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第三十三話 生きる為の足掻き


 蜘蛛の巣から抜け出し、魔法を使って追ってきた奴らは倒すことはできた。

 なのだが……俺とフロウはまた無数の蜘蛛に取り囲まれてしまっていた。

 その数はざっと見ても数百は超えている。

 一体どれだけの蜘蛛がこの森のどこに住んでいたと言うのだろう?

 なんて呑気にモノローグしてる場合じゃねぇ!


「逃げるんだよォォォォ!」


 フロウの手を取り走り出す。

 目の前にいる蜘蛛を土属性の魔法で地面を盛り上げて飛び越える。

 当然ながら蜘蛛たちは俺たちを追いかけてくる。

 長い六本脚を使い後方からぞろぞろと黒一色の赤い八つの眼が迫ってくる。

 悍ましい光景、立ち止まった瞬間にあの波に飲み込まれてしまう。

 捕まったらどうなるかなんて考えたくはなかった。

 方角も分からないまま暗闇に包まれた森の中を走り回る。


「クロくん、出口はわかるの!?」

「わからん!でも走るしかないだろ!あれに捕まったらもうおしまいだぞ!」


 しっかりと手を握ったまま走り続ける。

 後ろから迫る蜘蛛にもう二度と捕まる訳には行かない。

 だが走ることを意識しすぎるあまり、両眼の能力が途切れてしまった。


「しまっ……!」


 今までハッキリと見えていた視界が闇に閉ざされる。

 そのせいで足元が背の低い崖になっているのに気づかずに転げ落ちてしまう。

 フロウを抱きながら崖を転げ落ちる。

 しかも最悪なことに落ちた拍子に左脚が木に激突させてしまう。

 強烈な痛みが左脚に走る。


「ぐぅ!」

「クロくん!?どうしたの!?大丈夫!?」

「だ、大丈……ぐっ!」


 クソ、フロウを庇った時に思い切り脚を打っちまった!

 左脚に上手く力が入らねぇ!

 フロウの手を借りながら何とか立ち上がろうとする。

 もう一度両眼の能力を発動させると、俺たちは既に蜘蛛の大群に囲まれていた。


「か、囲まれっ……!」

「フロウ、下がってろ!」


 フロウを木と俺の間に押し込ませる。

 これで背中は木があるから大丈夫だ。

 問題は正面と側面からの攻撃だけだ。

 マナはまだ残ってる。

 こうなったら、火属性の魔法で最大火力の炎を爆発させて、ここら一帯を火の海に!


「火よ!爆炎に──ッ!?」


 手の平に全魔力を込めた炎を作り上げた瞬間、頭が割れそうな程の激痛に襲われる。


「ぐ、あァァァァ!?」


 どうした!?

 転げ落ちた時に頭も打ったのか!?

 でも何だこの異常なまでの痛みは!?

 体の奥から力が抑えきれないほど湧いてくる。

 手の平に作った拳ほどの大きさの炎がどんどん大きくなっていく。

 俺の身体ごと包みこもうと炎は更に燃え上がる。


「な、なんだ……これッ!?」


 意図しない程のマナが込められた炎に困惑する。

 これを撃てば周りにいる蜘蛛は全て一掃できる。

 でも俺もフロウも爆炎に巻き込まれて無事では済まない!

 両眼が焼けるように熱い。

 眼の奥からマナが溢れ出そうになるぐらいに光が強くなる。

 マナのコントロールができない。

 身体の奥底から得体の知れない程の感情が立ち込める。

 このままだと死ぬ!

 嫌だ、まだ死にたくない。

 死ぬ訳にはいかない!

 この力で燃やせ、全部燃やせ、燃やしてしまえ!

 塵一つ残さず燃やし尽くしてしまえ!


 燃やせ燃やせ燃やせ燃やせ燃やせ燃やせ燃ヤセ燃ヤセ燃ヤセ燃ヤセ燃ヤセ燃ヤセ──ッ!!


「全てッ!燃えてシマエェェェェ!!」


 抑えが利かなくなり、全てを燃やしたいと言う欲求に突き動かされ炎を放とうとする。

 俺が俺でなくなるように、俺が燃えて消えてしまえと願うかのように。

 だが俺の脳裏に目の前の光景とは別の映像が映る。

 森が燃え、蜘蛛が燃え、友が燃え、自分自身が燃え──燃えて黒焦げとなった全てを笑いながら踏み壊す、自分の姿が。


「ヤメ、ロォォォォぉぉぉぉ!」


 湧き上がる感情を無理やり押さえ込む。

 ぷつりと糸が切れるように俺の身体は地面に倒れた。


「どうしたのクロくん!?」


 倒れた際に湧き上がっていた欲求が消え、身を焼かんほどの炎は既に消えていた。

 全てを燃やそうとしていたイメージを振り払い、マナを体外に放出させたのだ。

 おかげで炎は消えたが、身体に負荷がかかったらしく地面に倒れてしまった。

 フロウの手を借りて起き上がる。

 だがその隙を蜘蛛たちは見逃さず、一斉に毒液を吐き出した。


「土、よ……!?」


 壁を作ろうとマナを練る。

 しかし魔法を使おうとすると先程の炎のように暴走するのではないかと不安がよぎり、マナを練ることができない!


「ここまでかよ……!」


 飛来する毒液を目前にし拳を握り締める。

 大蛇を前にした時にも感じた無力感。

 あれから俺は剣術も覚えたし、魔法だって覚えた。

 なのに、まだ俺は……また勝てないのかよ!

 目を瞑り全てを諦める。

 もう俺には、どうすることもできないのだから──


『諦めるの早いんじゃない?相棒』


 頭の中にギルニウスの声が聞こえる。

 ハッとして目を開くと、地面に青白い魔法陣が浮かび上がる。

 すると俺とフロウの体は白いベールに包まれる。

 白いベールは、俺たちに降りかかった毒液を霧散させた。

 毒液を霧散させ、俺たちの身を包む白いベールに目を向ける。


「な、なにこれ……」

「これ、魔法か?」


 何故だか身体が温かい。

 この白いベールの効力か?

 でも、こんな魔法は聞いた事がない。

 一体誰が……?

 突如、暗闇に包まれていた森の中に光が射す。

 光に蜘蛛たちが怯え後ずさりしている。

 その光は俺たちの後ろから射していた。

 振り返ると、白い光を放ちながらこちらを見つめる影が見えた。

 光のまばゆさのせいでその正体は分からないが、シルエットだけは識別できた。

 枝分かれした二本の長い角、美しく細い四肢、それは人ではなく獣の姿をしており鹿の様にも見えた。

 鹿の姿をした何かの背に人が乗っている。

 背に乗っていた人物が手を掲げると、高い鳴き声が響き渡る。

 同時に足元から青白い光が地面を走り、蜘蛛たちの足元で空高く伸びた。

 青白い光に包まれた蜘蛛は光の中で消滅し、生き残った蜘蛛たちはまた後ずさる。

 俺は青白い光を放つ不思議な存在に目を奪われていた。

 逆光でシルエットしか分からないが、その姿が美しく見えた。

 不思議な存在の背に乗る何者かがこちらを見つめている。

 その時、どこからか人の雄叫びが聞こえてきた。

 それも一人ではなく複数の。

 何者かがこちらに対して頷くと、彼らは暗闇が続く森の中へと消えてしまう。

 それと入れ替わるように、火の灯りが続々と見え、馬の鳴き声が聞こえてくる。


「クロノスゥゥゥゥ!!」

「お義父さん?!」


 その先頭を馬に乗り走っていたのは白い甲冑を身に纏ったジェイクだった。

 彼の後ろにも馬を操る騎士団の姿が見えた。

 俺たちを囲んでいた蜘蛛は迫ってくる大勢の人間に怖れたのか、一目散に森の奥へと逃げていく。


「逃すな!追え!全て始末しておくんだ!」

『ハッ!』


 団長ジェイクの命令に団員たちが了解し、俺たちの脇を通り逃げた蜘蛛たちを追いかける。

 ジェイクと数名の団員が馬を降りて俺たちに駆け寄って来る。


「お義父さ」

「馬鹿者ッ!」


 駆け寄ったジェイクに思い切り平手打ちを喰らった。

 しかも手加減なしの全力の平手打ちだ。

 子供の身体の俺は簡単に吹き飛び地面に倒れる。

 クッソ痛ェ!

 頬腫れてんじゃん!


「何故一人で禁断の森に進んだ!?何故私の帰りを待てなかった!?何故こんな無茶をしたのだ!?」


 捲したてるように怒鳴り声を上げるジェイク。

 その顔は怒りで真っ赤になっていて、こんなに怒るジェイクは初めてだった。

 初手平手打ちを喰らった俺は唖然としパクパクと口を開く。


「……フ、フロウが禁断の森に、い、いると思って」

「レイリス君から聞いた。モーチィ家の子を無理矢理連れ去り、森に侵入する隠し穴まで案内させたそうだな。なら何故隠し穴を発見した段階で引き返さなかった!?」

「ま、魔物にフロウが攫われたと聞いたから、その足取りを追おうとしたんです!でも、俺は愚かでした……もし襲われても、自分の力で何とかできるだろうと思い込んでいて……下手をしたら、死んでました」

「当たり前だ!お前は力を付けたつもりかもしれんが、子供のお前ではこの森の魔物を相手に無事でいられるはずがない!今こうして生きているのさえ奇跡なんだぞ!この──」


 叱りながらジェイクは倒れた俺に迫る。

 また殴られると思い、俺は身を固め衝撃に備え、


「馬鹿者が……!」


 思い切り抱きしめられた。

 壊れ物を扱うように優しく。


「よく、よく無事だった!」

「──っ!ごめんなさい……ごめんなさいっ」


 俺の無事に安堵し抱きしめてくれる父親に俺は謝った。

 何度も、何度も……感謝を込めて。

 その後、ジェイク率いる騎士団の活躍により禁断の森で異常繁殖した蜘蛛を駆除が行われた。

 例年よりも数が増えた蜘蛛の魔物を一定数まで駆除した後に作戦は終了となる。

 何故もっと駆除しないのかと聞いたところ、禁断の森に棲む生き物たちの生態系を崩さない為だと 答えが返ってきた。

 騎士団に保護された俺とフロウは村に帰った後すっごい怒られた。

 特にフロウは俺の十倍は強く怒られたのだ。

 その後、俺たちの帰りを待っていたレイリスにも泣きながら怒られることになる。

 全ての後処理が終わった頃には夜が明け始めており、俺とフロウは高熱を出して三日間寝込むことになるのだった。

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