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第二百二十三話 中等部入学準備号

先週は法事の為お休みをいただきましたが、今日からいよいよ第五章の始まりです!


冬が終わり、季節が春となるにはまだ早い時期。

未だ肌寒さが残る風がゼヌス平原に吹き抜け、馬車に乗っている俺たちの髪を撫でる。

野に咲く花も身を震わせる冷たい風にじっと耐え、春の暖かな風を待って蕾を閉じたままだ。

俺が王都に着き中等部の学生寮に移り住む頃には花開かせ、平原一面に花畑としての姿を見せてくれるだろう。

ニケロース領を出て早三日、道中魔物の群れに襲われることもなく、何の問題もなく怖いぐらい順調にキャラバンは進み続けていた。

日が昇って朝食を済ませてから出発し、もう三時間は経っているだろう。

長らく馬車に揺られ、そろそろ睡魔に襲われ船を漕ぎだしてもおかしくはないのだが……


「王都が見えてきたぞー!」


先頭の馬車から声が聞こえ、寝ぼけていた頭から一瞬で眠気が吹き飛んだ。

落ちないように手すりにしっかりと掴まりながら身を乗り出すと、懐かしき|魔王に支配されていない(・・・・・・・・・・・)王都ライゼヌスの外壁が眼に映るのだった。

外壁から内部へ入るための審査も無事に済み、城下町へと馬車が進むと多種多様な種族の人たちが生活を営み、立ち並ぶ露店から客寄せの声が聞こえ、笑顔で走り回る子供たちの姿を見ることができた。

俺が十年後の未来で見たのとは全く違う、魔物ではなく人が住み、廃墟なんてどこにも見当たらない、まさしく平和を体現した光景がそこにはあった。

だからって、さすがにもう感動で涙を流しそうになったりはしないぞ。

もう慣れたから。

商品を卸す為に何台かの馬車はそこで停まるが、俺たちバルメルド一家と荷物を載せた馬車の計二台は停まらずに商業区を突き抜け、上流階級の者たちの家が立ち並ぶ上層区に入る。

やがて訪れるのは二度目となるバルメルド本家の前で馬車は停まった。

三時間馬車に揺られながらも座りっぱなしだったせいもあり、身体中が痛くて地面に降りた瞬間に背筋を伸ばす。


「うあ〜……っ!着いた着いた〜!」

「しばらくはゆっくりできるわね」


凝り固まった体をユリーネとほぐしていると屋敷からぞろぞろと使用人たちが姿を現わす。

皆一様に本家に帰ってきた俺たち一家に「おかえりなさいませ」と頭を下げてると、統率された動きで馬車から荷物を降ろし屋敷に運び入れていく。


「やぁやぁ、よく帰ってきたな」

「皆様、長旅お疲れ様でございます」


荷物を運び入れる使用人の脇からゆったりとした足取りで二人の人物が近づいてくる。

現バルメルド家の当主で祖父のイルミニオと、メイド長のサティーラだ。


「ただいまお父様」

「お父さん、ただいま戻りました」

「うむ。夫婦揃って元気そうでなによりだ。クロノスもよく帰ってきたな」

「お久しぶりです。イルミニオおじいちゃん」

「んー!!二年経ってもクロノスはいい子だなぁ!どれ、お駄賃をやろうか?」


え、お駄賃くれんの?なら欲しい!

と思ったのだが、懐に手を入れるイルミニオにサティーラがわざとらしく二回咳払いをすると、顔を綻ばせていたイルミニオが周囲の目を気にし、ピシッと背筋を伸ばした。


「えー……コホン。クロノスも元気そうでその、何よりだな。まずは初等部の卒業と中等部の入学決定おめでとう。あのサンクチュアリ学園に推薦枠で入れるとは、私も鼻が高いよ」

「ありがとうございます」

「まぁ、なんだ。入寮までの間はこの家でゆっくり過ごすといい。必要な物があればこちらで買い揃えさせよう」


そう言うと威厳ある姿勢を保ったままイルミニオは踵を返して一人邸に戻って行く。

その後ろを見ながらユリーネはサティーラに小声で尋ねる。


「お父様どうしちゃったの?あんなに甘い声で話すの初めて見たわ」

「最近、お孫様たちが可愛くて仕方ないようでございます。他のお孫様にもお駄賃だと金貨の詰まった小袋を隠れて渡そうとしておりまして……」

「あらやだ、歳かしら……?」


ひそひそと話すユリーネとサティーラ。

どうやらイルミニオはジジバカ期に突入してしまったらしい。

孫の位置に当たる俺からすれば別にいいことだと思うんだけど、さすがに小遣いと称して金貨の詰まった袋を渡されるのは……うん、別に問題ないな!

むしろ欲しいわ!


「そうでした、クロノス御坊ちゃま。クラウラお嬢様たちが屋敷でお待ちですよ」

「げっ!」


サティーラの言葉に思わず変な声が出てしまう。

クラウラは俺の姪にあたる人物で俺より年上だ。

だと言うのに、前回来た時は他の甥姪たちと一緒に一日中遊ばされる相手としていて追いかけ回された。

もしかして俺が来るからまた親族が集まってるのか……入寮まで悪魔たちの相手をしなければならないのか……?

ちょっと待って、それはホント申し訳ないがキツイんだけど!?

ホント申し訳ないけど!!

ど、どうしよう、このまま屋敷に入ったら間違いなくあの悪魔たちが一斉に群がってくるに違いない!

長旅で疲れてるのに初日からそんなハードなことをしたくはないのに……!!

甥姪たちが待っていると聞かされ、戦慄を覚え屋敷に入るのを躊躇っていると、また馬車が一台屋敷の門の前に停まる。

しかし俺にもジェイク、ユリーネにもその馬車には覚えがない。

馬車は二台だけのはずだ、三台目はなかったはずなんだけど。

と三人で不思議に思っていたがすぐに謎は解けた。

三台目の馬車は俺たちが乗ってきたような木造の馬車ではなく、二人乗りの箱型の馬車だったのだ。

馬車の扉が開き男が一人降りてきて会釈をした。


「お久しぶりでございます。バルメルド家の皆さま。遠路はるばるライゼヌスまでようこそいらっしゃいました」

「坂田サァン!」


坂田だ!馬車でやって来たのは坂田さんだ!

ナイスタイミング!


「これはサカタ殿。その節はどうもお世話になりました」

「お久しぶりですジェイクさん。この度はクロノス君の初等部卒業と中等部入学おめでとうございま

「お久しぶりです坂田さん!いやぁ、三ヶ月ぶりですね!」

「クロノス君?あ、いや、うん。久しぶりだね……?」

「あーもしかして迎えに来てくれたのですか!?ありがとうございます、わざわざ申し訳ありません!え、ベル王女のお茶会の招待!?あーならすぐ行かないとですね!!さぁ行きましょう!ほら行きましょう!!」

「ちょっと、クロノス君!?」

「というわけで父さん母さん!息子はちょっとライゼヌス城まで行って参ります!みんなによろしく!!」


まだ挨拶が済んでないと渋る坂田を無理矢理馬車に押し込み俺も中に飛び乗る。

ドアを閉める瞬間「逃げたわね」とユリーネの苦笑が聞こえたが、無視して馬車のドアを閉めた。

するとすぐに馬車を引く馬は歩み出し、ゆっくりとバルメルド本家から離れ始めた。

するとすぐ後ろから「あぁ!クロノスがいない!!」と何やら声が聞こえて来たが無視だ無視!

振り返ってはいけない!

馬車の中に備え付けられた柔らかな手触りのする座席に座って坂田と対面した。


「お久しぶりです坂田さん。すいません突然」

「それはいいが、どうしたんだい急に?」

「後ろの悪魔たちと顔を合わせる前に屋敷を出たかったんです……!」


俺の緊迫した声色に何があるのかと小窓から屋敷を見る坂田。

それが何なのかわかった瞬間、納得したかのように何度も頷いてくれた。


「大変だねぇ、転生して貴族の家の養子になるっていうのも」

「いい家に貰えたなってのはいつも思うんですけどね……。それにしても、ほんとナイスタイミングでしたね。俺の方から尋ねようと思ってたのに坂田さんが先に来るなんて。どうして王都に着いたってわかったんですか?」

「教えてもらったんだよ。この人に」


そう言って坂田は被っていたベレー帽を少し持ち上げる。

すると中から小さな影がひょいと飛び降りて坂田の手の平に降り立つと小さな両翼を広げて見せた。


「はーい!僕でーす!」


それは……喋る雀だった。

なんでか知らないけどやたら堂々と胸を張った登場の仕方だ。

が、特に俺は驚きもせず冷ややかな目で坂田の手の平に乗るギルニウスを見下ろす。

俺からの反応がないので不思議に思ったのか、雀ギルニウスは広げていた翼をバッサバッサと傍目かせ存在をアピールしてくるが、俺は特に何も言わない。


「…………」

「……ノーリアクション!?いやいや、なんか言ってよ!?うわー可愛らしい小鳥が喋ったー!とか、うわっギルニウスだー!とか」

「ウワーコトリノギルニウスガシャベッター」

「棒読み!!もうちょっとこうあるでしょ感情!!」

「いやだって、うすうすあんただろうなとは思ってたし、喋ったぐらいで今更感しかないし……」

「なにをォ!?こっちは君を驚かせようと帽子の中でスタンバッテたんだよ!?」

「別に知ったこっちゃ……うわ、やめろ!飛びながら嘴で突こうとするな!狭いんだから!焼き鳥にするぞ!!」

「上等だァ!僕はタレより塩派だよ!?レモンも余さずかけておくれよォ!?」

「知らねぇよあんたの好みなんか!!」


狭い馬車の中で翼を羽ばたかせ飛び回って突いてくる。

手では払おうとしてもギルニウスの方が早くて捉えることができない。

そんな俺たち二人のやり取りを見て坂田は愉快に笑っていた。


「ギルニウス様から、君が信仰するのをやめたと聞いていたんだが……関係は以前とあまり変わらないようだね。安心したよ」

「いや、それはないです」


なにか勘違いしているようなのでハッキリと否定しておく。

対応は以前と変わらないかもしれないが、関係性だけは間違いなく変わったのだ。

もうギルニウスを信仰することはだけは絶対にない。


「それはそうと、どうしてギルニウスと迎えに?」

「ああ、それなんだがね。以前頼まれたことのチャンスができたのでね、それを知らせに来たんだ」

「そしてその為に、僕もわざわざ降りて来たって訳だよ」


以前頼んだこと?と首を傾げる。

俺なにかを坂田に頼んでいたっけっ?と疑問符を浮かべながら思い出そうとするけど……はて?


「忘れたのかい?グレイズ国王と話がしたいというから謁見の約束をしたじゃないか」

「ああ!はいはい!しましたしました!!」

「だから国王様に時間を作ってもらったんだ。ギルニウス様からもお願いしていたみたいで、割とすんなりと要望は通ったよ」

「話の内容が内容だけに、僕も一緒にいないとねー」


そうだった、この国の王様と坂田に未来での出来事を話すつもりだったのをすっかり忘れていた。

馬車に揺られながらライゼヌス城へ向かい、魔王が復活する未来のことをどう説明するか考える。

果たして、俺の話は信じてもらえるだろうか……?

ついに中等部編が始まり、クロノスも中学生となります!

五章もよろしくおねがいします!


次回投稿は来週日曜日22時から!

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