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第二十話 集落に行こう


 俺、レイリス、フロウ、ニールの四人で山の中腹にあるエルフの集落を目指す。

 冬が近づき紅葉した木々が生い茂る山道を歩いている。

 ニールの引く荷車に乗せて貰い、俺たちは景色を眺めながら移動していた。

 ちなみに、その後ろを気づかれないようにバルメルド家とニケロース家のメイドが一名ずつ付いてきてる。

 心配なのはわかるけど、はっきり言ってかなり怪しい。

 エルフの集落に近づいた時に捕まらないといいけど。

 村からエルフの集落まではおおよそ一時間かかるらしい。

 そんな長い距離をニールとレイリスは毎日往復してるのか。


「木の葉っぱが紅くて綺麗ね」

「でも、もうすぐ散っちゃうんだよね〜。春が来るまで紅いままだといいのに」

「二人ともわかってないな〜。紅葉が散る様、冬を越え新たな葉が芽吹く様、そして春に新たな花が咲く様……この三つがあるから風情があるんじゃないか」

「クロノス君って、歳の割に渋いところあるよね」


 荷車から見る景色に談笑しながら山道を往く。

 こうしてのんびりと紅葉を眺めるのも、もう随分と久しぶりな気がした。

 前世ではどんな生活をしていたのかもう思い出せないけど、こうして紅葉をじっくりと眺めるのはもう何年ぶりだろうか。


「すいませんニールお兄さん。荷車に乗せて貰って」

「子供の足じゃ山道は大変だからね。村から帰る時は、レイリスをいつもこうやって連れ帰ってるから大丈夫だよ」


 山道に入ってからずっとニールに荷車を押してもらいっぱなしで申し訳ない。

 本当は自分の足でも登れると思うんだけど、ここは素直に甘えておこう。

 村着いたらぶっ倒れるまで遊ぶことになるだろうし。

 そろそろ山道を登って三十分ぐらい経つ頃、一本だった山道に分かれ道が見えた。

 分かれ道の先には柵で作られた扉があり、その前に二人のエルフが槍を持って立っている。


「ニールお兄さん、あれは?」

「あれは門番だよ。あそこは立ち入り禁止の森なんだ」


 立ち入り禁止の森──と聞いたら思い当たるのはただ一つ。

 あそこは禁断の森の入り口なのだろう。

 決して入ってはいけない森。

 何があるのかジェイクとユリーネは教えてくれなかったが、神様には近づくなと言われた場所だ。

 門番のエルフはこちらに気づいたのか手を振る。


「ようニール!ご苦労さん!」

「そっちこそ!変わりはないか?」

「暇過ぎて退屈さぁ」

「おい、気を緩めるなよ。我らの仕事はとても重要なことなんだからな」

「わぁってますよ」


 真面目そうな青年エルフと気だるそうな青年エルフ。

 彼らはニールの知り合いみたいだ。

 門番は荷車に乗っている俺たちを見て驚く。


「おいおい、誰だそこの二人?」

「人族の子供かぁ?」

「あぁ、あれは村の領主の子と騎士の家の子だよ。ほら、前にレイリスが攫われた時に助けてくれた」

「おぉ、バルメルド家の子か!」

「そっちのお嬢ちゃんは領主の子って……お前の妹どんな交友関係してんだ」


 気だるそうなエルフが俺とフロウの正体に若干引いている。

 貴族の子供が友達なんて普通の家に産まれたら、まずそんな関係持てるのは稀だろう。


「今日はこの子たちを集落まで連れて行くんだ」

「その子たちか、昨日の話に出てたの」


 ニールが門番と話をしている間、俺は柵の向こう側に広がる禁断の森の内部が気になった。

 森の入り口は木々の影で暗闇に包まれており、奥まで見通すことができない。

 ま、こうゆう時は右眼の出番だな。

 右眼に魔力を込めて夜目の能力を発動。

 瞼に影ができるように右手で覆い、暗闇を見通せるようになった右眼で森の中を覗こうとする。


「んん……?」


 じぃっと暗闇の中を見つめていると、何か動く物が見えた。

 あれはなんだろう?

 そう思い更に意識を集中させて……見つけた。

 森の中を移動している、あれは青白い光?

 それがどんな生物なのか、もっとよく観察しようとしと意識を込めた瞬間、丸く大きな赤い眼が見えた。


「うわっ!」


 俺は驚いて荷車の上で倒れこんだ。

 何だ今の!?

 見えていた青白い光が消え、いきなり赤い眼が見えた。

 森の中と、今俺たちがいる外では結構距離があるはず。

 でもあの赤い眼は、俺を見ていたような気がする。

 確かにここには近づくの止めた方がよさそうだ。


「クロくん、どうかしたの?」

「あ、いや、ちょっと虫が」


 いきなり倒れこんだ俺を見てフロウとレイリスが不思議そうにしている。

 俺は笑って誤魔化すと体を起こした。


「さ、そろそろ行こうか」


 門番と話終えたニールが再び荷車を引いてくれる。

 俺たちは手を振り門番に見送ってもらい、また山道を進む。


「ねぇレイリスちゃん。さっきの森は何かしら?」

「あれはねー、禁断の森って言うんだよ」

「禁断の森?入っちゃいけない森の?」

「うん。あの森の入り口は、いつもボクらの集落の大人が守ってるんだよ」

「昼は俺たちエルフ族が、夜は村の騎士団の人が交代で見張っている。あの二人は騎士団に所属しているんだ」


 ニールが足りない部分を説明してくれる。

 そうか、今のエルフ二人は騎士団に所属してる人たちなのか。

 でも、騎士団が入り口を見張ってるってことは、あの森で見た赤い眼の正体が判明したぞ。


「ニールお兄さん。騎士団絡みってことは、いるんですね?」

「……いるよ。だから子供たちには立ち入らないようにキツく言い聞かせる。あそこは大人でも危険な場所なんだ」


 やっぱりさっきの赤い眼は魔物か。

 この世界の魔物は大蛇と口裂け狼だけしか見た事はないが、どちらもいい思い出はない。

 できればもっと力を付けるまで関わりたくはないものだ。


「クロノス君。君はしっかりとした子だから心配ないだろうけど、これだけは約束してくれ。絶対に、レイリスを禁断の森には近づけないと」


 俺だって近づきたくない。

 それにレイリスは、俺がこの世界に来て初めてできた友達だ。

 できれば危険な目に遭わせたくはない。


「わかりました。約束します」

「君ならそう言ってくれると思った」


 ニールから確かな信頼を感じる。

 いつかこの人とも、ゆっくり話をしてみたいものだ。

 男同士の話をしていると、レイリスとフロウが顔を覗かせる。


「ねえねえ、クロもお兄ちゃんも何の話をしてるの?」

「ニールお兄さんと秘密の話だ」

「秘密?どんなお話なんですか?」

「そりゃ、秘密なんだから教えないよ。ね、お兄さん」

「ああ、秘密だな」


 みんなで笑いながら山道を進む。

 目的地のエルフの集落が見えてきた。

 木で作られたアーチ、そして木の中をくり抜いて作られた家。

 そして大勢のエルフたちがそこで暮らしていた。

 俺が初めて訪れる亜人の集落だ。

ストック切れそうなんで30日分はお休みします


明日よろしくオナシャス!

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