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第二百八話 旧ライゼヌス城、現魔王城

今回で連続投稿最終日です!


 暗く狭い穴の中を数十分後程歩くと壁にぶつかる。

 土の壁ではなく、煉瓦の壁だ。

 戦闘を歩いていた影山が立ち止まると、後ろに続いていた俺たちも足を止める。


「煉瓦造りの壁か……この先が下水道なのか?」

「はい。サカタさんの話では、それはバレないように積み上げただけなので、簡単に崩せるそうです」


 そうか、と影山は足で煉瓦の壁を押してみせる。

 すると煉瓦の壁はあっけなく崩れて、目の前に下水道が現れた。

 念の為、俺が右眼の能力で顔だけ出して下水道の様子を伺う。

 正面、背後と二度ずつ確認し、人も魔物も何もいないのを目視で確認しておく。


「何もいません。鼠一匹」

「破魔の剣も反応なしだよ」

「僕も何も感じない。多分魔物はいないね」


 三者の確認が取れてからぞろぞろと下水道に出た。

 当然ここも光源はないので、ティアーヌの杖に灯された光だけが頼りだ。

 しかし、相変わらず強烈な臭いだ。

 鼻が曲がりそうだ。

 レイリスも下水道の臭いに耐えられないのか、花を摘んでしかめっ面を見せた。


「ここ、すごく嫌な臭い」

「管理する者がいなくなったから、腐敗臭が満ちているのよ。大方、城下町に棲みついてる魔物や悪魔たちが、食べカスなんかを水路に捨てたのが原因ね」

「うぅ……鼻が曲がりそう」

「布か何かで鼻を覆うといいわ。外に出るまでは我慢して」


 ティアーヌの提案に従い布で鼻と口を覆うレイリス。

 俺もこの腐敗臭には堪えるが、それよりも気になることがある。

 もし、まだインスマスの奴らが下水で身を潜めていたら?

 もし、まだライゼヌス占拠を諦めてなかったとしたら?

 もし……あの暗闇の向こうではまだ、テケリ・リの化け物が、いるのだとしたら……

 暗闇に包まれ先の見えない通路をじっと見つめる。

 いるはすがない、そう頭では理解していても、心の隅でもしかしたらいるかもしれないと若干考えてしまう。

 その考えのせいか……暗闇しかないはずの通路の奥で、無数の目が見開くのを目撃する!

 暗闇一面を埋め尽くすように広がった眼球が動き回り、俺と、目が合って……


「バルメルド君?」

「うおっ!?」

 

 背後から声をかけられ思わず変な声を上げて跳び上がる。

 振り返るとティアーヌが立っており、心配そうにこちらを見ていた。

 俺は咄嗟に通路の奥に目を向けるが、もう暗闇には何も見えはしない。


「どうしたのよ?何か見つけたの?」

「あ、いや……多分、気のせいです」


 そうだ、きっと気のせいだ。

 だって今は何も見えないのだから。


「では皆さん、私について来て下さい。庭園の井戸はあちらのルートです」


 魔物がいないことを確認しベルが先頭に立ち下水道を駆け足で進み始める。

 最後にもう一度振り返るのだが、やっぱり俺の眼にはテケリ・リお化けの姿は見えなかった。

 それから下水道内を駆け回ること数十分後。

 右に曲がったり左に曲がったり、坂を上ったり下ったりと慌ただしく移動を続ける。

 インスマス教会に忍び込む時はあまり意識してなかったのだが、この下水道は構造がかなり複雑でベルの案内無しでは間違いなく迷うだろう。

 今自分が城下町のどこら辺の地下にいるのか、そもそも王城に近づいているのかすら判断できない。

 しかし、


「着きました。ここが王城の庭園に繋がる井戸の下です」


 先を進んでいたベルが坂道を上りきり、行き止まりでそう告げた。

 全員で壁の前に詰めかけるのだが、出口らしき物がどこにもない。

 坂道なので下水の水もここまで来てはいないのだが……


「ベル様、本当にここであってるんですか?行き止まりだけど」

「はい。ここで間違いありません。あ、皆さん、申し訳ありませんが壁側にもっと寄っていただけますか?背中が密着するぐらいに……そうです。そのままでお願いします」


 指示を受けてベルを除く全員が壁に身を張り付けた。

 何をするのかと注目が集まる中、ベルは煉瓦を積み上げて造られた壁を一段一段手で触れて何かを確認する。

 すると、触れていた煉瓦の一つが思い切り押し込まれて沈んだ。

 カチリ、と装置が動く音が響いたかと思うと、天井の一部が開いて大量の水が落ちてきた!

 降り注ぐ水の中には骨や錆びた剣などが混じっており、水と一緒に坂道を流れ落ちて行く。

 天井から降り注ぐ水が止み、数秒後に今度はベルが煉瓦を押し込んだ壁が動き出し、人一人が通れるぐらいの幅の部屋が姿を現わす。

 部屋の壁には鉄の梯子が姿を見せ、上を見上げれば暗雲の空が広がっているのが見えた。


「この梯子を上がれば城内の庭園に出ます」

「では、姫様は後から。我々が先に上り、周囲を警戒して参ります」


 作戦に同行した兵士の一人が先に梯子を上った。

 上って来いと手で合図され、一人一人順番に梯子を上る。

 俺の番になり梯子を上り外に出ると、そこには懐かしくも荒れ果てたライゼヌス城の姿。

 井戸から這い出ると、周囲にはかつての面影を失い枯れ果てた花々に満ちた庭園。

 できればこんな形で、再び訪れたくはなかった。

 俺の次に井戸からベルが出てくると、やはり自分が世話していた庭園の花たちを目にし、表情を曇らせる。


「……この花、城を離れる前に蕾を付けたところだったんです。半月後には綺麗な花を咲かせられたはずなのに……」


 栄養が足らず、蕾を咲かせることなく枯れ果てた花たちにベルはそっと触れた。

 しかし、触れた瞬間に花は跡形も無く崩れ落ちて土に還る。

 その光景にベルは手を震わせ、拳を握り締めると胸に当て「ごめんなさい」と呟いた。

 最後に井戸からティアーヌが出てくると兵士が声をかける。


「ティンカーベル様、悪魔に見つかる前に城内へ」

「……ええ──行きましょう!」


 顔を上げ頷くベル。

 目の端に涙が見えた気がしたが、立ち上がったその顔に涙は無い。

 魔王の元に辿り着くまでに見つかりたくはないので、身を屈めながら庭園を抜ける。

 ライゼヌス城は全四階。

 ベルが世話していた庭園は二階にあったはずなので、魔王ベルゼネウスが居るであろう王の間まで後二つ階段を上らなければならない。

 当然辿り着くまでに悪魔たちの妨害はあるだろうが、レイリスとベルだけは何としても無傷のまま行かせる。

 それが俺たちの役目だ。

 もちろん俺は途中で脱落するつもりもない。

 魔王はジェイクの仇。

 必ず魔王に一矢報いて見せる。

 城内に潜入するが魔物の気配はほとんどなかった。

 やはり平原の大部隊に戦力を割いている分、城の守りが手薄になっているようだ。

 これなら無駄な戦闘をせず、体力を温存したまま魔王に挑めそうだ。

 余裕があれば、セシールさんが居るはずの塔にも立ち寄らないと!

 無警戒な城内を進み、次の階へと続く階段へ駆け込んで、


「ッ!駄目よ、引き返して!!」


 最後尾を走っていたティアーヌが叫び、先頭で走っていた俺たちは振り返る。

 何をもって引き返せと言うのか、その意味を問おうとするも、階段手前まで来た俺たちの足元の床が光り始めるのを目にしそれは無くなる。

 よく見れば、俺が踏んでいる床に魔法陣が描かれていた!

 それも大型のではなく、小型のちょうど一人分程の大きさの魔法陣が!


「罠!?感知されないように小型のを仕込んでたなんて!」


 ギルニウスが叫ぶ。

 これが魔法陣だと視認した頃には時すでに遅く、足元がフワつきまるで地面から浮いているような錯覚。

 この感覚には覚えがある。

 魔法陣から特定の場所に飛ばされる時と同じ、これは転移の魔法陣だ!

  もうこの陣から抜け出そうとしても足に感覚が無いから陣から脱出することもできない!


「クロ!」

「相棒!」


 魔法陣にいる俺へとレイリスが手を伸ばす。

 ギルニウスもベルの肩からレイリスの肩へと乗り移り、伸ばされた腕を伝って俺へと跳躍する。

 身体が光に包まれ、目の前が真っ白になり思わず目を瞑る。

 次に目を開けた時、小部屋に俺は立っていた。

 俺以外にも転移の魔法陣に跳びついてきたギルニウスの姿も。


「相棒、大丈夫?腕ある?足もちゃんと転移してる?」

「あ、ああ……てか、なんであんたまで」

「いやぁ、なんか、身体が勝手に動いちゃって。にしても、どこだろうここ?」


 周囲を見回すと作業台と、部屋中の床に無造作に積み上げられたガラクタの山に囲まれていた。

 部屋は明るく、小窓からは外の風景がよく見える。

 風景が見下ろせるということかは、どうやら今俺たちは、どこか高い場所にいるようだ。


「牢獄……じゃないよな?まだ城の中なのか?」

「しっかし汚い部屋だなぁ。なんだろうこのガラクタ?」


 部屋中に転がるガラクタをギルニウスが見て回る。

 損壊した物を修理しているのか、組み込まれた部品が剥き出しのままとなっている物体が多く、歯車が足りなかったりと一部分だけが欠けていた。

 にしても……なぜだろう、この部屋凄く見覚えがある気がするんだけど……


「とりあえず、この部屋から出てティンカーベルたちと……相棒、後ろ!!」

「なん……っ!?」


 背後から何者かに棒状の物で殴りかかられる!

 振り返り盾で頭部を守ろうとすると棒状の何がぶつかり甲高い音が響く。

 悪魔か!?と思ったのだが……異様に背丈が低い。

 俺の腰ぐらいの高さで、手入れをしていないのかボサボサて灰色をした長い髪が揺れ、眼鏡の奥から軽蔑に満ちた眼が俺を睨む。


「まさか内部に侵入してくるとはな!そんなにまで私の研究を奪いたいか!」

「え……研究!?え!?」

「しかし私の研究成果は絶対に渡さん!」


 聞き覚えのあるこのフレーズ!

 もしかしてこの人!

 低身長で眼鏡の女性は一度距離を取り、手にした鉄の棒を振り回してながら、俺へと突進してくる!


「地獄に落ちろ泥棒がァァァァ!!」

「セシールさん!?」


 十年前と変わらぬ姿のセシールが襲いかかってきた!

今日で連続投稿はおしまいです!

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!!

結構ストック使いましたが、なんだかんだで四話分ストック残りました!

あれ……もしかして10連続投稿できたのでは……?


次回投稿は日曜日22時からです!

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