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第二十七話 度胸試し


 暗闇に包まれた森の中をカーネを担ぎ上ぎ上げたまま走り続ける。

 その間も彼は必死に暴れ続けているせいで数回地面に落としてしまっている。

 泥だらけでそろそろ可哀想になってきたので、一度休むことにした。

 土属性の魔法で穴倉を作り周囲を囲む。

 天井に小さな穴を開け、火属性の魔法で地面に小さな火を起こし、これも魔法で壁を作って囲み灯りとして使う。

 準備が出来たらカーネの顔を覆っていたシーツを取ってやると、新鮮な空気を求めて何度も深呼吸を繰り返した。


「ぶはぁ!はぁ、はぁ、ぼくを殺す気か!」

「おぉ、すまん。それだと息できなかったか」


 めんごめんごと謝っておく。

 途中から静かになってきたなぁと思ったら息できなかったのか。

 カーネは周りが壁に囲まれてるのを確認すると、じりじりと壁際まで後退して俺を睨みつける。


「お、おまえ、一体なんなんだ!?ぼくを誘拐してどうするつもりだ!?ここはどのなんだ!?」

「ここは村外れの森の中だ。言っておくけど、叫んでも誰も助けに来ないぞ。たぶん」

「こ、こんなことして、ゆ、許されると思ってるのか!?ぼくに何かしてみろ、パパもママも黙っちゃいないぞ!」

「そうだろうな。まぁ、間違ってたら間違ってたでちゃんと頭下げに行ってやるよ」


 まぁそんなことほぼ確実にないだろうけどな。

 さっきからカーネの目が泳いでいる。

 一度も俺と目を合わそうとしないし、さっきから挙動不審だ。

 もう間違いない。

 やはりこいつ、フロウがどこにいるのか知っている。


「どうして俺に誘拐されたのか、理由はわかるな?」

「し、知らない」

「とぼけんなよ。本当はわかってるんだろ?俺は落とし前をつけにきたんだ」

「お、おとしまえ?」

「フロウをあんな目に遭わせといて、タダで済むと思ってんのか?」


 右手にマナを込める。

 手の平から雷属性の魔法が発現し、右手全体に電流が走り火花が飛び散る。

 それを見たカーネが小さな悲鳴あげた。


「ま、待て!ぼくは関係ない!ぼくは何もしてない!」

「しらばっくれてんじゃねーぞ。そんな言い訳が通じると思ってんのか?」


 ゆっくりと雷属性を纏った右手をカーネの顔面に近づけいく。

 やべーなー、雷属性の魔法なんか頭に直接食らったら痛いだろうなぁ〜。

 失神しちゃうだろうな〜。

 手を近づけるほどカーネの全身が震え、歯をガタガタと鳴らす。

 俺と手がカーネの鼻先に触れる寸前まで至り、


「ち、違うんだ!ぼくは連れてっただけなんだ!」

「……連れてっただけ?」

「そ、そうだ!あ、あいつが自分から言い出したんだ!度胸試しするって!だからぼくたちは、抜け道を教えて入り口まで連れてっただけなんだ!禁断の森に!」


 その言葉を聞き俺は右手を引く。

 最悪な展開だった。

 禁断の森に行ったのではないかと思ってはいたが、他の場所に置いてかれただけなのかもしれない、そうであって欲しいと望んでもいた。

 でもカーネは確かに言った。

 禁断の森の入り口まで連れて行ったと。


「連れてった後は?そっからどうした」

「も、森に入ったらいきなり何かに襲われてみんなで走って逃げたんだ」

「じゃあ、お前たちだけ助かったのか?フロウは?」

「し、知らない」


 目を背けて震えながらカーネは答える。

 その答えに俺は笑顔を浮かべ、


「お前どうしようもないクズだな」


 渾身の力を込めてカーネをぶん殴った。


                    ✳︎


 カーネをぶん殴った後、俺は彼の口を布で塞ぎ、両手と胴体を蔦で縛るとエルフの集落までやってきた。

 集落の大人たちはフロウを探しに行っているので、集落に大人たちの姿はない。

 夜遅いと言うこともあって、どこの木も明かりが点いてなかった。

 俺はカーネを引き連れレイリスの家までやってくる。

 適当な小石を拾うと、家の窓に向かって小石を投げた。

 小石が窓にぶつかると小さな音が出た。


「レイリス……!レイリス……!」


 誰にも気づかれたくないので、微かな声でレイリスを呼ぶ。

 しばらくすると窓からレイリスが顔を出し、俺とカーネの姿に驚くて家の扉を開けてくれた。

 俺はカーネを連れて彼女の家に招いてもらう。


「ふぅ、ありがとうレイリス」

「それはいいよ!どうしたのこんな時間に!?」

「フロウのことが気になってな。もしかしたらと思って、カーネに話し聞こうと連れ出したんだ。そしたら、案の定だったよ!」


 苛立ちを隠せずカーネの尻を蹴り上げた。

 そして俺はレイリスにカーネから聞いた事を全て話した。

 フロウがどこにいるのか、何故禁断の森に行ったのか、どうして未だに帰ってこないのかを。


「……じゃあ、フロウは度胸試しする為に禁断の森に?」

「そうらしい。それで、森の中に入るのを手引きしたのがこいつなんだとよ」


 話しを聞いたレイリスの顔が見る見る青ざめ、事の重大さが分かり大慌てする。


「ど、どうしよう!?禁断の森に入ったなんて、すぐにお兄ちゃんたちに知らせないと!」

「そうしたいのは山々なんだが、禁断の森の抜け道を知ってるのはこいつだけなんだ。しかもこいつ、絶対大人たちにその事を教えたりしないぞ」

「ど、どうして!?」

「怒られるのが嫌だからだよ。自分の両親にすら本当の事を話してないんだからな」


 こいつは大人たちに詰め寄られたら、絶対に嘘をつくか母親に助けを求めて有耶無耶にするだろう。

 下手したら息子を誘拐した犯罪者として俺を咎め、更にややこしいことになってしまうかもしれない。

 そうしたらもうフロウを捜すどころではなくなり、発見が遅くなってしまうかもしれない。

 それはもっとも回避しなければならない展開だ。

 だから大人たちに突き出す前に確認することがある。


「こいつに禁断の森までの抜け道を案内させる。それが確認出来たらこいつを突き出す」

「それ、ボクも一緒に行ってもいい?」

「そう思って立ち寄ったんだ。俺以外にも抜け道確認したやつがいないと、信じてもらえないかもしれないからな」


 抜け道を確認出来たら、エルフの集落の長老に話をしようと思っている。

 あの人は子供が好きだし、ちゃんとこちらの話を聞いてくれるから無下にされたりはしないだろう。

 それに自分の集落の子供であるレイリスの話なら確実に耳を傾けてくれるだろうし、彼女が一緒に証言してくれるなら兄のニールだって信じてくれるはずだ。

 加えて俺の父親であるジェイクは騎士団の団長。

 騎士団の面々もジェイクの息子である俺の話を多少なりとも聞いてくれるはずだ。

 最終的にはユリーネって手もあるけどな。


「いいかレイリス。あくまで抜け道を確認するのが目的で、フロウを助けに行く訳じゃないからな?森に入っても突撃したりするなよ?」

「わ、わかってるよ。ボクそんなに信用ない?」

「いや、一応念の為に」


 ごめんなさいニール兄さん。

 レイリスを禁断の森に近づけないって約束破ることになるけど、無茶はしないから今回だけは許してください。

 俺は改めてレイリスを同行させ、家を出る前に松明を作りカーネに案内させる。

 彼に案内された場所は、禁断の森の入り口とは反対方向の場所で、目の前には小さな洞窟があった。


「ここがそうなのか?」


 俺の問いにカーネが震えながら頷く。

 よほどこの先で襲われたのが怖かったらしい。


「よし。じゃあ行くぞ」

「んー!んー!」

「あぁ!?行きたくない!?ただこねずにちゃんと付き合え!」


 いやいやと首を振り逃げようとするカーネを無理矢理引きずり、三人で洞窟に入る。

 一応『夜目が利く』能力と松明を持った俺が先導し、カーネは引きづられながら、レイリスは俺の服の裾を掴み後に続く。

 洞窟の中は思ったよりも広くも長くもなく、すぐに外へ続く出口が見える。

 洞窟を抜けると、俺たちの目の前に鬱蒼とした木々と霧が広がっていた。

 異様な雰囲気に包まれ、魔物が棲みつく立ち入る事を許されぬ森──禁断の森へと俺たちは足を踏み入れたのだった。

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