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第二十六話 初めて夜遊び


 フロウが禁断の森にいるかもしれない。

 神様からのお告げでそう考えた俺は、フロウを虐めていたモーチィ家を訪ねようとしたのだが。


「坊っちゃま?どちらに行かれるつもりですか?」


 玄関先でメイドさんたちに見つかってしまった。


「フロウを探しに……」

「なりません。既に時刻は十時を回っております。フロウ様の捜索は騎士団の皆様に任せ、坊っちゃまはお休みになってください」

「でも、もしかしたらフロウの居場所がわかるかもしれないんです!それを確かる為にお義母さんたちに伝えに行かないと」

「でしたら、私が伝言を承ります。坊っちゃまはお部屋にお戻りになってくださいませ」


 メイド二人に脇を挟まれる。

 どうやら俺を外に出す気はないらしい。

 仕方なしに、俺はフロウについて思い出したことを話して、捜索中のユリーネたちに伝えてもらうことにする。

 自室に戻り窓から外を眺めると、屋敷から村まで道を一つの灯りが移動しているが見える。

 メイドさんが俺の話しを伝えに行くのだろう。

 しかし、やはり心配だ。

 この話を聞いて大人たちが信じてくれるかもだが、カーネ・モーチィが正直に白状するかも怪しい。

 領地の娘を虐めた件で親からお咎めがあったはずなのに悪ガキどもは懲りずに毎回やってきた。

 そう考えると、俺自身が直接聞きに行った方がいいかもしれない。

 つか、直接聞きに行かないと気が済みそうにない。

 しかし玄関口はメイドさんが見張ってるだろう。

 ならば窓から出ることになるが、ここ二階なんだよなぁ。


「風属性の魔法を使えば行けるか?」


 あんまり風属性得意じゃないんだけど、やるしかねぇか。

 まずは厚手の服に着替え、部屋の壁に飾っておいた剣を腰のベルトに備付ける。

 飾られていた剣は、俺がこの家に来た時に木の剣と一緒にプレゼントされた物だ。

 ジェイクの許可がなければ持ち出すのも鞘から引き抜くのも禁止されているのだが、もし禁断の森に行くことになったら絶対に必要になる。

 できることなら、剣を使わずに済むのが一番なんだが持って行こう。

 準備を整えると部屋の窓を開け、窓枠から身を乗り出す。


「ちょっと高いな」


 正直、二階から飛び降りるなんて初めてだから怖い。

 打ち所悪いと骨折したりするんだよなぁ。

 ええい、ままよ!

 俺は意を決して窓から勢いよく飛び降りる。

 放物線を描きながら落ちていき、地面に激突する瞬間、


「風よ!吹き上げろ!」


 マナを練り上げ、風属性の魔法を発動させる。

 自分と地面の間に上昇気流を作り上げ、それで落下時の反動を軽減しようと思ったのだが……落下予測地点に作った上昇気流が突然勢いよく吹き荒れる。

 地面に落ちかけていた俺の体がまた宙を舞う。


「やばっ失敗し、あだぁ!」


 宙に放り投げられ、一回転しながらお尻から地面に着地してしまった。

 前のめりに地面に倒れながら、俺は打った場所を手でさする。


「グォォォォ……!」


 尻の痛みに耐えながら立ち上がる。

 俺の家からモーチィ家のある場所までは数十分。

 それまで大人たちに見つからずに行かなければならない。

 故にカンテラ等の灯りは持ってこなかった。

 灯りのない外は暗くて、目視たけでは進行方向さえわからない。


「そんな時こそ、こいつの出番だよな」


 カンテラはないが、俺には代わりになる便利な物がある。

 右眼にマナを込めると使える『夜目が利く』能力だ。

 本当に地味で忘れがちな能力だけど、こんな時こそ役に立つってもんだ。

 左眼にも能力があるのだが、今のところ役に立った試しがないし、使い方もイマイチわからない代物なんだけど。


「よし、行くか!」


 寒さで集中力が散漫し、右眼の魔法が解除ように気を引き締める。

 俺は低身長であることを活かし、草原に身を潜めながら移動した。


                   ✳︎


 いつもなら数十分かかる道でも、森の中や獣道を行けばショートカットできる。

 思ったよりも早くモーチィ家まで着けた。

 ニケロース家やバルメルド家程の大きさではないが、さすがに金持ちの家だけあって立派屋敷だ。

 さて、正面から入る訳にも行かないし、カーネのいる所まで不法侵入しなければならないんだけど、あいつの部屋どこだ?


「壁よじ登って、窓から一箇所ずつ見て回るかぁ?」


 んなスパイダーマンみたいなことしたくねぇなぁ。

 壁登りって結構危ないしなぁ。

 なんてことを考えていると、屋敷の扉が開き中から騎士団の団員が二人出てきた。

 俺は慌てて茂みの中に隠れて伺うと、見覚えがある人たちだった。

 確か、今年から騎士団に入団した人たちだったはず。

 彼らの見送りに煌びやかなドレスに着飾った女性も出てきた。

 おそらくカーネの母親だろう。


「奥様、夜分遅くに申し訳ありませんでした」

「いいえ、ウチのカーネくんが無関係だと言うことがわかれば結構ですわ」

「ですが、もしカーネ君が思い出した事などがあれば、すぐに我々に知らせてください」

「かしこまりました。ですが、ウチの子は無関係なのですから、ご期待に応えるのは難しいでしょうけど」


 母親はやたらと無関係だと強調していた。

 俺がフロウの失踪にカーネが関係あるかもしれない言う話を信じて、騎士団の人が確認しに来てくれたのだろう。

 だが結果は空振りらしい。

 カーネの母親に見送られ団員二人は溜息を吐きながら歩いていく。


「はぁ、成果なしか」

「団長の息子さんの話が本当なら、フロウちゃんを探す手がかりになると思ったんだがな」

「しっかし、おっかない母親だったな。ウチの息子は関係ないの一点張りだったし」

「だが、カーネ君は何か知っている風だったな。今日はもう会わせてもらえないだろうし、先輩に報告してまた明日来よう」


 茂みに隠れながら彼らの会話を盗み聞きする。

 どうやらカーネ本人から話は聞けなかったらしい。

 しかも母親は息子の関与を否定している。

 こりゃやっぱ、母親に話し通さずに直接本人に問いただすしかないな、

 見つかると面倒なので、彼らが遠ざかるまで茂みに隠れ続ける。

 後ろ姿が見えなくなった所で、俺は茂みから出てモーチィ家に近づく。

 モーチィ家は二階建の屋敷だが、外観からしてそこまで広くはないだろう。

 子供部屋はおそらく二階。

 見える窓は四つか……ま、しらみ潰しに探せばいいか!


「さてと、上手くいってくれよ〜」


 窓まで風属性の魔法で飛ぼうかと思ったけど、さっきみたいに失敗して気付かれるのは嫌なので別の方法を試すことにする。

 体内のマナを右手に収束する。

 イメージは、壁に添うように突き出す柱……


「土よ」


 マナを込めた右手で足元の地面にそっと触れる。

 触れた足場の地面がゆっくりと魔法によって盛り上がり柱となる。

 魔法で生成されたり柱は二階の窓横で止まった。

 おし、上手くできたぞ。

 ホントこの世界の魔法はイメージさえしっかりしてれば色んな使い方ができるから便利だわ。

 ゆっくり地面を盛り上げたから音も出てないし、家の中の住人にも気付かれてなさそうだ。


「カーネ君はどこかなっと」


 一番近い窓に顔を近づける。

 カーテンが掛かってるから中は見えないが、室内の物音ぐらいは判断できる。

 見つけたら魔法で壁に穴開けて乗り込もう。


『……ちゃん、今……わ』


 ガラス越しに微かに声が聞こえた。

 よく聞き取れないので、もう少し窓に顔を近づける。


『大丈夫……カーネちゃ…いわ』


 この声は、さっきの母親の声か?

 てことは、今俺のある場所がカーネの自室か。

 バタン、と扉が閉まる音が聞こえた。

 母親が出て行ったのかとしばらく室内に耳を傾けていたが、それ以降物音がしないので立ち去ったみたいだ。

 よし、じゃあ他人のお宅に突撃だ。

 とは言っても、大きな音を立てたら即見つかるのでこれも静かにやらねばならない。

 窓ガラスを風属性の魔法で切るか?

 いや、中にいるカーネが危ないか。

 この世界のガラスってどれくらいの強度なんだろうか。

 下手なことして大騒ぎになるの嫌だし、壁壊した方が早いか?


「よし、土属性の力を信じてみるか」


 右手にもう一度マナを込めて壁に手を当てる。

 そうだなぁ……壁に穴を開けたいから、そのまま壁をくり抜くイメージでいいか。

 なんて考えたのが間違いだった。

 頭の中では壁を子供が一人通れるぐらいの大きさまで穴を開けるつもりだったのに、予想に反して壁がまるごと吹き飛んでしまった。

 まるで破裂したかのように小粒となった壁の破片が飛び散る。

 やばい、やり過ぎた……

 魔法の使い方に失敗したのに唖然としていると、部屋の中にいたカーネと目が合う。

 これまた彼も、自室の壁がいきなり小粒に変わって飛び散ったのに驚き目を丸くしている。


「正直すまんと思ってる」

「なっ、おまっ、まっママ……!」

「だが私は謝らない!」


 カーネが叫びそうになったので、ベットのシーツで彼の顔を覆い尽くし悲鳴を殺す。

 そのままカーネを担ぎ上げると、俺は彼を連れ去り森の中へと逃げる。

 顔に布を撒かれくぐもった悲鳴を上げ続けるカーネを連れて、とりあえずエルフの集落を目指すことにした。

 あ、部屋の壁と魔法で作った柱戻してねぇ。


「……ま、いっか!」

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