄りのない俺を引き取って、血の繋がりのない俺に本当の息子の様に接してくれて、お二人には本当に感謝しています。ありがとう……俺に今の幸せを与えてくれて」
「やだもうクロちゃんたら!恥ずかしいじゃない!」
ユリーネが照れ隠しに俺の背中を勢いよく叩いてきた。
すごい痛いけど、今回は甘んじて受けよう。
実際にこの二人には一番感謝してる。
神であるギルニウスの導きでバルメルド家に養子として迎え入れられたが、それがあっても無くても、この二人は俺を家族として受け入れようとしてくれているのだから。
「さぁさ、クロちゃん座って座って!」
「君にまだ見せたいものがるんだ。ちょっと待っててくれよ」
ユリーネとジェイクに急かされ椅子に座る。
二人は俺を残しメイドさんと食堂を後にした。
一体何を見せてくれるのだろう。
「ねえねえクロノス、それよりも今日は王城に行ったのよね?どんなことをしてきたの?」
「そうですねぇ……結構大変でしたよ」
期待に胸を膨らませていると、クラウラから王城での出来事を訊かれた。
俺は王城でティンカーベル王女にお茶に誘われたこと、サカタとセシールと言うライゼヌスの重役と知り合えたことなどを答える。
もちろん、なぜサカタとセシールと知り合えた経緯なんかは誤魔化しておいた。
実は異世界の同郷で、とか答えても理解されないだろうし説明する必要もないしな。
話を聞いていた甥と姪たちは、まるで別世界の話であるかのように俺の話に耳を傾け尊敬の眼差しを向けている。
同じく話を聞いていたイルミニオも大きく笑っていた。
「ははは!すごいなクロノス。その歳でもう将来の配属先が決まったのか」
「そんなまさか。王女殿下とはただのお友達です」
「分からんぞ?もしかしたらそのまま気に入られて、王女殿下の近衛兵になれるかもしれん」
「ハハッ、それは夢物語ですよ、イルミニオおじいちゃん」
イルミニオの冗談を笑い飛ばしていると廊下からドタドタと複数人の足音が聞こえる。
ジェイクとユリーネが戻ってきたのだろうか?
「……ません……様!本日は……!」
廊下からサティーラの声が聞こえる。
悲鳴にも近い声色で何か訴えている。
何事かとその場にいた全員が扉へと目を向ける。
次の瞬間、食堂の扉が勢いよく開け放たれ、一人の青年が姿を現した。
「久しぶり、皆さん!」
突如現れた黒い髪の青年に誰もが驚く。
年端の行かぬ甥と姪たちを除いては……。
「な、なぜ……お前が……!」
突然の来訪者にイルミニオが戸惑いを見せる。
手に持っていたグラスが指から零れ落ち、床に落ちて砕け散る。
伯父や叔母も席から立ち上がり青年の姿に唖然としている。
あの青年が何者なのか、みんな知っているかのようだ。
隣にいたクラウラが微かに震えながら俺の影に隠れた。
まるで青年に見つかるのを避けるように。
黒髪の青年は笑みを浮かべながらずかずかと食堂に入り込んでくる。
その背後から遅れてサティーラが姿を見せた。
歩み続ける青年の後ろから声を上げる。
「お止めなさい!お願い、やめて!」
全員に緊張が走る。
青年はサティーラの制止を聞かずにこちらへと歩いてくる。
そして椅子に座る俺を前にして立ち止まると、値踏みするように俺を見下ろしてきた。
「……君が新しくバルメルド家に入ったって子供?」
「そうですけど……何か?」
「如何にも幸薄そうな顔してるね。こんなのが次期当主候補なんて」
「あ゛?」
なんだこの失礼な奴は。
初対面の子供に対して──いや待て、俺は男を見たことあるぞ?
どこでだっけ、ごく最近姿を見かけた気が……。
目の前に立つ青年の事を思い出そうとしていると、今まで動きを止めていたイルミニオがテーブルを叩き立ち上がった。
「何をしに戻ってきた!?二度とこの屋敷の敷居を跨ぐなと言ったはずだ!!ジルミール!!」
ジルミール……ジルミールだって!?
じゃあ、俺が書斎で見つけた日記の持ち主はこいつか!?
ジルミールはこの屋敷から追い出されたと日記には記されていた。
そいつがなんで今更この屋敷に戻ってきたんだ?
「そう声を荒げないでよ。もうあなたも歳なんだから」
ジルミールは声を荒げるイルミニオを見て飄々とした態度を見せる。
それがイルミニオを更に苛つかせているのは誰にでもわかる。
伯父たちはどうするべきかと戸惑い、伯母たちは自分の子供を守ろうと引き寄せる。
その時に俺の影に隠れていたクラウラも伯母に腕を引かれ、姿を見せてしまった。
「あれ、クラウラちゃん?クラウラちゃんだよね?うっわー久しぶり!僕を覚えてる?ジルお兄ちゃんだよ?大きくなったね。ほら、子供の頃みたいにまた抱きしめてあげるよ?おいで!」
ジルミールがねっとりとした声と笑顔でクラウラに語りかける。
両腕を広げ、クラウラを抱き寄せようと伯母に近づく。
その行動に誰もが身構え、クラウラが小さな悲鳴を漏らす。
そして両腕を広げるジルミールの前に、俺が立ち塞がった。
もっとも、七歳の俺ではジルミールの胸ほどしか身長がないのでクラウラの姿を隠すことはできない。
だが目の前に現れた俺を見てジルミールは動きを止めた。
「……なんだい君?僕に抱きしめて欲しいの?悪いけど、僕可愛い女の子にしか興味ないんだ」
「俺だってあんたみたいな気持ち悪い男に抱きしめてもらう趣味はない」
「口が悪いね君?本当にバルメルド家の跡取り候補?歳上にはちゃんと敬語を使いなさいってパパとママから教わらなかった?」
「おまいう。教わったけど、敬語を使う相手は選ぶようにしてるんだ。少なくても……この場の空気から察するに、あんたに敬語を使う必要はなさそうだ」
お互いに睨み合う。
相変わらずヘラヘラとし顔で笑うジルミールをどうしてやろうかと考えていると、ジェイクとユリーネがワゴンカートを押しながら戻ってきたんだ。
ワゴンの上にはクロッシュが載せられた一皿が。
「お待たせクロちゃん!さぁ、これを見たら驚く……」
陽気なユリーネの声のトーンが次第に落ちていく。
二人は重い空気に包まれたテーブルと黒髪の青年の姿を見て目を見開いていた。
ジェイクの表情はみるみるうちに困惑に、ユリーネは顔が蒼白くなっていく。
青年が二人に振り向くとジェイクが口を震わせる。
「なんで……お前が……」
「久しぶりだね」
ジェイクとユリーネの姿を見てジルミールは嬉しそうに声を上げる。
その声を聞き、二人はまるで絶望の淵に立たされたかのように慄く。
対照的な両者の態度。
だがジルミールは二人の態度にお構いなく、また両腕を広げた。
「ただいま……会いたかったよ!パパ、ママ!あなたたちの本当の息子が帰ってきたよ!」
本当の息子──その言葉を聞きユリーネがその場に崩れ落ちる。
ジェイクとユリーネの前に血の繋がった本当の息子が帰ってきた。
この日は、最悪の誕生日パーティーとなる。
突如バルメルド家に現れた、ジェイクとユリーネの本当の息子ジルミール!
誕生日会の雰囲気を打ち壊しにしたジルミールにクロノスの怒りが爆発する!
次回!『クロノス 怒りのお誕生日会』
熱き闘志にチァァァァジイン!




