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第二百五十一話 面貸し活動

年内最後の更新となります!



 『奉仕活動(バイト)』先を探す為にルーヴ、アズルと一緒に街に出た俺。

 アズルは泣き叫びながら何処かへと走り去ってしまったので、ルーヴと二人で目的の店の扉を開いた。


「こんにちわー……」


 扉を開け、挨拶をしながら恐る恐る店に足を踏み入れる。

 店内でまず目に留まったのは長いテーブル席。

 木製のカウンターには椅子が綺麗に十個並んでおり、カウンター裏にはテーブルと同じ幅の四列棚備えられていた。

 棚には豆がびっしり詰まった瓶が無数に並んでおり、それら一つ一つに名称が記載されたラベルが貼られている。

 通り側にもテーブル席が置かれていて、四角形のテーブル一つに付き四つの椅子ついて、計三席が窓側に並べられていた。

 出入り口の横には観葉樹が置かれ、香ばしい匂いが店に入った俺たちを出迎える。


「スンスン……なぁクロノス。ここ何の店だ?」

「ここは喫茶店だ。表の看板に書いてあっただろ?」


 獣人としての鼻で店の匂いを嗅ぐルーヴだが、嗅ぎなれていない匂いなのか何の店か訊ねられたので店先を指差す。

 入り口前の看板にはこう書かれていた──『喫茶店モルトローレ』。

 この街と同じ名前の喫茶店。

 どうやらルーヴは喫茶店というものを初めて見るらしい。

 かくゆう俺も、異世界(ここ)で喫茶店の実物を見るのは初めてだ(・・・・)

 なにせこの世界には喫茶店なんてものはどこにもない、王都ライゼヌスにすらない。

 なので初めて見るのも当然ではあるけど、ライゼヌスにないだけで、他の国では既にあるものなのかもしれないけれど。

 なんせ異世界人結構いっぱいいるっぽいし、この異世界。

 しかし……俺たちが店に入っても店内には誰もいない。

 声をかけてみたが人が出てくる気配もない。

 店が開いているのだから留守ということはないだろう。

 店の裏で作業でもしてんのかな?


「おいクロノス、こりゃなんだ?」


 カウンター裏の店の奥へ続く扉を叩いて呼ぼうかと思っていると、物珍しそうに店内を見て回るルーヴがカウンター席にちょこんと置かれている物を指差し質問してくる。

 それはどこでも見かける普通の卓上ベルだ。


「ん、あぁそれは呼び鈴だ。卓上タイプは初めて見るのか? 上の突起部分を押すと、音が鳴


 チーン、と俺が説明を終えるよりも早く、ルーヴが卓上ベルを押し店内に音が鳴り響く!


「おいィィィィ!! 人が説明し終わる前に押すんじゃねェェェェ!! もうちょっと耐えろ!!」

「………………」

「ル、ルーヴ?」


 一度ベルを鳴らしてから無言で卓上ベルを見つめ、そのまま動かなくなった。

 しかし彼女の獣人としての大きな耳がピクピクと動き、尻尾がブンブン揺れているのが見てわかる。

 そして──チンチンチンチンチンチンチンチーン!!と突然卓上ベルを高速連打し始めやがった!!


「ちょっとルーヴさん!? 何してんのォォォォ!?」

「アッハッハッハ!! これ面白れーなぁー!!」

「やめて!! わかるけど!! やりたくなるのも楽しくなるのもわかるけど!! お願いだからやめて!!」


 卓上ベルを永遠連打し続けるルーヴの右腕を掴んで止めようとするが駄目だ!!

 獣人のルーヴの方が筋力が強くて人族の俺じゃ止められない!!

 腕を掴んだ俺の方が振り回されてる!!

 ルーヴの連打による呼び鈴が店内に鳴り響き続けるが、それが良かったのか、カウンター裏の扉からバタバタと足音が聞こえ一人の男が姿を現した。


「はいはいはい! いますよいますよー! どちら様ですか?」


 こんなに卓上ベルを高速連打して騒音を出しているのにも関わらず、店主と思われる四十代の男性は朗らかな笑顔を浮かべながら迎えてくれる。

 白いシャツの上に黒いカフェエプロンを身につけ、少しだけ髭を蓄えた男性は人当たりの良さそうな印象だ。

 卓上ベルを連打するのを阻止しようと掴んでいたルーヴの手を離し挨拶する。


「あ、初めまして! サンクチュアリ学園のクロノス・バルメルドです! 『奉仕活動』の件で伺いに来ました」

「あぁ! 君がそうか! パジーノ先生から話は聞いているよ。テーブル席にどうぞ。お友達も一緒に」


 テーブル席に案内され二人並んで座った。

 ルーヴはまだ興奮冷めやらぬ感じで卓上ベルで遊び続けている。

 それを注意することもなく、男性は風船のように膨らんだフラスコみたいなガラスが上下に二つついた機材を取りだし、アルコールランプに火をつけると、水の入った下側を温め始めた。


「僕がこの店の店長、マスターって呼んでほしいかな。僕も君たちと同じサンクチュアリ学園の卒業生でね。パジーノ先生にもお世話になっていたんだよ」


 ちょび髭の男性──マスターは柔らかな笑顔で自分が元クラス0の生徒だったことを打ち明けてくれる。

 ってことは、俺たちの先輩ということか。


「そのパジーノ先生から、教え子が『奉仕活動』先を探しているからみてやってほしいとお願いされて、君に来てもらったんだ」

「はい」

「じゃあ、面接を始めようか」

「よろしくお願いします」


 頭を下げ、俺がこの喫茶店で『奉仕活動』をするに相応しいかの品定めが始まる。

 横のルーヴは関心がないのかまだ卓上ベルを鳴らして遊んでいた。

 気にせず行こう、なんとしても雇ってもらわなければ金が手に入らない。


「では、まず最初の質問です」

 

 柔らかった面持ちから真剣な表情に変わるマスターを前にして固唾を飲む。

 どんな質問をしてくるのかと次の言葉を待ち、


「君が『奉仕活動』したい理由を本音でぶっちゃけてください」

「……?」


 え、今なんて言ったこの人?

 『奉仕活動』したい理由を本音でぶっちゃけろ?

 なにそれ、意味わかんない。

 いやでも、マスターの表情は真剣そのものだ。

 おふざけや俺の緊張を解そうとか、そんな気遣いでは一切ない。

 聞こうとしているのだ、俺の本音の理由を。

 でも本当にぶっちゃけでいいのかな?

 本人が良いって言うなら、じゃあ……


「ぶっちゃけて言うと……お金が、お金が欲しいからです……!」

「うん! 素直でよろしい! じゃあ採用ってことで、明日からよろしくね」


 軽ッ!?

 え、そんなんでいいの面接内容!?


「おいおいあっさり決まったな。良かったじゃねぇかクロノス」

「いや、良かったのは本当に良かっただけど……マスター、いいんですかこんな適当で!?」

「いいんだよ。パジーノ先生から紹介ってだけでも、半分決まったようなものだから」

「じゃあ、なんでさっきの質問したんだ?」


 ルーヴの質問には俺も同じことを思いマスターを見る。

 マスターはまた柔らかな笑顔を浮かべ、


「人となりを知る為なら本音を聞いた方が早い。もしこれで、僕に気に入られる為におためごかしをしたり、本音を隠した、聞こえの良い言葉を使ったのなら叩き出すつもりだったよ」

「つまりマスターは、今のクロノスの答えでその人となりを知り、雇うに相応しいって思ったわけだね!」

「うおっ!? びっくりした! いつからそこにいたんだよアズル」

「面接始まったあたりから」


 知らぬ間に窓際のテーブル席に腰掛け、腕組みして納得していたアズルに驚く。

 ついさっきじゃねぇか、全然気配に気づかなかったぞ。


「君もクロノス君の友達かい?」

「そうでーす! いや、むしろ親友を超えた存在的な? 枝毛の先ぐらいの仲です」

「例えがよくわかんねーってそれじゃ」

「どうだい、君たちもクロノス君と一緒に働いてみないかい?」

「パース。アタシは食いもん作るより食べる方が好きだ」

「僕でーす! 愛想笑いしながら人に頭下げるのとか無理ー!」


 なんともわかりやすい理由だし、二人とも如何にもって感じの返答。

 マスターは二人の返事に若干寂しそうだ。


「そうかい、賑やかになると思ったんだけどなぁ。やっぱり皆お金持ちだと、奉仕活動しようって気にはならないよね。私も在学中はそうだったし」

「仕送りあるから、やる気が出ないのかもしれませんね」


 俺だって、魔法本買うって決めなかったら『奉仕活動』を始めようだなんて思わなかった。

 クラス0にいると、あまりにも自由過ぎて自堕落になりかけるんだよなぁ。

 常に気を引き締めておかないと、俺も何もしたくないとか言い出すかもしれないし、十分気をつけよう。


「さて、じゃあクロノス君には明日から手伝いに入ってもらうことだし、寸法を測っておこうか。明日までにはエプロンを用意しとくから。それと申請書にも私のサインを書かないとね。持ってきてるかい?」

「あ、はい! パジーノ先生から預かってます」


 ポケットの中に折り畳んで持ってきた奉仕活動申請書を広げてマスターに渡す。

 それに署名を貰い、エプロンを新調する為の寸法を測ると明日の放課後に店に顔を出すように言われ、その日は帰宅することになる。


 ──日は変わって次の日、朝のホームルームが終わった頃。

 俺が『奉仕活動』で喫茶店モルトローレで働くという噂は、既にクラス全員が知ることになっていた。

 広めたのアズルだけど。


「兄貴、マジで『奉仕活動』やるのか!?」

「ああ、今日からね」

「そんなことしなくても、おれたちがかき集めて来ますって!!」

「せんでいい! いいか、絶対にだぞ!?」


 言っておかないと本当にかき集めて来そうなので先に釘を刺しておく。

 

「それで、どんな店でやるんすか?」

「アズルから聞いてるだろ。喫茶店だよ」

「そのキッサテン? ってのがよくわかんないんすけど、どんな店? おい、お前ら知ってるか?」


 バーバリは周りの生徒に喫茶店について訊ねるが皆一様に首を傾げる。

 やっぱりこの辺だと喫茶店は珍しいみたいだ。

 そんな彼らにニヤニヤと笑みを浮かべるアズル。

 もう何するのかわかる。

 あいつは喫茶店がどんなものかと知っているのだ。

 それを自慢げに話知識マウント取るつもりだろう。


「みんなそんなことも知らないのか〜い? しょうがないなぁ〜、僕が教えてあげるよ〜!」

「なんかその言い方腹立つな」


 人を小馬鹿にしたかのような態度にバーバリが呟き周囲も頷く。

 ドヤ顔で「喫茶店って言うのはね〜」とアズルの解説が始まり──バタン!と大きな音を立てながら教室の引き戸が開け放たれた!

 力任せに開けられた扉の衝撃音に誰もが驚き、アズルは飛び上がって俺の背後に隠れる。

 もっとも、ルーヴだけはケロリとした表情で見てるけど。

 引き戸を勢いよく開けた人物はパジーノでも、このクラスの人間でもない。

 廊下からぞろぞろと足を踏み入れる複数人の見知らぬ制服姿の男たち。

 

「え、えぇ……せん、ぱ……!?」


 教室に入り込んできた制服の男たちを見てバーバリが言葉を詰まらせたじろぐ。

 その反応でこの人たちが何者なのかを理解する。

 彼らは教室を見回していると俺を見ると、バーバリたちを押しのけ一斉に歩み寄り、俺と後ろに隠れていたアズルは取り囲まれてしまった。

 その中の一人、鳥人族の男子生徒が口を開く。


「クロノス・バルメルドだな?」


 尖った嘴が開かれ、その問いに俺は無言で頷く。

 どうやら鳥人族の彼がこのグループのリーダー格のようだ。

 嘴に獲物を捕らえ決して放すことのない鋭い鉤爪の足、縦長のスリット状の瞳孔はハッキリと俺の顔を捉えており、腕は人族や獣人族と違い羽の生えた翼を持ち、青灰色の体毛に包まれている。

 人としての血が一切混じっていない鳥人族の純血種であるその人(・・・)は、嘴をクイッと上げ、


「ちょっと……面貸してもらおうか」


 自分たちについて来るように指示する。

 突然のことに身体が強張る俺の背後で、上級生に囲まれてアズルが震えるのだった。

皆さま、今年も一年、本作を拝読していただきありがとうございました!

四章も無事終わり、大きな仕事を一つを達成することができました!

今週分で年内最後の更新となりますが、来年は創作活動を今まで以上に本気で取り組んでみようと決めております。

では、今年はこれにて最後の挨拶とさせていただきます!

皆さま、よいお年を!!

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