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第二十四話 変転


フロウ視点


 クロくんを見送ってもらって、ワタシは家まで続く一本道を歩く。

 今日もクロくんとレイリスちゃんに助けもらった。

 いつも村で遊んでいると、カーネ・モーチィくんたちが虐めに来る。

 その度にクロくんが前に出て、レイリスちゃんが庇ってくれて、二人には本当に感謝してる。

 でも……どうしても、今日言われた言葉が忘れられない。


『お前、領主の家の子なのに騎士様に守ってもらって恥ずかしくないのかよぉ〜!』

『自分じゃ勝てないからって隠れてんじゃねーぞ!』

『悔しかったら度胸見せてみろ!この腰抜け女〜!』


 さっきからその言葉を思い出し、ワタシの頭の中はモヤモヤしていた。

 あの子たちの言う通りだ。

 ワタシはクロくんとレイリスちゃんの陰に隠れて、いつも守ってもらっているだけ。

 自分では何もできない。

 カーネ・モーチィくんたちに一言だって反論したことがない。

 母様には「自分を貫く強さを持ちなさい」といつも言われている。

 実際母様は強い。

 ワタシの父様は遠い場所に住んでいる。

 父様と母様はワタシが三歳の時に離婚した。

 原因は知らない。

 でもワタシが物心付いた時に離れ離れになってしまった。

 以来父様とは一度も会ってはいない。

 それからは姉様たちと母様にたくさんの可愛がってもらった。

 母様は領主の仕事をしながらでも、ちゃんとワタシの相手をしてくれる。

 どんなに忙しくても必ずワタシの相手をしてくれる。

 例えどんな時でも母様は強くあろうとしていて、何が起きても必ず解決してくれる。

 ワタシもそんな母様のように強くなりたい。

 そう思って色々なお稽古をしている。

 でもワタシは母様のようにまだ強くはない。

 初めて虐められていた時の事を思い出す。

 カーネ・モーチィくんたちに虐められた時、ワタシはどうして虐められているのかわからなかった。

 どうしたらいいのか分からずただ泣いていた時、彼は現れた。


「お前ら何してるんだ!」


 自分と同い年の男の子は、三人の虐めっ子に一人で立ち向かっていった。

 ワタシは助けに来てくれた彼をずっと見つめていた。

 だけど一人じゃ、三人を相手に勝てっこない。ワタシはそう思っていた。

 でも、彼は強かった。

 臆する事なく前に出て、ワタシの手を取りその場から立ち去ろうとした。


「お前ら、すっごいカッコ悪いよ」


 彼のこと一言は今でも胸に残っている。

 虐めていた子供たちに言い放ったその一言に、三人は顔を真っ赤していた。

 怖かったけど、その子は三人を見据えていた。

 どうしてこの男の子はこんなに強くあろうとするんだろう?

 相手を怒らせたら、余計に酷い目に遭うのに。

 だけど彼はワタシたちが思う以上の力の持ち主だった。

 子供でも習得している人が少ない魔法を操り、相手を怖がらせた。


「次は貴様らの頭上に落としてやろうか?コノヤロウ」


 優しいはずなのに恐怖を含んだその一言で虐めっ子たちは一目散に逃げ出した。

 ワタシはそんな彼を恐ろしいともカッコいいと思った。

 そしてその時理解した。

 母様が言った強さとは、きっと彼のような物なのだと。

 彼とその友達は、気持ち悪いと言われたワタシを可愛いと言ってくれて、ワタシは大泣きした。

 その日は母様と一緒に彼の家にお礼を言い、ワタシを母様からどうして虐められたのかを教えられた。

 ワタシはそれを聞いて外に出るのが怖くなった。

 外に出たら、また虐められるから。

 彼は他にも友達がいたけど、次の日からその子と一緒にワタシの家まで来て遊びに誘ってきた。

 初めは嫌がったが「虐めっ子が来てもやっつけてやるよ」と彼に連れられ外に出た。

 外に出たら、やっぱり虐めっ子たちがやってきたけど、彼は言葉通りワタシを守ってくれた。

 ただただ嬉しかった。

 彼らはこんなワタシを本当に友達として受け入れてくれたのだ。

 遊びに行く度に虐めっ子がやってくる。

 でも彼らはその度にワタシを守ってくれる。

 最初はそれが嬉しかった。

 でも気づいてしまった。

 ワタシは彼らの影に隠れているだけで、自分では何もしていないことを。

 気づいていたのに、考えないようにしていたのに、それを指摘されてしまった。

 二人は気にするなと言ってくれたけど、一度気づいてしまえばもう無理だ。

 ワタシはあの二人にとってお荷物なのかもしれない。

 いつか二人は、ワタシといることが嫌になって離れていってしまうかもしれない。

 そんなのは絶対に嫌だ。

 クロノスくんとレイリスちゃんは、ワタシの……ワタシの初めての友達なのだから。


「待てよ腰抜け」


 歩いていると声をかけられる。

 顔を上げると、カーネ・モーチィくんたちが道の真ん中で待っていた。


「あの生意気な奴はいないし、助けも呼べないぞ」


 家までまだ距離がある。

 クロくんとも既に別れた後だから、助けを求めることもできない。


『イジメられそうになったら呼べよ。すぐ助けに来るからな』


 クロくんはそう言ってくれた。

 ワタシがここで助けてと叫べば、彼は本当に助けに来てくれるかもしれない。

 だからワタシは──


「クロく……ッ!」


 叫ぼうとして止める。

 ここで彼を呼べば、きっとまた助けてくれる。

 でもそれでいいの?

 また彼に助けてもらって、この先ずっと彼に守ってもらうの?

 ワタシはあの二人に嫌われたくない。

 あの二人と同じように一緒に強くありたい。

 だったら、一人で三人に立ち向かわなければならない。


「どうした?助けを呼ばないのか?」

「よ、呼ばないよ……!」

「なんだぁお前、ぼくらに勝てると思ってんのかぁ?」

「腰抜けの癖によ〜!」


 そうだ、ワタシは腰抜けだ。

 ずっとクロくんたちに守ってもらえると安心して、あの二人の影に隠れてた腰抜けだ。

 でも、もう腰抜けと呼ばれるのは嫌だ。

 クロくんとレイリスちゃんに置いていかれるのは嫌だ。

 見捨てられるのは嫌だ。

 だから……!


「ワ、ワタシは、腰抜、けじゃない……」

「なんだって?」

「ワタシ、は!こ、腰抜けじゃない!」


 ワタシの言葉に三人は驚いてる。

 人に対して、こんなに強気に出るのは初めてだ。

 彼らは驚いてた顔をしたけど、すぐに怖い顔で笑う。


「腰抜けじゃないなら、度胸があるとこ見せてみろよ」


 カーネ・モーチィくんの一言に、ワタシは頷き、彼らに歩み寄った。


✳︎


クロノス視点


 俺は森の中にいた。

 真っ暗で何にも見えない森の中を。

 だがすぐに暗闇に包まれた森に光が溢れる。

 オレンジ色の綺麗な光が。

 あれは炎だ。

 真っ赤な炎が森の中を照らしているんだ。

 メラメラメラメラきれいだな。

 炎はどんどん広がって、暗い森の中が真っ赤な炎で染まってく。

 あっちもこっちも真っ赤で綺麗。

 メラメラ炎が暖かい。

 冬が近くて風は冷たかったけど、こんなに炎があると全然寒くない。

 足元に何か黒い物が転がっている。

 それは炎で焼け焦げた物のようで、まだ僅かに煙が立っている。

 黒い物体は一つや二つじゃない、森の中に大量に転がっている。

 これは何だったっけ?

 形は残っているけれど、元がどんな色合いをしていたとか思い出せない。

 でも邪魔だなぁこれ。

 あちこちにあるせいで、足の踏み場がないよ。

 あぁでも、迷うことないんじゃないか?

 どうせ燃えた物なら、踏んでも大丈夫じゃないかな?

 俺は足を上げて、転がっていた焼け焦げた物体を踏みつける。

 体重をかけると黒い物体は脆く崩れ去り、砕け散った場面は地面に転がる。

 グシャ、グシャ、グシャ──。

 気持ちのいい音が耳に響いて気分が良くなる。

 だんだん楽しくなってきて、進む度に目に映った焼け焦げた物体を踏み壊す。

 その顔は楽しさを堪え切れず笑みを浮かべていた。

 俺は笑いながら物体を踏み壊し続ける。

 次第に踏み壊す物が無くなっていき、最後の一つになってしまった。

 目の前のそれはまだ炎に包まれていて、完全に焼け焦げてはいない。

 そこでようやく、俺は自分が踏み壊し続けていた物が何だったのか理解した。

 炎に包まれていたのは──人だった。

 俺が壊していたのは、人間が炎に焼かれた焼死体だった。

 それに気づいた時、俺は全身の毛が震え立つのを感じた。

 背筋に電流が流れたかのように痺れる。

 頭の中に踏み壊し続けた人たちの記憶が蘇る。

 足の裏に踏み壊した人たちの感覚が戻ってくる。

 目の前で炎に燃えている死体を凝視する。

 炎の中で燃えているのは俺だった。

 俺が炎で焼け死んだ俺を見下ろしている。

 何だこれは?

 意味がわからない。

 そもそも俺はどうしてこんなことをしている?

 どうして踏み壊し続けていたのが人だと分からなかった?

 一体何が起きてこうなったんだ?

 わからないわからないわからないワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ。

 俺は混乱する頭抱えてその場で暴れ回る。

 駄目だ。

 こんなことをしていちゃ駄目だ。

 俺は頭の中に広がる疑問を全て振り払い、炎に焼かれている俺を駆け寄る。

 そして俺は炎が自分に燃え移るのに構いもせず──満面の笑みで自分を踏み壊した。





「うわぁぁぁぁ!!」


 自分が自分に踏み壊される夢を見て俺はベットから跳ね起きる。

 目覚めは最悪だった。

 急いで周りを確認したけど、森の中ではなく自分の部屋のベットの上だと気付くと、壊れそうな程脈打つ身体が落ち着きを取り戻そうと酸素を求めた。

 俺は何度も深呼吸すると、さっきの出来事が夢だと再確認してようやく呼吸が整う。


「い、今のは──夢?だったのか?」


 正直まだ夢か現かさえはっきりしない。

 今もあの焦げた焼死体を踏み壊した時の感覚を足の裏全体に感じる。

 まるで自分が自分ではないかのような感覚だった。

 ただ分かるのは漠然とした恐怖。

 森の中で業火に包まれ、その中で一人笑いながら焼死体を踏み付けるなど正気の沙汰とは思えない。

 さっきみたいな夢を見るのは初めてじゃない。

 前に大蛇と戦った洞窟、あそこで意識を失った時にもあのおぞましい笑みを浮かべる自分の夢を見た気がする。

 今までずっと忘れていたけど、今回見た夢といいあれは一体何なんだ。


「汗が気持ち悪い」


 全身にべっとりと汗を吸いこんだ衣類が肌に張り付いて気分が悪い。

 着替えて風呂入るか。

 窓の外を見ると、丁度夕暮れが沈みかけで月が顔を覗かせようとしていた。

 えーと、フロウを送って帰ってきた後に昼寝したんだっけか?

 だとしたら、まだ帰ってから数時間しか経ってないかな。

 とりあえず寝室出て、廊下でベルを鳴らす。

 音を聞いた我が家のメイドさんが早歩きで廊下の角から現れた。


「お呼びでしょうか、坊ちゃま」

「汗をかいたんでお風呂に入りたいんですけど、もう沸いてますか?」

「既にご用意してあります。お着替えをお持ちしますので、御入浴してお待ちください」

「ありがとうございます。そう言えば、お義父さんはもう帰ってますか?」

「いえ、旦那様はまだお戻りになられてはおりません。おそらく会議が長引いているのかと思われます」


 ジェイクはまだ王都から帰ってないのか。

 年末の召集会議は一週間近くかかるって言ってたが、もうそろそろ帰ってくる日にちだ。

 俺はまだ王都には行ったことないけど、いつかは行ってみたいものだ。

 メイドさんに着替えを任せ、俺は脱衣所を目指す。

 悪夢のせいでどんよりした気分だったが、風呂に入って体を洗えば気分も良くなる。

 サッパリした気分で脱衣所を出て、夕食を食べようとリビングに向かうとした時、玄関を叩く音が聞こえる。


「こんばんわバルメルドさん!ミカラ・ニケロースです!」


 フロウのお母さん?

 どうしたんだ、こんな時間に?

 ミカラが訪ねて来たと知り、俺は玄関口へと向かう。

 既にユリーネとメイドさんが迎え入れていたのだが、ミカラの顔色が良くない。

 少し青い顔をしている。

 何かあったんだろうか?


「ミカラ婦人、ごきげんよう」

「あぁ、クロノス君!家のフロウを知らないかしら!?」

「フロウ?」

「クロちゃん、今日もフロウちゃんと遊んだのよね?ちゃんとお家まで送ってあげたの?」

「はい。屋敷に続く一本道の前まで送りました。フロウが今日はそこまでの見送りでいいと言うので、そこで別れたんですけど」


 俺の言葉にミカラもユリーネも青い顔をする。


「あぁそんな……フロウ、どこに!?」

「落ち着いてミカラさん。すぐに騎士団と村の皆にお願いして捜索を」


 あの堂々とした立ち振る舞いが印象的なミカラがその場に倒れそうになる。

 それをユリーネが支え、必死に励ましている。

 何だ一体、どうなってるんだ?


「メイドさん。一体どうしたんですか?」

「……フロウ様が、行方不明だそうです」


 行方不明──フロウが?

 え、どうして?


「夕方を過ぎても家に戻らないそうです」

「え、でも、俺……ちゃんと、屋敷の前で」

「ニケロース家の使用人も、坊ちゃまがフロウ様と別れるまでは見ていたそうなのですが、先に屋敷に戻ってお帰宅の準備をしても戻らないので不審に思い、当家までいらしたそうなのですが……」


 メイドさんの話を聞き、俺は唖然とする。

 行方不明なんてはずはない。

 だって俺は、ちゃんと屋敷の前までフロウを連れ帰った。

 あの道はフロウの住む屋敷まで一直線の道だ。

 迷うなんてことはありえない。


「じゃあ、フロウは……一体どこに行ったんだ?」


 その日、フロウが村から姿を消した。

クロノスのほのぼのライフ第二章!

ついに新たな展開を迎えるよ!

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