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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第五十五話 同郷のよしみ 後編

كيف تنفق ما زال تليها الأسبوع الذهبي الجميع؟ أنا العمل


 池に落ちてずぶ濡れとなったのも構わず、俺は塔の螺旋階段を全速力で駆け上がっていた。

 鉄製のドアが見えると、魔力で脚の筋力を強化して飛び蹴りを繰り出しドアを蹴り開く。


「何すんだゴラァ!!」


 怒声を上げながら部屋の中に飛び込む。

 飛び越えた床に魔法陣が描かれているのが見えた。

 なるほど、あの魔法陣は侵入者を外に転移される為の魔法だったのか。

 だが今俺は魔法陣を飛び超え、部屋へと侵入した!

 同じ手は二度食らわん──勝った!

 転移のトラップを躱し勝利を確信する。

 すると、天井からバチバチと音が聞こえ、設置されていたパラソルアンテナから電流が放たれ俺を撃つ!


「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」


 全身を激しい痛みが襲う。

 電流が切れると俺は床に倒れた。


「……死ぬわぁ!」


 実際死ぬ程痛かった!

 危うくまた魂だけの存在になって神様の元へと召されるかと思ったわ!

 電流のトラップを浴びた俺の姿を見て坂田が呆れ顔になる。


「……セシール、君はまたこんな物騒な物を仕掛けて」

「殺していないだけマシだと思え!」


 セシールと呼ばれた灰白色の髪の少女が白衣を翻し仁王立ちする。

 眼鏡の奥からはまるで俺を軽蔑するかのような意志を感じる。

 身長は現在七歳の俺とほとんど同じか少し低いぐらいだ。

 この白衣ロリが俺たちと同じ転生者か?


「殺すとお前たちはすぐに騒ぐからな!ちゃんと失神程度の威力には抑えてある!」

「いやそうではなく、もっと人道的な罠にしろと言っているんだ」

「殺してないのだから人道の定義には外れていないだろうが!そもそも盗人にかける情けなどないだろう!」


 な、なんだこのロリ……頭のネジが飛んでるんじゃないか?

 セシールの発言に唖然としていると坂田もやれやれと首を振る。

 どうやら相手は俺が何か物盗りに来た輩だと勘違いしているようだ。

 まずは誤解を解かないと、また何されるかわからん。

 床に倒れたままだった俺は、周りに他にもトラップがないか注意しながら立ち上がる。


「え、と……初めまして、クロノス・バルメルドです。よろし

「盗人の名前など覚える気はないわ!」

「えぇぇぇぇ!?」


 なにこのロリ!?

 俺の話聞く気ゼロだよ!

 もう俺のこと盗人認定だよ!!


「あの、俺は盗人じゃなくて、あなたと同じ地球出身……」

「黙れ!そうやって油断させて、私の研究成果を奪うつもりだろう!?くそっ、なんて下劣な奴なんだ……この人でなしめ!」

「いや最後まで人の話を聞けよ!?」

「うるさいうるさいうるさい!」


 セシールは聞く耳持たず俺に向けてL字型の鉄製の筒を向けてくる。


「盗人め!これでも喰らえぇぇぇぇ!」


 筒のスイッチを押すと、L字型の鉄筒から生暖かい風が吹きだした。

 鉄筒からはうぃ〜んと気の抜けるような間抜けな音が聞こえている。

 えーと、なにがしたいんだこれ?

 ただ生暖かい風が出てるだけで……あ、これもしかしてドライヤーか?

 すごいな、この世界でドライヤーを造ったのかよ。

 でも風が弱すぎてこれじゃあダメだな。

 髪を乾かすのに時間がかかるし、自分で風魔法使った方が乾くの早そうだ。

 涼しい顔して風を受ける俺を見て、セシールは予想外の反応だったのか狼狽え始める。


「バ、バカな……!これで、この風を受けて動じないだと!?」

「いや、だってそれドライヤ

「くそぅ!私は負けん!絶対に研究を渡さん……!貴様なんぞ怖くない!」


 また俺の話を聞かず、セシールはドライヤー擬きを投げ捨てる。

 そして作業台に置かれていた、奇怪な紋様が刻まれたナイフを震える両手で持ち──


「野郎ぶっ殺してやらァァァァ!!」


 ナイフを突き立て、鬼のような形相で俺に襲いかかってきた!


「おいいいい!さすがにそれはシャレにならないって!!」

「そこまでだセシール」


 坂田はずっと成り行きを見守っていたが、ナイフを持ったセシールを見てさすがに止めに入る。

 白衣の襟を掴むと片手で楽々とセシールを持ち上げて見せた。

 襟を持ち上げられて宙ぶらりんになったセシールは大暴れする。


「は、離せぇ!奴は盗人だ!私の研究を狙っているんだ!」

「違う。さっき説明しただろう、彼は私や君と同じ地球出身だと」

「いいや、嘘だな!奴は私の研究を盗む為に他国から雇われた奴だ!そうでなければ研究成果を横取りに来たんだァ!」


 坂田が宥めるもまるで話にならない。

 このままではまともに会話が出来ないので、坂田はセシールの説得を試みる。

 同じ部屋にいるとセシールがまた暴れ出すので、俺だけ部屋の外で待機していた。

 それから十分後、ようやくセシールから入室の許可が下りた。

 また電流を浴びせられるのではないかもビクビクしながら部屋に入ると、セシールはこちらに顔を向けず窓を見ていた。

 そんな彼女を見て、坂田はやれやれと肩をすくめる。


「改めて紹介するよ。彼女はセシール。ライゼヌスお抱えの研究者で君と同じ転生者、前の世界ではフランス人だったらしい。セシール、彼は私と同じ日本出身者、クロノス君だ」

「えーと、クロノス・バルメルドです。あなたと同じ、転生者です。よろしくお願いします」


 まずは挨拶をやり直そうとしたが、セシールは「ふんっ」と鼻を鳴らしそっぽを向く。

 人間嫌いだとは聞いてたけど、本当にこんなのと仲良くなれるのかよ。

 

「だが、また一人こうして同郷が増えるのは嬉しいことだ。ギルニウス様に感謝せねばな」

「どっちだっていいわよ。それより腹が減った」


 神様に感謝する坂田に対して、セシールはマイペースに、腹を満たす為に白衣のポケットから木の実を取り出し咀嚼する。

 早くも帰りたくなってきた。

 だが、せっかく坂田が他の転生者を紹介してくれたのだ。

 このまま帰る訳にも行かない。

 せめて俺が彼女に不利益をもたらす人間ではないことを覚えてもらわないと。


「質問、いいですか?」

「……なんだ?」

「セシールちゃんは、どうしてこの世界に

「はぁ!?セシールちゃん?セシールちゃんだと!?馬鹿か貴様は!?年上に敬語も使えんのか!?」

「え、年上?」


 セシールちゃんと呼ばれ声を荒げる彼女に困惑し坂田に助けを求める。


「クロノス君。彼女はね、精霊種のノームと呼ばれる種族なんだ」

「ノームって確か、ドワーフと同種の知恵の民でしたっけ?」


 ドワーフが鉱山で鉱石を掘るのが仕事の種族なら、ノームはそれを加工する種族である。

 力のドワーフ、知恵のノームと呼び分けされることが多く、とりわけノームは物作りが上手い。

 ドワーフが発掘した鉱石を磨いたり、魔石に魔法効果を付与したり、魔導具を作ったりととにかく手先が器用なのだ。

 ただ筋力は弱く、ドワーフのように力持ちではないので自分たちで鉱石を取りに行くことができない。

 なので力持ちであり、鉱山での活動で持久力の高いドワーフと共に生活しているのだ。

 お互いの能力を活かし共存する姿から、そんな呼び分けがされたらしい。

 後ノームは長寿で低身長なのが有名だ。


「あ、そういうことですか。すいませんセシールさん」

「ふんっ。分かればいい」

「セシールさんはもうおばあちゃんだったんですね。ごめんなさい気がつかなくて」

「侮辱してるのか貴様は!まだ三十六だ私は!」


 ノームは長寿だが、ドワーフと違って若い時間が長い。

 百歳を超える辺りで見た目がどんどん年老いて行くのだ。

 それまでは彼女のように幼年体型の期間が続くのだ。


「でもそれにしたって身長低すぎじゃないですか?セシールさんちゃんと栄養取ってます?」

「いや、彼女は研究に没頭すると終わるまで平気で食事をしないからな。そのせいで成長が足りていないのだろう。可哀想に」

「私の母親かお前らは!?私だって好きでこんな幼年体型のままでいる訳ではないのだ!」


 セシールの魂の叫びが響く。

 改めてセシールの部屋を見回すと、結構酷い惨状だった。

 使用用途の分からない発明品があちこちに置かれている。

 足元の床でさえ、かろうじて歩ける程度のスペースしかない。

 だが作業台の上だけはキチンと整理されていた。


「しかし、すごい数の発明品ですね」

「ほとんどが失敗品だ。触るなよ?」

「触りませんよ」


 きっと触ったら、また盗人扱いされて部屋から追い出されてしまうだろう。

 また池にダイブするのは勘弁だ。


「そうだセシール。あれを見せてあげたらどうだ。君が最近造ったやつ」

「断る!そんなことをしたら、きっとこいつはそのアイディアを盗んで自分の物にするに違いない!」

「誰も彼もをそうやって敵視するなと言ってるだろ。それに、彼は同じ元世界の人間なんだ。何か気づくこともあるかもしれないぞ」


 坂田の提案にセシールが顔を歪ませる。

 彼女はワナワナと震え始めると、屈辱的な表現を浮かべながら、作業台から手の平サイズの魔石を持ってくる。

 腕を震わせながら、俺に差し出した。


「持ち逃げしたら……殺す!」

「だからしませんって」


 どんだけ他人を信用してないんだこの人。

 セシールに脅されながら魔石を受け取る。

 手の平サイズの魔石は青い色をしており、眼を凝らすと魔石の中に無数の文字が刻まれているのがわかる。


「これ、何の魔石なんですか?」

「マナを通して声をかけてみろ」

 

 セシールに指示されて通りに魔石にマナを込める。

 すると青い魔石はぼぅっと光を帯び始めた。

 そして魔石に向かって声をかける。


「あー」

『……あー』

「……!?なんですか今の声!?」

『…………!?なんですか今の声!?』


 魔石に声をかけると、その言葉が数秒遅れて聞こえてくる。

 しかもかなりくぐもった声で。

 驚く俺を見てセシールが勝ち誇った顔をして笑う。


「驚いたか!その魔石は声を保存して再生する機能を付与してあるのだ!ただしマナを通している間だけな!」

『……驚いたか!その魔石は


 保存されたセシールの声が流れたのでマナを通すのを止める。

 彼女の言う通り、マナを通している間だけ魔石から声が聞こえたが、マナを止めると再生が途中で止まった。


「お、本当だ。へぇ、これ面白いですね」

「何故再生途中で止める!?」

「いや、マナを切ったら本当に再生が止まるのかなと思って」


 でも凄いな、これって音声録音機能だ。

 機械が一切ない魔法の世界で、こんな機能が付いた魔石を見れるなんて感動する。

 これを発明したセシールって、実は天才なのでは?


「でも、これって失敗品なんですよね?多少声がくぐもって聞こえるのは不便ですけど、ちゃんと声は聞こえるし失敗とは言えないんじゃ?」

「セシールはそれで魔石同士による通話をしたかったそうなんだ」

「魔石同士による通話?それって、携帯を作ろうとしたってことですか?」

「そうだ。A魔石に声を保存し、B魔石に情報を転移させ再生させる。私はそれがしたかったのだ」


 なるほど、その発想はなかった。

 確かにそれなら電話機能のついた魔石として重宝されるだろう。

 この世界は未だに遠方とやり取りする時は手紙だし。


「でも、魔石間による情報の転移ってできるんですか?」

「理論上は可能だ。この世界の大気中には常にマナが漂っている。マナはこの世界の全ての物に宿る。有機物だろうが無機物だろうが御構い無しにだ。これを我々の世界にあった電波だと考えろ。電波は常に発信され、電波塔を中継し全世界に広がっていた。ならばこちらでも同じように、マナを一箇所に集め中継し、特定の魔石にのみ情報を伝達する術式を組み込めば、我々の世界にあった携帯機器のように使用し遠方でもリアルタイムでの会話ができるはすだ!」

「おぉ!そいつはすげぇ!」

「……できる、はずなのだ……!」

「おぉ……」


 ボルテージが上がっていたセシールがその場に崩れ落ち、悔しそうに床を叩く。

 どうやら、構成は頭の中にできてはいるのだがそれを実現する方法がまだないらしい。

 確かに魔石から魔石へと情報伝達の術式を組み込んだら、同じ術式を組み込んだ魔石全てにその保存された声が伝達されてしまうだろう。


「今はどの実現段階までいってるんですか?」

「半径十mまでなら術式による情報伝達は可能……ただし、互いの魔石にマナが宿っている時に限る」

「全然使い物にならないじゃないですか!?」


 半径十mって短い上に魔石二つにマナを常に通しておかないといけないのかよ。

 バッテリー切れた携帯を充電しながら持ち歩かないと通話できないもんか。

 不便とかいうレベルじゃないな。


「そう落胆するなセシール。君ならいつか造れるさ。写真だって造れたんだ」

「ああ、造ってやるさ。だが、このままだと何年かかるか……!」


 床に崩れ落ちたセシールを坂田が励ます。

 どうやら、魔石が電話となるにはまだまだ問題が山積みのようだが……


「それ、情報中継を人の手に任せるのはダメなんですか?」

「……なんだと?」


 一つ思いついたことがある。

 セシールは俺の言葉に怪訝な表情を向けた。


「通話機能を付けた魔石全てに情報が渡ってしまうのなら、中継基地で一度止めて、人の手でどの魔石に送るか精査すればいいんですよ。魔石ごとに番号を振れば、指定された魔石に送るだけにできますし簡単でしょう?」

「だが、それだと中継基地で情報がパンクしてしまう。それを捌けるだけの人数

を雇うのはコスト面でも……」

「だから通話料金をクッソ割高にすればいいんですよ。で、一部の人だけに使えるようにした試験的に運用して、少しづつ性能とサービスを改善していけばいいんです」


 俺の説明を全て聞いてセシールは腕を組みぶつぶつと何か言い始める。

 同じく説明を聞いていた坂田は感心した表情で俺を見ていた。


「……驚いた。そのような方法を思いつくとは」

「昔の電話は確かそんなやり方だったなーって思い出しまして」

「おそらくそれは電話交換手のことだろう。ふふふ……懐かしいな。確かにそれなら、この世界の時代でも運用しやすそうだ」


 坂田が一人で昔を懐かしんでいる。

 もしかしたら、俺と坂田とでは住んでいた時代が離れているのかもしれない。

 すると突然、セシールが高笑いしながら立ち上がった。


「ふははは!そうか、そうすれば良かったのか!素晴らしいぞ私!さすがだ!」


 なんか己を自画自賛し始めたよ。

 セシールは作業台に向かうと紙に何かを描き始めた。

 どうやらいいアイディアが閃いたらしい。

 その姿を見て坂田は俺の肩を叩いた。


「どうやら、君のおかげでいい案が思い浮かんだようだ」

「そりゃ良かったです」

「一度研究を始めたら、もう私たちの言葉は耳に入らない。退散するとしよう」


 坂田に言われ、俺たちはセシールの研究室を後にする。

 しかし楽しみだなぁ。

 この世界でも携帯電話を使えるようになるのが。

 部屋を出て塔を降りる時も、セシールの高笑いはずっと響いていた。

明日も続くよ毎日投稿!

ストック無くなるよ……

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