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第二百四十五話 休日にバカ三人③

年末近いんでソシャゲのイベント多すぎィ!執筆できない!!


 モルトローレの出入り口、正門前で開かれている露店に行く為、俺とルーヴ、ドレスコードに身を包んでオールバックにしたアズルの三人でサンクチュアリ学園の敷地から出る。

 外出許可を貰う為に職員室にいるパジィーノを訪ねたのだが、教師陣は住み込みで働いている者もいるそうで、仕事が無くても休日は職員室にいるらしい──休日なのに外出する生徒の為に詰めているとは頭が下がる思いだ。

 外出の理由を「肉を喰いに行く」と単純明快過ぎる答えでルーヴが申請しても「気をつけて行ってきなさい」と快く許可してくれた。

 なお、アズルの服装についてはスルーされる。

 その後許可証を学園の出入り口の門番に見せて堂々と外出することができた。

 なお、ここでもアズルの服装についてはスルーされる。

 結果、ドレスコードに身を包んだアズルと俺たちは一緒に街を歩くこととなるのだが……好奇の視線が凄い。

 まだ学園を出たばかりなのに周囲の目がアズルへ一身に集まっている。

 人通りが少ないから余計にアズルの姿が目立つんだ……一緒に歩きたくない……


「フンフフンフフーン。いやぁ、なんか色んな人に見られちゃうなぁ。やっぱりこの格好にして正解だったかな?」

「いや間違いなく失敗だよ」


 学園出てからずっと好奇の視線を浴び続けいるのにアズルは全く動じていない。

 むしろのその視線は自分が良い意味で注目を浴びているのだと信じている。

 そのポジティブさには尊敬の念すら覚えるよ。

 しかし当然そんな身なりのアズルに声をかけようとする者はおらず、正門に向かう程人の視線の数が増えてしまう。

 やっぱり燕尾服で街を歩くというのは悪い意味で目立ち過ぎる。

 人混みに入れば気にする人は今より少なくなるだろうが、なにせアズルは無防備で堂々と上機嫌に腕を振って歩いているもんだ。

 人の波に近づくと好奇の視線以外にも心配なことが脳裏に浮かぶときた。


「なぁアズル」

「んー? なにー?」

「気分良く歩いているところ悪いんだが、そろそろ前見てしっかり歩いた方がいいと思うぞ」

「えー? なんでさー?」

「いや、ほら……そんな調子だとお前──」


 親切心から注意を促そうと思い話かけるとアズルは帽子を被った通行人とぶつかる。

 相手は軽く謝ると下を向いて顔を見せないようにしながらそそくさと反対方向に小走りで去って行く。

 アズルはそんな通行人に悪態をつき、


「ったく、どこ見て歩いてんだよ……。で、クロノス。何の話だったっけ?」

「ん? ああ、そうそう。そんな調子だとお前、いつか財布スられるぞ……てか、今スられたぞ」

「え、嘘……え、嘘ォ!?」

 

 指摘され慌てて服のポケットをまさぐり財布が盗まれたことにアズルは気づいた。

 財布を盗った相手はもう離れた位置まで走り去っており追いかけても捕まえられないだろう。

 その事実に気付いてしまったアズルは走ることもせず悲鳴を上げる。


「うおおおおおお!! 泥棒ォォォォ!!

「おぉ、今のが都会で流行りのスリってやつか。初めて見たぜアタシ」

「俺も実際に見るのは初めてだ。ああいう感じでさり気なく盗るんだな。いやぁ、良いもん見たな。得した気分だ」

「むしろ損ンンンン!! お前ら僕の後ろ歩いてたんだから変だなぁおかしいなぁって思いはしただろ!? なんでスリを捕まえてくれなかったんだよ!!」

「ワリィ、肉のことしか考えてなかった」

「ワリィ、スられた時のことしか考えてなかった」

「それがまさに今アアアア!!」


 まぁ確かにアズルの言う通り、スリに遭うとは薄々思っていたが忠告が遅れたのは悪かったとは思っている。

 自業自得みたいなところはあるが、実際に目の前にすると取り押さえようって行動に移せなかった俺も悪いか。

 仕方ない、ここは秘密兵器を使おう。


「ルーヴ、アズルの財布を取り戻してきてやってくれ」

「あぁ? なんでアタシがコイツの盗られた財布取り戻しに行かなきゃなんだよ。マヌケだから盗られたんだ」

「誰がマヌケだ! 誰が!」

「そうだな。そこは否定しない」

「いやしろよ!!」

「しかしなルーヴ、よく考えてみろ。これから俺たちはお前に肉を奢りに行くんだ。だがどうだ? アズルの財布は盗まれた一文無しだ。ということは……」

「ということは?」

「アズルはお前に肉を奢れない」

「よォし任せろォ! その代わりもう一品奢れよアズルゥ!!」


 上手くルーヴをノせることに成功した。

 返事を聞くよりも早くルーヴは足を半獣化させると人混みの中を縫うようにしてスリを追いかけていく。

 その背中が見えなくなってしばらくすると、「オラァ!」とルーヴの気合の入った発声と共に打撃音が響き渡り、アズルの財布を盗った気を失った帽子の男を片手で引き摺りながら戻ってきた。


「おーい、捕まえたぞ! 約束通り一品追加だからなぁ!」

「僕がいいよって言う前に捕まえちゃったんですけどあの人……」

「諦めろ。スられた時点でああするしか取り戻す手段無いんだから。露店行く前に、まずは詰所に立ち寄らなきゃな」


 騒ぎを聞きつけ警邏中の兵士が駆け寄ってくるのを確認しながらアズルの肩を叩くのだった。




✴︎




「だああああ!! やっとついた!! 疲れたもおおおおん!!」


 モルトローレ正門前広場に到着すると同時にアズルが疲れからか大声を上げる。

 ただでさえ目立つ格好なのにそんな大声を上げるものだから更に注目を集めてしまう。

 もう慣れたけど。


「はああぁぁ〜……そんなに距離無いのにめっちゃ歩き回った気がする」

「そりゃあんだけスリに遭えばな……」


 最初に財布を盗った男を詰所に突き出し事情聴取を受け、無事にアズルの手元に財布が戻された……そこまでは良かった。

 さぁこれで心置きなく露店に行けると歩き出した矢先、またもアズルは財布をスられて追いかける羽目になる。

 しかも犯人は徒党を組んだ子供たちで街中で追いかけっこをさせられ、捕まえてそれを詰所に突き出し、今度こそと向かったならば次は歳上のギルニウス教の信徒だと名乗る女性に騙され財布を奪われたのだ。

 それを取り返す為にまた走り回され、朝早くに学園を出たのに正門に着いた頃には既に午後三時を回っている。

 とんだ遠回りをさせられ続け、三人とも疲れた上に腹が減って元気がない。

 本来なら昼前には着いてたはずなのに……

 あんだけ動き回れば無理もなく、あまりにも財布を狙われるものだから、最終的にアズルの財布は俺が預かることとなった。

 が、それでもなお財布を持ってると思われ幾度もなくアズルは人にぶつかられたり絡まれたりしたのだが……


「おいアズル、お前今度からお洒落して出かけるな。もっと普通の格好して外出ろよ……じゃなきゃ俺、お前と一緒に出かけないからな」

「アタシもだ……オマエと二人ではぜってぇ外出ねぇ……」

「うん……ごめんよ、二人とも。まさかこんなに悪目立ちするとは思わなかったんだ……すまねぇ、すまねぇ」


 ベンチに腰掛け三人同時に溜息を吐く。

 なんで休日にこんな疲れる思いをしなければいけないんだろう。

 いや、気分を切り替えよう。

 目的地には着いたし、俺がアズルの財布を預かってからはスられることはなくなったんだ。

 後はもう肉を喰って帰るだけだ!


「よし! いつまでもここでダラっとしないで、肉を食べに行こう肉を!! 肉を食えば幸せな気分になれるし、肉食って全部忘れよう!!」

「そうだな……あぁー腹減ったぁ。おいアズル。散々財布取り戻すのに付き合ってやったんだからちゃんとその分奢れよ」

「クロノスに財布預けてるからもう好きにしてー……」


 ベンチに全体重を預け空を仰ぎながら手をひらひらと振るアズル。

 言質取ったぞ!とルーヴは元気を取り戻し、意気揚々と立ち上がると大通りにズラリと並ぶ露店を指差す。


「なら早く食いに行こうぜ!! そろそろはらぺこで腹と背中がくっついちまう」

「僕も腹とメンタルがベコベコだ」

「もう昼食もここで食っちまおうぜ。店に並んでまで入る気になれん」

「さんせー」

「じゃあ向こうから回ろうぜ! さっきから美味そうな匂いがすんだよ!」

「「任せまーす」」


 元々はルーヴに肉を奢る為に来ているのでどこに行くかは鼻の効く獣人族の感性にお任せする。

 学園出る時は全く奢る気なんてなかったのに、ここに来るまでに疲れてしまってもはやそんなことどうでもよくなっている俺。

 それどころか俺も肉を食べたくて仕方ない。

 手持ちはあまりないのだが、今日はもうそんなこと考えずただ肉を食おう!

 食って幸せを感じよう!!


「それで? どこの店から行くんだ?」

「まぁ待て、肉を食う時はまず味の薄いのから行くべきだ。いきなり濃いのを食っちまうと後から食べたモンの味がわかんなくなっちまう。臭いが強いモンも最後だ。他の臭いを嗅ぎ分けられなくなっちまうからな」

「急に饒舌」

「肉への食べ方のこだわるところ見ると、獣って感じするよねー」


 臭いを嗅ぎながらどの店の肉から食べるか吟味し出すルーヴを余所にどんな露店があるか見回してみる。

 魚や野菜を売っていたり、織物や本、魔道具を売っている店と様々だ。

 既に三時を過ぎているのもあるのだろうが人通りはそこまで多くなく、余所見をしながら歩いても人とぶつかる心配もない。

 おっと、それでも財布を盗られるのだけは気をつけないとな。

 その露店の中に肉をその場で焼いて販売している店の看板が目に止まる。

 『べシャス肉』と書かれていた。

 足を止めて店頭で肉を調理している店主に注目しているとアズルが肩に腕を回して絡んできた。


「なに見てんのクロノス? あぁ、べシャス肉か。あれ美味いんだよねぇ」

「食った事あるのか?」

「じい様の誕生日の時に必ず出てたんだよ。好物だって。べシャスは動物の名前でさ、部位によって味が違うから、いつもお値段の高い最高部位が出されてたんだ」

「へぇー、どんな味なんだ?」

「家で出てたのは牛肉に近い感じ? 繊維が柔らかくて噛むと口の中に溶けていくのが堪らないんだよねぇ。思わずベリーデリシャス!って叫んじゃったよ僕」


 どうしよう、アズルの話を聞いてたらすごく食べたくなってきた。

 露店で出ているぐらいだし、値段からして販売されているのはそんなに良い部位ではないのだろうけども……小遣いそんなに無いけども……!

 腹が減ってるんだ、次いつ露店まで足を運ぶかわからないしここは買い食いして!


「最初に口にした時、美味いからって僕食べ過ぎちゃってさぁ! 後ですごい下痢になっちゃったんだよね! あん時はマジヤバかった!!」

「……クソ素敵な思い出話をありがとう」


 食欲失せたわ。

 アズルによって食欲をコントロールされ、店に向かいかけていた足が完全に動きを止める。

 すると、目ぼしい店を見つけたらしいルーヴが尻尾を振りながら駆け寄ってきた。


「おーいオマエら! いい店があったんだ、早く来いよ!!」


 へーい、と返事ながらアズルと二人でルーヴの元へと歩き出す。

 既に疲れているが、露店巡りはまだ始まったばかりだ。

次回投稿は日曜日22時からです!

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