第二百四十三話 休日にバカ3人①
最近感想に「なんかアレ」と書かれましたが「アレ」について数日考えてもアレだったんで、今日もいつも通りアレしてます
クラス0に移動させられ、“格付け”が終わり、ルーヴとの一戦が終わって最初の休日。
俺は朝の訓練もせずに未だベッドから起き上がらずに惰眠を貪っていた。
いやだって、学園始まって環境も変わってと怒涛の数日間だったんだ……バーバリたちの相手をして、ルーヴに事あるごとに勝負挑まれ追いかけ回され、旧校舎では教師が来るのをビビって授業を教えに来ないから遅くまで勉強して──正直疲れてる。
まだ外だって日が昇り始めたぐらいの時間だし、ジェイクだってたまには訓練をせず適度な休息をしろって言ってたし、今日はこのまま食堂が閉まるギリギリの時間まで寝てようそうしよう。
そう固く心に誓い、二度寝を決め込もうとしたら、自室の部屋がノックされる音が聞こえてきた。
「クーローノースーくーん!!」
「んあ?なんだ?」
すごい大きな声で名前を呼ばれ頭を起こす。
アズルのやつが来たのか?
あいつ、学校ある日は起きるの遅いくせに休みの日だけは早起きするタイプ?
廊下で大きな声を出せば他の部屋の生徒たちから苦情が来るだろう。
でもアズルだしなぁ……その為に貴重な休日の二度寝という至福の時間を邪魔されたくはない。
どうせ大した用でもないだろうし、居留守を使おう。
てなわけで再び頭を枕に預ける。
廊下からは未だに「おーい!クロノス〜?」と呼び声が聞こえるが無視だ無視。
反応がないと分かれば諦めて帰るだろう。
「あと10数えたら勝手に開けるぞー?」
勝手に開ける?
ドアには鍵がかかっているはずだから、鍵を持っていなければ入れないのに?
まぁ、いいや放っておこう。
「それじゃあ数えるぞ〜?いーち……ドラッシャァ!!」
一を数えるのが聞こえた直後、気合の入った声が続いたと思ったら何かが壊れる音が響くと共に部屋の中にドアが吹き飛んできた!!
バギィ!と木製のドアが割れる音と壁にぶつかる衝撃音に驚き、俺はベッドの上で飛び跳ねる!
「わぎゃああああ!?な、なんだ!?なんだ!?何が起きた!?」
寝ぼけていた頭も今の衝撃音で完全に目が冴え、状況把握の為に部屋を見回すと、廊下と自室を隔てているはずのドアが真っ二つに割れた状態で床に無残な姿を晒しているではないか!!
どんな開け方したら木製のドアが真っ二つになるんだよ!?
無情にも修復不可能なレベルにまで破壊されてしまったドアに悲しみを抱いていると、何事もないかのようにルーヴが部屋に入ってきた。
「おーすクロノス。オハヨさん」
「え?あ……うん?オハ、ヨウ?じゃなくて、お前なんで男子棟にいるんだ!?寮母さんの許可ないと入れないはずなのに!?」
「あ?普通に許可貰って入ってきたぞ?用がある奴がいるから起こしに行くって」
えぇ……なんでそれで許可しちゃうんだよ寮母さん……
いや、ルーヴのことだ。
口頭で伝えて許可貰う前に勝手に上がり込んできた可能性が高い。
「というかドア!お前だろ壊したの!?一体何したんだ!?」
「鍵かかってたから蹴飛ばして開けた」
「それは開けたとは言わないの!!破壊してって言うの!!!」
「待ってもオマエが開けないからだろ」
「“待っても”って!待っても開かなかったら人の部屋のドア蹴り壊してもいい理由にはならくない!?だいたい10数えたら開けるって言ってなかっけ!?1しか数えてなかったよね!?」
「いやよォ……1の次は2だろ?で、34と続いて最後は10になるじゃねぇか」
「うん」
「けど、10って1と0がくっついてできたもんだろ?なら……1って10じゃね?」
「全然違うだろ!?なんでそんな意味深な表情なの!?てか、どんだけ適当な理由で10分の1に!?最初に無視したの怒ってんの?キレてんの?それとも負けたことまだ根に持ってんの!?」
「わぁったわぁった。アタシが悪かったよ。そんな怒んなって。ドア直すのはアタシがするかよ」
「当たり前だ……」
「ところで、ジュウブンノイチってなんだ?」
ルーヴとの問答に深い溜息を吐く。
なんで休日の朝からこんなに疲れなければならないんだ……まだ一日が始まったばかりなのに。
もはや二度寝をする気にもなれない。
「で?こんな朝早くから何しに来たの?」
「あぁ忘れてた。前に駆けっこで負けたやつが肉奢るって約束したろ?」
「いや、お前が一方的に取り決めただけで俺は了承した覚えないけど?」
「アタシが勝ったからクロノスとアズルに奢ってもらおうと思ってよ!」
「はぁ!?ふざけんなよお前!?なんでお前が一方的に決めた勝負事で俺がお前に奢らないといけな
「じゃあ次はアズルのやつ起こしに行こうぜ!」
「聞けやアアアアァァァァ!!」
俺の言葉を無視してルーヴは首根っこを掴んで来ると引きずってでも俺を連れて行こうとする。
「ってちょっと待って!俺まだ寝間着だから!パジャマだから!せめて着替えさせて!」
「アズルの部屋の場所は聞いてあるから早く行こうぜ!」
「だから人の話をあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
首根っこを掴まれたまま廊下を引きずり回される羽目になってしまう。
流石にあれだけ騒いだので周辺の部屋から顔を覗かせる人もいるのだが、みんなルーヴに引きづられている俺を見た瞬間にドアを閉めてしまい誰も助けてはくれない。
クラス0の生徒さえも……薄情者どもめ。
結局パジャマ姿のまま廊下を引きずられてアズルの部屋の前までやってくる。
途中何人かに姿を見られたのがたまらなく恥ずかしい。
「面倒だし、もうドア蹴飛ばして開けようぜ」
「まだノックもしてないよ?待て待て。俺が開けさせるからちょっと落ち着け」
初手ドア破壊を試みようとするルーヴを制止し、代わりに俺がアズルの部屋の前に立つ。
でも、アズルは絶対寝てるだろうしルーヴが来ていると知れば出てこないだろう。
最終的にはルーヴに強制連行されることになるだろうが、それまで駄々を捏ね続けるアズルを見ることになるし近所迷惑だ。
手っ取り早く済ませる必要がある──が、それよりも俺だけルーヴに捕まって、アズルが捕まらないという可能性があるかもしれない。
それが一番気に喰わない展開だ。
絶対にあいつも道連れにしてやる。
そうとなれば、最初の一手で確実にアズルを部屋から引きずり出さなければならない。
となれば、俺が取る手段は簡単だ。
まずアズルの部屋のドアを何度も叩いてから、
「おい!アズル起きろ!」
「……………」
「一大事だぞ!お前に朝一番に会いたいって女の子が部屋の前に来てるんだ!!」
「え、マジで!!すぐに出、ぎゃば!!」
ヤロォ、やっぱり俺の部屋の騒ぎを聞いて起きてやがったな。
あんだけ騒げば一度は起きていると思っていたが、あいつ俺の呼びかけを一度無視しやがった。
しかし次の言葉には無視できず、ベッドから飛び起きようとして転げ落ちたようだ。
ドアから少し離れたると中からドタドタと足音が聞こえ、ドアを開けてアズルが勢いよく飛び出て来る。
「イヤッホォォォォウ!!女の子はどこに──」
「よぉアズル。出かけようぜ」
部屋から飛び出してきたアズルにルーヴが声をかけた瞬間、アズルの表情が固まり反対側の壁に顔面から激突した。
「ぼるぶッ!」と奇妙な悲鳴が聞こえ、そのままズルズルと壁からずり落ち、尻を高くしたまま顔だけ壁と地面に貼り付けてる。
「な、なんでルーヴがここにいんの……?」
「俺たちとお食事に行きたいんだとよ。やったじゃん。モテ期だぞ」
「なんにも嬉しくありませんけど!?」
ガバッと起き上がるとアズルはルーヴを指差し、
「なんでお前みたいな狂犬と一緒に飯食いに行かなきゃならないんだ!?犬の餌でも食ってろ!!」
「アズル、テメェ……!そんな狂犬だなんて褒めんなよォ!急におだてて気持ち悪ぃなァ!」
「いや、褒めたんじゃなくて貶したんですけど……?なんで照れてるの?」
狂犬という言葉に照れて頭を掻くルーヴ。
なるほど、獣人族にとって獣に例えられるのは褒め言葉になるのか。
覚えておこっと。
「諦めろアズル。たぶんなに言ってもルーヴは絶対引かないぞ。俺はもう諦めた」
「えぇ……なにその諦めの境地に達したみたいな顔」
乾いた笑みを浮かべながらアズルの肩を叩いてやる。
逃げてもすぐ追いつかれるだろうし、もはや今日はルーヴに振り回されるしかない。
「でもまだ日が昇ったばっかじゃん。こんな時間にレストランとかやってなくない?」
「あ?そんなとこに普段から肉食べに行ってんのかお前?オシャレだな」
「え、違うの?」
「だってよォ、ああいう店は出てくる料理少ないし肉も小せえじゃねえか」
「なら、どこに食べに行くんだ?まさか現地調達とか言わないよな?」
「んな訳ねぇだろ!二人とも、アタシらがどこに住んでるかわかってんのか?王都ライゼヌスから馬車で三時間のモルトローレだぜ?王都から近い分、交易品も入りやすい!」
ルーヴがなにを言いたいのかよく分からずアズルと顔を合わせる。
どうやらアズルもわかっていないらしく、俺たちはルーヴに首を傾げてみた。
「「つまり……?」」
「正門前では毎日交易品の露店販売がやってる!そこの出店に買い食いしに行くんだよ!!」
こうして俺とアズルはルーヴの提案により、モルトローレの正門前に展開されている露店に繰り出すこととなる。
サンクチュアリ学園に入学してから、初めて学園の外に出ることとなった。
このバカ3人の安定感すごく書きやすい……次回投稿は来週日曜日22時からです!
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