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第二百十二話 世話の焼ける神様

ついに6月入っちまいましたよ……

四章の終わりはもうストックで執筆できてるんですけどね……やっぱり連続投稿をどこかでやるしかねぇ!


「坊主!!」


 魔王の大剣を受け、盾を弾かれた衝撃で身体ごと足場から吹き飛ばされてしまった。

 俺を掴もうとする影山の手が空を切り、俺とギルニウスはそのまま遥か上空から、レンガ造りの城下町の地面めがけ落下していく!


「ぎゃああああああ!!落ちる落ちる落ちるぅぅぅぅ!!トマトになるぅぅぅぅ!!」


 身体が放り投げたら衝撃で服の中に隠れてたギルニウスが外に飛び出してしまい、俺の服にしがみつきながら悲鳴を上げる。

 このままだと数分も経たずに地面に激突してしまう!


「おいギルニウス!喚いてないで自力で空飛ぶぐらいはしろよ!一応神様でしょーが!!」

「フェレットには空飛ぶ能力なんて与えてません!!ひぎゃぁぁぁぁ!?」


 風圧に耐えられず、手を離してしまったギルニウスが俺の元を離れ吹き飛ばされた。 

 強風に煽られ身体を回転させて悲鳴を上げながら。


「ったく、世話の焼ける神様だな!!」


 握りしめていた剣を一度手放し、ツールポーチに手を伸ばす。

 この風圧じゃ剣を鞘にしまうなんてできそうにないし、左腕には盾があるから満足に動かせそうにない。

空いた右手でポーチから氷と風の魔石を取り出すと、身体を丸めて風圧から守るようにして魔道具の魔石を挿し換える。

 グローブには氷、ブーツには風の魔石を。

 まずはグローブに装填した氷の魔石で氷の足場を作る。

 その上に飛び乗り、剣を回収して鞘に戻してから今度は風を装填したブーツの力で思い切り飛び上がり、まだクルクルと空中で回っているギルニウスを捕まえた。


「ひぇ……ひぇ……た、助かった」

「随分楽しそうだったな?」

「どこが!?ぜんっぜんですけど!?」

「そうかい。このまま上まで戻るぞ。今度は落ちるなよ!」


 ギルニウスをズボンのポケットに無理矢理押し込み、先程と同じ要領で氷の足場を作り、その上に乗って跳躍する。

 それを何度も繰り返して上へ上へと昇り続けて、魔石のマナが切れるギリギリでようやく最上階を飛び越えた!

 見下ろすと魔王からベルを守るようにしてレイリスたちが対峙している。


「ティアーヌさん!」

「……えっ!?バルメルド君!?」

「ワイバーン戦の時と同じやつ!!」


 空から叫ぶと全員の視線がこちらに向けられる。

 俺の無事を喜ぶ者や、どうやって空から戻ってきたのか戸惑う者もいるが、魔王の表情がもっとも印象強く目に焼きつく。

 なぜ──なぜまだ立ち向かってくるのか?

 そう言いたげな表情だ。

 だから俺は|攻撃(答え)をくれてやる。

 グローブの魔石を水に換え、背に装着していた弓を掴み取り、矢筒から三本取り出し、一本目を弦に乗せて引き絞り、


「水よ!蛇となって敵に嚙みつけ!」


 矢に魔法効果を乗せて一本ずつ放つ。

 ニール程連射速度は早くはないが、魔王に向けて確実に一本ずつ。

 その全てに水魔法が付与されている。

 矢の周りを水で生成した蛇が包み、ベルゼネウスへと降り注ぐ。


「子供騙しにも程がある!!」


 俺の技を一喝と共に大剣の一振りで弾き飛ばされてしまう。

 だがそこで終わりではない。

 弾かれた矢に纏っていた蛇が衝撃で水に戻り、鎧を失ったベルゼネウスの全身を水浸しにしてくれる。


「ティアーヌさん、今だ!!」

「《雷の精よ、天轟く一条の光となりて、彼の者に裁きの鉄槌を下せ!ライトニングスピアー!!》」


 俺の意図を読み取ってくれていたティアーヌは既に準備を完了していた。

 ワイバーン戦の時と同じ、俺が水を被せた相手にティアーヌが高威力の雷を魔法を放つ。

 ティアーヌが杖を空高く掲げると暗雲が光り、槍のような落雷が魔王へと降り注ぐ!


「ぐぬぅ……!!」


 苦虫を噛み潰したような表情を見せながらも、ベルゼネウスは左腕を空へと伸ばす。

 それに呼応し、周囲を取り囲んでいた瘴気が素早く収縮、主人の身を守ろうと盾のように頭上に展開した。

 それと同時に落雷が瘴気が接触した衝撃音と光りに、思わず腕で顔を覆い視界を塞ぐ。

 雷が鳴り響く音の中にベルゼネウスの悲鳴が入り混じって聞こえた気がしたが、それは轟音による耳鳴りでの勘違いだったかもしれない。

 音と光りが収まり、もう目を開けても大丈夫かと目を開けると、正面に半壊した柱が迫っており──


「あっぶ!!」


 咄嗟に身体を捻らせて丸くなり、背中から激突して床に倒れる。

 風をクッションにしようと、風魔法で柱と身体の間に突風を起こして激突を軽減しようと思ってたんだけど、落下する勢いの方が強くてあんまり意味なかった……普通に痛い!


「っつう……!!着地する時のことまで考えてなかった……!!」

「しっかり相棒!それでも、魔王には強烈な一撃を与えられたはずだよ!!」


 そうだ、魔王は!?

 背中の痛みに歯を食いしばりながら顔を上げる。

 視線の先、そこには雷に打たれ、全身を震わせながらもかろうじて立つ魔王の姿が。

 身体を焼かれ、上半身が焼け焦げていた──一部分だけが(・・・・・・)

 さっきの瘴気で直撃を防いだのか!?


「この程度で……オレが殺せると!思ったかァ!!」


 魔王が咆哮と共に大剣で空を薙ぐ。

 すると刀身から漆黒の斬撃が放たれ、円状に広がりながら階全体に広がり迫ってきた!

 俺たちは漆黒の斬撃を床に伏せてやり過ごす。

 しかし今度は立ち上がろうとするベルの元にベルゼネウスが足早で近づこうとしている!


「大地の巫女!残された唯一の巫女!貴様を最後にするつもりだったが気が変わった!」

「《ロックブラスト!!》」


 自らに迫るベルゼネウスにベルは岩の砲弾を放つ。

 しかしそれは躱されてしまい、ベルへの接近を許してしまう。

 魔王の左腕がベルの首を掴み軽々と持ち上げ、黒い瘴気てベルを包もうとして始めた!


「まずい!ベル……!」

「くっそぉ!!」

「え、おい、ギルニウス!?」


 ベルを助ける為に立ち上がろうとすると、ずっと服の中で様子を伺っていたギルニウスが突然飛び出してきた!

 俺の元を離れベルゼネウスに一直線に向かって走る。


「まずは貴様を生贄として闇に捧げる!そうすればもう、オレ様を封印できるものはいなくなり、オレは完全復活する!!」

「させんッ!!」


 影山やニールにティアーヌ、もちろん俺もベルを助けようと攻撃を仕掛ける。

 しかし瘴気の触手に攻撃が阻まれるどころか、薙ぎ払いの反撃を受けてしまう。

 が、荒れ狂う瘴気を破魔の剣で切り払い進む姿が一つ。


「ベルを放せ!!」

「勇者になりたての小娘が!」

  

 瘴気を抜け、魔王に斬りかかるレイリス。

 だがその一撃は簡単に大剣で受け止められてしまう。

 左腕でベルを掴み、右腕一本で大剣を切り結ぶ魔王。

 一見すればレイリスが有利だとわかるのに、実際にはレイリスの方が押されているように見えてしまう。

 それほどまでにレイリスとベルゼネウスの間には剣の腕、力の差、戦闘経験値に開きがあるのだ。

 

「弱い!やはり弱い!勇者とはそんなものか!?その程度で、勇者なのか!?千年まえにオレを倒したあの男の方が、よほど歯応えがあったぞ!!」


 大剣に弾かれレイリスが大きく仰け反る。

 その隙を突いてベルゼネウスが大剣を横に振りかぶり、


「死ねぇ!勇者……

「ほ、ほぎゃぁぁぁぁ!!」

「何ッ!?」


 すごい情けない声を上げながら白い物体がベルゼネウスの顔面に飛びかかる……って、ギルニウス!?

 何やってんだあいつ!?

 まるで叫び声の出し方を知らない子供みたいな声量で、ギルニウスは魔王に取り付いてみせた。

 それが功を成し、レイリスへと繰り出されようとしていた一閃は阻止される。

 突如として顔を飛びついてきたフェレットに魔王は困惑し、頭を振って振り落そうと試みる。


「な、なんなのだこれは!?」

「ぼ、僕だってねぇ!!やる時はやるんだよ!!」

 「貴様かッ!ギルニウスぅ!!」


 あいつ、飛びつくタイミングを伺っていたのか!

 本当はもっと早くやる気を出してほしいところだが、とりあえず今はナイスだと認めるしかない!


「勇者、魔王の脇腹を狙え!」

「ッ!であァッ!!」


 影山の指示でレイリスが防御できなくなったベルゼネウスの脇腹に一撃を入れる。

 そこで初めてベルゼネウスの身体に傷がつき血が流れた。

 脇腹の一撃にベルゼネウスの動きが一瞬止まり苦悶の表情が見えた。

 「坊主!」と続けて影山は叫び、触手を掻い潜りベルへと走る。

 彼が何をするのかを察し、俺も同じように暴れ回る瘴気を突破し、ベルの元へ駆け寄る。

 影山は跳躍し、雷を帯びた右足で魔王の左手首に踵落としを叩き込む。

 衝撃で魔王の手首があらぬ方向に曲がり悲鳴を上げ、弾みでベルを手放す。

 瘴気に包まれかけていたベルが解放され地面に落ちるのを、真下に滑り込んで受け止める!


「ゲホッ!ク、クロ君……!」

「ベル、同時にやるぞ!ありったけ撃ち込め!!」

「 ゴホッ……はい!!」

「「《ロックブラスト》!!」」


 グローブの魔石を土属性に入れ換え、受け止めた姿勢のままベルと同時に土属性の魔法で岩の砲弾を生成し放つ。

 一つや二つではない。

 魔石に蓄積されているマナ全てを使い切り放つ岩石砲弾の雨あられ。

 顔面に張り付いていたギルニウスは跳び逃げ砲弾から逃れる。

 全身に砲弾を受けたまらず仰け反る魔王は、大剣で防ぐこともできずにどんどん後ろへと後退して、俺たちと距離が離れる。

 そしてそこに、追い討ちをかける如くティアーヌが杖を振るう。


「《輝き燃える赤き炎よ。その全てを持ってして、我が敵を爆砕せよ!ブラスト・ボム!!》」

 

 詠唱と共に杖から放たれる炎の球体。

 それは一直線にベルゼネウスへと向かい、触れる瞬間に大爆発を起こした。

 爆発の熱からベルを守ろうと頭を抱いて庇い、背中に衝撃と熱風を感じる。

 それをやり過ごし振り返ると、爆発の中心地にいたベルゼネウスの身体が煙の中で揺らめいているのが見えた。

 だが、それでもまだ膝を着かせることはできていない。


「まだ倒れないなんて……!だったら、破魔の剣で!!」

「待て勇者!逸るな!」


 好機と見たのか、レイリスが単身突っ込む!

 影山の制止を無視し、途切れかけた煙の中を進みそして──大剣が振り上げられた。

 レイリスの小さな悲鳴が聞こえ、何かが宙を舞い、俺たちの背後に落ちると床に突き刺さる。

 振り返り確認するとそれは……レイリスの手に握られていたはずの破魔の剣だった……


「……そんな!レイリス!」


 前を向き直り名を叫ぶ。

 武器を失い尻餅をついたレイリスが、魔王に見下ろされていた。


「やってくれるな貴様らァ……!勇者と巫女の子孫にならいざ知らず、ただの仲間にここまで傷を負わせられるとはなァ!!」


 折れて使い物にならなくなった左手を見せながら魔王は怒りを露わにし叫ぶ。

 レイリスを助けようと俺たちが近寄ろうとすると、瘴気が広がり行く手を阻む!

 マズイぞ!レイリスは今、破魔の剣を持っていないのに!

 

「しかし今度は邪魔させん!死ね、勇者ァ!!」

「やめろおおおおおお!!」


 瘴気の向こうで、魔王の凶刃が空へと掲げられる。

 それを目にしたニールが叫び、触手に打たれるのも構わず瘴気の中へと飛び込んだ!

 全身に傷を負うのも無視し瘴気の中を抜け、今まさに大剣が振り下ろされる瞬間!

 その間に飛び込み、レイリスを庇い凶刃をその背に受けてしまう。


「お、お兄ちゃん!!」

次回投稿はいつもどおり22時からです!

6月終わりか7月ぐらいには連続投稿できるように五章ストックを整えておきたいっス…

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