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第二十三話 強さに憧れたから


「水よ!噴出せよ!」


 体内のマナを火属性と水属性の術式を織り交ぜて魔法に変換させ、右手から勢いよく温水が噴出する。

 目標はいつもの悪ガキ三人組。

 村の公園で遊んでいたら絡んできたのだ。

 だがいつも通り右手から火傷しない程度の温水を出して、相手を一方的に攻撃して打ちのめした。


「やったぁ!さっすがクロ!」


 後ろで見ていたレイリスから賛辞の声が聞こえる。

 フロウもその隣で笑っていた。

 温水を被った悪ガキたちは温水の熱さに驚き足踏みしている。


「あっつ!熱いよ!」

「チクショー!」

「またママに怒られるぅ!」

「お前らも懲りないなぁ。そんなに俺の温水を浴びたいのか?」

「浴びたくて浴びてんじゃねーよバーカ!」

「お、いい度胸だな?じゃあ次はもっと勢いの強い温水で行くか?あったまるぜ?」


 手の平に大きな温水の塊を作ってみせると悪ガキ三人組は「ヒィ!」と小さな悲鳴を上げ後ずさる。

 悪ガキどものおかげで、人に魔法をぶつける時にどのくらいの出力で撃てば怪我をしないかがわかったので、彼らはいい練習台になってくれている。

 できればもっと色んな魔法の練習台にしたいのだが、喧嘩する時は水属性以外は使ってはいけないとユリーネにキツく言われているので残念ながら火属性とか雷属性の練習はできない。

 悪ガキどもは笑顔で迫る俺に怯えて、その場から走り逃げた。


「くっそぉ!覚えてろよぉ!」

「おととい来やがれ」


 全速力で逃げる相手を後ろから攻撃する気はない。

 俺は大人だから心が広いのだ。

 例え友達を虐めに来た相手だとしても、子供相手にそんな大人げないことはしない。

 前世の実年齢覚えてないけども。

 悪ガキどもは公園を出るとこちらに向き直り、


「お前、領主の家の子なのに騎士様に守ってもらって恥ずかしくないのかよぉ〜!」

「自分じゃ勝てないからって隠れてんじゃねーぞ!」

「悔しかったら度胸見せてみろ!この腰抜け女〜!」


「水よ!大蛇となれ!!」


 マナを水属性に変換させ大蛇の姿を模した水弾を作る。

 大蛇の水弾を撃ち放つと、逃げる悪ガキどもを一直線に追いかける。

 やがて悪ガキどもの悲鳴と共に、遠くで水飛沫が空高く弾けるのが見えた。


「全く、あいつら本当に懲りねぇなぁ!」

「大丈夫、フロウ?」

「……うん、大丈夫だよ」


 悪口を言われ傷ついたのか、フロウの返事にどこか元気がない。

 あいつらにもう一、二発水弾撃ち込んでおこうか。


「ごめんね二人とも。ワタシのせいで二人にも嫌な思いさせて……」

「いちいち謝んな。お前は悪くねぇよ」

「そうだよ!悪いのはフロウじゃなくてあの子たちだよ!いっつもいっつもフロウに意地悪してさ!」

「それにまた来ても撃退してやるさ」

「うん!ボクも一緒に戦うよ!ボクとクロで怒って、キチンとフロウにごめんなさいって謝ってもらう!」

「そして脊髄を引き抜く」

「せきずい?なぁにそれ?」

「俺たち生き物にとって大事な物」

「ふぅん?じゃあ、次来たらボクもせきずいを引き抜く!」

「いや、レイリスがやったら怖いからやめてね?」

「えぇ!?クロがやるって言ったんじゃん!!」


 俺が脊髄引き抜くって言うのならまだ冗談に聞こえるからいいけど、レイリスが脊髄引き抜くって言い出したらマジでやりそうだから怖いわ。

 余計なこと教えちまった。

 俺たちが目の前で恐ろしい会話をしていると、意味の分かってないフロウが突然吹き出す。

 どうやら俺たちの会話が面白かったらしく、俺とレイリスもそれを見て吹き出した。


「ありがとうクロくん、レイリスちゃん」

「気にしないで、友達だもん!」

「ま、そういうことだ。またイジメられそうになったら呼べよ。すぐ助けに来てやるからな」


 フロウは俺の言葉に頷く。

 今日はそこで解散の流れとなり、俺はレイリスをニールの元まで連れて行き、フロウと一緒にニールとレイリスを見送った。


「クロくんは強いよね」

「なんだよいきなり」


 ニケロース家にフロウを送り届ける為に、俺はフロウと二人で落ち葉に染まった道を歩いていく。

 するとフロウが突然変なことを言い出した。


「初めて助けてくれた時もそうだけど、いつもカーネくんたちに立ち向かっていくから、カッコいいなぁっていつも思ってるんだ」

「よせよ、照れる」

「ワタシもクロくんみたいに強くなりたいよ」

「そりゃどうも。でも、俺なんてお義父さんに比べたらまだまだだよ」

「クロくんは騎士を目指してるんだよね?」

「そうだよ。家が騎士の名家だから、俺を跡取りとして引き取ってくれたんだ」

「凄いなぁ、もう将来の夢があるなんて」

「むしろ、騎士以外に選択肢がないとも言えるんだけどな」


 バルメルド家に養子として入った以上、俺には騎士と言う選択肢しか残されていない。

 でもそれに対して不満はない。

 ジェイクもユリーネも、俺を本当の子供のように接してくれている。

 その恩に応える為にも、俺は騎士になりたいと思えるのだ。


「もう秋も終わりだな」

「うん。ワタシ、早く夏になって欲しいなって思ってるんだ」

「気が早いな。まだ半年も先だぜ?」

「ほら、レイリスちゃんが前に教えてくれた水合戦?ってやつ、あれがやりたいの」

「あぁ、水合戦か。確かに三人でやったら面白いだろうな。でもなフロウ?冬には雪が降る。その雪を使って、雪合戦って遊びもできるんだぜ?」

「雪合戦?それも面白そう!」

「だろ?」


 フロウと会話を弾ませながら落ち葉の道を歩く。

 この時期になると、もう木々は丸裸となり葉は一枚も残っていない。

 落ち葉から顔を出す虫たちを話題にしながら、明日は何をしようか?なんてはなしをしている内に、フロウの屋敷が遠くに見えてきた。


「今日はここまででいいよ」

「そうか?屋敷まで送るぜ?」

「大丈夫。もう目に見えるし、一本道だもん。それにクロくん、風邪引いちゃう」

「わかった。じゃあ、今日は帰って暖かくして寝るよ」

「うん。ありがとねクロくん。バイバイ」


 手を振るフロウを見送り、俺も帰路へと着く。

 やっぱりフロウは元気が無かった。

 原因はどう考えてもあの悪ガキどものせいだろう。

 こりゃ一度、あいつらにお灸を据えてやらねばならんな。

 そうと決まれば、家に帰ってユリーネに安全かつ強力な脅しになる魔法を教えてもらおう!

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