第二百四十四話 休日にバカ三人②
スマホでいつも執筆しているのですが、アプデでスペースが半角から全角になったので、この話から反映されてます
正門前で行われている露店に行く為、俺、アズル、ルーヴの三人で外出することとなる。
さすがに日が昇ってすぐに出かけるのはどうかと思い(単にアズルが駄々を捏ねただけなんだけど)、食堂で朝食を食べてから、馬車を使わず歩いて向かうこととなった(なお、これは金の無い俺の都合)。
サンクチュアリ学園はモルトローレの最奥に建造されているので、街の出入り口となる門からは距離がある。
歩いたら一時間近くかかるらしいが、食後の運動には丁度いいだろうし、朝飯食ってすぐに肉なんか食えるか。
胃が受け付けん。
そんな訳で、朝食を済ませ身支度を整えてから談話室に集合となる。
ルーヴが壊した自室のドアの修理は学園所属の使用人に頼み、一階の談話室まで降りると先にルーヴがテーブル席に座って待っていた。
「おぉクロノス、やっと来たか」
「え、ルーヴ早くないか? これでも結構急いで支度して来たんだけど」
「ああ、ずっとここで待ってたからな」
「ずっと!? 朝食食べ終えて、支度しようって別れてからずっとか!?」
「着替えは済んでたし、肉を食いに行けると思うとワクワクしてな!」
「小学生かお前は」
「??? 何言ってんだ。中学生だぞアタシは?」
皮肉が通じない……何言ってんだコイツみたいな目で見られた。
ルーヴと話す時は遠回しな表現じゃ伝わないみたいだ。
「つーかよォ、アズルのヤツは? 一緒じゃねえのか?」
「さぁ? 支度に手間取ってるんじゃないか? あいつ、学園行く時も遅刻ギリギリまでのんびりするタイプだし」
アズルは何をするにも行動が遅い時がある。
のんびりしすぎるというか……誰かに尻を叩かれてからじゃないと慌てない性分なのだろう。
あまり遅かったら呼びに行くしかないな。
「あれ? クロ君?」
「ベル? おはよう」
「はい。おはようございます」
女子棟に続く階段から姿を現したティンカーベルに挨拶する。
ベルも挨拶を返してくれると、俺とルーヴを交互に見て、
「えーと、こちらの方は?」
「ああ、クラスメイトのルーヴ。アズルと三人で街に出ることになってて」
「そうなんですか。初めまして、私はティンカーベル・ゼヌスと申します。よろしくお願いします」
「おう、ルーヴ・ヴィヴァントだ。へぇ、アンタはアラウネなのか。アタシ初めて見たわ」
ベルがライゼヌスの王女だってことに気付いていないのか、あえてスルーなのか、どっちなんだろう……いきなりフランクに話始めたぞルーヴのやつ。
ベルも特に気にせず受け答えしてるから俺が指摘する必要はないんだろうけども。
その時、以前グレイズ国王と坂田、ギルニウスの四人で話した内容を思い出す。
将来大地の巫女として覚醒するベルを守る為、女子棟で暮らすベルの様子を見る為にも共通の友人を作ってたらどうだと……
ルーヴはあまり細かいこと気にしなさそうだし、女子棟にいる時の様子を俺が聞いても誤解を招きはするだろうが放っておいてくれそう。
え……でも、友人にするの?
ベルとルーヴを?
……マジで?
「あ? なんだよクロノス?人の顔ジロジロ見て」
「私とルーヴさんがどうかしましたか?」
「あ、ううん。気にしないでくれ、なんでもないんだ。うん、ちょっとした気の迷いみたいなもんだから。マジで」
俺の胸の内を知らず二人は首を傾げる。
この二人を親しい間柄にすれば解決するののでは?と一瞬考えてしまったが、それは絶対にない。
二人とも性格が真逆だし、ルーヴの方がベルに与える影響が大きそうで怖い。
ベルまで喧嘩っ早くなってしまったら、彼女の父親のグレイズ国王に首を絞められそうだもの……まだその階段には上りたくはない。
「えーと、ベルはどこかに出かけるのか?」
「いえ、休日なので花壇の花の手入れをしようと思ったんです。そう! 聞いてください!すごいんですよ! 今年から学園の庭師に、王城で庭師として働いていた方が選ばれたんです! その方は私が物心ついた頃から花の世話の仕方を教えてくれていた人なんですよ!! すごい偶然だと思いませんか!?」
「へ、ヘー……ソウナンダ……スゴイグウゼンダネー」
いやそれ絶対偶然じゃないよ。
嬉々として話してくれるベルに思わず棒読みで返してしまう。
おそらくギルニウスとグレイズ国王の計らいでそうなったんだろうけど……ベルは全く疑っていないようだ。
まぁ、本人が嬉しそうならそれで俺もいいけど。
「それで、これからその方と学園の花壇の手入れをするつもりです」
「へぇ、他に手伝いは? ほら、ベルのことを慕っていつも周りに集まってる人たちいたじゃん? 手伝ってくれないのか?」
「あ……えっと……皆さんには今日は、ご遠慮していただきました……」
努めて笑顔で、しかしどこか心苦しそうにベルはそう答える。
ベルの周りにはいつも他の生徒たちが控えている。
それはベルの取り巻きという訳ではないらしい。
入学した時から常にベルの側にいようと集まってくるそうだ。
「せっかくのお休みですから皆さん自分のことを優先してくださいと伝えてたので、今日は一人なんです」
「そっか。まぁ、四六時中引っ付かれてたらベルも疲れるし鬱陶しいよな」
相槌を打ち冗談半分のつもりで言ったのだが、ベルは苦笑いするだけだった。
「ところで、クロ君とルーヴさんはどこかにお出かけするんですか?」
「ああ、ルーヴの奴が肉を食べに行こうって露店まで」
「肉? ですか?」
「なんだ? ティンカーベルも行きたいのか?」
「いえ、私は……でも、休日にお二人で出かける程、お二人は仲良しなんですね」
「「いや、全然良くない」」
笑顔で理解できない発言をするベルに二人で首を振る。
俺たちの反応に「え゛……」と聞いたことない声を漏らしていた。
「だって……お二人で約束してたから出かけるのですよね?」
「いや、ルーヴからほぼ一方的に出かけることを強要された」
「あぁ!? 一方的じゃねーだろ!? 走る前にちゃんと約束したじゃねぇか。ランニング負けた奴が肉奢るって」
「俺は了承してないし、返事する前に走り出したろ、それを一方的って言うんだよ!! だからベル、俺とルーヴは決して仲良しな訳じゃないんだよ。決して!」
「は、はぁ……」
「それに二人じゃない。アズルの奴も一緒に行くんだ」
「そうなんですか。クロ君はすごいですね。休日に一緒に出けたいと思える方が、もういるんですから……」
俯き加減でどこか寂しげな表情で含みのある言い方をするベル。
その様子が気になり何かあったのかと聞こうとするが、次に顔を上げた時にはいつもの柔らかな笑顔を浮かべるベルに戻っていた。
「では、私はそろそろ行きますね。楽しんできてください」
「え、あ、あぁ……」
いつもと同じ様子で去っていくベルを追いかけるかどうか迷っている間に、彼女は寮から出て行ってしまう。
少し気になり、やはり追いかけるべきかと考え直した時、
「お待たせぇ!いやーごめんごめん、支度に手間取っちゃって」
「遅ぇぞアズ……ルッ!?」
男子棟の階段から降りてきたアズルにルーヴが文句を言いかけ、変な声を上げていた。
ベルを追いかけようとした俺はそちらに気を取られ、どうしたのかと階段へと目を向け、自分の眼に映ったその姿に「え゛っ」と同じく変な声を漏らす。
「いやさぁ、街に行くならちゃんとおめかししなくちゃと思って。どお、僕決まってる?」
そう言って自らの燕尾服とオールバックに整えた頭髪を自慢げに見せ、不安定なはずの段差で華麗にくるりとターンしてみせるアズル。
まさか正装で来るとは思わず、俺もルーヴもその姿に言葉を失い硬直してしまった。
「ん? もしかして、予想以上に決まってる僕の姿に驚いちゃったのかな?」
「ああ、キマってるよアズル。完全にキマっちゃってるよ……」
「スゲェな。アタシら、これからコイツと一緒に歩いて街に出るんだぜ?」
「同類だと思われたくねぇ」
燕尾服なんかで露店を歩き回った時、周囲の好奇の視線と一緒に歩くことでコイツの仲間と思われることを想像すると嫌気が差す。
「つか、なんでドレスコード? 肉喰いに行くだけだぞ俺ら?」
「社交パーティーにでも行くつもりかよオマエ」
「バカの集う社交パーティーだな」
「ハハッ、アタシぜってぇ行きたくねぇ」
「あんたらちょっと言い過ぎじゃないですかねぇ!?」
馬鹿話をしてすっかりベルのことを忘れてしまい、当然姿を見失ってしまう。
気にはなる……なるのだが、アラウネのベルにとって花の世話は楽しみの一つでもあるようだし、邪魔するようなことはせずにまた後にした方がいいかもしれないな。
「てかよォ、なんでオマエそんな格好してんだ? 肉喰いに行くだけだぞ?」
「ほら、街に行くんだろ? もしかしたら美人のお姉さんに声かけられるかもしんないじゃん? 自分で言うのもなんだけど、僕って慈愛の神ギルニウスと同じ顔だからさぁ。もしかしたら信徒のお姉さんに声かけられて、そのままお茶に誘われるとも限らない! そうなった時の為にも、身なりはちゃんとしておかないとネ!」
「むしろ警邏中の兵士に声かけられそう」
「やべぇ、コイツ思ってたよりもオカシイ奴だわ。面白れぇ」
「面白いの?」
なんだかよくわからないが、ルーヴはアズルのことを気に入ったらしい。
「おォし、じゃあ揃ったしそろそろ行こうぜ! 」
「へーい……」「オッケー!」
ようやく合流できたので街に向かうこととなる。
肉を食べるのを楽しみにするルーヴ、あまり行く気はない俺、何故か無駄に気合の入ったおめかしをしたアズル。
どうかお高いお肉を奢ることにはなりませんように、と強く願いながら学生寮から出発するのだった。
次回投稿は来週日曜日になります!
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