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第二百二十四話 あやふやな作戦会議

FGOイベントの為、ひたすら周回をしているのでここ最近執筆をしてません……まぁ、ストックはまだまだいっぱいかるから心配ないですけどね!


王都ライゼヌスを訪れた俺をギルニウスと坂田が迎えに来た。

ライゼヌス王グレイズとの謁見の約束を果たす為に。

城へ案内された俺は二時間ほど応接室で待たされた後に謁見の間に通され、グレイズ国王、坂田、ギルニウスと俺の四人だけが謁見の間に集まる。

慈愛の神であるギルニウスが来ていることもあり人払いをしたらしく、王を護衛する者は一人もいない……のだが、神としての力を持ってるギルニウスがいるのだからこれ以上の護衛はおそらくいないだろう。

忙しい国務の中で時間を割いてもらったのでないので、俺は挨拶を素早く済ませ、俺が未来で見た物、聞いた物、体験したことの全てをグレイズ国王と坂田に伝えた。

俺が上手く説明できない部分は未来を見ていたギルニウスに補足されながらだが。


「──で、最後は勇者の一撃と」

「未来の僕がなけなしの力で魔王ベルゼネウスを再び封印し、世界に平和が戻りました!めでたしめでたし!!」

「「………………」」


グレイズ国王は王座に座ったまま、坂田はその側で俺とギルニウスの話を聞いていたのだが──二人とも表情が険しい。

時の女神ルディヴァに出会って十年後の未来に飛ばされた、の下あたりから既に「何言ってんだこいつ」みたいな空気が流れ始めたのだが、それにも負けず最後まで語り切ることとなる。

ヤバイな……これ信じてもらえないと、並行世界と同じ末路を辿る可能性が大なんだけど……

グレイズ国王は王座に座ったままこめかみに手を当て考え込んでしまう。


「んむぅー……時の女神ルディヴァ、十年後の未来、魔王ベルゼネウスに大地の巫女が私の娘……?うむ、うむぅー……?」

「ねぇ、クロノス君……それは、君とギルニウスの作り話とかではなく本当にあったことなのかい?」

「本当ですよ!おかげでこっちは半年近くいつ死んでもおかしくない状況に身を置く羽目になったんですから!」

「お願いだから二人とも信じて!僕も確かにこの目で見たんだよ!実際魔王には殺されかけたし」

「それは俺だ」

「巫女を探して勇者を探してってあちこち走り回って」

「それも俺だ」

「最後には命かけて魔王の封印までしたんだよ!?」

「それは未来のあんただ!ちょっと待てよ、さっきからまるで自分がしてきたみたいに言ってるけど、未来に行ったのは俺一人だけで、あんたは現代で俺の様子を見てただけだろうが!!」

「別次元とは言え未来の僕がしたことならば、それは過去の僕がしたことと言っても過言でもないのでは?」

「過言だよ!!」

「ま、待った待った!二人とも落ち着いてくれないか!?」


眉をしかめながら坂田は俺とギルニウスの言い争いを仲裁に入る。

振り返ってグレイズ国王に意見を求めると、


「グレイズ国王。どう思われますか?」

「うーむ……これがクロノス・バルメルド一人の証言ならば子供の妄言とあしらうところだが……ギルニウス様までもが彼を擁護し肯定するとなると……う、うむぅ……」


グレイズは何度も頭を悩ませ思案を巡らせているのがわかる。

何度も足を組み替え、頰付きする腕を何度も変え目を閉じ考えているが……


「ひとまず、だ……貴殿の言葉を信じる信じないは置いておいてだ。クロノス・バルメルドよ、もし本当に魔王ベルゼネウスが復活するのならば、奴はいつ復活する?その時どこに姿を現わすのだ?」

「……すいません。それは知らないです」


グレイズの質問に目を伏せ答える。

その返答にグレイズは驚き、


「何?ならば我が娘ティンカーベルはいつ大地の巫女として目覚める?国家間の戦争とは?まずどの国が狙われる?大樹ユグドラシルを独占しようと企む者は?既にどれ程の魔王軍の手下が我々の生活に紛れ込んでいる?」

「……すいません、ごめんなさい。俺はその辺の時期や情勢については何も知らないんです」

「何、知らない!?知らないのにも関わらず私や坂田に忠告をしようと来たのか!?その話を聞き入れられるかもしれぬ唯一の綱を!?」

「まぁまぁ、そんな未来の情報持って帰って来たら僕もクロノスもルディヴァに消されちゃうから仕方ないよ。僕らがそうやって慌てふためく姿を見て彼女は楽しんでるんだ」


いや、あの人が慌てふためく姿を見て楽しんでるのは多分ギルニウス一人だけだと思う……

とにかく、俺たちがこうして未来の話をしてもルディヴァが消しに来ないとなると、やっぱり魔王が復活する未来は避けられないと言うことだ。


「国王様、この際魔王が復活するかどうかは置いておいて、一度魔王が封印されている場所に偵察隊を派遣してもらえないでしょうか?」

「そうだな……それが話の真偽を確かめるのに最適か」

「それと国内の貧困解消、国民の幸福度を高めることでしょうか。悪魔は我々の悪感情を糧に力を増して行くのならば、現在からでも取り掛かれる案件はあるでしょうし」

「本当は各国と連携取って、魔王が復活した時に協力できたらいいんだけどねぇ。何なら僕と実際に魔王と戦った相棒で世界中の国回って王様に頼み込む?」

「無理だな」

「無理ですね」

「いや無理でしょ」


ギルニウスの提案を全員が却下する。

そもそもそんな案、俺ですら実現不可能だとわかる。

全員が否定した後にグレイズは神妙な面持ちで語る。


「有事の際ならばともかく、この平和な今の世で『魔王が再び蘇るかもしれないから、協力してこれを討とう』などと提案した所で跳ね返されるのがオチだ。そもそもいつ、どこで、どんな形で復活するとも知れぬ魔王の為に軍備を整えるなど誰もやりたがりはしない。

むしろこれを機に他国に『あの国は悪魔に乗っ取られた国だ』と言いがかりをつけ、戦争を仕掛ける国が出てくる可能性もある。そうなってしまえばもう取り返しがつかない。全ての国家は相手を悪魔に操られた国と捉え、次を滅ぼせばまた次の国、それが終われば次の国と自らが最後の一国になるまで戦争を続ける。

国民は常に他国の侵略と魔王の影に怯え、侵略する側は『悪魔を討つ為』という免罪符を盾に残虐行為が許される。略奪、強姦、虐殺……ありとあらゆる行為がその言葉一つで許されてしまう」

「実際に私とクロノス君のいた世界では、それで過去に幾度も戦争が起きましたからね。何千年経っても国同士での小競り合いは無くならず、過去の遺恨を持ち出しては国際問題になった時期すらありましたし」

「結局、どこの世界でも人の性質というのは変わらぬということか……」


この世界の事情に関して教科書の上でしか知らない俺にとって、グレイズ国王が吐く深い溜息と失望の眼差しを理解することはできない。

坂田も故郷の地球のことを思い出してか暗い顔をするが、その感情も俺には察することができない。

なんせ俺は地球での知識は持っていても記憶まで持っている訳じゃない。

言語や情報を持っていても故郷の思い出は転生する時にギルニウスに消されてしまったので何一つないのだ。

故に愛着がないから坂田と同じ気持ちを感じることができない。

もちろんグレイズ国王にも。

こちらの世界に住んで早四年となるが、自らの育った土地に思い入れはあれど、ライゼヌスという()にはまだ愛着がないのだ。

誰かに話せば薄情に思われるかもしれないが、ニケロース領の一つの村という小さなコミュティでずっと生活しているとどうしてもな……

皆の心に暗い影が差しているのに気づいたのか、ギルニウスが慌てて明るく振る舞う。


「ちょっとちょっとー!みんな暗い表情になりすぎ〜!魔王はともかく、悪感情はこの世にいる全ての悪魔の力になるんだよ?魔王以外にも世界征服を企む輩はいるんだからね!?」

「あ、ああ……そうだ、そうだな……ギルニウス様の言う通りだ。ここで我々が気を揉んでも仕方あるまい。いいだろう、クロノス・バルメルド、貴殿の話を信じることとしよう」

「……ッ!ありがとうございます!」

「魔王ベルゼネウスの復活が偶発的か誘発的にせよ、世界には魔王軍の当時の残党が未だ身を潜めている。それらが封印されている魔王を解放しないとも限らん。何より、国の情勢を安定させるのは王である私の務めだ。他人に促されずとも成し遂げてみせる」


何とかグレイズ国王に話が通り、魔王ベルゼネウスの封印が解けていないかの確認と国内情勢安定化に力を入れてくれることになった!

これでひとまずは安心だ。

しかし、話が決まったにも関わらず「でもさぁ……」とギルニウスが水を差す。


「やっぱり各国に協力を仰いだ方が良くない?なんなら、僕と勇者とクロノスの三人で世界中回って勇者に指揮権集約させる?人族とか獣人族とかは無理でも、エルフやドワーフなんかの精霊族とか海人族なんかは長命で千年ぐらい余裕で生きているのいるし、脅威を知ってるだろうから案外話通るかもよ?千年前だって、勇者に指揮権譲渡させて僕が指示出しながら魔王と戦ったし」

「ギルニウス様、それは無理ですよ」


ギルニウスの提案を再び坂田に却下される。

彼は眼鏡をくいっと上げてから、


「私の世界には『呉越同舟』と言う言葉があります。仲の悪い者同士が同じ場所、同じ目的を共にし行動するというのですが……まぁ要するに仲が悪くても一緒に頑張ろう、みたいなことで使われます。

ですがそれは絶対に無理です。個人ならともかく、国同士となると話は変わります。絶対に戦争が終わった後に優位に立つ為に足の引っ張り合いをします。勇者をトップに置いても何も変わりはしませんし、仲良くなんて絶対しません。我々のあずかり知らぬ所で密約が交わされ、それが原因で内部崩壊するのは必至です。

そもそも勇者といえど、どこの馬の骨とも知れぬ輩にいきなり全指揮権を渡したりすると思いますか?仮に私が国の最高責任者で魔王の脅威を知っていたとしても絶対に譲りませんよ。なぜなら勇者が腹の底で何を考えているか分からず怪しいと、逆に勇者と魔王の繋がりを疑います。そのまま他国に吸収されるかもしれませんし、自国の軍備を消耗させられ丸裸にされた後に乗っ取られるかと疑います。国王様はならどうしますか?」

「まぁ……来た段階でひっ捕らえて独房に閉じ込めるな。それか泳がせて背後関係を探らせる」

「結局、魔王の脅威を知らされたところでいきなり人は手を取り合えはしない。もし本当に指揮系統を勇者に集めるにしてもそれが実現するのは、各国の王が自国を奪われ国を追われ、人類滅亡のカウントダウンが始まる一歩手前まで行って、初めて実現する……それほどまでに難しいことです。前回魔王と時も、かなり切羽詰まった状況だったのではありませんか?」

「あー……どうだったかな?そう言われると、勇者を呼び出したのって割と結構戦争の最後の方だった気がする」

「最後って、初代勇者って異世界人だから人間だろ?若いって聞いてたし、そうなると最後って五年もないだろ……」

「いや、多分一年ないと思う」


短ッ!

呼ばれた年にはもう世界滅びかけてて五大種族まとめ上げて魔王封印とか、初代勇者何者だよ……異世界魔王討伐リアルタイムアタックでもしてたの?


「それまでは種族間でも結構いがみ合いあったし……うん。そう言われると確かにそうかも……」

「となれば、やはりまずは自国のことに集中しなければいけないですね。そういえばクロノス君、未来で勇者には会ったのだろう?ならこの時代でもその人が誰か知っているのだろう?それは誰なんだい?」

「え……?」

「君の話では魔王に有効打を与えられるのは勇者の持つ破魔の剣なのだろう?ならば勇者となる人物も王都に呼んで身近に置き、魔王が復活が判明した際に真っ先に討伐に行ってもらう方がいい。名前ぐらいは知ってるだろう?」


坂田の質問に「あ、いや……」と言い淀む。

二人に未来の話をする際に勇者がエルフの少女のレイリスで、しかもそれが俺の知人であることは話してはいない。

話せばこうなるであろうことは分かっていたからだ。

できればまだレイリスをこの件に関わらせたくはない。

村を出る時に決闘までして発破をかけたのだ。

別れ際の様子では、レイリスは間違いなく強くなってまた俺の前に現れる。

多分ジェイクに剣の教えを乞うだろうから、ジェイクが村に帰る時に口聞きしておくつもりだ。

いくらグレイズ国王が俺とギルニウスがセットの状態でなら話を聞いてくれるとは言え、その家臣までもがそうとは限らない。

そもそも魔王が既に復活し、俺たちの生活に配下の者が紛れ込んでいる可能性もあるのだ。

そんな中にまだ勇者になっていないレイリスを巻き込むことはできないし、それで未来が変わってレイリスが勇者になれない──なんて状況になるのは非常にまずい!!

どうしよう……誤魔化すにしても何と言えば……

何と答えたものかと困り果てていると右肩に乗っていたギルニウスが俺の髪を引っ張る。

肩越しに振り返ると雀のギルニウスはウィンクをしてみせ、


「実は、勇者の記憶はルディヴァに消されちゃってるんだ。だから僕も相棒も誰が勇者になるかはわからないんだ」


嘘をついた……いや、俺も嘘つかれてたからそのことに対して驚きはしないが……ギルニウスが俺の心を読んで同調してきたのだ。


「覚えていない?勇者の名前もですか?」

「うん。やっぱそこは未来の一番重要な情報だからかもね……困ったもんだよ」

「……確かに、その時の女神とやらはかなりの捻くれ者のようですしね……」

「そう!そうなんだよー!いっつも僕を困らせて楽しんでるから……うん……本当にね?」

「ですがそうなると、破魔の剣も魔王の手下に狙われて奪われる可能性は?」

「そこは大丈夫!勇者はわからないけど、破魔の剣の場所は僕が知ってるし、ちゃーんとその秘密を守れる一族に保管させてる。あぁ、でも僕からは教えられないからね?でも僕神だし?悪魔にそんな重要な情報は絶対教えないから問題もないよ!」

「そう、ですね。では残念ですが、勇者に関しては出現するまで待つとしましょう」


坂田の質問を回避することができると再び雀ギルニウスは俺にウィンクする。

……礼は言わないぞ。


「さて、何のことかな?」


俺の心を読んでギルニウスは戯けてみせる。

借りを作るのは癪だが……おかげでこの場を何とかきりぬけることはできるのだった……

次回投稿は来週日曜日22時からとなります!

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