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第二百三十六話 格付け

今回はアズル視点です


訓練場の鍵を閉めた後、鍵を返しに行くからとクロノスと別れ一度職員室へ寄る。

担任のバジーノの爺さんに鍵を返した後、僕は単身バーバリたちの根城に向った。

根城って言っても、旧校舎の近くにある使われてない倉庫を勝手に溜まり場にしているみたいなんだけど。

倉庫の外をウロついてたバーバリの下っ端二人を見つけ声をかける。


「あ、あのぉ……」

「あん?あっ、テメェはアズル・ライトリー!」

「こっちが呼ぶ前に来るとはいい度胸じゃねぇか!」

「あーいやいやちょっと待って!僕は戦いに来たわけじゃないんだよぉ。そもそも、君たちと敵対するつもりもないんだ」

「……なら何しに来た?」

「バーバリさんと話をしに来たんだ。おっと、勘違いしないでくれよ?僕は彼に失礼なことを言ったクロノス・バルメルドの仲間じゃない。むしろ君たちの仲間になりたいんだ。でも暴力的なのは好きじゃない。だから、話し合いで君たちと和解したいんだ」

「……まぁいいだろう。ついてきな」


おっし!

ちょっと警戒されたけど何とか会わせてもらえそうだ。

上手く取り入ってクロノスを売り飛ばせば、少なくともクラス内でカースト扱いないはずだ。

悪いな、クロノス。

僕はお前を踏み台にして安定した地位を得させてもらうぜ。

下っ端が根城としている一軒家程の大きさの倉庫の扉を開けてくれ一緒に入る。

倉庫には先程会ったクラスメイトが全員おり、奥で背を向け座ってる上半身裸のバーバリの姿が。

今ここには僕含めて二十八名のクラス0の生徒が、同じ倉庫に集まっている。

なのだが……なんか様子がおかしい。

僕が訪れたにも関わらず、誰も僕のことに驚きもしない。

みんな、こちらに背を向けているバーバリを心配そうに見つめており、当人からはなんかビリビリと何かを破く音が聞こえてくる。


「あの……あの人なにしてんの?」

「それが、さっきのクロノス・バルメルドに言われたのが相当応えたのか──持ってた穴空いてる制服を全部破いてる」


下っ端の言葉に「え゛?」となり、近づいて上からバーバリの手元を覗き込む。

胡座をかいて座る彼の周りには、サンクチュアリ学園の白い制服が破られた残骸が散らばっており、バーバリの手には今まさに千切られた制服の上着が握られていた。


「うわ、ほんとだ!全部制服破いてる……」


そんなにあの時クロノスに指摘されたのが恥ずかしかったのか!

だから制服破くって、面倒臭いなこのライオン顔!

ドン引きしているとバーバリが肩越しに振り返り僕と目が合う。

その目は去り際と同じ、獣が獲物を見つけた時にみせるのと同じ目だった。


「ぁんだテメェ……?」

「あ、いや!ど、どうもーアズル・ライトリーでーす!実は、バーバリさんに折り入ってお話が……」

「お前なんだ、その制服は?」

「へ?制服?」


挨拶しようとしたら制服のことを指摘されるが何のことか分からず、キョトンとした顔でバーバリに答える。

どこかおかしなところでもあるのかと自分の制服姿を見下ろし確認するけど、完璧に着こなしてておかしなところなんて……あーっ!

制服のズボンが破けて穴空いてる!

そうか!訓練場で剣が上から降ってきた時に制服が切れたんだ!


「テメェ、オレの前で破けた制服着てるとはいい度胸じゃねぇか」


バーバリがまるで親の仇でも見つけたみたいな声色と唸り声を上げながらゆらりと立ち上がる!

まずい、今のバーバリの前で破けた制服を着るのは完全に挑発行為だ!

謝って気を鎮めようかと思ったけど、なんかもうそういう雰囲気じゃない!

全身の毛が逆立ち、脳が逃げろと警告を鳴らしている!


「う、うわああああぁぁぁぁ!!」

「逃すかぁ!!」


悲鳴を上げながら踵を返し倉庫から逃げようとするが、弾け飛ぶように走り出したバーバリに捕まり床に押し倒される!

やばいやばいやばい!!

絵面もやばいけど僕もやばい!!

このままだと制服破かれて丸裸にされる!


「穴の空いた制服はビリビリに破いてるやるー!」

「ぎゃああああ!誰か助けてええええ!!」


バーバリの鋭い獣の爪が僕の制服を引き裂こうと穴に差し込まれる。

助けを乞うが下っ端たちは制服を引き裂くことに執着したバーバリを怖れ、誰も近づこうとしない。

そもそも、ここにいる下っ端たちが助けてくれるとは僕自身期待していなかった。

あぁ、きっと僕はここで制服をビリビリに破かれて食べられてしまうんだ……グッバイ、僕の純潔……許してくれよ、サム。

全てを諦め、これから起こることを受け入れようと身を投げ出す。

バーバリの爪が穴に完全に差し込まれ、その部分から勢いよく制服が破けて……


「どっせェェェェいッ!」


諦めてた瞬間、気合いのこもった叫びと共にバーバリの顔面に蹴りが叩き込まれる!

僕の上に覆い被さっていたバーバリが顔面に受けた蹴りにより、その身体が宙に浮かび上がり倉庫の奥まで吹き飛んだ!

バーバリを蹴り飛ばした人物は、僕の正面に立つと振り返り、


「よぉアズル。危機一髪だったな」

「ク、クロノス!?え、なんで?」

「教室に戻ろうとしたら、お前がこの倉庫に連れ込まれてるのが見えたんだ。しばらく様子を伺ってたら、お前の悲鳴が聞こえて飛び込んできたってとこだ」


つ、つまり……僕が下っ端たちと会った時から後ろをついて来てたってことなのか。

もしかして、僕が寝返ろうとしたのバレてるのかな!?

いやでも、助けてくれたってことはバレてないのか!?


「しかし災難だったな。一人になるところを狙われるなんて。運が良かったな」

「あ、あはは……ソウデスネ」


い、痛い!心が痛い!!

これクロノスは、僕がバーバリ側につこうとしていたの気づいてないよ!

完全に良心で僕を助けてくれたんだ……余計心が痛い。

目を逸らしながらクロノスに答え、蹴り飛ばされたバーバリは倉庫の奥で荷物に埋もれて伸びている。

下っ端たちは衝撃で舞い散った制服の切れ端を手で払いながらバーバリへと駆け寄った。


「バ、バーバリさん!!」

「クロノス、てめぇバーバリさんに何しやがる!」

「あぁん!?お前ら全員で、アズルを取り囲んで襲ってたから助ける為に蹴り飛ばしたんだ!文句を言える立場かお前らは!」

「いやちょっと待て!あれは別におれたちが集団で襲ってたわけじゃなくて!」

「言い訳はいい!一方的に痛めつけられる、恐怖と苦しみを教えてやる!!」

「だから違、ぎゃああああああ!!」


何やら激昂したクロノスがバーバリの下っ端たちを片っ端から相手していく。

というか、もはや逃げようとするみんなを一方的にクロノスが襲う形になっていた。

完全に誤解なんだけど、僕がクロノスを売ろうとしてバーバリ側に寝返ろうと接触したなんて言える雰囲気ではない。

正直止める勇気もないので、呆然とその様子を眺め続ける。

バーバリの下っ端たちの悲鳴が授業中で静かなサンクチュアリ学園に響き渡るのだった。




✳︎



それから数時間後、学園のチャイムが鳴り、全ての授業が終了の合図を告げる。

その後はホームルームの時間となるので、僕らは担任のパジーノが来るのを席に座って待っている。

やがて教室のドアが開き、パジーノがやってきた。


「はい、それじゃあホームルームを始め……うおっ!?」


教室に入って僕らを見た途端、パジーノはその光景に驚いたのか、年老いて曲がっている背筋を伸ばし大きく退ける。

それはそうだろう、だって朝の段階ではホームルームに参加していたのは僕とクロノスの二人だけ。

なのに、放課後には二人から二十九人(・・・)に増えているのだから。

バーバリ含めた二十七人は全員クロノスにコテンパンにされ、保健室で手当てを受け、クロノスの指示に従い、ホームルームに出席している。

なので全員、薬を塗った箇所に包帯を巻かれた状態で参加していた。


「なにボサっとしてんだよパジーノ!早くホームルーム始めろや!!」

「そうだ!こっちはいつまで待ったと思って

「口の聞き方!!」


パジーノに怒声を上げるバーバリの頭を軽く叩いた。


「『パジーノ先生、ホームルームをよろしくお願いします』だろ。なんで先生にまで喧嘩売るんだよお前らは」

「す、すいません。クロノスの兄貴」

「その兄貴って呼び方もやめろ」


バーバリたちに言葉遣いを注意するとクロノスは僕の隣の席に戻る。

怒声を上げていた生徒たちも、クロノスの注意を受けて素直に騒ぐのをやめた。


「はい。じゃあもう一度全員でやり直し!せーの!」

『パジーノ先生ェ!ホームルーム、さっさとよろしくお願いしまァす!!』

「……あ、はい。じゃあ……ホームルームを始める、ぞ?」


だいぶ困惑しながらもパジーノか教壇に立ちホームルームを始める。

この日、クラスメイト同士の“格付け”により、クロノスがクラス0の頂点として君臨することとなったのだった……


「ところでクロノス?僕、“格付け”最下位だったんだけど……どうしたらいいと思う?」

「え?いや、知らんけど……」

次回投稿は来週日曜日の22時です!

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