第二百二十五話 人皮装丁本2
最近FGOのイベント周回に忙しかったので執筆できてなかったのですが、昨日は昨日でアイカツの新シリーズの話題が出てきて執筆どころではありませんでした!
まぁ、まだストックあるから大丈夫ですけどね!8週間ぐらい書けなくなったとしで更新はできるから!
ライゼヌス城でグレイズ国王、坂田、雀に憑依したギルニウス、俺の四人は謁見の間に集まり話合っていた。
未来の話を終え、国王は方針も決めてくれ、勇者と破魔の剣の場所はわからないが安全、と話が進み、割と順調な話し合いとなっていた。
「ところで……だ」
話をしているとグレイズ国王が切り出す。
しかし、言いにくいことなのか歯切れが悪い。
「その、巫女は八人おり、大地の巫女だけは、誰になるかハッキリしているのだな……?私の、娘が……」
「はい。未来で大地の巫女となるのは御息女のティンカーベル様です。俺もそこだけはハッキリと覚えているので」
勇者の名前と居場所は覚えていないと嘘をついたのでそう答えておく。
できればまだこの件にレイリスを巻き込みたくないからな。
だが俺の答えを聞いたグレイズは頭を抱え、
「くそッ……何故私の娘がそんな危険な役目を与えられなければならないんだ……!初代巫女の血を引く一族だからか!?」
愛娘が危険に知らされるとわかり心中穏やかではなさそうだ。
当然だろう、未来では巫女が魔王の完全復活の為の生贄となり、しかもライゼヌス城は魔王に乗っ取られて自分はその際に抹殺される可能性があるなんて聞いてしまえば。
「如何しますか国王様?ティンカーベル王女の此度のサンクチュアリ学園への入学、保留にして城内で護衛をつけて保護しては?」
「いや……それも考えたが無しだ。あの子は歳の近い子の集まる学校をとても楽しみにしている。それを今更取り止め、城に押し込むというのも心苦しい。あの子の見聞を広める為にも学校には行かせた方がいいだろう。ただし!必ず護衛をつけた上でだ」
「大丈夫!ティンカーベルが巫女ってわかった以上僕も細心の注意を払うし、なんたって同じ学校には相棒が居るんだ!身近で何かあればすぐ気づくさ!」
「あの……寮生活になると男女別だから、四六時中は無理だよ?」
「大丈夫だよ!共通の友達作って逐一様子を尋ねれば」
「女子寮にいる間なにしてるか訊くのか?ただの変態じゃねーか俺ッ!!」
なんでそんな信用を失うような行動をしなければならないんだ!
バレたら非難されること間違いないだろ!
憤る俺を見て坂田に「まぁまぁ落ち着いて」と宥められ、一旦怒りを抑える。
「だけど、同じ学園にいて一番身近にいられるのはおそらく君だけだ。よろしく頼むよ、クロノス君」
「はぁ……なんとか上手くやってみます」
渋々といった形で了承はする。
だがどうしようか……ベルと共通の友人を作るにしても、その人物がよほどがさつな子で俺が女子の様子を聞いて気にしない性格でもなければ……いなくね?
貴族ばかりが集まる金持ち学校にそんな女の子……
謁見の時間はそこで終了となり、俺は坂田と共に部屋を出る。
すると入れ替わるようにして兵士や大臣たちがぞろぞろと謁見の間になだれ込み、中からグレイズ国王の覇気のある声が聞こえてきた。
「さて、これで僕のお勤めはおしまいだね。相棒はこの後どうするの?」
「うーん、本家に戻ると小悪魔たちが待ってるし……ベルにでも会いに行こうかな。挨拶したいし」
「それもいいが、ベル様はおそらく稽古事の時間のはずだよ。それが終わったら家庭教師の授業があるはずだから、夕方ぐらいまでは会えないと思うよ」
マジでか……さすがにその状況でいきなり会いに行くのは悪いな。
となると、別のとこで暇つぶしする必要があるけど……うーん、俺は王都にそんなに知り合いいないからなー。
「坂田さん、この後は?」
「学校の視察やら出資者との会合と忙しい。申し訳ないが、君の相手はできないかな」
「そっかー……じゃあどうするかなー?」
「ならば、セシールに会いに行けばどうだい?何か頼んでいなかったかい?」
「セシールさんに……?ああ!」
そうだ思い出した!
三年前セシールさんにインスマス教会で見つけた本の翻訳頼んでたんだった!
未来でもセシールには会ったけど完全に忘れてた。
でも未来セシールもあの様子だと絶対忘れてたよな……人皮本のこと。
「会いに行けばいい。きっと彼女喜ぶぞ」
「いやぁ、たぶんまた殺されそうになるのオチですよ……」
あの人俺のこと全く覚えてくれないからな。
でも頼んだ翻訳がどうなってるのかは気になる。
仕方ない、行ってみるかぁ……
あんまり乗り気じゃないがセシールの研究室のある塔へと向かう。
階段の前で坂田とは別れ、ギルニウスも「迷える信徒を導く時間だから」と言って帰ってしまった。
俺一人であの人の凶行を止められる自信ないんだけど……
ええい、愚痴愚痴言ってても仕方ない!
覚悟を決め階段を登り最上階を目指す。
研究室の扉の前に着くとドアを三回ノック、合言葉を聞かれるので日本語で「そんなものはない」と返すと、ドアの施錠が解除される音が聞こえ、恐る恐るドアを開けると散らかった研究室が眼に映る。
未来ほどガラクタは荒れてはいないが、三年前に来た時よりも散らかっている──って感じだ。
足の踏み場が広くてガラクタが部屋の隅にまとまってるだけ、まだマシかなと思えるレベルだが。
作業台ではセシールがはんだっぽい棒状の灰色の道具を手に鉄と睨めっこしていた。
バチバチと音を立てる道具て鉄同士を溶接しながら、
「なんだサカタ?なんか用かー?」
「あ、いや、えっと……お久しぶりですセシールさん」
俺の呼びかけに来訪者は坂田じゃないと気づいたのか、作業の手を止めセシールは振り返る。
扉から入ってきた俺を見るとセシールは固まってしまい、訝しげな目で見つめてきた。
あ、これヤバイパターンじゃないかな?と危機感を募らせていると、セシールが手にしている棒状の道具がバチバチと音を立て始め、まるで火かき棒を炎に突っ込んだ時みたいに灰色から真っ赤に染まり始めて、
「いやいや俺ですよ俺!クロノス・バルメルド!携帯電話の!!」
「……?ああ、お前か!なんだよビビらせるなって、私の研究を盗みに来たスパイかと思ったぞ」
怖いのはこっちだよ!
なんで無言でこっちを睨んで、棒状の道具からはバチバチ音が聴こえて熱したみたいに赤くなるんだよ!
絶対棒を俺に押し付ける気だったろ!?
「えーと……クロノフ!」
「違います。『ス』です。クノロ『ス』!」
「なんだ久しぶりだな!六年ぶりぐらいか?」
「三年です!ホントどういう時間の流れの中で生きてるんですかあなたは!?」
さっそく名前を間違えられたが襲いかかられないだけマシか!
なるほど、定期的に会っておけばすぐに思い出してもらえるのか!
「本当に久しぶりだな!というか、え?マジで何しに来たんだお前?」
「用があるから来たんですよ!」
「用?言っとくが携帯電話の開発権ならやらん」
「いらないですよ!コホン、実はですね?この度初等部を卒業して中等部に……」
「話が長いぞ」
「……三年前に頼んだ本の翻訳どうなりました?」
訊ねると「ああ、それなら」とセシールは椅子を足場にして上棚に手を伸ばし、本を二冊手に取る。
どちらも手の平サイズの大きさで片方は紙の表紙だが、もう片方はあの人の皮で装丁された物だ。
指先に触った時の不快感蘇り、無意識に手を握りしめる。
「これのことだろう?まぁ暇つぶしにはなったぞ。もう一つの方に翻訳が書いてある」
「ありがとうございます……よく平気で触れますねそれ」
「あ?何てことないだろ、ナマコの表紙ぐらい」
「だからナマコじゃなくて、それ人の皮だって言ったじゃないですか!」
「そうか?でもナマコも人の皮もそう変わらんだろ」
「変わるよ!だいぶ印象違うよ!?」
この人の精神の図太さ何なのマジで!?
とりあえず本を受け取り、人皮の方は極力手触りを気にせずポケットにしまい、翻訳が書かれている方を捲ってみる。
ご丁寧に項目まで書いてくれたようで、どうやら内容は三つに分かれているらしい。
1.物を浮かす魔術
2.夢を送る魔術
3.動物を魅了する魔術
以上の三つが記されていた。
……え、ちょっと待って、何これ?
「あの、セシールさん?なんスカこれ?」
「知らん。私は書いてあった内容をそのまま書き起こしただけだ。よく分からんが、この世界の魔法とは違うものみたいだな」
魔術──という単語を見て脳裏にインスマス教会の教祖を思い出す。
確かあの老人は魔術という言葉を口にしていた。
人皮本はその教会から持ち出したもの……もしや、あの戦闘で使用された魔術と関連があるのだろうか?
試しに内容を斜め読みしてみる。
まず物を浮かす魔術──これは『空中浮遊』と呼ばれる魔術で物を浮かすことができるらしい。
次に夢を送る魔術──こちらはその名の通り夢を見させることができるようだ。
だが使うには特別な道具が必要らしい。
最後に動物を魅了する魔術──『動物の魅了』と書かれており、動物が心を開いてくれるみたいだ。
…………え、効果そんだけ!?
各魔術の効果を見たがどれも役に立たなそうなものばかりだし、覚えても使えるのは『空中浮遊』と『動物の魅了』しかない。
『夢を送る』は道具が必要で覚えても使うことはできない。
そもそも使用用途が不明なものばかりで全く戦闘の役に立ちそうな物がない!
いや、でも……『空中浮遊』は物落とした時に拾うのに使えるか……?
謎の魔術に頭を抱えてしまう。
そのせいか、なんか気分悪くなってきた。
「全く使い道が思い浮かばないものばかりですけど……ありがとうございます。助かりました」
「おう、まぁ何に使うか知らんが頑張って覚えろ」
「ところで……前から作ってた携帯電話はその後どうですか?試作品を前から作ってましたよね?」
「ふっふっふっ、今はまだ秘密だ。近々お披露目するとだけ言っておこう」
セシールにしては珍しく自慢気ながらも詳細を語ろうとしない。
もし完成していれば自信満々に見せつけてくるはずだし、隠すということはもう出来てはいるがまだ人に見せてはいけない決まりがあるのだろう。
なら詮索せずにお披露目されるのを待つとしよう。
ふと窓を見ると陽が暮れるのが見える。
もうそろそろベルに会いに行ってもいい頃だろう。
「じゃあ俺、そろそろ行きますね。セシールさん、ありがとうございました。またその内覗きに来ますね」
「来なくていい。じゃあな」
そう言って手をひらひらと振りながら作業台に向き直るセシール。
俺も背を向け研究室を出て、また長い螺旋階段を降りる。
その日はベルに会い挨拶をしたらすぐに屋敷に戻り、結局夜遅くまでクラウラたちの玩具にされる羽目になるのだった。
次回投稿は来週日曜日22時からです!
もしかしたら、8月最後の週は連続投稿するかもです




