第二百二十話 未来から過去への約束
なんか、月曜日まで三連休らしいので土日月で連続投稿しまーす
学校が終わり帰る途中でも、レイリスは俺に一言も話しかけてはこなかった。
それどころか、馬車が村に着くと別れも告げずに一人で帰ってしまう。
仕方なく俺とフロウは、初めて二人だけで家に帰ることになってしまった。
「結局レイリスちゃん、ワタシにもクロにも口きかないまま帰っちゃったね。どうするの?」
「すぐにどうにかするさ。約束もあるし」
「約束?何かレイリスちゃんと約束してたの?」
「ああ、大きい方とな」
「……?」
未来レイリスの方との約束があるから、このまま村を出るつもりはない。
あんまり気乗りする内容ではないけど。
「だけど、クロくん変だよ。ワタシたちに相談も無しに、いきなり王都に行くのを決めちゃうなんて。どうしちゃったの?」
「うーん……まぁ、フロウにならいいか」
もう少し歩けばニケロース家の屋敷が見えてくる。
今は丁度ニケロース家の敷地の雑木林に囲まれた場所だ。
他人に聞かれる心配はないだろう。
足を止め、俺は一度大きく息を吸うと意を決してフロウに問いかける。
「フロウ……もし俺が、魔王ベルゼネウスが復活するって言ったら……お前、信じるか?」
俺の質問にフロウが眉を顰める。
「え、魔王……?」と呟き、何度も一人でぶつぶつ呟き続ける。
まぁ、無理だよなぁと我ながらどうかしてると呆れて──
「信じるよ。クロくんがそう言うなら」
「……え?マジで?」
「なんでクロくんが驚いてるの?」
「いやだって、普通そんなすぐに信じないだろ?」
「よく知らない人にいきなりそんなこと言われたら信じないだろうけど……うん。クロくんが言うんだったら、ワタシは信じる。それが嘘でも、ワタシは信じるよ」
真っ直ぐな目で、嘘偽りのない本心でフロウは俺に答える。
その真っ直ぐな目に見つめられ、思わず俺は言葉を失ってしまう。
だが、小さく笑い腰に手を当て、
「お前、そうやって他人を信じすぎて、いつか誰かに騙されたりしないように気をつけろよ?」
「大丈夫。その時は、きっとクロくんが助けてくれるから」
「言ってくれるねぇ」
フロウから向けられる全幅の信頼が照れくさくて、つい素直にありがとうと言えずに茶化してしまう。
すると突然「あっ」とフロウが何かに気づいて、
「もしかして、クロくんがいきなり王都行きを決めたのってその質問に関係があるの?魔王の復活って例え話とかじゃない!?」
「察するのがはぇーんだよお前は」
やべぇ、もうちょっと質問内容誤魔化した方が良かったかも。
でもルディヴァが飛んで来ないので多分セーフだ。
もしアウトなら、俺がグレイズ国王に知らせようと坂田に面会を持ちかけた段階で何らかのアクションをしてくるはずだ。
でも未だに何もないと言うことは、これがグレーゾーンなのだろう。
はたまた……その程度では未来に変化はないので見逃されているだけかも……
「いいか、言うなよ?誰にもそのこと言うなよ!?」
「う、うん!お口にチャックしておく」
「まぁ、そんなのが関係しているせいで俺はどうしても騎士になる必要が出てきた。その為にももっと強くなって、魔王に殺されない程度の力をつける為に王都に行かないといけない」
「殺されない程度?倒す為じゃなくて?」
「いや、魔王を倒すのは俺じゃなくて勇者だから……」
「ああ、そうだよね。魔王がいるんだもん、勇者もいるよね。あ、ひょっとしてギルニウス様に何か言われたの?クロくん、ギルニウス様の使徒だもん。当然だよね」
「ちょっと待って、なんでお前そのこと知ってんの!?」
「え、だってクロくん。よく「クソ神がー!」とか、「チェストクソ神ー!」ってよく言ってるよね?クロくんの信仰してる神様って言えばギルニウス様だし、言葉の意味がたまにわからないのはあるけど、あれだけ酷いこと言ってるのに天罰とか下らないから、もしかしたらクロくんとギルニウス様って懇意にしてるのかなーって」
嘘やん……俺の普段の発言から子供ながらに俺とギルニウスの関係を既に悟っていたって言うのか?
どんな考察力持ってるのフロウは……?
いやでも俺が迂闊すぎただけかもしれない。
「うん、まぁ……そんな感じ?勇者を手助けする為に騎士になって、なるべく高い地位と発言権を得て力になれるようになっておきたいんだ。だから、王都に行けるなら早いに越したことはない。少しでも俺の野望をスムーズにする為にも、これはチャンスなんだ」
「そうだったんだね……うん。なんか、納得したよ。でもすごいねクロくん!勇者の補佐をするって、それって神様から大役を任せられたってことだよね!?名誉なことだよ!」
「あぁ……まぁ、多少は、ね?」
さすがにレイリスが勇者になるの知ってるから補佐する為、って話まではしなくていいだろう。
どこまでがルディヴァに消されないグレーゾーンかわからないし、俺が王都に行きたがる理由だけで納得してもらおう。
「でも、それなら余計にレイリスちゃんにも、その話はしなくちゃいけないんじゃないな?」
「するさ、もちろん。レイリスにも知っておいてもらわないといけないことだからな」
「だけど、どうやって説得するの?」
「説得する必要はないよ。多分レイリスは、説得するより理解させた方がいい。あんまりいい気持ちはしないけどな」
理解させる、という単語にフロウは首を傾げる。
現代への帰り際に「過去に戻ったらボクをコテンパンにして!」などと未来レイリスに言われてしまった。
しかもその時は手加減するなとか言われてしまうし……いや、あんまり乗り気しないんだけど、未来の本人がやれと言うのだからやっ……た方が、いいのかなぁ〜?
本人が過去の自分に必要なことだと判断してのことなら、なるべく希望に沿うようにしてはやりたい。
その上で、それを上手く利用させてもらうとしよう。
いや、本当に気乗りはしないんだけどね!?
「何をするかわからないけど、あんまりレイリスちゃんを泣かせないようにしてね?」
「ごめん。たぶん少し、いやかなり大泣きさせることになると思う。フォロー頼むね?」
「いいけど……やり過ぎないようにね?」
「ゼンショシマス」
未来レイリスにはするなとは言われたが、一応手加減はするつもりだ。
でも、泣かせないようにする自信は……ないなぁ。
比較的前向きに善処するということを伝え、フロウを家に送って自宅に一度戻る。
着替えて練習用に作った木彫りの剣を二本持ち出し、メイドにエルフの集落に出かけると伝えて足早に向かう。
久方ぶりに訪れるエルフの集落、常に暗雲に覆われていた未来とは違い、夕陽が木々の隙間から溢れ降り注ぎ光に満ちた光景を懐かしむ。
が、感動に浸るのもそこそこにし、俺はレイリス宅へと急いだ。
大樹の内部をくり抜いて造られた家屋で暮らすエルフたち。
集落に住む顔馴染みたちと挨拶をしながら通い慣れた芝生を走り抜ける。
レイリスとニールの住む家に着くと、中に入り名前を呼ぶ。
「こんにちわー!レイリスかニール兄さんいますかー?」
「うん……?やぁ、いらっしゃいクロノス君。珍しいね、こんな時間に来るなんて」
二階から顔を覗かせてたニールが突然の来訪にも関わらず歓迎してくれる。
やっぱり脳内にある十年後の姿と現在の姿を照らし合わせても、何にもわかっていない。
長寿なエルフは歳とっても若い姿の期間が長いのはいいなぁ。
って、今はいいんだよそこは。
「ニール兄さん、レイリスはいますか?」
「レイリスかい?あの子なら、帰ってきてからすぐに遊びに行ったけど……今日、学校で何かあったのかい?帰ってからすごく落ち込んだ表情で、出かける時も元気が無かったんだあの子。何か理由を知ってるかい?」
「あー……っと、それ俺のせいなんですけど……」
言い澱みながらも今日の出来事をニールに伝える。
その際に俺が王都の学校に進学すること、村を離れることも説明し、それが原因でレイリスと喧嘩になってしまったことも……
全ての説明をし終えると納得した表情ながらも、少し申し訳なさそうにニールに謝られてしまう。
「そうだったのか……ごめんねクロノス君。妹がそんなことを……」
「いや、そんな!レイリスが怒るのも当然だとは思います。何も言わずに決めて一方的に言ってしまった俺にも非はありますから」
「しかし、あの子が『バカ』なんて言葉を使うなんて……全く、誰の影響なんだ」
「あ、あはははは……さ、さぁ?誰の影響なんでしょうね……」
ごめんなさい俺なんです、と心の中で謝りながら乾いた笑いで誤魔化す。
「そ、それよりも!レイリスは外なんですね?」
「ああ。村に行くとは言ってなかったし、集落のどこかにはいるはずだよ」
「わかりました。探してみます」
礼をしてから家を出ようとすると「待った」と呼び止められる。
足を止め振り返ると、ニールは俺が手にしている木剣を見つめ、不安げな表情を見せた。
「……君が何をするのか大体の想像はつく。でも手加減してやってくれよ?あの子は、女の子なんだから」
「わかってますよ。手加減はちゃんとします……泣かせない自信はちょっとないけど」
そう呟くとニールは呆れながらも「まぁ子供の喧嘩か」と見守ろうと暖かい目で見送ってくれる。
でもごめんニール兄さん、多分子供の喧嘩で済むレベルにはならないかもしれないです……その時はまた謝りに来るから……
レイリス宅を後にし集落にいるはずのレイリスを探す。
夕方なのもあり、狩や夕飯の買い出しを終えたエルフたちが戻ってきて人が多くなり始める。
それに伴い、遊んでいた子供たちの家族が迎えに来る光景を多く見受けられた。
その光景を遠巻きに眺める一人の少女。
まだ誰の家にもされていない大樹に寄りかかり、もの寂しげな表情を浮かべるレイリスがポツンと立っていた。
「よっ、レイリス」
そんな彼女に小さく笑いながら名前を呼ぶ。
するとレイリスは、俺の顔を見るなりばつの悪そうな顔を見せ逃げようと
「待て待て逃げるなって!」
走り出そうとするレイリスの腕を慌てて掴み引き止める。
捕まってしまい逃走を阻止されたレイリスは、とても居心地の悪そうな顔で顔を伏せてしまう。
もしかして、俺に『バカ』と言ってしまったことを気にしているのだろうか?
「別に昼間のことなら怒ってないよ」
「……本当に?ボクのこと、怒ってないの?」
「ああ。それぐらいで怒りゃしないよ。気にすんな」
ちょっと驚きはしたけどな。
でも、俺が怒っていないとわかるとレイリスは安心した表情を見せる。
しかしそれも一瞬で、またすぐに顔を逸らして目を合わせようとはしてくれなかった。
「なぁ、レイリス。とりあえずそのままでいいから聞いてくれ。話がしたいんだ。ちょっとついてきてくれ」
俺の言葉に振り返り不安げな顔を見せるが、レイリスは素直に頷く。
掴んだ手を離さぬまま、俺はレイリスと集落から少し離れた林の中に連れていくのだった。
次回投稿は明日22時から!
あとちょっとで第四章終わりですぞ!!




