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第二話 約束

「いだっ!」


 思い切り地面に放り投げられ悲鳴を上げる。

 石畳の床は思った以上に冷たく硬く、体力の落ちた今の体ではかなりの苦痛だった。


「クロ!」


 レイリスが駆け寄り手を貸してくれる。

 連れてこられたのは塔の地下。その大牢屋に子供たちは押し込められた。

 俺を投げ飛ばした人攫いの下っ端は大牢屋の鍵を閉め、一味のボスである眼帯ハゲのゲイルにニカッと笑う。


「ボス!ガキどもの収容終わりました!」

「おう。後は依頼主が来るの待つだけだな」

「でも美味しい仕事ッスよね。適当にガキを揃えるだけであんな大金が手に入るなんて!」

「ま、こんな御時世だからな」


 子供たちがいるのによくもまぁペラペラと喋る人たちだ。

 聞かれても問題ないのか。まぁ子供しかいないしな。

 でも、俺たち子供を攫ったのは誰かに依頼されたってことか。


「おぉし、相手に会うまでお前ら好きにしてろ。交代でガキども見張れよ!」


 ウゥス!と男たちが威勢の良い返事をする。

 ゲイルは部下を引き連れ上階へと続く階段を登って行き、二人の部下が階段の前に見張りとして残った。

 ゲイルたちの姿が消えると、子供たちは大牢屋の隅々に散らばり座り込んだり、その場に寝転んだりしてそのまま動かなくなってしまう。


「クロ、大丈夫?どこか擦りむいてない?」

「大丈夫だよ。平気平気」


 怪我をしてないかと心配するクロに答えながら、俺は今の状況を整理する。

 俺たちを攫った一味は外部からの依頼で子供を攫いこの塔までやってきた。そして一味のボスである眼帯ハゲのゲイルとか言う男は確かこう言っていた。


 ──ここが今日のお前たちのお家だ!


 そう、「今日」と強く主張していたはずた。

 そしてこうも言っていた。


 ──依頼主が来るのを待つだけだな。


 つまり、今日中もしくは明日には取引を終え、俺たちは人攫いの依頼主に連れて行かれてしまうと言うことだろう。

 だとしたら時間が無さすぎる。

 もし仮にこの牢屋から出られたとして、さっきの外の様子からしてここは山の頂上。

山を降りるのにこの姿じゃ体力が持つかわからないし、地理も分からない。

このまま山を降りるのは自殺行為に等しい。

 どうしたものか、せめて外との連絡手段があれば、この世界の警察のような組織に助けを求められるのに……

 見張りの二人は階段の前で談笑しており、こちらを伺う様子もない。何かしていても気付かれることはないだろう。

 でもこの大牢屋からどうやって抜け出そう?

 壁は石造り、鉄格子も頑丈で鍵もある。

 こちらの手持ちは何もないし、手足は鎖で繋がれてる。歩いたりと動く分には問題はないが、これじゃ牢屋から出れてもすぐ捕まってしまう。


「ほんとあの神様覚えてろよ……」


 こんな状況の中に放り込んだあの爽やか野郎に怒りを感じる。

 これはもう小突くだけでは気が収まらない。絶対ぶん殴ってやる。


「クロ、どうするの?本当にここから逃げるの?」

「そうしたいから今どうするか考えてる」


 とは言ったものの、本当にどうしようか。

 いっそ発作でも起こしてあの見張りに鍵を開けさせるか?

 いやでも、この体型で大の男二人も相手にするのは勝ち目薄いし。


「チュウ」


 チュウ?

 突然変な声が聞こえた。ネズミっぽい鳴き声。

 どこから聞こえてきたのかと顔を上げると、石畳の床の隙間から縫うように灰色のネズミが這い出てきた。

 この世界にもネズミっているんだなぁ、なんてことを考えながら見つめていると、ネズミは俺の膝下まで来ると顔を上げ俺を見つめてきた。

 ネズミの存在に気づいたレイリスも俺と一緒になってそいつを見る。


「ネズミさん?」

「ネズミだな」

「どこから来たんだろう。近くに巣があるのかな?」

「えぇ、やだなぁ。ネズミってバイ菌を運ぶからあんまり好きになれない」


 ここから出た後に変な病気にかかるのも嫌なので、どっか行け!と力強く念じ睨み続けると、


「そんなに見つめられたら恥ずかしいよ」

「……え?」

「いやぁ、でも良かったよ。見つかって」

「キャァァァァシャベッタァァァァ!?」


 喋った……え!?今喋った!?

 この世界のネズミって喋るのか!?

 喋るネズミを見て、脳裏に一瞬「ハハッ!」と愉快に笑う黒いネズミの姿が浮かび上がる。

 もしやこの世界では夢の国の様に動物が喋るのか!?


「え……今、このネズミさん喋った?」

「レ、レイリスにも聞こえたか?今喋ったよなこのネズミ?ネズミって喋るの?」


 ブンブンとレイリスが首を振る。

 やっぱりこの世界ではネズミは喋らないらしい。じゃあ、何なんだこの流暢に喋るネズミは……正直気持ち悪い。


「あれ?もしかして分からない?僕だよ!僕!」


 僕?何だ、オレオレ詐欺のボク版か?

 ボク、僕?あれ、この声って?


「もしかして、この声……」

「そう、僕だよ。か・み・さ・ま」


 ネズミがテヘ♪と笑って指でVサインを作って見せる。

 目の前に笑顔で現れたネズミの神様を見て、とりあえず俺は──


「シネェェェェ!」


 力の限りに拳を振り下ろす。

 だがそれをネズミは軽々と避けて見せた。

目標に逃げられ、振り下ろされた拳が石畳を叩くが結構痛い。


「危ないなぁ!君、転生させてもらった恩人に対してその愚行はないんじゃないかなぁ!?」

「うるせぇ!こんな所に転生させやがって!おかげでこっちは二度目の人生始まった直後からハードモードなんだよ!」

「いいじゃないか。人生を楽しむのには適度なスパイスが良いって、君たち人間はよく言ってるじゃないか」

「辛すぎるわ!」


 俺はネズミを手で掴むと眼前まで迫る。

 ネズミと話すを俺を見てレイリスや他の子供たちが呆然と俺を見ているが、今はそんなことどうでもいい。

 とりあえずこの神様を握り潰さないと気がすまない。


「いだだだだ!潰れる潰れる!君力強すぎ!出る、はみ出ちゃうううう!」

「ほぉ、面白いなぁ。じゃあこのまま握り潰したらどうなるのかなぁ?」

「ストップストップ!悪かったと思ってるよ!だからこうして君の前に現れたんだよ!」


 本当に悪かったと思ってるのかこのネズミは?

 とりあえず話だけ聞いてやろうと手の力を緩めると、神様ネズミはするりと手の中から抜け出し、俺の腕の上で偉ぶりたいのか胸を張る。


「お詫びにここから出る手伝いをしてあげよう!」

「手伝いじゃなくて今すぐここから出せ。本物の神様なら余裕だろ」

「無理」

「おい」

「僕は確かに神様だ。君よりえらぁいえらぁい神様だ。君一人どころか、ここにいる子供たち全員を元の場所に戻すのは容易い」

「だったらそうしてくれ。こちとら栄養不足で藁にもすがりたいんだ」

「でも、今の僕はただの喋るネズミなんだ。本来の力の100分の1も発揮できない」

「つまり何か?逃げるのは自力でしろってことか?」

「そーゆーこと。僕はそのアドバイスしかしないから」

「お前のせいで俺こうなってるんだけど」

「それはそれ。これはこれ」


 くっそ腹立つなこのネズミ!

 自分でやらかしておいて、その責任は取らずに後は俺にやらせるつもりか!

 やっぱり今ここで握り潰してしまおうか。


「それに、君一人の力じゃここから出られないでしょ?」

「ぐっ……」

「僕が案内をすれば、より良き未来へ辿り着けることを約束するよ」

「何がより良き未来だ。こっちはお前のせいでお先真っ暗なのに」

「そう言わないでよ。僕だって、考えなしに動いてる訳じゃないからさ」


 神様ネズミが手を差し伸べてくる。

 この手を取れば、この男は助けてくれるだろう。だが本当に信用していいものだろうか。


「安心してくれ。君を悪いようにはしない。僕を信じてくれる限り、僕は君に最大限の助力を約束しよう」

「お前、人をこんなとこに落としといてよく信じてとか言えるな。その自信はどこから来るんだ」

「神様だからね。信じてもバチは当たらないよ」


 本当に腹が立つ神様だ。

 何が腹立つって、この状況じゃその提案を受けざる負えないとわかってて言ってくるのがだ。

 牢屋の中じゃなければ断るところだが──


「次余計な場所に放り込んだら、今度こそ握り潰すからな!」

「いいだろう。神の名にかけて誓おう」


 神様ネズミの伸ばした小さな手を握る。

 とりあえず今は、この神様を信用するしかない。

 そんな俺の苛立ちがわかっててか、神様ネズミはニカッと笑う。


「約束だ」

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