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第二百十話 魔王再戦

ついに魔王戦三回目

未来編最後の戦いです!


 セシールの部屋から魔法陣を使用し転移する。

 しかし、転移するつもりだった庭園とは別の場所に出てしまった。

 高い天井と広く長い部屋。

 壁には等間隔に並ぶ窓と、正面に大きな両開き扉が見える。

 この部屋には見覚えがある……初めて王都に訪れた時に連れてこられた場所、つまり──


「まさか、貴様が一番最初にこの部屋に辿り着くとはな」


 背後から聞こえた声に全身の毛が逆立つ。

 全身が震えて汗が噴き出す。

 一度聞いただけでも忘れることができない。

 恐怖と共に記憶に刻み付けられたその声を……


「貴様らの目論見に付き合って、勇者が来るのを待っていたのだが……出現の仕方を見るに転移魔法を使ったな?しかし、一人でオレ様の玉座に乗り込んで来るとはいい度胸だ」


 勢い良く振り返ると玉座に深く座りこちらを見下す魔王ベルゼネウスがそこにいた。

 玉座に後ろには、天井からかけれた王国の象徴の描く旗が、見るも無残な姿に切り刻まれたままぶら下がっている。


「魔王──ベルゼネウス!!」


 俺を二度殺そうとした相手、父であるジェイクを殺した相手、この国を無茶苦茶にした相手!

 恐怖と憎悪の入り混じった声で奴を睨み名を叫ぶ。

 しかしベルゼネウスは玉座から立ち上がることもなく俺を見下したままだ。


「ごめん相棒、僕転移する時ちょっと玉座の間のこと考えちゃったよ……」

「あの会話の流れじゃ考えるなって方が無理だろ。俺だって考えちまったんだから」


 肩上に乗るギルニウスに謝られるが、転移する前にセシールとの会話で魔王の話題が出てきた段階でこうなるは必然とも言える。

 しかし、もう転移してしまったものは仕方ない!

 どうやらレイリスたちはまだ辿り着けていないようだ……なら、俺一人だけで戦って、魔王を多少なりとも弱らせておかなければ!

 背負っていた鞘から剣を引き抜き、盾と剣を魔王に向かって構える。

 それを見てついに魔王は重い腰を玉座から上げた。

 手すりの側に突き立てられていた漆黒の大剣を掴み持ち上げ肩に背負う。

 そして──瞬きした瞬間、ベルゼネウスの姿が正面から消える!

 姿を見失ったことに呆然とする間も無く、背後から殺気を感じ振り返ると、知らぬ間に回り込んでいたベルゼネウスが大剣を振り下ろそうとしていた!


 「ぜぇぇぇぇい!!」


 脳天めがけ振り下ろされ、大剣が頭部に迫る。

 咄嗟に左腕を上げ、滑り込ませるように盾で直撃を防ぐ。

 だが魔王の一撃は果てしなく重く、受け止めた瞬間に全身が押し潰されるような衝撃が襲う!

 マズイ……これは受け止めるべきじゃなかった……避けるべきだった!

 たった一撃、たった一太刀受けただけで……身体中の気力も体力も、全部叩き折られた気分だッ!

 これが本物の、魔王ベルゼネウスの力って訳か……!

 気を抜けば潰される、頭のてっぺんから足のつま先、筋肉の筋一本たりとも力を抜けば、これで殺される!

 左腕だけでは防ぐのは無理だと判断し、下から支えるように右腕をあてがう。

 しかし、これだけでもギリギリ踏み止まれるのが限界で反撃なんてとてもできそうにない!


「ほぉ……オレ様の一撃を受け止めたか」

「相棒!」

「おやおや、誰かと思えばそこにいるのは、かつて勇者たちと共にオレを地獄に追放した慈愛の神──ギルニウスではないか。随分と愛くるしい姿になったものだな」

「好き好んでこんな姿になったわけじゃない!お前を倒してもう一度封印する為に、数年間ずっとこの姿で耐えてきたんだ!」

「それで連れてきたのがこの男か?だとしたら……とんだ期待外れだったな!!」


 再び魔王が大剣を振り上げ、今度は横一閃で薙ぎ払ってくる!

 突然全身を抑えていた力が無くなり、足が浮つき避けることができず、盾で受け止めるも吹き飛ばされしまう。

 床を転がり壁に激突してようやく止まるのだが、魔王の一撃を受ける度に左腕が痺れて堪らない。

 アレは何度も受けてたら腕が折れるそうだ。


「お前が連れてきたのは勇者でも剣聖でもなくただの人間。難民場でそいつを殺そうとした時、オレの人形が破壊されて驚きはしたが……今はっきりと理解した。人形(アレ)を破壊したのは貴様ではないな。オレ様の一撃を受けただけでそのザマだ。やはりあの時は、第三者の手で破壊されたのであって、貴様に破壊された訳ではなかったのだな」

「ああ……っ!お前の偽物を倒したのは、俺じゃない」


 難民キャンプを襲撃した魔王ベルゼネウスに殺されそうになった時、反撃して倒したのはもう一つの魂の方だった。

 だから正確には倒したのは俺ではない。

 ベルゼネウスにも何で倒されたかは理解してないようだが。


「ならばやはり、貴様はオレには勝てん。貴様からは武の才をほとんど感じない。平凡な人間──その程度でオレ様に挑もうとは片腹痛いわ!」

「いっつつ、だよねぇ……!だったらこれでッ!」


 ツールポーチから火と風の魔石を取り出す。

 火をグローブに、風をブーツに装填し効果が発揮したのを確認してから、剣を振り上げ魔王に飛びかかる!

 跳躍し剣を振り下ろそうとする俺を見て魔王がほくそ笑み、


「遅いわ!!」


 大剣が再び薙ぎ払われ、俺がいたはずの空を切った。


「何っ!?」

「後ろォ!」


 風魔法で高速移動した俺の姿を見失い、ベルゼネウスの動きが一瞬止まる。

 その隙に背後に回り込んだ俺は、魔道具の効果付与がされ、炎を纏った剣でベルゼネウスの背中を斬りつけた!

 魔王が身に纏っている鎧に斬撃を至近距離で放ち、斬撃を浴びた瞬間に爆発が起き、爆煙の向こうでベルゼネウスが前のめりに倒れ


「ぬんッ!」

「うおっと!?」


 倒れると思いきや、背を向けたまま大剣を振ってきた!

 上半身を後ろに倒して避け、ブーツに突風を起こしながらバク転で跳び上がり距離を離す。

 避ける時少し前髪切られたな。


「相棒、怪我は!?」

「ないけど……あいつの鎧どうなってるんだ?あんな至近距離で斬撃を撃ったのに手応え全然なかったぞ」


 煙が晴れると俺の斬撃を受けた魔王の背が見えるようになるが、鎧には傷一つついていないどころか爆発の焦げ目すらない。

 完全に効いてないなアレ。


「たぶんあの鎧が魔法攻撃を軽減させてるんだ。魔道具の一種だよ」

「その通りだ。元々はこの城に保管されていた物だ。地上人は、こういったのを造るのは本当に得意だな。おかげで今のオレには、生半可な魔法も物理攻撃も通用しないぞ?」

「狡いぞそんなの!こっちはただの人間なんだぞ!?」

「そうなるように転生させたのあんただろうが……」


 肩上でインチキ鎧に文句を垂れるフェレットに小さく呟く。

 しかし困ったな……これは俺一人で相手するには装備品の性能レベルが違いすぎて、傷も負わせられそうにない。

 となれば……


「ギルニウス、肩の上にいられると邪魔だからちょっと降りてろ」

「え……なにするつもり?」

「試すんだよ。本当に効かないかどうか!」


 左肩からギルニウスを降ろし、ブーツとクローブから魔石を引き抜く。

 どういうつもりか知らないが、魔王は明らかに手を抜いているのだろう。

 油断か、それとも俺を取るに足らない存在として見てるのか……

 以前に難民キャンプを襲ってきた時に使ってた黒い瘴気を出してこず、大剣一本で俺と戦っている。

 まぁ、それはそれで好都合だ。

 黒い瘴気を出されたら防御で手一杯になってしまうだろうから、油断している今しか俺が攻撃できるチャンスはない!

 ポーチから水と雷の魔石を取り出し、グローブに水、ブーツに雷をそれぞれ装填する。

 まずは俺が一番やり易いコンボで!


「ギルニウス高い所に避難してろ!水よ!」


 右足を振り上げ床に叩きつけると、ブーツから大量の水が溢れ出し、室内を足首まで満たす。

 水が押し寄せる段階でギルニウスは俺が何をするのか理解し、慌てて段差のある玉座まで避難する。

 使い切った水の魔石を抜き捨て、もう一度新しい水の魔石に入れ換えてから、俺はもう一度ベルゼネウスへと駆け出す。


「水よ、大蛇となって敵を呑み込め!」


 走りながら床を満たす水全てを大蛇に変化させベルゼネウスに襲わせる。

 しかし魔王は大蛇を一瞥すると鼻で笑う。


「フン、子供騙しだな」


 水の大蛇がベルゼネウスを飲み込もうとするが、鎧の効果なのか霧散してしまい、水飛沫しか浴びせることができない。

 ならばと接近して雷を帯びた剣で斬りかかるが、ベルゼネウスは躱すどころか防ごうともしない。

 何度も剣で鎧に斬りつけるが、やはり魔法も物理も効いておらず傷一つつかない。

 だったら鎧に守られていないところを!と頭部へと剣を振り下ろすが、腕を守るプロテクターで受け止められ、反撃の蹴りを胴体にお見舞いされる。

 よろめき一歩下がると大剣が目の前に迫ってくる!

 すぐさま崩れ落ちるように倒れて避け、後ろに飛び退く。

 しかし魔王は距離を詰め、大剣を振り回してきた!


「曲芸はもう終わりかぁ!?」


 嘲笑い振り回される大剣を避けながら内心焦る。

 やばい、これは本当に参った!

 魔王の鎧には物理も魔法も効かないというより、全部無力化されてしまう!

 多分俺が持っている盾と同じで、打ち消し効果を持っているんだ!

 だとしたら、俺の技量じゃダメージを与えることはできない!


「所詮その程度だ!貴様の力では、オレ様に傷をつけることも、片膝を着かせることもできはしないのだ!」


 ベルゼネウスは身体を捻りながら大剣を薙いだ。

 避けられない!そう直感し左腕と右腕を交差させ防御に専念するが、大剣を受け止めても衝撃を受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。

 だが今度は足を踏ん張らせ、何とか壁に激突することも体勢を崩さずに済んだ。

 それでも受けたダメージは大きい。

 片腕で受けてたら腕が吹き飛んでたかも……


「相棒、ここは一旦引こう!君一人じゃ負担が大きすぎる!」

「そうするしか、ない……よな」


 駆け寄ってくるギルニウスに撤退を提案され唇を噛み締める。

 やはり俺一人じゃ魔王に勝てない……傷一つもつけられない……でもそれでいいのか?

 引き返してレイリスたちと合流しても、俺の技量じゃ足手まといになるだけなのでは?

 そんな考えが頭をよぎり首を振るう。

 弱気になってどうする!?

 せめて一つぐらい、あいつに傷を負わせられれば……!


「……ん?何だこれ」


 痺れで震える左手の落ち着かせようと胸当てに手を置くと、胸の筋肉に何かが押し当てられる。

 それが何か思い出した瞬間、真っ先に火属性の魔法で火の鳥を生成し魔王に向かって放つ。

 火の鳥が爆発してもダメージは与えられないが、爆発による黒煙で視界を遮らせることはできた。

 その隙に右手を軽鎧の中に突っ込みもくての物を取り出す。

 セシールから貰った、魔石の埋め込まれた四角い魔道具を──


「あっ、それってセシールから受け取った!」

「逃げるのはこれを試してからでもいいだろ……!」

 

 確かこの四角いの、強い衝撃を与えるとマナを吸い上げ始めるんだっけか!?

 試しに魔道具を盾に思い切り叩きつけてみる。

 すると、グローブに装填しておいた魔石のマナが徐々に吸われているのがわかる。

 これは早くベルゼネウスに喰らわせないと俺のマナまで吸い取られそうだ!

 グローブとブーツの魔石を風属性に入れ換えていると、黒煙を払いながら魔王が飛び出してきた!


「いい加減に飽きて来た!そろそろ殺してやる!!」

 「だったら刺激的なのをくれてやるよ!」


 振りかぶられた大剣を目にし、魔法効果の付与されたブーツで軽々と避けてみせる。

 距離を離してから風魔法の斬撃を一発放つ。

 当然斬撃は打ち消されダメージを与えることはできないが、強風に晒されて魔王は一度目を細める。

 その隙にもう一度移動し、魔王から離れた位置から斬撃を放つ。

 それを何度も繰り返し、ベルゼネウスを苛立たせる。

 接近せずに風の斬撃を撃ち続けられ、


「貴様ァ……!無意味だということがわからんのかァ!?」


 魔王は苛立ち上半身を仰け反らせ、怒りに任せ剣を振ろうと両手で剣を持ち上げて……今だ!!

 斬撃を撃つのをやめ、剣を鞘に仕舞い一気にベルゼネウスへと詰め寄る。

 その背後に回り込んで肩上に飛び乗り、両肩を上げた影響で生まれた身体と鎧の僅かな隙間に右手を突っ込んだ。


「ッ!?小僧、貴様何をッ!?」

「凍れ!!」


 手に持っていた魔道具を手放し、身体に引っ付けてから凍らせる。

 鎧の中で魔法を使われたのが不快らしく、魔道具を設置できたことに手応えを感じていると後ろ首を掴まれ投げ飛ばされてしまう。

 けれど投げる際に力が入らなかったのか、受け身を取りながら着地できた。

 自らの背中に貼り付けられた氷を何とか破壊しようとベルゼネウスは暴れ回っている。


「クソッ!なんだこれは!?一体何をした!?」

「相棒!上手くいったのかい!?」

「ああ!ひとまず逃げて……え?」


 ギルニウスと共に部屋から逃げようとするのだが、突然ベルゼネウスの背中から赤い光が溢れて思わず足を止めてしまう。

 背中の異物を排除しようと暴れ回る姿を見れば、魔王が纏っている鎧の隙間から赤い光が出ているのだとわかる。

 もしかして、俺が突っ込んだ魔道具が光ってるのか?

 ただ光っているだけなら俺も足を止めることはなかったのだが、なんとその光は徐々に輝きを増し、玉座の間全体を照らし出している!


「なんだ、これは!?オレのマナを吸い上げてあるのか!?」

「ねぇ、なんか……僕めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど!?」


 俺もだよ!!と心の中で叫びながら左手を魔石ポーチに突っ込む。

 数はいくらでもいい、とりあえずありったけの魔石を!


「うおおおおオオオオッ!?」


 ギルニウスの叫びが聞こえたと思った瞬間、赤い光で視界が染まり何も見えなくなり、爆炎と轟音が俺たちを襲うのだった。

ストックがめちゃ溜まってきて、しばらくは連休がないので消化しづらいのですが、どこかで土日連続投稿とかしようかと思います

詳細はまた今度


次回はいつも通り日曜日22時からとなります!

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