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第二百二十二話 リ:ライフ

三連休だから連続投稿ー!


 レイリスとの試合……と呼ぶには、あまりにも一方的だったものから数日が過ぎた。

 あれ以来レイリスは俺と会話はしなくなり、フロウや他の子供と行動する機会が増えていた。

 嫌われた……ということなのかもしれない。

 そんな俺たちの関係を気遣ってなのか、フロウは毎日のように俺にフロウとその日何を話したのかを教えてくれるようになった。

 逆もまた然り、レイリスには俺が一日どんなことをしたかとか、話をした内容を伝えてくれているらしい。

 レイリスを泣かせたあの日、当然そのことはニールだけではなくエルフの集落全体にも伝わり、噂は尾ひれをつけて村にも広まる。

 そうなれば当然ジェイクとユリーネにも噂は届き、二人には烈火の如く怒られてしまった。

 一応事情を説明したらジェイクは理解してくれたのだが、ユリーネはそれでも怒りを鎮めてくれず、


「どんな理由があっても、女の子を泣かせるのなんてお母さん許しませんよ!女の子を泣かせていいのは、愛を伝えた時だけです!!」


 などととんでもない事を言われ、結局半日近く説教を受ける羽目になってしまい、ジェイクには同情される。

 その事をジェイク、ユリーネに連れられて、ニールとレイリスに謝りに行くことに。

 「子供の喧嘩ですから」とニールはあっさりと許してくれる。

 しかしレイリスは何も言わずすぐに引っ込んでしまった。

 以降関係が改善する兆しは無く、引っ越しの準備に追われている間に日々は過ぎて行き、俺は初等部を卒業。

 いよいよ……俺が王都に旅立つ日となってしまう。


「クロノス、荷物はこれで全部か?」

「はい。俺のは最後です」


 村から王都へと向かう定期便の馬車に荷物を載せ終えひと段落する。

 いつもは露店が開かれている村の中央広場だが、今日は朝早くから馬車が待機しており、俺たち以外にも多くの同乗者がいた。

 馬車は十台で、乗客は俺たちバルメルド家の三人を含めて十五人ほど。

 そこに当家のメイドも一人付いてくるので十六人というところだろうか。

 客以外にも見送りに来ている人たちの姿はちらほら見受けられる。

 俺たちの見送りには留守番のメイド二人とニケロース一家だ。

 初等部のクラスメイトとは卒業日に別れは伝えたし、エルフの集落で顔馴染みの人たちには昨日で挨拶は済ませた。

 ニールは仕掛けた罠に獲物が掛かっているかの確認で、他のエルフと出かけている為姿はない。

 それは事前に知っていたので昨日別れは済ませていたのだが……


「もうすぐ出発だね、クロくん」

「悪いな、こんな朝早くに見送りに来てもらって」

「ううん。でもレイリスちゃん、来てないね……」

「ああ……」


 見送りに来ている人の中にレイリスの姿はない。

 もしかしたらどこかに隠れて様子を見ているのかもと思ったが、左眼の視力を向上させ観察しても物陰から伺っている人物はいなかった。


「フロウ、悪いけど俺がいなくなった後は……」

「大丈夫、レイリスちゃんのことは任せて。手紙書くから、お返事ちょうだいね」

「ああ、必ず書くよ」


 そう言ってフロウに右手を差し出す。

 頷くとフロウは俺の手を取り握手を交わし、お互いにもう一度頷きあう。


「じゃあ、行ってくる。長期の休みには、きっと帰ってくるから」

「うん。楽しみにしてる」

「ああ、それと……レイリスだけじゃなくて、お前のこともちゃんと手紙に書けよ?何かに巻き込まれたり、身近で不穏なことがあれば遠慮せずに教えてくれ。その時は必ず駆けつけるから」

「ありがと、そうするね」

「いいか、絶対だぞ。あとは……俺がいなくなっても、フロウはフロウのままで成長してくれよ?」

「……?うん、わかった?」


 別れ際に連絡と変わらぬことを念押してしまう。

 未来のフロウから少しだけしか事情を聞いていないが、彼は戦争に巻き込まれる。

 もしそれがこちらでも起きるのなら、何としてもフロウが戦争に身を投じるのを阻止するか、助ける為にも関わらなくてはならない。

 加えて成長したフロウの姿を思い出す。

 フロウが女性物のドレスとかを着るのはもはや普通のことだと認知しているとはいえ、未来みたいに筋肉モリモリのマッチョマンになるだけはできることなら絶対に回避させたい。

 きっと未来のフロウがあの姿なのは、未来で起きた戦争が原因だと思うから。

 もっとも当の本人は、どうして俺がそんなに念押ししてくるのか分からずに首を傾げていた。

 フロウと固い握手を交わしていると「そろそろ時間よ」とユリーネが教えてくれる。

 名残惜しさを感じながらも、握っていたフロウの手をするりと放し、俺は馬車に乗り込んだ。


「いいのクロちゃん?レイリスちゃんに会いに行かなくて?」

「……いいんです。また帰ってきた時に、会えますから……」


 ユリーネの言葉に俯向き加減で答える。

 そうだ。また会える。

 別にこれが今生の別れではない。

 休みが取れた時にまた……きっと……

 「王都ライゼヌス行き出発します!」と声が聞こえ、馬が馬車を引いて次々と動き出す。

 俺の乗っている馬車も動き出し、離れて行くフロウに手を振り別れを惜しむ。


「ばいばいクロくん!いってらっしゃい!!」

「またな、フロウ!!」


 未来では別れの挨拶はできなかったが、現代では別れを告げることができた。

 だがそれを思うとどうしても、レイリスの姿が脳裏にちらつき、手摺を掴む手に力がこもる。

 胸が苦しくなり、手を振るのをやめて馬車の奥へと移動しようとすると、


「クロぉぉぉぉ!!」


 レイリスの声がし、振り返って馬車の後部まで戻る!

 姿を探すと、遠く離れていたフロウたちの後ろから全身泥まみれのレイリスが息を切らせながら現れた!


「レイリスちゃん!?どうしてそんな泥だらけなの!?」

「フロウ、クロは!?」

「え、あ、馬車!あの馬車に乗ってる!」


 二人が会話を交わす様子が見え、フロウがこちらを指差すとレイリスが俺の姿を見つけ、馬車を追いかけようと走り出す。

 しかしここに来るまでに相当走ったのか、息は絶えだえで追いつくほどの速度を出せていない。

 挙げ句の果てには足を持つらせ前のめりに転んでしまった。


「レイリス!?」


 転倒したのを目にし思わず馬車から飛び降り、駆け寄りたくなるのをぐっと堪え踏みとどまる。

 レイリスはすぐに立ち上がるが、転んだ拍子に足を擦りむいたのか、膝小僧に滲む血が痛々しい。

 その時に持っていた木剣が地面を転がるのが見えた。

 もしかしたら、集落からここまで走ってくる途中に何度も転んであんなに泥だらけになったのかもしれない。

 足を怪我してもう走れないのに、それでもレイリスは馬車を追いかけようとする。

 だが痛みに顔を歪め、馬車を追いかけるのはもう無理だと判断したのか、落としてしまった木剣を拾うと腕を上げて掲げる。

 それは俺がレイリスと試合をした時に渡して、回収するのを忘れていた物。

 ささくれで怪我をしないようにと、レイリスとフロウが振りやすいようにと、ジェイクの指導で作った物だ。

 仕上げの削りはジェイクがやってくれたので、表面が綺麗で形の整った物になっていたはずなのに、レイリスが手にしている物はヘコみや削れているのが目立つほど状態が酷い。

 一部欠損も見られ、もはや練習用としての役目を果たせるとは思えない状態となっている。

 もし俺に負けた日からずっと振り続けていたとしても、あんなにボロボロになるはずはない。

 連日相当な打ち込みをしなければありえない。

 一体一日にどれだけの素振りと打ち込みをしたと言うのだろうか。

 ボロボロになって木剣を目にし驚いているとレイリスが叫ぶ。


「クロぉぉぉぉ!!ボク、強くなるから!!絶対、クロより強くなるからぁぁぁぁ!!だから、帰ってきちゃダメ!!強くなってクロを倒しに行くから!!ボクから行くから!それまで、帰ってきちゃダメなんだからねー!!」


 目に涙を溜めながら決意を叫ぶレイリス。

 その姿と決意表明に胸を震わせ、馬車から身を乗り出しながら俺も叫び返す。


「わかった!!絶対に帰って来ないからな!?俺も強くなってるからな!?それでも待ってるぞ、レイリス!!」


 木剣を持つ右腕を上げるレイリスと同じように、俺も右腕を振り上げる。

 それ以上言葉は出てこない。

 それだけで、もう別れの言葉とかそんなのは言うだけ野暮だ。

 だっていつになるかはわからないが、必ずまた会って勝負するのだから。

 馬車が村を離れレイリスの姿が見えなくなるまで右腕を上げ続け、ゼヌス平原に出ると清々しい気分で腰を下ろす。

 そんな俺を見て、ジェイクもユリーネも微笑みを浮かべている。


「クロちゃん、良かったわね」

「はい。これで心置きなく王都に行けます」

 

 ユリーネに頷きながらライゼヌスがある方角へと顔を上げる。

 帰ってこないと決めた以上、俺はもうニケロース領に自発的に戻ることはない。

 レイリスが俺を倒しに来るその日まで、ずっと待ち続ける。

 さぁ、これで目的が増えたぞ。

 童貞を捨てるって当初の目的、魔王ベルゼネウスに殺されないようにかつ勇者レイリスと大地の巫女になるベルを守る、そして勇者としてこれから強く成長し続けるであろうレイリスに負けないように鍛える。

 だんだんやることが増えてきた!

 とりあえず俺が最初にすることは一つ。

 並行世界で死んだ俺とは違う未来を歩むこと。

 元々俺は転生したこの世界で童貞を捨てる為に生きていた。

 だけど未来の俺は願い叶わずに死んでしまった。

 だから俺は、未来で見たものと経験を糧にして必ず生き残る。

 同じ未来は決して辿らない。

 一度死んで転生したこの世界で、俺は|クロノス・バルメルド(俺)として、新たな環境でもう一度人生を|やり直し(リ:ライフ)する。

 決意を胸に馬車に揺られながら朝日を見上げて白い光の眩しさを手で遮る。

 今ここからが、俺のスタートラインだ。

 

これにて!第四章本編 完!!

二年近くにも及ぶ連載でついに時の旅人編の本編終了となります!!


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!

次回、第四章間話にて完全完結となります!


次回投稿は来週日曜日22時となります!よろしくお願いします!!

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