第二百十九話 決めたこと
連続投稿中なので今日も投稿!来週も土曜日投稿!
「なんだクロノス、今朝は随分早いな」
「あ、父さん。おはようございます」
早朝、外で鍛錬をしているとジェイクが屋敷から出てきた。
俺はつい最近まで成人の身体で戦っていたのだが、子供に戻ったら力は弱いし身体は軽いしで違和感をずっと拭えずにいた。
早く子供の頃の感覚を取り戻そうと起きてからずっと玄関前で木剣で素振りしたり走り込みしたりとしていたのだが……そうか、もうジェイクが起きて訓練する時間なのか。
「新生活に向けて気合い十分、と言ったところか?」
「いえいえ、身体に違和感があるから動き回ってただけです」
「どこか怪我でもしたのか?」
「いや、ただの勘違いでした。体調はバッチリです」
心配させないようにガッツポーズしてみせる。
起きてからずっと身体を動かしていたおかげで、子供の身体の感覚にもだいぶ慣れてきた。
成人時と同じ戦い方はできないだろうけど、未来に飛ばされる前の俺よりかは強いはずだ。
「そうだ父さん。ちょっと試合やりましょうよ」
「なんだ突然?」
「王都行ったら寮暮らしになるし、せめて村を出る前に一回ぐらいは父さんに勝ちたいですからね。だから本気で来て下さいよ。手加減無しでお願いします」
「あっはっはっはっはっ!わかったよ。手加減無しだ。君から先に打ち込んで来なさい」
試合を申し込んだら受けてはくれたが、どうやら本気で来るつもりはないらしい。
子供だからって甘く見られてるよこれ。
まぁ、実際手加減してくれていたジェイク相手に一本も取れたことないし、当然の反応なんだろうけども。
しかし甘く見られてたままなのも釈だな。
「……父さん。ちゃんと本気でやってくださいよ?突然仕掛けますからね!?」
「わかってるわかってる。いつでも来なさ
油断するジェイクの背後へと風魔法で一気に回り込み、ジェイクの肩ほどの高さまで跳躍する。
首筋を狙い木剣を振るうと、しっかりとジェイクは自らの木剣でそれを防いでみせた。
「なッ!?」
「うぇッ!?」
不意の一撃を綺麗に防がれるなんて……でも、そうこなくっちゃ!
木剣を押し返されたので一度距離を取る。
しかし、まさか最初の一撃で背後を取られるとは思っていなかったのか、防いだ癖にジェイクは些か面喰らった顔を見せていた。
動揺を隠そうとしているものの、まだ信じられないといった様子だ。
困惑しているその隙に一気に畳み掛ける!
両足にマナを練り上げ、再び風魔法で瞬発力と跳躍力を強化し跳び上がって木剣を振り下ろす。
だけど、やはり子供の俺の力が弱いからか、軽々とそれを受け止め流されてしまう。
何度か同じやり方で木剣を叩き込むが、身長差を埋めて打ち込む為に一回一回飛び上がって振り上げるせいか、簡単にいなされてしまっている。
でも、ちょっと楽しくなってきたぞ……なら今度は!
もう一度跳躍するフリをして、駆け出すとジェクの股の間を潜り抜け背後に抜ける。
そのまま背中を斬りつけようとしたが、振り向きながら木剣を振り上げたジェイクの一撃で、俺の木剣は手を離れて宙へと打ち上げられてしまう。
だがまだ終わりじゃない。
風魔法で空高く跳躍し木剣を回収する。
着地して背を見せると、その隙を突いてジェイクが斬りかかってくる!
対して俺も振り向きながら木剣を突き出し、お互いに喉元を狙う一撃を繰り出し──!
「そこまでッ!」
屋敷から声が聞こえ、俺もジェイクも動きが止まる。
横目で声の主を探すと、二階の窓からこちらを見下ろすユリーネの姿を見つけた。
険しい表情で俺たちを見下ろすユリーネだったが、次の瞬間にはニコッと笑い、
「二人ともおはようー!」
「「……おはよう」」
「早くから二人とも熱心ねー!でも私お腹空いちゃったわ。すぐにご飯にしましょう!二人も早く来てね!」
それだけ言うとユリーネは窓を閉めて姿が見えなくなる。
まぁ要するに……もう止めろとユリーネは言ったのだ。
お互い本気で打ち合っていたからユリーネには恐ろしく見えたのだろう。
だから遮って、朝食を急ぐことで阻止しようとした。
おそらく試合を続けようものなら、今度は玄関からユリーネが飛んで来るだろう。
互いに喉元に向けた木剣をすんでのとこで止めた姿勢のまま、目を見てジェイクと小さく笑う。
「朝ご飯……食べましょっか」
「……そうだな」
二人ともそれ以上やり合う気になれず木剣を下ろす。
続けていればヒートアップして怪我をしていたかもしれないし、ここらが止め時だろう。
「しかし驚いたな。クロノス、いつの間にそんな動きができるようになったんだ?昨日とは別人みたいだったぞ」
「ちょっと色々戦い方を思いついて試したかったんですよ。まさか一発目から完璧に防がれるとは思いませんでしたけど」
未来で影山からもらった魔道具は俺の手元にもうない。
だから自分で魔道具を装備している時と同じ戦い方ができないかと思い実践してみたんだけど……やっぱりあれは自力ではできそうにない。
魔道具は常に魔法効果が付与された状態で、使いたい時に使えるが、自前でなるとなると頭で常に魔法の効果をイメージし続けて維持しなければならないから難しい。
やはりあの魔道具はいい物だったんだなぁと再確認する。
なんとかこちらの時代でも手に入れられないものだろうか。
「ともあれ、改善の必要がありそうです。対面してみてどうでしたか、父さん。何か気づいたこととかは?」
「そうだな。まず初動が遅いから見極め易い。あのやり方で戦うのならもっと早くないと避けられるだろう。それから──」
ジェイクの意見を元に戦い方を改善することにする。
でもこれでもまだ足りない。
もっと、もっと強くならなくては生き残れない。
その為に、俺は王都行きを決めたのだから。
✳︎
「あ、俺王都の学校に行くことにしたから、近々この村を出て行く」
「「………………え?」」
初等部の昼休み。
校舎外の芝生で一緒に昼食をとっていたレイリスとフロウに王都行きを伝える。
レイリスは手にしていたパンを持ったまま固まり、フロウは口に頬ばろうとしていたおかずを芝生に落としてしまう。
俺は気にせず、手にしたパンを一口サイズに千切って口に放り込んだ。
前回の時はどのタイミングで言うか悩んだものだが、今回は割とスムーズに伝えられたな。
と言うか、どう考えてもこのタイミングでしか言えないだろう。
「え、いや……いやいやいや!ちょ、ちょっと待って待って!?え、村を出る!?え!?いやいやいやいや!?」
「落ち着けフロウ。弁当落とすぞ」
「全然落ち着いてるよ!?クロくんこそ落ち着こう!?ね!?どういうことなのか説明してよ!?」
「ちゃんと説明するって」
取り乱すフロウと固まったままのレイリスに昨日のことを説明する。
王都からの推薦状が来たこと、サンクチュアリ学園に行くこと、休みの時に顔を見せるつもりではいるが、卒業まで帰ってこれるかわからないこと。
俺の説明を二人は黙って聞きき、全てを説明し終えるとフロウが呟く。
「ずっと……一緒にいれると思ってたのに」
「俺もな……でも、それじゃあ駄目なんだと気づいた。気づいてしまったらもう立ち止まってはいられない。どうやら俺は、走っていないと死んじまう病にかかったらしい。だったら走るしかない。だから俺は王都に行く。もう決めたことだ」
「……して」
ずっと口を開かなかったレイリスがぼそりと呟く。
何を言ったのか聞き取れなかったのだが、突然立ち上がると、
「どうして勝手に決めちゃったのさ!?クロが王都に行ったら、ボクたちと会えなくなるなんて……」
「ずっと会えないって訳じゃない。長期の休みがあれば戻ってこれるし、卒業すれば戻ってこれる」
「でも卒業しても、こっちに戻ってこないで向こうに残るかもしれないでしょ!?クロの目指してる高等部は王都にあるんだから!」
「それはそうだ。俺の目的は王都の高等部に行くことだからな。だけどさっきも言ったろ、会おうと思えば戻ってこれる。それにもう決めたことだって」
「なんでそんな大事なことを……!一人で決めちゃうんだ!クロのバカァ!」
「バッ、バカァ!?」
あのレイリスが「バカ」なんて言葉を使ったぁ〜!?
今まで一緒に居たけど初めて聞いたぞ!?
誰だよレイリスにバカなんて言葉教えたの!?
……あ、俺か……?
レイリスはもう一度「バカァ!」と俺を罵倒すると走り去って校舎に戻ってしまう。
その様子を他の生徒たちにも見られていたのだが、みな関わろうとせずヒソヒソと噂話をしている。
フロウも呆れた顔で俺を見ているが、俺はどうもせずに食事を続ける。
結局その日、学校が終わるまでレイリスが俺に口をきいてくることはなかった。
次回も土曜日22時からです!
よろしくどうぞー!




