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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第四十話 姪とメイド


「ア゛────ッ!(汚い高音)ヤメテ来ないでェ!!」


 姪の姉であるクラウラに連行された俺は、廊下で情けない悲鳴を上げながら全速力で逃げていた。

 その後ろを八つの影が追いかけてくる。


「待て待てぇー!」「逃すなおぇー!」「待ちなさいクロノス!!」「キャッキャッ!」「鬼が逃げてるぞぉ!」「回り込めぇ!」「おにいちゃんまて〜!」「わーい!たのしー!」


 追いかけて来るのはクラウラと彼女の弟二人、それに親戚の子供たち六人。

 何故こんなことになっているかと言うと、クラウラに屋敷の中を案内してもらっていたのだが……後から後から親戚がやってきて、子供たちの面倒を見て欲しいと頼まれたのだ。

 それで何をして遊ぶかと話し合うことになり、鬼ごっこをすることになったのだ。

 それで俺が鬼になったのだが、何故か逃げるはずの八人が鬼に反撃してきて、俺は数の暴力に屈して逃げていると言う訳だ。

 子供相手に逃げるなんて情けないと思うだろうが、奴ら子供は手加減てものを知らない。

 何せ──


「火よ!」「雷よぉ!」

「おいィィィィ!屋敷の中で魔法使うんじゃねェェェェ!!」


 屋敷の中だろうと御構い無しで魔法を使ってくるのだ。

 さすがに幼いからか魔法の威力も大きさも大したことないのだが、誰かに当たったりしたら大怪我を負ってしまう。

 俺は足裏を通して地面にマナを流し込み、


「土よ!」


 土属性の魔法で床を突き上げ壁とする。

 俺の作った壁に依り魔法は打ち消された。


「きゃぁぁぁぁ!床が!」

「クロノス様、屋敷の中で魔法を使ってはいけません!」

「なら後ろの悪魔たちを止めてェェェェ!!」


 執事やメイドたちに怒られながら屋敷の中を走り回る。

 角を曲がるとメイド長のサティーラと我が家のメイドが並んで歩いているのが見える。


「ちょ、まっ、サティーラメイド長ォォォォ!」


 走りながら呼び止めると、何事かと二人がこちらに振り返る。

 俺は立ち止まった二人の後ろに隠れると「匿って下さい!」と懇願した。

 やがて悪魔どもの足音が迫ってくる。


「あらサティーラ!いいとこにいたわね!」

「これはこれはクラウラお嬢様。皆様もお揃いでどうかいたしましたか?」

「クロノスを知らないかしら!今みんなで彼を追いかけてるの!」


 クラウラお嬢様の説明で、サティーラと我が家のメイドさんが背後に身を隠す俺の状況を理解してくれる。

 二人はしばらく思案すると、


「クロノス坊っちゃまでしたら、先程この廊下を抜けて中庭へ」

「ありがとう!さ、行くわよみんな!」

『おおー!』

「皆様、廊下は走らない!」

『おお……!』


 サティーラに注意され早歩きとなったクラウラたちが去っていくのを確認し、ようやく俺はひと息つき安堵した。


「大丈夫ですか?クロノス坊っちゃま」

「大丈夫じゃないですよ……何時間も遊び道具にされて、俺もう吐きそう」

「クラウラお嬢様たちは嬉しいのですよ。御坊ちゃまのような歳の近いお方がいらして」

「だからって複数人で一人を追いかけ回していい理由にはならないでしょう」


 立ち上がり汗を拭う。

 あー酷い目に遭った。

 俺は向き直ると改めて二人に感謝した。


「匿ってくれてありがとうございます」

「いえ、クロノス坊っちゃまの頼みであれば」

「もしかして、二人のお話の邪魔をしてしまいましたか?」

「お気になさらないでください。娘と世間話をしていただけですので」


 あぁ、そっか。

 娘と世間話してただけかぁ……娘!?


「え、サティーラメイド長とウチのメイドさんって親子なんですか?」

「そうでございます。私たちの家は代々バルメルド家にお仕えしており、母親の私はイルミニオ様に、娘は現当主のジェイク様にそれぞれお仕えしているのです」


 そういや、子供の頃からバルメルド家に仕えてるって話を前に聞いたような。

 あれはいつの話だったけ?


「な、なるほど?ウチのメイドさんにそんな事情が」

「メイドさん?」

「俺、自分の家のメイドさんたちの名前知らないんですよ。ジェイクお義父さんから教えてはいけないと禁止されてて」


 俺の説明にサティーラメイド長はキョトンとし顔で娘のメイドの顔を見る。

 我が家のメイドさんが首を横に振ると、サティーラは一瞬目を伏せた。


「そうでございましたか。それだと御用の際に呼び辛いのではないのでしょうか?」

「ええ、不便ですけど、もう慣れました。でもなんでお義父さんは、メイドたちの名前を教えてくれないんでしょうねぇ」


 教えてくれない理由すら教えてくれないのは変だと思っている。

 なにか訳があるのだろうし、ジェイクから話してくれるまでは待つことにしている。


「見つけたわよクロノス!」

「えっ……ひいィィィィ!?」


 いつの間にかクラウラが背後に立っていた。

 また追い掛け回されるかと身構える。

 クラウラは詰め寄ると俺の手を掴み、


「おやつの時間よ!美味しいケーキがあるから一緒に食べましょ!」


 あ、おやつのお誘い?

 てっきりまた別の遊びでオモチャにされるかと思ったから安堵した。

 クラウラに頷いてその場を去ろうと……


「あぁ、クロノス様!こちらにいましたか!」


 したところで執事が廊下の角から姿を現して俺を呼んだ。


「クロノス様が魔法で作った壁を元に戻してくださいませんか!私たちでは戻せなくて困っているんです!」


 あぁー、そういや廊下の床や壁を魔法で突出させたんだっけ。

 すっかり忘れてた。


「屋敷の中で……魔法を?」

「すいません!すぐ戻します!」


 サティーラの怒りを含んだ気配を察し大慌てで来た道を戻る。

 自分で作った魔法の壁を元に戻す作業に追われる羽目になってしまった。

 屋敷中を走り回ったせいで、あちこちに土属性の魔法により突出したぶぶんが見える。

 それを凹凸の部分を残さないように綺麗に直す。

 ふと、壁の部分を戻している時にショーケースが設置されているのに気づいた。

 中にはトロフィーや賞状が飾られており、バルメルド家が授与した物を飾っているらしい。

 名前はジェイクとユリーネの名前が彫られた物が多い。

 どうやらこのショーケースには俺の両親の物のみが飾られているようだ。


「すごい数のトロフィーだな」

「それはね、ジェイク叔父様とユリーネ叔母様が王国から贈られた品が飾られているのよ!ウチでは家族ごとにショーケースが設けられていて、その人が貰った物は全て飾ってあるのよ!もちろん私のもあるわ!」

「ヘーソレハスゴイデスネ」


 貴族特有の見栄っ張りか。

 こんな人が通る目立つ場所に設置してるってことは見せびらかす為なのだろう。

 悪いとは言わないが、俺はあんまりこういうの好きではないな。

 床を直しながらショーケースを眺めていると、壁沿いに並んでいるショーケースに一つだけ何も入っていないのがあった。

 両隣のには物が飾られているのに、その場所だけ何もないのがあからさまに不自然である。


「なぁ、クラウラ姉さん。一つ聞きたいんだけど」

「あら、何かしら?何でも聞くといいわ!」

「このショーケース。両隣のは物が置かれてるのに、ここだけ空なのはなんでですか?見栄え悪いでしょうこれ」


 指で指し示す。

 空のショーケースというのはとてもよく目立つ。

 見栄っ張りな貴族がするにはあまりにお粗末では無かろうか。

 ただそれだけの素朴な疑問だったのだが。


「……」


 クラウラは何も答えようとしなかった。

 ただ黙ってそのショーケースを見ている。

 いや、睨みつけている。

 深い憎悪の感情が見える瞳で。


「あ、あの?クラウラ姉さん?」

「そこはクロノス。あなたの場所だわ」

「俺の?俺が賞とか取ったらここに飾られるんですか?」

「ええ。なにもないのはカッコ悪いから、あなたも早く賞を受け取りなさい。私がすぐに飾ってあげるわ」


 さっきまであんなに元気だったのに、このショーケースの話題を振ったら声の抑揚が急に無くなった。

 このショーケースには、元は誰の物が飾られていたのだろう。


「ほらクロノス!ケーキが待ってるんだから早く片付けなさい!」

「……そうですね」


 遠回しにクラウラが話題を変えてくる。

 これ以上触れるなという意味だと感じ、俺は床と壁の修復作業に戻ることにした。

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