第二百三十三話 漆黒の閃光
白黒はっきりしない感じの二つ名すこ
旧校舎のクラス0に異動させられた俺とアズル。
元の本校舎のクラスに戻る為には、二十八人のクラスメイトを朝のホームルームに出席させ、校内で問題を起こさずに成績優秀であることが条件と担任のパジーノ・ユロに言い渡された。
元のクラスに戻る為、俺はアズルに協力させクラス0に所属する二十八人を説得することにしたのだった!
その為にまず俺は──
「悪いアズル、茶」
アズルの寮の部屋で紅茶を飲んでいた。
学園は既に終業しており、夕飯も風呂も済ませた俺はアズルの部屋に居座っている。
掃除が下手なのかアズルの部屋は脱ぎ散らかした服が床に落ちており正直汚い。
アズル曰く、週一で学園所属のメイドに頼むから自分ではならないとのこと。
さすがに自分でも多少なりとはやれよとは思う。
が、どうせ俺の部屋ではないので片付けることもさせることもなく、ソファーに座って空のカップをアズルに差し出した。
対面に座り、木を削る作業をしていたアズルは突き出されたカップを見て、
「ねぇよ」
と紅茶のおかわりを断られてしまう。
ちなみにポットの中身はもう空なので、新しく淹れ直さなければならない。
「そもそも、なんで僕がお前の為に紅茶淹れてやらなきゃならないんだよ」
「だから悪いって言ってんじゃん。茶」
「いや、やらねぇよ!!」
「え、お前学園から戻る前に言ってたじゃん?」
『クロノス……僕を助けたせいで、お前はキングに目をつけられてクラス0に落とされちまった。全部、全部僕の責任なんだ!だからそのお礼と償いの為に、これからは僕が君の為に動く!君の手足となるから!!』
「──って」
「そんな隠し設定はありません!!」
「あんなぁ?この紅茶は俺が用意したんだぞ?それなのにお前だって飲んでたじゃないか?しかもガブガブと」
「いやでも、ここ僕の部屋なんで……」
「拝むから……」
「飲みたきゃ自分で淹れてくれよ」
「すぅ……この通り!!」
「いやだから、拝まれても出ねぇって!!」
何度お願いしても紅茶を淹れてくれず、チッと舌打ちして拝むのを止める。
読んでいた本をテーブルに置くと脱いでいた靴を履き直し、ソファーから立ち上がりポットを持つと、床に散乱した衣服を踏まないように気をつけながら廊下へと向かう。
扉を開け、アズルの部屋に置かれてるコールベルを鳴らす。
すると階段から学園所属のメイドが姿を見せ、礼儀正しくお辞儀をして俺の前に立つ。
「お呼びでございましょうか」
「あ、紅茶のおかわり下さい。茶葉は同じので」
「かしこまりました。出来上がり次第お持ちしますので少々お待ちくださいませ」
「はい、お願いします」
ポットを渡してメイドに頼み扉を閉める。
ソファーに戻ろうと踵を返すと三回扉をノックする音が聞こえ、「お待たせいたしました」とメイドの声を扉越しに耳にする。
扉を開けてもう一度廊下に顔を出すと、先程のメイドが紅茶の注がれたポットをトレーに載せて立っていた。
相変わらずこの学園の使用人は仕事が早い……早すぎて怖い。
まだポット渡して扉を閉めてから十秒も経ってないと思うんだけど……
ま、まぁすぐ来るのはいいことだ。
「ありがとうございます」とポットを受け取り、チップとして銀貨一枚をメイドに渡す。
受け取るとメイドは表情を変えず、
「ありがとうございました。ご用の際はまたお呼び下さいませ」
と頭を下げて一階へと戻るのだった。
扉を閉めてソファーに戻りカップに紅茶を注ぐ、舌を火傷しないように気をつけながら一口飲むと、香ばしい香りとほのかな甘みが口の中に広がり喉を潤す。
「うん。美味い」
「あ、クロノス。その紅茶、僕にもくれ」
「ざけんな。テメェで頼め」
また人が頼んだ紅茶を飲もうとしたのでポットを奪い取る。
テーブルに置いていた本を手に取ると続きから読み始めるのだった。
読んでいるのはセシールが翻訳してくれた、あの人皮装丁本を写した物だ。
読んでるだけで気分が悪くなるので、紅茶を飲んで気分を落ち着かせながら読んでいるのだが……え、なんでこんなにゆったりしてるのかって?
クラスメイト二十八人はどうした?
いやだって俺、他のクラスメイトの顔も名前も知らないので探しようがないのだ。
結局あの後、俺とアズル以外の生徒は誰も教室は現れなかった。
クラス0は存在しないものとして扱われる教室。
表立つと都合の悪い生徒がいるので誰が所属しているのかはパジーノ先生も教えてくれなかった。
すぐに全員と顔合わせする時が来るとか言ってたけど、本当だろうか?
まぁ俺が本校舎のクラスに戻る為には、進級時の職員会議でなければクラス異動の議題として提示できないらしいので、焦って行動したところで意味はないのだ。
どのみち一年間はあのオンボロ校舎で過ごさなければならない。
ま、気長にやっていけばいいさ。
「ところでさぁ、クロノス?」
「ん、なんだ?」
本を読んでいると、先程からずっと木を削っていたアズルが話しかけてきた。
アズルはいくつも親指ぐらいの大きさの四角形に削った物をテーブルに重ねていっている。
何を作っているのかは知らないが、楽しそうなので放っておいている。
アズルは木を削る作業を続けながら、
「二十八人のクラスメイトを教室に来るように説得するって言ってもさぁ、具体的にどうするワケぇ?律儀に一人ずつ話して回るつもり?」
「考えてない。そもそもまだ顔合わせもしてないしな」
「てか、全員ちゃんと話聞いてくれんのかねぇ?サンクチュアリ学園に入れる段階で全員金持ちってことじゃん?それ考えると、絶対他の奴らも本校舎と同じで面倒な連中に決まってるぞ」
「言っとくけど、俺とお前もその面倒な連中と同じクラスなんだからな」
でもアズルの懸念もわかる。
問題行動や複雑な家庭環境故にクラス0に送られる生徒たち。
そんなのがまともに話を聞いてくれるとは思えない。
しかもそれが完全に俺勝手な都合ならなおさらだ。
俺が本校舎に戻りたいから朝のホームルームに出てくれ、なんて言ったところで首を縦に振るやつなんていないだろう。
そうなれば最悪、肉体言語による説得(物理)が一番手っ取り早くなるんだが……
「アズル、お前異世界来てから魔物とかと戦ったことあるか?」
俺と一緒に行動させる以上、アズルにも説得(物理)を手伝わせることになるのだが、もし戦った経験がない、もしくは戦闘が苦手となるとアテにはできない。
あらかじめ確認しておこうと思ったのだが、俺の質問にアズルは手を止めると不敵に笑い始める。
「よくぞ聞いてくれました……ついに僕の力量を見せる時が来たようだな……」
「ほぉ、自信ありげだな。この前は一方的に殴られてたくせに」
「あれは反撃する前にお前が来たから、たまたま僕の力を見せられなかっただけでい。ほら、僕らの世界にあったろ?“鷹は能隠して爪隠さず”ってさ」
「なんか違くね?」
ミックスことわざを繰り出しながら胸を張るアズル。
確かに助けた時にアズルは反撃するつもりだったとボヤいていた。
もしかしたら、本当に取り巻き相手を撃退できるぐらいには喧嘩は強いのかもしれない。
家庭にもよるが、貴族の家ではある程度の護身術を教え込ませるとこもあるらしいし、俺が思っているよりも戦えるのかも。
「じゃあ、明日は訓練場行くか。どうせ授業中はクラスメイトも先生も誰も教室いないし」
「サンセー!よぉし、明日は僕の実力を見せてやるぜ!」
俺の提案にウキウキで賛成するアズル。
どんな武器と戦い方を見せてくれるのか、俺も少し楽しみを感じているのだった。
✳︎
と、言う訳で次の日。
案の定俺とアズル以外のクラスメイトは誰も朝のホームルームに出席して来なかった。
もちろん授業開始時間になっても担当教師は来ないので、パジーノ先生に許可を得て、俺とアズルは訓練場に足を運んでいたのだった。
訓練場は校舎とは別の特別棟にある一室である。
ここは生徒が運動をしたり魔法の授業を受ける為の施設だ。
まぁ要するに体育館みたいなものだ。
一限目の授業ではどのクラスも使わないので今は俺たち二人しかいない。
おかげで広い一室を使いたい放題、誰にも気兼ねなくアズルの腕を見学することができる。
訓練の的となる人の形をした藁人形を一体だけ配置しながら武器を取りに行ったアズルを待つ。
この学園には希望者には剣術、または魔法の訓練を受けられる選択科目がある。
なので入学時に剣、杖のどちらかを持ち込み学園に預けることとなる。
もちろん俺も剣術の授業を受ける為に剣と盾を持ち込んだ。
持ち込んだ武器は学園側に預けることとなり、授業の時に学園の保管庫から担当教師の許可を得た者だけが持ち出すことができるのだが……例の如く、保管庫の番をしている警備兵に賄賂を渡すとこっそりと持ち出させてくれるらしい。
もちろん教師に渡しても持ち出させてくれるのだが相手による。
パジーノ先生は危ないからダメと断られてしまったが、アズルが「衛兵ならいけるはず!」と番をしていた兵を買収して武器を持ち出すことには成功していた。
俺はどうしたか?
渡すほどの賄賂なんか持ち合わせていないので今回は丸腰だ。
別にアズルと戦う訳でもないし、アズルの力を見るだけなら俺の剣は必要ないかと思って。
「待たせたなぁ、クロノス!!」
藁人形の設置をしているとようやく準備が整ったのかアズルが大声で訓練場を訪れる。
アズルは制服のままで保護当ても何もつけず、黒一色の剣と白一色の剣を抜き身のまま両手に携えて現れやがった!!
普通に危ねぇ!!
「おいアズル!お前、剣の鞘はどうした!?鞘は!?」
「え、邪魔だから更衣室に置いてきたけど?」
「剣を抜き身のまま持って来るじゃねぇよ!危ないでしょうが!!」
「えぇー?わかったよ、持って来るよ」
「待て待て待てェ!!抜き身の剣持ったままうろつくな!!警備に見つかったら捕まるぞ!!」
「あ、そっか。じゃあクロノス持ってて」
「刃先をこっちに向けたまま渡そうとするな!!」
こいつ、刃物の扱い方がかなり雑だ!
もう嫌な予感がビンビンしてきやがった!
アズルから剣を受け取り鞘を取りに行かせる。
戻ってきたアズルに剣を返す代わりに鞘を預かり、早速人形と対峙してもらう。
アズルの武器は剣二本の二刀流スタイル。
左手に黒い剣を、右手には白い剣を持ち人形に向かって構えている。
でも何故だろう、既視感のある構え方なんだよなぁ。
同じ構え方の剣士をどっかで見たことあったっけ?
「どうだクロノス。結構さまになってるだろ」
「まぁ、それっぽくは見えるけど。実家で剣術の稽古でも受けてたのか?商人の家のはずだよな?」
「一応ね。剣術学びたいって言ったら教師を雇ってくれてさ。それなりに心得はあるんだよねぇ。ちなみに左手の黒い剣は“ショットオブダーク”、右手の白い剣は“フラッシュオブライト”って名前だ。どちらも光と闇の世界の奥底に眠る鉱石の『ダークマター』と『シャイニングクリスタル』をマテリアライズしピュリフィケイションすることによって武器としてリファインすることができるんだ。この二本の剣を手にし二刀流で戦う姿から、僕は地元では『漆黒の閃光』と呼ばれ
「待て待て待て待て待て!!情報量が多すぎて訳がわからなくなってきた……え、もう一回最初から簡潔に言ってくれ。光と闇の世界が何だって?」
「…………光と闇が合わさって最強に見える!!」
「なるほどな?」
全然「なるほどな?」ではないがもうそれで済ませてしまおう。
最初の段階でアズルの言っている意味が八割ぐらい理解できなかった。
剣の名前だけは理解できたけど。
「えーと、それで……地元ではなんて呼ばれてたんだ?」
「『漆黒の閃光』と呼ばれていたのさ!!」
「漆黒なのに閃光なの?どっちなのか白黒ハッキリしろ!!」
「へっ、その言葉!僕の剣技を見てから鉄環させてやるぜ!」
「撤回な!」
間違いを指摘するがもはやアズルは聞いていない。
「うおおおおおお!!」と雄叫びを上げながら人形へと走り出す!
跳躍すると両手を振り上げ、
「僕の必殺シリーズ!カオス・スターダスト・アズル・ハリケーン!!」
名前が究極的にダサい!!
だが名前はともかく、ちゃんとした剣技ではあるのか二本の剣が光り出した!
跳躍していたアズルが人形の前に降り立ち、剣を振り下ろした瞬間、俺の目に信じられない光景が映ったのだった。
なんか世間は三連休らしいですが、自分は平常運転です!
次回投稿はいつもどおり22時です!




