第二百二十五話 バイバイ未来(前編)
もうすぐ7月ですね!
そろそろ次のアニメが始まるんだイェア!
俺は暗雲立ち込める空を床に寝転びながら眺めていた。
体内残っているマナはほとんどなく、ほぼガス欠状態。
全身筋肉痛みたいに痛いし、頭はクラクラするし、正直言ってもうこのまま寝てしまいたい。
でも、今だけは絶対に眠りに身を委ねたくはなかった。
見上げる空は、この時代に来てから一度も晴れたことはない。
常に暗雲に覆われ、時には雨が降る最悪の天候が何年も続く時代。
その空が、今まさに変わろうとしている。
空を覆う暗雲が散り散りになり、ほんの僅かだが、雲の隙間から光が溢れる。
俺にとっては何ヶ月ぶりか、しかしこの時代の人々にとっては何年ぶりかの光。
それはライゼヌス城最上階で身を投げだし空を眺める俺たちに降り注ぎ、次第に暗雲が全て消えると、そこにはどこまでも続く青い空と燦然と輝く太陽が地上を照らしてくれるのだった。
「あー……みんな、生きてるー?」
「なんとかね……」
「ああ。生きてるぞ」
「わ、私も生きてます」
「ボクも兄さんも無事だよ……」
「奇跡的にね。背中が痛くて、寝返りは打てないけど」
五人の声が聞こえ安堵する。
ニールが重傷を負ったものの、全員生きている。
誰一人欠けることなく、全員がボロボロの身体で寝転び、一人を除いて同じ青い空を見上げている。
ようやく終わった、暗黒の時代の終わりを感じていた。
ふと、柔らかな風が吹いて俺たちの間を吹き抜けていく。
それに乗って聞こえてくるのは、大勢の歓声。
全員起き上がって下を覗いてみると、ゼヌス平原で魔王軍の注意を引いてくれていた誘導部隊が、歓声と共にこちらに手を振っているのが見えた。
平原にはもう悪魔の姿はどこにもなく、あるのは笑顔に満ち、青い空と太陽を見れたことに感激し泣いている人々の姿だ。
「ベル、手を振り返しやりなよ」
「え、私一人で……ですか?」
「王女様なんだから、戦ってくれた人たちに笑顔の一つぐらい見せてやれよ。ほら」
俺が促すとベルは、やや困った様子ながらも笑顔で手を振り返す。
それを見て人々はさらに大きな歓声を上げ、次々とライゼヌス城下町へと流れ込んで行った。
多分城前まで走ってくる気なのだろう。
「ねぇ、ところでボクたちが戦っていた魔王はどうなったの?他の悪魔たちは?」
「それなら心配ないよ」
レイリスの疑問に俺たち以外の人物の声が聞こえ答えてくる。
警戒し振り返ると、金髪で白い羽衣を身に纏った優男が床に転がった拳大の大きさ程ある水晶を拾いあげ、
「魔王ベルゼネウスはこの水晶に再び封印された。魔王が封印されたことを知った他の悪魔たちも、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていったから、もう襲っては来ないよ」
「……ッ!ギルニウス!!」
フェレットではなく、久しぶりに見るギルニウスの人間体としての姿。
こちらに微笑みかける彼を見て、俺は名前を呼びながら駆け寄る。
そんな俺を見てギルニウスは両手を広げ迎えようとしてくれ、俺はそれを前に思い切り飛び込み──全力で顔面を殴り飛ばす!
「うらァ!!」
「ぶべらぁ!」
変な奇声を上げながらギルニウスは吹き飛び、手にした水晶だけは決して放すまいと抱きしめながら床を転がった。
「ふぅー!!ここ最近で一番スッキリしたぁ!!いやー青い空が見えるし太陽もあるし、晴れ晴れとしてまるで今の俺の心のようだな!!」
「いやこっちは全然そんな気分じゃないよ!?なんで殴ったのこの罰当たりめ!!」
「むしろなんで殴られないと思ったんだよ。俺とあんたの今までの関係を振り返れば当然の結果だろ」
前々から一発ぶん殴りたいとは思っていた。
ただフェレットの姿だと殴る気が失せるし、本気で殴る訳にはいかないからずっと我慢してきたのだ。
でもようやく人間体として目の前に現れたのなら、一発は殴っておかないとな!
「正直もう何発か殴りたいところだけど、この時代にとってめでたい日だからな……今日はこのぐらい勘弁してやる」
「今日“は”!?」
殴り飛ばしたギルニウスが何故か驚いた顔をしているが、俺には何に驚いているのか皆目検討がつかない。
そんなやり取りをしていると、恐る恐るベルが顔を覗かせ、
「あの、慈愛の神ギルニウス様で……お間違いないでしょうか?」
「そう!その通り!この僕こそが君たち全ての種族を愛し見守り続けてきた、慈愛の神ギルニウスさ!直に会えるなんて、みんなラッキーだね!」
「本当にアレが神様だったのね……」
「肖像画の通りの人物ですね。あれは誇張じゃなかったのか……」
「そこの悪魔とエルフ!ばっちり聞こえているんだからね!?なにそのちょっと残念そうな顔は!?」
影山の肩を借りながらニールが立ち上がり、ティアーヌと二人で残念そうな物を見る目で見つめられ神様は激怒する。
まぁフェレットの頃と変わらぬ言動だと、実物を見たらそういう感想も出るだろう。
「それで慈愛の神様とやら?その水晶に封印された魔王はもう二度と復活することはないのか?」
「いい質問だね、ミスター影山。その答えはぁ……?僕にもわからないです!」
「ふざけているのか……?」
「いや、こいつこれで大真面目ですよ」
ちょっと苛立っている影山に一応フォローを入れておく。
ニールに肩を貸してなかったら詰め寄りそうな雰囲気だ。
「ねぇギル、わからないってどういうこと?封印はできたんでしょ?」
「封印はね。でもこの封印が絶対的に、それも永遠に続くとは限らない。正直千年前に封印した時、僕は絶対に魔王には封印は解けないと思い込んでいたし、自信もあった。けれどその予想を覆し、魔王ベルゼネウスは復活し地上を支配した。以前の力任せな支配ではなく、残忍で狡猾な手口で僕たちの力を削ってからね。
僕はいつも周りに言ってるけど、神は多能であっても万能じゃない。一度封印を破られ支配を許してしまった以上、僕はもう君たちに絶対に魔王が復活することはないって胸を張って言えないんだよね。しかも今回に関しては、神である僕は完全に魔王の策略に嵌ってしてやられたワケだし」
「そうだよな。後手後手に回り過ぎて、あんた俺並みに役立たずだったしな」
「しょうがないでしょお!?信仰ほとんど失ってフェレットになっちゃったんだからぁ!!」
俺の指摘に悲痛な叫び声を上げるギルニウス。
それに全員が笑うが、すぐに真面目な顔に戻る。
「一応、今回の封印は前回よりも強固なものにはしておいた。でも復活する要因が何になるかはわからない。また自力で封印を解かれるかもしれないし、悪意を持つ者、魔王復活を目論む者、例を挙げればキリがないくらい復活の要因はある。だから僕にできることと言えば、前回よりも強固な封印を施し、前回よりもより厳重に保管して、前回以上に監視をつけれることぐらいだ。それで納得していただけるかな、ミスター」
「わかった。他の人々もそれだけしてもらえるなら、ひとまずは安心できるだろう」
影山の一言で合点がいく。
俺の時代ではこれから魔王が復活するだろうけど、未来ではまた魔王が復活するかもしれないという恐怖を覚えたまま復興をしていかなければならない。
それなのに、前回と同じ封印と管理方法のままなんて言ったら、恐ろしくて元の生活なんて送れはしないだろう。
「じゃあ、これでもう僕たちの戦いは終わったってことでいいんだよね?」
「ところがどっこい、そうはいかないんだよレイリス。魔王は封印できたけど、ベルゼネウスが力を取り戻す為に生贄にされた巫女たちは、まだこの世界のどこかに幽閉されたままだ。さっきは僕が残った力を振り絞って意識だけは呼び寄せることはできたけど、彼女たちを全員助けないと完全な解決にはならない。それに──」
話の途中で突然ギルニウスの身体が光りだす。
光り出した身体は人としての輪郭を保てなくなり、どんどん収縮して小動物程の大きさになってしまう。
光りが収まると、俺たちの目の前にはまたフェレットの姿となったギルニウスがいた。
「僕も信仰を失ったままだから、勇者である君の力を借りないと助けられないんだ。だから世界中を周りながらギルニウス教を復興させて、旅の先で巫女たちを助ける!それが達成されて始めてこの戦いは完全決着となるってことだよ!」
「主目的と副目的が逆に聞こえる気がするのは私だけかしら」
「安心しろ魔女。俺にもそう聞こえた」
どうやら魔王を倒しても、まだまだこの世界ではやることが多そうだ。
できることなら、俺も最後まで付き合いたい。
けどきっと……
「相棒」
「ん?なんだ?」
「わかってるとは思うけど、多分君はここまでだ」
「ああ……だろうな」
心を読まれたのか、ギルニウスにそう言われて肩を竦める。
それを見計らったかのように空から光の柱が降り注ぎ、時の女神ルディヴァが舞い降りてきた。
突然見知らぬ人物がどこからともなく現れ、俺とギルニウス以外は彼女に警戒する。
しかしルディヴァは笑顔を浮かべると、
「どうもぉー皆さん初めましてぇ。慈愛の神ギルニウスの後輩、時の女神ルディヴァです。もう会うことはないでしょうけど、警戒はしないでくださいねー」
「ギルニウス様のお知り合いですか?」
「うん、まぁ……説明の通り僕の後輩。怒らせると消されるから、あんまり刺激しないでね?」
「聞こえてますよー先輩」
レイリスの肩に乗り移りながらギルニウスが小声で教えるとルディヴァが笑顔のまま杖を振ろうとする。
いや、さすがに冗談ではあるだろう。
まさかここまで来て俺たちの歴史全部消したりなんてことはしないだろ。
……しないよな?
「でも残念でしたねー先輩。せっかく元の姿に戻れたのに、またフェレットになっちゃって」
「そう思うんなら、ルディヴァの力で信仰を失う前の状態に僕を戻してくれよ!時の女神なんだからできるでしょ?」
「嫌ですよー。そんなことに力使いたくないですし。実は私、フェレットになった先輩のユーモラスな姿」
「は?ユーモラス?」
「じゃなくてぇ……ユニークな姿!そう、ユニークな姿が大好きなんですよぉ!他の神には真似できない!まさに先輩だからこそできるユニークさが気に入ってるんです!」
「え?そ、そうかなぁ?僕ってユニーク?」
「はいぃ!とってもぉ!」
ルディヴァに乗せられすっかりその気になってしまったのか、すごく嬉しそうに照れるギルニウス。
でもユニークって褒めてないよな、絶対。
「さ、先輩のユーモラスな姿はひとまずおいといて」
「ちょっと待って、今ユーモラスって言わなかった?」
「約束の時ですよ、クロノス・バルメルド。あなたを元の時間に帰す時です」
まぁ、そうだよな。
前に魔王を倒したら迎えに来るって言っていた。
そしてそれが果たされた今、もう俺がここに残る理由はない。
まだ心配なことはあるけど、これ以上未来の人たちに関わり続けるのはルディヴァの心情を下げてしまうだろうし。
「クロ……?」
「バルメルド君、貴方は……」
ルディヴァの言葉でみんなが俺に視線を向けてくる。
事情を知っているのは影山だけだ。
できれば知られずにひっそりと帰りたかったのだが、こうなっては説明しない訳にはいかないだろう。
なんて説明したものかと頭を掻きながら少しみんなと離れる。
ここはもう、シンプルに答えてしまおう。
「みんな、実は俺は……この時代じゃない、過去から来た人間なんだ」
「知ってる」「知ってるよ」「知ってました」「知ってるわ」
「ええええ!?みんな知ってるの!?」
だいぶストックが溜まってきてしまったので、四章終わるまで二話づつ投稿しようかと思います。
と言うわけで、来週からは土日で連続投稿しようかと思います!
次回は来週土曜22時の投稿となりますので、よろしくおねがいします!!




