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第二百四十二話 条件クリア

いきなり寒くなってきましたね!

厚手のジャンパーを引っ張り出しました!風邪だけは引きたくない…


「えーと、ちょっとよろしい?」


俺とルーヴの戦いに決着がつき、ルーヴが床に手足を投げ出し、俺が一息ついていると観戦していたアズルが恐る恐る手を挙げた。


「クロノスが勝ったぽい?みたいな雰囲気だけどさ。なんでクロノスの勝ちなの?まだ全然ルーヴは戦えそうだけど?」

「あ゛ぁ゛ん゛!?テメェ、アタシをバカにしてんのか!?」

「え、なんで!?なんで僕が怒られてんの!?」

「いや、今のはおまえが悪いだろ」


俺とルーヴの決着のつき方に疑問を抱くアズルにルーヴは怒り、バーバリに窘められている。

嫌な負け方をしてイライラしながら胡座をかいているルーヴも、アズルの言葉で更に苛立ちを露わにし舌打ちを繰り返す。


「あのなアズル。俺がルーヴに蹴り入れるまでのやり取り覚えてるか?」

「え、うん。挑発したらルーヴが跳んで、クロノスが蹴りをいれた……それで負けを認めるのがよくわかんなかったんだけど」

「えーっとな?その前にも俺は、ルーヴを挑発するような行為をしてたんだ。魔法で氷よ壁作ってルーヴの接近を拒んで、進路妨害もしてたろ?それはルーヴにとって、かなりのストレスになるんだ」

「攻撃できないから?」

「違う。俺から攻撃する意思ががなかったからだ」


俺が氷の魔法で壁を作ったり氷柱で接近を拒んだりしていたのは、牽制する為でその攻撃の意志があったわけじゃない。

そこにルーヴは怒っていた。


「ルーヴからしてみりゃ、さっきまで楽しく殴り合いしていた相手が、突然魔法だけしか使わずに攻めて来なくなったわけだからな」

「待ち戦法に変えたってことか?」

「そんな感じ。で、俺はずっと氷の壁でルーヴがどれくらいの高さまでの壁なら跳ぶか観察してたんだ。腰より下なら跳び越す、肩ほどの高さなら避けるってのをずっとな」

「ん?なんでそんなことしたの?」

「最後にルーヴを罠に嵌める為だよ」


“罠”という単語にアズルは意味がわかっておらず首を傾げた。

それを察したのかルーヴはまた舌打ちをすると、胡座をかいたまま振り返る。


「アタシはずっと、この男に試されてたんだ。その上で“刷り込み”をされた」

「すりこむ?何を?ゴマ?」

「そうじゃなくて、ルーヴに『この高さまでなら、走りながらでも跳び越えられる』って思い込みを刷り込ませたんだ」


そう、何度も何度も氷の壁を出し、ルーヴが跳び越えてくれる高さを観察し、バレないように跳び越えられるのと跳び越えられない高さを織り交ぜることで、ルーヴへの刷り込みは成功した。


「そして最後の挑発だ。魔法ばっか使って攻撃の意思を見せない俺にルーヴはイラついて怒鳴った。それに対し俺は、自衛として使っていた氷柱を跳び越えて見せろと挑発をした。そして挑発に乗って接近しようとしたルーヴは、俺の出した氷柱を跳び越えて、俺のカウンター蹴りを喰らったって訳だ」

「ふーん、あったまっちゃったんだ?」

「アタシは踊らされたんだよ!ソイツに!!」

「え、え?ドユコト?」

「アタシにはあの時、氷柱を跳び越えずに『立ち止まる』ことも、『迂回』して避けることもできた……。だがなぁ!アタシは『跳ぶ』ことを選ばされた(・・・・・)んだよ!!クロノス・バルメルドになぁ!!」

「えーと……全く話が見えないんだけど?」


一方的に怒鳴るルーヴにアズルは理解できないと苦笑いしている。


「さっき説明したろ?ルーヴにどの高さまでなら跳び越えられるか刷り込みをしたって。最後の氷柱も、わざとルーヴが跳び越えられる高さで作ったんだ。で、思惑通りルーヴは『跳んで』くれた。俺の思い通りに動いてくれたんだよ」

「そん時コイツなんて言ったと思う!?跳んでくれてありがとう!!って言いやがった!!だああああ!思い出したらますます腹立つ!!」


俺に腰を蹴り返される直前のやり取りを思い出し、ルーヴが堪えようのない怒りを露わにしながら頭を掻き毟る。

既に手足は人の姿に戻っており、掻き乱されて髪の毛がボサボサになっていた。


「つまり……クロノスはマヌケを釣り上げる待ち戦法にして勝ったってことかぁ!」

「間違っちゃいないけど言い方」

「あ゛ぁ゛?テメェ、そりゃなんだ?アタシがそのマヌケだって言いてぇのか金髪ゴラァ!?」

「ぎゃああああすいません!ごめんなさい!!違うんです!今のは『言葉の綾』なんです!」

「『アヤ』って何だァ!?」


ルーヴに詰め寄られ、制服の襟首を掴まれて何度も激しく前後に揺らされながらアズルが助けを求めてくる。

でもまぁ、今のはアズルが悪いから放っておこう。


「おい!クロノス・バルメルド!!」

「ん、はい?」

「約束は約束だ。アタシが負けたんだ、ホームルームには出てやる。だがなぁ!アタシはまだオマエを認めたワケじゃない!クラス0のトップだとしても、オマエの命令は絶対に聞かないからな!そこだけは覚えておけ!!」

「あ、うん。まぁそれは別にいいよ。約束さえ守ってくれるなら」


ホームルームさえ出てくれれば、俺としてはルーヴが後は何してても構わない。

別に真面目に勉強しろとか言うつもりはないし。

クラスで威張り散らすつもりもないしな。


「あと、負けは認めるが勝負の内容も納得してないからな!今度やる時は魔法無しで戦え!拳のみでだ!!」

「えぇ!?嫌だよ!獣人のお前と素の状態で殴り合いしたら俺死んじゃうよ!?人族はお前ら獣人と違って打たれ弱いんだぞ!?」

「だったら死ななきゃいいだろ!!」

「無茶言うな!!人は死ぬ時は割とあっさり死ぬんだよ!!」


もう一度戦えとギャーギャー喚くルーヴに叫び返す。

人間ってのはなぁ、脆いんだよ!!と付け加えて。

それでも納得しないルーヴに今度は追いかけ回され、その鬼ごっこは午後のホームルームまで続くのだった。


✳︎


「と、いうわけで──約束通り全員を出席させることに成功しました!」

「うん。お疲れ様でした」


午後のホームルームが終わったと同時に、俺は担任のパジィーノと共に職員室に赴き、条件を満たしたことを報告する。

約束通りルーヴも当日からホームルームに出席してくれたので、堂々と報告することができた。

そんな俺にパジィーノは労いの言葉をかけてくれた。


「思ったより早かったのぉ。通算三日か?」

「ええ。バーバリが徒党を組んでいてくれたおかげで、まとめて説得(物理)できたのが大きかったです」

「そうかそうか。しかし三日か……ワシが旧校舎の担任となってからだと……第二位の早さじゃな」

「二位?」

「そうじゃ。にぃー」


柔らかい笑顔でピースサインで二位を表現するパジィーノ。

その口ぶりからすると、第一位の人は俺よりも早くクラス全員を纏め上げたのだろう。


「ちなみに第一位の人は何日だったんですか?」

「一日……いや、半日かの?」

「はやっ!即日じゃないですか!」

「もっとも、その生徒は君のように本校舎のクラスに入りたかった訳でなかったから、旧校舎残ったんじゃがな。今でもおるぞ」

「まだ在籍している先輩なんですか?何年生?」

「今も三年生じゃ」


へぇー、三年生に即日“格付け”一位になった人がねぇ。

できることなら会いたくねぇな。

かなりヤバそうな人だし。

……ん?なんだろう、今の会話に違和感を感じたんだが……はて?


「まぁ、とにかく、これで本校舎に戻れる条件はクリアしたってことですよね?」

「そうなるの。もっとも、戻れるのは進級時の職員会議の決議で承認されればじゃがな。それはまでは、学園の耳に入るような問題行動を起こさず、模範的に過ごせればいいじゃがな」

「大丈夫ですよ。ちゃんと大人しくしてますから」


余裕余裕!とおどけて見せ、パジーノと二人で笑い合う。

そこで話を切り上げ職員室を出ることに。

外は既に日が落ち始め、窓の外からは夕陽が射し込んでいた。

扉を開けて廊下に出ると、アズルとルーヴの姿が。


「よぉクロノス!お勤めご苦労さん」

「別に説教されてた訳じゃないよ。二人はどうしてここへ?」

「いやぁ、僕がクロノスのところへ行くって言ったらさ、『アタシも一緒に行く』ってこいつが言い出して」

「コイツじゃねぇルーヴだ」


なんだ、てっきり二人で来たから仲良くなったのかと思ったけど、単にアズルを案内人としてついて来ただけらしい。


「オイ、もう一回アタシと戦えクロノス。今度は武器も魔法も無しでだ!」

「えぇ……俺これから特訓で走り込みに行くんだけど……」

「よォし、ならその走り込みでアタシと勝負しろ!」

「別にいいけど、俺たぶん追いつけないよ?」


獣人のルーヴと駆けっこで勝負するなんて、人族の俺からしてみれば勝ち目なんてない。

足の筋肉は獣人の方が圧倒的に良いからな。

まぁでも、それでルーヴの気が晴れるなら負けると分かっていても付き合ってあげようじゃないか。


「っし、決まりだな!ならアズルもやれ!」

「えぇ!?なんで僕まで!?僕関係無くない!?」

「いいからやれよ、オマエも男だろ?男なら既に決まったことにグチグチ文句言うんじゃなぇよ」

「あの、やるなんて一言も言ってないし、一方的にやらされることになってるんですけど……」


その場に居合わせただけなのに強制参加にされたアズルを憐れみ肩を叩く。


「まぁ付き合ってやろうぜ。それでルーヴの気も治るだろうし。それにほら、この中だと異世界転生しているお前が精神年齢で言えば一番歳上だら?同級生と言えどルーヴは現地民。年相応なんだからさ、付き合ってやろうぜ?」

「……へっ、それもそうだね。ここは精神年齢が上の僕らが、年相応のルーヴに付き合ってやるとしますか!なんたって、僕らの方が精神年齢大人だから……ねッ!」


こいつチョロいな。

だけどアズルも参加してくるとあれば、ルーヴも勝った時に気分良くするだろうし、負けても俺らが失うもんもない。

すると、階下に降りる階段の前まで来てルーヴが「じゃあ!」と何かを思いつき、くるりとこちらへ振り返って、


「負けたドベ二人は一番速かったヤツに、町出た時に肉奢りな!!」

「「ちょっと待ってそれは聞いてないって!!」」

「それじゃあ位置について──」

「つかないつかない!奢るなんて一言も言ってないぞ!」「ルーヴテメェ!僕らが大人だからって調子に乗んのもいい加減にしろよ!?」

「よーいドン!!」

「「うぎゃああああああ!!」


勝手に肉を奢らせることを条件に付け足しルーヴは階段を飛び降りる!

それを目にした俺とアズルも慌てて階段を飛び降り、いの一番に昇降口を抜けて外へと駆け出すルーヴを追いかける!

しかもルーヴの方が脚力があるせいで全ッ然距離が縮まらない!!


「アッハハハハ!どうしたオマエらァ!?遅いぞォ!」

「ざっけんな!マジザッケンナルーヴゥゥゥゥ!!僕らの足でお前に追いつけるわけないでしょうがァァァァ!!」

「奢らねぇからな!?俺金ないんだから、負けても絶対奢らねぇからなァァァァ!!」


夕焼けに染まるサンクチュアリ学園の敷地に、俺とアズルの情け無い叫び声が響き渡る。

なお、結局一度も追いつくことなく、駆けっこには惨敗したのだった。

次回投稿は来週日曜日22時からです!

評価、レビュー、感想、誤字報告など作者のやる気にめっちゃ影響を与えてくれるので、宜しければお願いいたします!

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