第四十三話 ライゼヌス城下町
風邪引いてて集中できなかったんで投稿遅れました。
ふわ〜っと更新再開しま〜す
王都のバルメルド本家を訪れて二日目の早朝。
朝日が顔を覗かせ始めた頃に、ジェイクや他の叔父たちが玄関前の広い芝生で朝の訓練を行っていた。
その訓練にはもちろん俺も混ざっている。
ジェイク以外の人から剣を教えてもらえる機会なんて滅多にないので、このチャンスを逃す訳にはいなかない。
という訳で訓練に混ぜてもらい指導してもらっているのだが──
「いいよクロノス君。その型を覚えれば君も立派な騎士に──」
「ダメだダメだ!その型では上では通用しない!もっと実用的な剣技をだな」
「兄さんたちは古いですね。今は対人より、対魔物の剣技の方が騎士の検定試験の際に採用率が高いのですよ」
「んな細かいこと今から覚えさせなくていい!とにかくパワーだ!パワーがありゃ人間だろうも魔物だろうと相手できる!だからまずは筋肉をつけろ!」
「お前たち、私の息子の前で喧嘩しないでくれ!」
誰が俺に剣を教えて、誰の教え方が一番良いかと競い合っていた。
全然訓練にならねぇ。
「お義父さん、ちょっと敷地内を走り込みしてきます。終わったら教えてください」
「ん、あぁわかった!だが外には出てはいけないからね!こらお前ら、子供の前だぞ!いい加減にしないか!」
義兄弟たちの喧嘩を止めるべくジェイクが止めに入る。
その姿に同情しながら俺は屋敷の周りを一周することにする。
大人たちは元気なもので、誰が俺に剣を教えるかと模擬戦にまで勃発していた。
んなことより俺に剣技を教えてほしいんだけど……いや、これは先人の技を見て盗むチャンスでは?
そう考えると俺は走り込みを止めて、大人たちの模擬戦を見学することにする。
足を止めて近づこうとし、
「……ん?誰だあれ?」
門の外、街路樹の外套を纏った人物の存在に気づいた。
背丈は俺と同じぐらいだろうか?
外套の人物はただこちらをじっと見つめている。
不審者だろうか?
ここからだと距離があって、相手がどんな人物なのかよくわからないけど……。
「あ、左眼使えばいいじゃん」
左眼はマナを通すと視力が良くなる能力が備わっている。
元々視力いいからあんまり使わないんだが盲点だったわ。
濃褐色の右眼が暗闇に適応する為の能力ならば、青色の左眼は光明に適応する為の能力だ。
左眼にマナを流している間だけ、遥か遠くの景色でも見えるようになる。
それなりに集中力を必要とするが、外套の人物を観察するぐらいなら過度な集中力はいらない。
ちょっと目を細めるぐらいで目の前にいるかのように観察できる。
フードを被っていて顔はわからないが、こちらに敵意があるとかではない。
ただ純粋に、騒いでいるウチの大人たちを眺めているようだ。
不審者かと警戒したが、その心配はなかったらしい。
外套の人物を観察していると、相手は俺の存在に気づく。
お互いに相手を凝視するが、特に何かリアクションを起こす訳でもなかった。
「クロノス、避けろ!」
「へっ?」
ジェイクの声で振り返ると、誰かが放った魔法の斬撃がこちらに向かって飛んでくる!
うっそだろオイィィィィ!
「土よ!」
慌ててマナを込めて地面から土の壁を生成する。
これを盾にして防ぎ──
「それじゃ防げない!避けるんだ!」
再びジェイクの声が聞こえる。
彼の言う通り、俺が作った土の壁を真っ二つに切り裂いて、魔法の斬撃が迫ってくる!
「なんとぉぉぉぉ!?」
俺はそれを見て背中を反らして避けようとするがもう回避が間に合わない!
こうなったら別の方法で……!
避けるのを諦めたその時、俺の足元に何かが絡みつく。
次の瞬間、強い力で引きずられるように足が動き、俺はその場に仰向けに倒れこんだ。
「がっ!ひぃぃぃぃ!」
倒れた俺の鼻先を斬撃が掠める。
真上を通過した斬撃は塀に直撃し、分厚い壁をブチ抜いて粉々に砕いた。
「クロノス、大丈夫か!?」
「あ……あ、あ、あ、ああああ、危ねェェェェ!」
ジェイクに抱き起こされ悲鳴を上げる。
全身の毛穴から汗が吹き出ていた。
ついでに斬撃を掠めた鼻先からは血が垂れている。
なんつー威力だ!
土の壁どころか、石造りの塀すらも粉砕したぞあの斬撃!?
もし転んでなかったら腰から下が綺麗に切断されてたぞ!
「お前たち!模擬戦でマナを使った斬撃を飛ばす奴があるか馬鹿者!!」
『すいませんお義兄さん!!』
ジェイクが激怒するところ初めて見た。
義兄に怒られた叔父たちは慌てて頭を下げていた。
一方俺は、自分の足を見ていた。
斬撃を避けられないと思った瞬間、俺の足になにかが絡みついた。
それは植物の蔦だった。
蔦は地面から生えており、俺足にガッチリと絡みついていたが、今はもう先ほどのような力は無く簡単に外せる。
これは魔法によるものだ。
僅かだけど蔦からマナを感じる。
でも一体誰が?
叔父たちかと思ったが、誰も魔法を使ったかのような姿勢ではなかった。
もしかしてと思い、門の外に目を向ける。
だがそこには外套の人物の姿は既になかった。
✳︎
明朝の騒ぎはすぐに屋敷に広がる。
俺が斬撃に襲われたと聞いてユリーネは大慌て。
叔父たちも自分の妻に烈火の如く怒られていた。
もちろんイルミニオも激怒し、現在も説教されている。
メイドさんから治療を受けて取り敢えず血が止まったので、今は談話室で大人しくしたいた。
クラウラも俺が怪我して血を流したと聞いて、昨日ほど絡もうとはしなくて安心している。
「大丈夫、クロノス?痛くない?」
「痛みも全然ないです」
「ごめんねぇクロちゃん。お母さんがその場にいれば守れたのに」
「むしろいたら余計大惨事になりそうだから、いなくてよかったです」
もしあの場にユリーネがいたら、俺を守ろうと飛び出してきただろう。
そしたら被害は俺の鼻先だけでは済まなかったかもしれない。
「まぁ、もう血も止まったし大丈夫ですよ」
そう言って鼻先を人差し指で軽く撫でる。
すると少量の血が鼻先から飛び出た。
「あらやだ」
「きゃああああ!?」
「クロちゃん!?血が!血がぁ!」
「溜まってた血が吹き出ただけですよ。そんなに騒がないでください」
結局午前中はずっと慌ただしく、街に出かけるのは午後からになってしまった。
前日の約束通り、俺はジェイクとユリーネ、メイドさんの四人でライゼヌスの城下町へと外出することになる。
本当は午前中に行く予定だったんだけど、午前中は安静にしてろと言われたがようやく外出許可が下りたのだ。
城下町に出る為に、いつもより地味な服に着替える。
金品を身につけて歩くスリや誘拐に遭うかもしれないので、必ず簡素な服装で出かけるのがバルメルド家での決まりらしい。
もっともメイドさんだけはいつも通り、メイド服を着ているのだけども。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ。クロノス、はぐれないようにしなさい」
「はーい」
本家を出て四人で富裕層の居住区を抜け城下町に出る。
午後なのもあり人通りは多く、子供の体の俺では簡単に流されてしまいそうだ。
「それで、今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「君が気に入りそうなところだよ」
俺の質問にジェイクが微笑む。
城下町初体験の俺が連れられた先は、小さな工房だった。
中では大柄の男が一人で大かまどに向き合い金槌を振り下ろしている。
それを手伝っていた少女が大柄の男に客が来たと示すと、男は作業を止めてこちらに振り返った。
「おぉ、ジェイクじゃねぇか。なんだ、もう剣が駄目になったか?」
「だとしたら、それはお前の整備不足だろうな」
「バカ言ってんじゃねぇ。俺の打つ剣はそんじょそこらの工房で作られたのより頑丈なんだぞ?安心と信頼、そして安さが売りの俺様が、すぐ鈍になるような剣なんか打つかよ」
「安心と信頼はともかく、最後は本当か怪しいものだな」
お互いに小言を言い合い拳を重ねる。
どうやらここはジェイクのお得意先の工房のようだ。
「でぇ、今日はどうしたんだ?カミさんと従者まで引き連れて」
「この子の剣を注文しにきたんだ。見てやってくれ」
ジェイクが俺の背を押し、大柄の男の前に立つ。
首を上げなければ顔が見えないほど大きな体格の男は、屈んで俺の顔をまじまじと品定めしてくる。
「誰だこの子供。お前んとこの隊の新入りか?」
「私たちの子供だ」
ジェイクの説明に大柄の男は「子供?」と首を傾げる。
また俺の顔を凝視してきた。
「全然似てねぇな。いや、生意気そうな面構えはお前ソックリだわ」
「強面のお前に言われたくはないな」
またお互いに小言を言い合い笑う。
大柄の男は工房の奥へと進み手招きしてくる。
「んじゃま、どんな武器がいいか教えてくれ。坊主、こっち来い」
「は、はい」
手招きされて奥に進むと、奥の部屋には様々な種類の武器が置かれていた。
その数の多さに俺は感嘆の声を上げる。
「当店自慢の商品たちだ。まぁ、ゆっくり見て選んでくれ」
次回更新は一週間前後の予定です




