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第二百二十九話 運命の出会い

連続投稿三日目!

今日から新キャラの登場です!


雀の姿で机の中に隠れていたギルニウスから助けを求められた。

まさか、もう魔王関連で何かあったのかと思い、一時間目の授業が終わってすぐに廊下に出ると、人通りの少ない階段まで急ぎ話を聞くことにした。


「で、なんだ頼みって」


あくまで平静を保ちながらも、俺は内心ニヤニヤと笑いを堪えている。

あのギルニウスが信徒ではない俺に懇願して来たのだ。

ここで恩を売っておけば、今後ギルニウスが自らの保身に走って暴走した際に優位な立場に立て


「いやぁ、実はね?僕の信徒に会って欲しくてお願いに……」

「帰る」

「待て待て待て待て待ってお願い待ってぇぇぇぇ!!」


どうでも良さそうな内容だったので教室に戻ろうとすると雀の身体で俺の周りを飛び回り進路を妨害してくる。

足を止めると俺の目線の高さに合わせようとギルニウスは階段に降り立つ。


「お願い最後まで聞いて?確かに僕の信徒ではあるんだけど、信徒ではないっていうか……いやでも信徒ではあるんだけどね?」

「はっきりしないなぁ。そもそもギルニウス教の信徒ではあるのなら、俺よりもティンカーベルに頼んだ方がいいだろ。俺はもうあんたの信徒じゃないんだし」

「いやそうなんだけど!相棒の方が都合が良いっていうかぁ、問題も起きないっていうかぁ」


いまいち要領を得ない言い方だなぁ。

ギルニウスもやたらと挙動不審でますます願いを聞き入れる気が失せてくる。

もし別の神が関わっているのなら、また神同士のいざこざに巻き込まれるのだけはゴメンだ。

というわけで俺は踵を返して教室に


「わー!!わかったわかった!ちゃんと説明するから!!えーと、そのね……?君にあって欲しいのは、ある一人の生徒なんだ。君と同じ一年生」

「一年生?まさかこのサンクチュアリ学園にいるのか?」

「そう!ちょっと、人付き合いが上手くいってなくてさ。君が友達になってあげて欲しいんだ」


「えー……」と物凄く面倒くさそうな顔をしてしまう。

いや実際面倒くさそうなんだが。

なんで俺がギルニウスの為に見ず知らずの生徒にあって仲良くしてやらなければならないのだ。

よりもよってギルニウス教の信徒だぞ?

もしやとは思うが、ギルニウス教の信徒と俺が仲良くなれば、また信仰してくるとでも思ってるのかこの雀。


「そんな顔しないでよ。それに君が思ってるようなことも考えてもないよ。ただね、その子があんまりにも不憫だからさ……いや、たぶんそれは僕のせいでもあるんだけど」

「いや、ますますわからん」


その信徒が不憫なのがギルニウスのせいなのならば、余計に俺が行く義理がない。

しかし、ここでギルニウスに恩を売ってけば後々交渉材料になるのも事実……ハァー、仕方ない。


「わかったよ。会ってやるよ、その信徒に」

「本当に!?ありがとう、助かるよ!!」

「その代わり、貸し一つだからな?」

「ああ!いいともいいとも!じゃあ、相手にも伝えてくるよ!昼休みに校舎裏に来て!」


そう言って嬉しそうに雀ギルニウスは飛び立ち、窓から外に出ようと……


「いやいや待てよ!その相手の見た目とか教えてくれよ!」

「大丈夫!見れば一発でわかる!じゃ!」

「一発でわかるって……おい!」


俺の制止も聞かずにギルニウスは窓から飛び出して飛んでいってしまう。

なんか、今更になって安請け合いしてしまったことを後悔していた。

変な人に引き合わされたりしたらどうしよう……


✳︎


ギルニウスと会ってから数時間後、昼休みとなり昼食を済ませ、約束通り校舎裏に来ていた。

木と茂みがすぐ近くで風に揺れている。

昼休み、とかなり曖昧な指定だったので割と急いで来たんだが……どうやら相手はまだ到着していないらしい。

そもそも俺、相手の容姿も性別も何も聞いてないんだけど……相手は俺のこと知ってるのか?

あの様子じゃギルニウスの奴、相手側に俺のことも説明しなさそう。

もしそうなら、会うの無理じゃないか?

不安を覚えながらもとりあえず校舎の壁に寄りかかって待つことに。

昼間なのもあり校舎が壁になって陽の光を遮るので暗がりとなって目立つことはない。

そもそも昼休みにわざわざ校舎裏まで来る人なんていないだろう。

おかげで静かだし、風も適度に吹くので暑くもなく寒くもない過ごしやすい。

腹も膨れてるし、油断するとこのまま寝てしまいそうだ。

せめて話し相手でもいればいいんだが……


「──!」

「ん?声?」


校舎の壁によりかかって欠伸をしていると声が聞こえた。

内容までは聞き取れなかったが、なんだか荒っぽい声音だったのはわかる。

昼休み、ほとんどの生徒はまだ食堂、しかも人が来ない校舎裏で荒っぽい声音──考えるまでもなく、何が起きているのかすぐ理解する。

やっぱ貴族の通う学校でもあるんだなぁ、そういうのって。

……暇だしちょっと様子見に行くか。

件の待ち人とは違うだろうけど、ここで相手を助けて貴族との繋がりを持っておくのも悪くはない。

いやまぁ、きっと相手も同じ貴族ではあるのだろうけどもそこは気にしない。

そうと決まれば壁に寄りかかるのをやめ、軽く体をほぐしつつ声のする場所へと向かう。

声がするのは俺のいる本校舎から少し離れた特別棟からだ。

本校舎と隣接しており、音楽室や実験室などと授業で使用される教室がある。

なので昼休みの時間はほぼ間違いなく人がいないから、隠れて物事を進めるには丁度いいのだろう。

声のする方へと歩み寄って行くと、次第に声の主が男であることがわかる。

しかも二人で一人の相手を殴っているようだ。

気づいてしまった以上見て見ぬ振りもできないし……止めに入るか。


「このぽっと出の成り上がりが!家の商売が上手くいったからって調子に乗るんじゃないぞ!」

「待て待て、そこまでにしとけ」


殴りかかっている方の男子生徒が拳を振り上げたのと同時に声をかけて制止する。

生徒二人は俺を教師と思ったのか、ビクッと身体を跳ね上がらせ恐る恐る振り返るが、声の主が同じ生徒だとわかると顔から緊張の色が消えた。

相手の襟首を掴んで殴ろうとしていたのは獣人、もう一人はエルフだ。


「なんだ先生じゃないのか、驚かせるなよ」

「君も……同じ一年生か。何の用かな?もしかして、こいつの友達とか?」


獣人は安堵し、エルフの生徒は自分たちが殴っていた相手を指差す。

被害に遭っていのるは男子生徒の様だが、ぐったりとしていて顔は見えない。

金髪と派手な髪色をしており、こちらも男子生徒。

俺が来るよりも前から殴られていたのか、制服のズボンが砂で汚れていた。


「いいや、悪いが知らない。でも騎士の家の子としては見過ごすのは無理なんだよ」

「騎士の家?ふん、正義感で止めに来たって訳か?」

「殊勝な心がけですね。二人で一人を殴るのは卑怯だとでも言いたいのですか?」

「いや、そこは別に……」


本当はここで「二対一で一人を虐めるとは卑怯な!」とか言えたらカッコイイのだろうけど、未来で魔王ベルゼネウスと戦う時に六人がかりで戦った経験がある手前、卑怯だとは俺の口からとてもじゃないが言えない。


「ならなんだよ?暴力は良くないってか?」

「無抵抗な相手を殴るのを止めろって言いたいんだよ。そいつ、全く防ごうともしないじゃないか」


襟首を掴まれている金髪の彼は、殴られているのに受け身を取ろうする気配が一切ない。

それどころか声すら上げていないのだ。

普通呻き声なり涙ぐむなりしてもおかしくないのに。


「彼、気絶しているんじゃないのか?そんな相手を一方的に殴ったって意味ないだろ」

「失礼ですが、貴方は私たちが誰の指示で動いているのかご存じないのでしょう?なら早くどこかに行きなさい。名前を聞けば後悔しますよ」

「……なら誰の指示で動いてんの?」


どうせこいつらも子供の時代のカーネみたいに親の名前で好き勝手にやっているんだろう……などと勝手に思い、呆れ気味に聞いたのだが、


「この学園のキング、ダリエル・ラヴクリフだ!」


学園のキングの指示ときたかぁ。

キングは文字通り学園の男子トップ。

言うなれば学園男子の憧れであり支配の象徴。

学年ごとにキングは存在し、各学年ごとのルールは大体キングが決める。

と言っても、別にそれが学園のルールになるとかじゃなくて、あくまでも生徒間でキングの取り決めに従うのは暗黙の了解として浸透してるだけだ。

内容も大抵、キングの昼食は下っ端のサイドキックスが持ってくるとか、授業前に飲み物を用意するとか、荷物持ちをさせられるとか、そんなんばっかりだ。

もちろん守る必要も従う必要もない。

ただ、キングに逆らうのは一学年全てを敵に回すのと同意義だ。

キングの命令一つで反抗した生徒はイジメのターゲットとなり、取り巻き(サイドキックス)たちによる陰険な嫌がらせを受け続けることになってしまうのだ。

学園が始まって一週間、そういう生徒が既に何人かいるのは知っている。

おそらく殴られている金髪の彼も、同じようにキングの指示に従わなかったからターゲットにされているのだろう。

と言うか、今の一年生キングってそんな名前の生徒なんだ?

昨日は違う名前だった気がするんだけど……また変わったのかな?


「ぼくたちはキングのサイドキックスです。そのぼくたちに逆らうのは、学園のキングに逆らうのと同じこと……意味、わかりますよね?」

「あーはいはい。わかるわかる。わかるけど、その手は放してやりなよ」


そろそろまともに相手するのが面倒になってきたので適当に相槌をうち、手を放すように促す。

だがその態度が気に入らなかったのか、獣人の男子生徒が額に青筋を浮かべ、金髪の子から手を放すと俺へと歩み寄ってきた。


「てめぇ、わかってねぇだろ!」

「いやいや、わかってるわかってるって」

「気にいらねぇ!てめぇもキングに逆らう馬鹿に決定だ!!」


声を荒げながら獣人の生徒は殴りかかってきた。

喧嘩っぱやいなぁ……他の獣人族ってもっと温厚だと思うだけど、血筋とか年齢で違うのかな?

なんて思いながら獣人生徒の拳をひらりと避ける。

普段からジェイクに鍛えられているおかげで避けるぐらい訳ない。

今の俺にとって怖いものなんて、魔王ベルゼネウスと時の女神ルディヴァぐらいなものだ。

普通の人の拳なんて全く怖くない。

何度か振られる拳を躱し続け、避ける際に足を引っ掛けて転ばさせると、獣人生徒は派手に地面に倒れてしまう。

地面に滑り込むようにして倒れた時に顔を擦り切ったらしく、手で頬を抑えている。


「ちっ、チックショー!」

「大丈夫ですか!?あ、あぁ……!血が、血が出てますよ!!保健室に行きましょう!!」

「顔擦り切ったぐらいで大袈裟だなぁ。それぐらい大したことないし、すぐ治るって」


ちょっと涙目で頬を抑えながら獣人生徒に睨まれ、エルフの生徒は彼を支えると立ち上がって保健室に連れて行こうとする。

やっぱり貴族の子供となると、怪我とかに慣れてないから耐性がないのかな?

獣人生徒はエルフ生徒に肩を貸してもらいながらトボトボと歩きその場を離れようとするが、


「ぐすっ……!お、覚えておけよてめぇ!キングに逆らうことを絶対後悔させてやる!くぅん……!」


すっごい情けない捨て台詞と鳴き声を残して二人は去っていく。

その背中にひらひらと手を振りながら見送ると、俺と殴られていた金髪の生徒の二人だけが残されることとなった。

金髪の子はピクリとも動かず下を向いている。

本当に気絶してるならこの子も保健室に運んだ方がいいかと近づくと、


「……余計なことしやがって」


と、ポツリと口を開いた。

なんだ意識はあったのか。

じゃあ、わざと抵抗せずに殴られ続けていたのか?


「あんまり一方的に殴られてたから、つい止めに入らなきゃと思ってね」

「あいつら殴るの下手くそだから、わざと殴られ続けたんだよ。もう少し殴られてたら十倍にしてやり返すつもりだった」

「……そうかい。そりゃ、余計なことして悪かったな」


本当にやり返すつもりだったのかはわからないが、悪態をつけるぐらいには元気なようだ。

俺は彼を保健室に連れて行こうと手を伸ばす。


「ほら、俺たちも保健室行こうぜ?殴られた箇所を見てもらわないと」


しかし俺が伸ばした手は払われ、金髪の彼は自力で立ち上がってみせる。


「余計なお世話だ」

「そうか?顔、少し腫れてるぞ?薬ぐらい塗っといた方がいい。目も腫れてないか確認した方が……え?」


下を向いたままの彼が他にも怪我をしていないかと顔を覗き込んだ瞬間、俺は自分の目を疑う。

いや、だって……そんなことありえない……

なんでこいつがここに……?


「君、その顔……!?」


俺が顔を見て唖然としていると、彼はいい加減見飽きたリアクションだ、と言わんばかりの態度で鼻を鳴らす。


「誰かに似てるって?そうだろうな、似てるだろうな?なら誰に似てるか、心の中に思い描いてる人物を当ててやろうか?そうだよ……慈愛の神ギルニウスに似てるって思ってんるだろう……ッ!?」


声を荒げながら彼──ギルニウスと同じ顔をした男の子は言い放つ。

そう、まさしく彼の顔立ちは俺の知っている慈愛の神ギルニウスの人間体と瓜二つ。

いや、瓜二つなんて言葉では済ませられない。

似てるどころか完全に一致してると言っていいぐらいに彼はギルニウスと同じ顔をしているのだ!!

生き写しなんじゃないかと思わず口にしてしまいそうなほど、それほどまでに似ているのだ。

それによく聞けば声の特徴もギルニウスによく似ている。

声が一緒ではないのは、彼がまだ声変わりしていないからなのかもしれない。

俺の知っているあの嫌な神より、まだまだ声は幼い。

それによく見てみれば、顔も全く同じとは言っても雰囲気も目元も少し違う。

あの優男な表情とは違い、彼の目元は少し釣り上がっており、普段から怒っているのか眉間も厳しい。

これがギルニウスだ、と紹介されれば大勢の人は納得するだろうが、何度も本人と会っている俺だからこそ断言できる。

この男の子は|ギルニウスと同じ顔をした別人(・・・・・・・・・・・・・・)だ。


「チッ、ジロジロ見るんじゃねぇよ!神さまと同じ顔してるのがそんなに面白いのかよ!?」

「あ……わ、悪い」


反射的に謝るギルニウス似の彼は面白くなさそうに舌打ちする。

きっと産まれた時からずっと、俺と同じような好奇の視線で見られてきたのだろう。

それはきっと彼にとっては面白くないもののはずだ。

常に目の前にいる自分ではなく、神様と同じ顔だと思われ見られ続けてきたのだろうから……

しかしそこで俺は一つのことに気づく。

もしかしてギルニウスが俺に会わせたかったのって、この男子生徒じゃないか!?

見たらすぐわかるって言ってたし!


「ったく、あの神様め……待ち合わせだからって人をこんなとこに呼びやがって」


やっぱり!!

待ち人はこの男子生徒に間違いない!


「な、なぁ?」

「あぁ?なんだよ?」

「その待ち合わせの人、たぶん俺だ。ギルニウスに言われてきたんだろ?」

「え……なんだよ、女じゃなくて男なのかよ……」


やはりこの男子生徒が待ち合わせの相手らしい。

しかし彼は、相手が男だとわかると途端に肩をがっくりと落とし落胆してみせる。

まぁ気持ちはわかる。

わざわざ昼休みに校舎裏まで来て二人がかりで殴られ、現れた待ち人が男だったとか、来るだけ損したとしか思えん。

正直俺も「相手って男かよ……」と内心落胆している。

せめて可愛い女の子とかが良かった……いや、それはそれでギルニウス教に入りませんか?とかいう勧誘されそうで怖いけど。

でも、だ……なんでギルニウスは俺とこの金髪を会わせたかったんだろう?

あんまり仲良くできる気がしないんだけど。


「チッ、あの神様、絶対次会ったらど突いてやる。なんでチート能力も何もつけなかったんだよ……!せっかく“転生”したのに……!」


ん……?は!?転生!?

転生って言ったか今この金髪!?


「な、なぁ?」

「あぁ!?なんだよさっきから!!僕は別にお前と仲良くするつもりなんか……」

「お前『日本語』わかる……?」


恐る恐る訊ねると金髪は一瞬怪訝な表情を見せた。

何当たり前のこと聞いてんだコイツ、みたいな顔で俺を睨んでくるが、俺の発した言葉の意味を遅れて理解したのか、その表情がみるみる変わり目を見開く。

その表情だけでもう俺には理解できた。

このギルニウス似の男──!!


「「お前“転生者”か!?」」


お互いを指差し驚愕する。

俺の目の前に、五人目の異世界人が現れたのだった。

てなわけで、四人目の異世界人の登場です!

個人的にこのキャラが一番のお気に入りです。


次回投稿も明日18時から!

よろしくです!

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