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第二百十一話 昔話再演

急に暑くなったせいか夏バテしました

食欲を無くしてしまいました……焼肉おいしい…


 セシールに渡された魔道具による爆発で跡形もなく消し飛ぶ魔王城最上階・王の間──天井も壁も、一切合切を破壊してしまった。

 残ったのは足場と爆発の際に崩れた瓦礫だけ……

 その瓦礫の中から、俺とギルニウスはなんとか這い出る。


「ぷはぁー!死ぬかと思った!!」

「全くだよ!なんだいアレは!?セシールめ、僕たちごと魔王を殺すつもりだったのか!?」

「いや、たぶん知らなかったんだろ……」


 一応セシールの為にフォローは入れておくけど……本当にあの人なら認知した上で渡してきたのではと思ってしまう。

 いやいやまさか、そんなことは……

 瓦礫を退けて周囲を確認すると、見事なまでに王城最上階は吹っ飛んでいた。

 壁も天井もないので空もゼヌス平原も全てが見渡せる。

 まだ平原での戦闘は続いているのだが、魔王の身に何かあったのではと狼狽える悪魔や魔物たちを、大隊が押し返しているのが見えた。


「ねぇ、魔王どこ行った?」


 ギルニウスの呟きに「そういえば……」と振り返り、爆発直前まで魔王が立っていた場所を確認する。

 あの爆発の直前、俺はポーチから取れるだけの魔石を取り出し盾の内側に押し付けた。

 結果、盾の魔法を無力化させる機能を発動させることができ、爆炎は防げたのだが……やはり盾の燃費の悪さのせいで魔石はすぐに使い物にならなくなり、あれだけあった魔石の八割がマナを失いただの石ころになってしまった。

 しかし、落ちてきた瓦礫に埋もれてしまい魔王がどうなったかはわからない。

 あの爆発で死んだ……とは思えないけど……


「クロ!!」

「バルメルド君!?」


 名前を呼ばれ振り向くとレイリスたちが瓦礫を押し退け、階下の階段から現れた。

 レイリス、ティアーヌ、ニール、ベル、影山の五人だけが。


「クロノス君!?なんで君が俺たちより先にいるんだ!?」

「心配していたんだですよ!?突然目の前から消えてしまったから……」

「ごめん。別の部屋に転移しちゃって、俺だけ先に魔王のところまで送られちゃったんだ」

「そうだったんですね……でも無事で良かった」

「ねぇ、誰か一人でもいいから僕の心配もして?」


 駆け寄ってくるみんなに無事であることをアピールする。

 だけど……


「あの、他の人たちは?」

「階下で待ち伏せしていた悪魔たちを抑えてくれている。その間に勇者と一緒に魔王を討つつもり……だったのだが、これは坊主がやったのか?」


 爆発で吹き飛んだ最上階の惨状を前に影山に問われ、俺は頭を掻きながら答える。


「いやー……俺がやったっていうか、魔王の自爆というか……」

 「なんだそれは?魔王を倒したということなのか?」

「多分倒しては──」


 そこまで答えた瞬間、背後の瓦礫が内側から黒い瘴気を噴き出し吹き飛ばされる!

 瓦礫の下から溢れる黒い瘴気は触手のようにうねりを伴って数を増やし、中央には上半身が爆発によって鎧が無くなり、筋肉が焼け焦げたベルゼネウスが姿を見せた。


「小僧ォォォォ!!」


 ベルゼネウスの怒号と共に瘴気の触手が蠢き俺一人に襲いかかってくる!

 避けることはできるけど、そしたら周りにいるみんなが巻き添えになるから避ける訳にはいかない!

 どうする、盾で防げるのかあの瘴気!?

 瘴気への対処に迷っていると「はあァッ!!」と破魔の剣の一閃が繰り出された。

 レイリスの一振りにより、瘴気の触手は霧散し消え去る。

 あの黒いの、破魔の剣なら消せるのか!?

 自らの瘴気を掻き消され、魔王は驚きを見せた。


「ッ!?そうか、貴様がこの時代の勇者か……まさか女だとはな!大地の巫女も一緒とは都合がいい。お前たち二人がいなくなれば、この地上でもはやオレに勝てる者はいなくなる……がッ!!」


 ベルゼネウスの身体から溢れていた黒い瘴気の勢いが増し、その動きが激しくなる!

 全身から溢れ出る黒い瘴気は最上階の周りを包む程の量となり、俺たちの周囲は闇に包まれてしまう。


「一人ずつ嬲り殺して、巫女の最期を残った地上人どもに見せつけるつもりだったが……今のオレは機嫌が悪い!遊びもない!慈悲もない!全員八つ裂きにしてくれるわ!!」


 ベルゼネウスが吼え、瘴気の触手が暴れ狂う。

 迫り来る触手を全員躱し、真っ先に仕掛けるのはニール。

 触手の上を跳び越すと着地と同時に弓を構え、魔王の心臓目掛け矢を射った。

 しかし矢は、魔王の持つ大剣によって上へと弾き飛ばされてしまい宙を舞う。

 今度は反対側に逃げたティアーヌが魔法で火球を放つが、今度は大剣を振り下し叩き斬られ火球が掻き消されてしまう。


「雑魚に用はないわッ!!」


 魔王が腕を振るい瘴気が再び暴れ狂う。

 遠距離攻撃タイプの二人を真っ先に潰そうと、左右に別れティアーヌとニールに襲いかかり、


「《大地の守護を!!》」

 

 ベルが叫び両手で床に触れると二人の正面に岩壁が出現し瘴気を防いだ。

 その隙に二人が逃げると、瘴気を受け止めていた岩壁は破壊されてしまった。

 二人に気が逸れている間に影山がブーツに雷の魔石を装填し駆け出す。

 俺もブーツに雷、グローブに土属性の魔石を装填し遅れて追走。

 雷魔法が付与されたブーツで影山疾り、姿を捉えさせずにベルゼネウスまで接近すると、跳躍し右足による回し蹴りを側頭部に叩き込む。

 しかし──


「それは効かないと、以前も言ったはずだ!」

 

 全くダメージが入っていない!

 難民キャンプの時と同じだ!

 ベルゼネウスは蹴りを入れてきた脚を掴むと大剣を振り下ろし、


「影山さん頭下げて!でぇいッ!」


 追走していた俺は影山の背後から両手で剣を振るう。

 頭を下げた影山の頭上を剣が通り抜け、魔王の振るった大剣と衝突。

 土属性の魔法効果を付与して力が増し、なおかつ両腕で力の限りを尽くして振るった一撃でさえ、ベルゼネウスの片腕の腕力には勝てず大きく弾き飛ばされる。

 でもそれは相手も同様、大剣の軌道が目標から外れて床に突き刺さり、影山への一撃は阻止できた!

 大剣を抜くよりも速く影山は左足を振り上げ、自らの右脚を掴む魔王の左腕に蹴り飛ばし拘束を振り解く。


「坊主!!」

「はいッ!」


 呼びかけに呼応し、弾き飛ばされて仰け反っていた姿勢を脚を踏ん張らせることで整え、影山と同時に前へ。

 お互いの脚に雷を纏い、大きく踏み込むと同時に突き蹴りを繰り出す!


「「でやあああァァァァ!!」」


  腕を吹き飛ばされ防御姿勢の取れないベルゼネウスの鳩尾(みぞおち)に、俺の右足と影山の左足が直撃した!

 二人の蹴撃(しゅうげき)でついに魔王の身体がよろめく!

 初めて演技ではない、本当に苦しそうな表情を見せると大きく口を開け空気を吐き出し、動きが止まる。

 その背後からレイリスが破魔の剣を振り上げ飛びかかり、


「でぇぇぇぇい!!」

「ぐっ、調子に、乗るなよ……!!貴様らぁぁぁぁ!!」


 ベルゼネウスが床に突き刺さっていた大剣を、地面を抉るようにしながら俺たちを薙ぎ払ってきた!

 幸い刃ではなく刀身を叩きつけられたので身体損傷はないが、力任せに振るわれた大剣に吹き飛ばされ、影山と一緒に床を転がり足場から落ちそうになる。

 魔王は俺たちを薙ぎ払うと、今度は振り返ってレイリスの右腕を掴み、ベル目掛けて投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたレイリスをベルは受け止めようとするが、失敗して二人の小さな悲鳴が耳に届く。

 俺と影山が起き上がると服の中からギルニウスが顔を出す。


「大丈夫かい、相棒、影山!?身体切られてない!?」

「ぐっ、うっ……打ち身で済んだ。坊主は大丈夫か?刀身に打たれたのはお前だろ」

「な、なんとか……!」

「良かった……でもいいよ、二人とも!あの魔王に強烈な一撃を与えられたじゃないか!」

「どこかだ!?対して効いてなかったろ!?」

「道具に頼った戦い方の限界だな……」


 励まそうとしているのは分かるけど、今は気休めにしかならない。

 魔道具に依存した自らの戦闘スタイルに影山の苦言が聞こえ、俺も似たものなので何も言えない。

 やはり俺たちの攻撃ではなく、破魔の剣を持つレイリスの攻撃でなければ有効打にはなりえないのだろうか?

 頭の中で策を講じていると「また来るぞ!」と影山に突き飛ばされた。

 俺たちの間を触手が通り抜け、慌てて立ち上がって走り回る。

 意識が俺たちに向いている間にニールが弓矢でベルゼネウスを狙うが、放った矢は全て大剣の一振りで宙へと弾き飛ばされてしまう。


「小煩いエルフめ!」

「兄さん、逃げて!」


 ちまちまと矢を射るニールに狙いを変え、瘴気が一斉に襲いかかり、レイリスは兄の元へ駆け寄り瘴気を切り払いながら助け出そうと走る。

 目標が今度はニールに移った。

 今なら背後から一撃を喰らわせられる!

 注目されていない内にグローブを土属性から火属性に差し換え、刀身に炎を纏わせると至近距離から最大火力の斬撃を繰り出そうと接近して、


「ッ!駄目だクロノス!これは罠だ!!」


 魔王の背後に迫った瞬間、ギルニウスが耳元で叫ぶ。

 だがその時にはもう、遅かった。

 近づいた俺へと振り返り、ベルゼネウスが不気味笑みを見せ──


「単純な奴だ!」

「なっ……ごふっ!」


  ベルゼネウスの後ろ蹴りが脇腹に受けてしまい、片膝を着いてしまう。

 まさか、誘われたのか……!?

 俺をわざと近づけさせる為に!?


「さっきの借りを返すぞ!!」


 魔王が大剣を振りかぶり、避けるのが間に合わないと悟り盾で防ごうとする。

 しかし、最初に受けた時同様、大剣による重量と破壊力に耐えきることができない……!


「貴様から死ねぇぇぇぇ!!」

「ぐっ、うわぁぁぁぁ!!」

 

  魔王の一撃を受け止めきれず足が地面から離れ、身体が吹き飛ばされていた。

 打ち上げられたみたいに宙を舞う俺の体。

 目の前にいた魔王からどんどん離されいき、足場も何もない城外へと放り投げ出されて……


「あ、やべ」

「えっ、嘘……!?」

「クロ君!」

「坊主!!」


 ベルが真っ青な顔で俺を見つめ、影山がこちらへ手を伸ばしてくれる。

 だが、もう間に合わない。

 影山の伸ばした手は俺に届くことなく、ギルニウスと一緒に俺は魔王城最上階から落下してしまった。

次回投稿はいつも通り22時からです!

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