第四十九話 インスマス教会
ここから作者のやりたい放題はっじまっるよー!
「我々は『インスマス教団』!北のインスマスより来た、あなたたちを救う為に!」
黒いローブの集団の先頭に立つ黒髪の青年。
噴水広場で深夜近くにも関わらず大声で演説する彼に興味を持った人たちが、ぞろぞろと集まり始めていた。
しかし、青年が言っている『インスマス』と言う所を俺は知らない。
北と言っていたが……
「インスマス?インスマスってどこだよ?」
「ほら、北に変人が集まるって噂の大学があったろ。そこから更に北に進んだ、海に沿い面した小さな漁村だよ」
野次馬の会話を聞いて一人納得する。
集団は北から降りてきたのか。
北側の海は美味い魚が多く取引されてると聞く、いつか行ってみたいものだ。
だんだん噴水広場に人が集まり始め、それを見て青年は一瞬ほくそ笑むと演説を始める。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回僕らはこの国に迫る危機を知らせる為に北の海より参りました」
青年の言葉に当たりが騒めく。
ただ不安の声などはない、どちらかと言うと青年がどんな面白おかしな話をするかと楽しみにしているのだ。
「まもなくこの地に災いが降り注ぎます。それは、この大陸全土を巻き込む大災害を招くことになるでしょう。ですがご安心を!我ら『インスマス教団』と共に入れば、その災いから生き残る事ができます!」
うっわーわかりやすー……。
つまり助かりたかったらウチに入信しろって意味だよ。
しかもここギルニウス教の総本山だぞ。
そんなこと言ったら──
「んだよ他宗教の勧誘かよ!酒の肴にもなりゃしねぇ!」
「ここはギルニウス様の加護を受けた国の中心だぞ!!」
「お呼びじゃねーんだよ!!」
広場の人たちから怒号が飛び交う。
誰もが手に持っていたゴミを彼らに投げつけ去っていった。
インスマス教団の話に耳を傾けていた人たちは散って行き、広場にはゴミを投げつけられた集団と透明マントで姿を消した俺だけしか残っていなかった。
信仰者とは怖い者だな……俺も滞在中は神様に対する発言に気をつけよう。
残されたインスマス教団の面々は人がいなくったのを見ると肩を落とす。
「大丈夫か?」
「問題ありません。全く、僕らが救いの手を差し伸べているのに……愚かな人たちだ」
被ったゴミを払いながらため息つく青年を見ながら、そりゃ演説内容のせいだろと心の中でツッコミを入れる。
「今日はこれで五箇所目でしたね。そろそろ帰りましょうか」
青年の提案にローブの集団が頷く。
彼を先頭にインスマス教団の面々が移動を始めた。
俺はインスマス教団が気になり、後ろから付いて行くことにする。
教団員たちは商店通り出て、入り組んだ裏路地を通り抜ける。
ロクに掃除もされていないゴミ溜めの路地、そこにひっそりと教会が建っていた。
ギルニウス教会本部と比べるととても小さな教会だ。
入り口には槍を持った見張りが二人立っている。
中に入り込む勇気はないので集団から離れて物陰に隠れる。
青年がノックすると教会の扉が開き、集団たちは教会の奥へと姿を消した。
彼らを通すと扉が閉まり、見張りだけが立っている。
さて、どうしたものか。
ここまで来たのだから教会の中を覗いてみたいが、中に入り込むつもりはない。
中を伺える窓があるといいのだが。
教会前を見張っている男が暇そうしながら大きな欠伸をかいている。
透明マントを着てる限りは、相手にはこちらの姿は見えないだろうから……よし。
俺は男に近づくと声をかける。
「教会の中を覗きたいんですが、窓とかありますか?」
「ん〜?裏の梯子使えば、二階の窓から覗けるよ」
「ご丁寧にどうも」
お礼を言ってその場を去ると「へ!?誰だ!?誰かいるのか!?」と慌てふためいていた。
それを尻目に教会の裏手に回ると古びた梯子を見つけた。
あちこち錆だらけで正直素手で触るのは勘弁願いたいなぁ。
「仕方ない。静かにやるか」
梯子を使わずに昇るのなら、魔法を使うしかない。
腰を深く落とし、足裏と地面の間にマナを溜め込む。
頭の中で強過ぎず、弱すぎない程度の威力を持つ風をイメージして──
「風よ。噴き上げろ」
魔法を発動させ靴裏から風が噴出する。
噴き上げる風の勢いに身を任せ空に昇り、教会上階の外側に着地した。
「くぅ〜!一度やってみたかったんだよこういうの!」
風の魔法で颯爽と飛び上がり着地する夢が叶ったのでちょっと興奮する。
窓を探して裏から横に移動すると大きな窓を見つける。
姿勢を低くしながら窓に近づき、教会の中を覗き込む。
内部は暗く、全体を見渡せないが、
「右眼、右眼っと」
『夜目が利く』右眼を使えば話は別だ。
ホント地味だけど、こういう時には役に立つ能力だ。
暗く見え辛かった教会内部が鮮明に見え始める。
中には先程の青年を含む三十人近くが確認できた。
全員あの黒いローブに身を包んでおり、怪しさ満点な教団は今にも黒魔術の儀式とかしそうだ。
ローブで四肢が隠れているので信者たちにどんな種族がいるのかまではわからない。
教会内の一室の扉が開き、黒いローブに赤黒い杖を持った坊主頭の老人が姿を現す。
老人の着ているローブだけは他の信者たちとは違い金の装飾が施されており、位の高い人物なのがわかる。
教祖と思しき老人は信者たちの前に立ち何かを話している。
いくら夜目が利く右眼があるとは言え、口の動きだけでは何を話しているのかわからない。
読心術でも覚えとけば良かったかなぁ。
しかし、このインスマス教団は一体何を信仰いるのだろう?
ライゼヌス大陸には慈愛の神ギルニウス以外にも、いくつかの宗教は存在する。
俺たち人族とほとんどの異種族はギルニウスを信仰していると聞いている。
ギルニウスを信仰していないのは、古くから他の神を信仰している種族や神と敵対関係にある種族ぐらいだ。
エルフであるレイやニール、エルフの集落に住む人たちもギルニウスとは別の神を信仰していたはず。
神様の名前忘れちゃったけど。
「しかし、この人たちはこんな城下町の外れで一体何を信仰してるんだ。後ろの彫像とかタコみたいで見るからに邪神
独り言を呟いていると教祖の首が物凄い勢いでこちらを向き、恐ろしい形相でこちらを見上げてきた。
目が合った気がする……と言うより、こちらを睨んでいる!?
え、なんでだ?
透明マント着てるから俺を視認できないはずなのに!?
教祖が身を固め、杖の先端の白い宝石に手を近づける。
「そこかァ!」
叫び声と共に杖を突き出すと、光の球が俺目掛けて飛んでくる。
それを見て俺はヘリから飛び降りた。
教祖の放った光の球は炸裂し衝撃波を生み出し、先程まで俺がいた場所を破壊する。
後方から衝撃波に煽られ、俺の体は宙に浮き地面へと落ちていく。
「うおおおお!?風よォォォォ!!」
地面に激突する瞬間に風属性の魔法を発動させる。
一瞬俺の体が浮き上がるが、宙で体を一回転しながら地面に落ちた。
「つぅ〜!また腰打った!」
風魔法で着地しようとすると毎回腰打つのはなんでなんだ!?
腰をさすっていると着ていたはずの透明マントが脱げているのに気づく。
さっきの風でどこかに飛んでしまったようだ。
「他教徒の間者がいたぞ!探せ!探して吊るし上げろ!」
「あそこだ!捕まえろ!」
教会側からぞろぞろと黒ローブが出てきてこちらに向かってくる。
吊るし上げるとか冗談じゃねぇ!
脱げ落ちたマントを拾い上げると走りながら着直す。
フードを被りもう一度マナを流し込み透明になると、右眼を使って大通りへと続く道を探しながら逃げる。
「どこへ行った!?」
「絶対に逃すな!半殺しでもいいから捕まえるんだ!」
ぜってー捕まってたまるか!
こちとら透明マントで姿を隠してるんだ!
見つかる訳がない!
透明マントで姿を消しているおかげで、何度か黒ローブたちとすれ違うが見つからずに済む。
何度も細い路地を走り続け、ようやく大通りへと抜け出した。
裏路地から飛び出す際、何度か通行人とぶつかるが足を止めずに逃げ続ける。
どのくらいの間走り続けただろう。
いつの間にか商業区から上層区へと辿り着き、俺は道端の芝生に大の字に倒れ込む。
「ぜぇ……ぜぇ……おぇ!ぐ、ぐるじい!み、水!」
手を口元にかざしマナを込める。
手の平から水魔法が流れ出し、渇ききった喉を通り潤してくれ
「ぶぇっふ!みずだじずぎだ!ゴホッゴホッ!オゥエエエエ!!」
水飲みすぎてむせた!
呼吸が落ち着くまで芝生に寝転び休む。
何度も息を吐き出す内に落ち着きを取り戻し、俺は体を起こした。
「ああああ〜……危なかった。マジでやばかった」
教祖に見つかった時、あいつは確実に俺を見ていた。
俺の存在に気づいていた。
だから俺のいる場所に向かって魔法を撃ってきたのだ。
でもどうして俺の存在がバレたんだ?
透明マントを着てるから俺の姿は見えないはずなのに。
「まさかあのクソ神、不良品寄越したんだじゃないだろうな?クソ、後で文句言ってやる……」
悪態をつきながら空を見上げると、月が西の空に傾き始めている。
商業区の灯りも徐々に消え始めていて、もうすぐ深夜になるのがわかる。
ヤバい、そろそろ屋敷に帰らないといけない。
明日の朝起きられなくなってしまう。
「クッソ、とんだ夜の散歩になっちまった。あの教会にはもう絶対に近づかないぞ」
インスマス教団……二度と関わらないためにしっかりとその名前を覚えておかないと。
「はぁ……帰ろ」
深い溜息を吐いて立ち上がる。
屋敷に戻るまで人に見つかりたくないので、念の為に透明マントにマナを込め直しておく。
憂鬱な気分で屋敷へと足を動かすと、どこからか鈴の音が聞こえてきた。
屋敷に近づくにつれ、鈴の音も近くなっていく。
正面に火の灯りが見え、カンテラを持ち鎧を身に纏った二人組が見えてきた。
彼らの腰紐に結ばれた鈴から音が聞こえていたようだ。
この時間に歩いているのは見回りだろうか?
夜遅くなのに安全の為に歩き回っているなんて頭が下がる。
もしかして、昨日の鈴の音も彼らが巡回してた時に聞こえてきたのだろうか。
上層区の巡回もいいけと、あのインスマス教団とか言う怪しい集団も何とかしてもらいたいものだ。
チリンチリン──と、鎧の二人組が歩く度に鈴の音が鳴り響く。
それを聞いていると、だんだん眠気が増してきてしまう。
欠伸を噛み殺しながら俺は屋敷へと帰ってきた。
出る時は部屋のベランダから出たので、同じように風魔法でベランダまで飛び上がり部屋に入る。
部屋に戻るまでずっと鈴の音を聞いていたせいか、凄まじい眠気に襲われもう瞼を開けているのが限界だった。
マントと衣服をそこら辺に脱ぎ散らかすと寝巻きに着替えてベッドにダイブする。
瞼を閉じた瞬間、一気に睡魔が押し寄せてきて深い眠りに就く。
王都二日は泥のような眠気と共に終わりを迎えたのだった。
次回はまた週末になります
三章終わったら新作やろうかと思ってます




