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第二百七話 勇者潜入作戦

ようやくここまで来ました!

魔王城!


 影山が突然、雷の魔石を装填したブーツで獣人族を蹴り飛ばし、ニールは自分の隣にいた人族の男の首を腕で締め上げナイフを取り出す。

 状況の飲み込めない俺とレイリスは狼狽えるが、他のメンバーは慌てる様子もなく落ち着いている。


「影山さん、一体何を!?その人は味方でしょう!?」

「そ、そうだ……オレは家族の仇を討てると聞いてこの作戦に参加したんだ!仲間に蹴られる覚えはねぇぞ!」


 獣人の男が蹴り上げられた腹部を抑え、俺の言葉に続く。


「他の奴らはそいつを押えろ!もしかしたらその人族は、魔王軍と繋がっているのかも……」

「それは貴方たちの方でしょう?」


 獣人の話をティアーヌが遮る。

 その一言に獣人の表情に焦りが見え、ティアーヌはニールが押さえている人族の男に近づく。


「ニール君、貴方は見ないようにね」

「わかりました」


 頷いてニールが目を閉じる。

 それを確認してからティアーヌは、瞳が見えないようにと深く被っていたとんがり帽子を軽く持ち上げた。

 俺の立ち位置からでは顔を見ることはできないが、淫魔のティアーヌが相手に眼を見せるってことはつまり──


「あまりこういうことはしたくないのだけれど……さぁ、私の眼をよく見なさい」

「な、なにをするつもり……!ふあぁぁぁ……」


 ティアーヌの眼を見たのか、男が全身を震わせながら力の抜けた声を上げる。

 「もういいわ」と告げると、押さえていたニールが腕を離した瞬間に男はその場にへたり込んだ。

 どうやら魅了の魔法(チャーム)をかけられたようだ。

 よくティアーヌさんが使うのを説得できたなぁ。

 絶対嫌がっただろうに。


「さぁ、私たちに教えてもらえる?貴方たち二人が何をしてきたのか」

「は、はぃ……そ、そいつと二人で、魔王軍に情報を売ってぇ……悪魔に取り入ろうとしましたぁ」

「そう。教えてくれてありがとう」

「なっ!?お、おまえ何を言って!?ち、違う!デタラメだ!」


 恍惚の表情を浮かべながら素直に答える男に、獣人は驚き弁明した。

 でも俺とレイリス以外は、最初からこうなるのをわかっていたみたいに落ち着き払っている。


「残念だが、お前たちが悪魔と取引しているのは既に知っている。お前たち以外にも、内通者がいるのはな」

「なっ、わざと泳がせてたってのか!?」

「一人一人炙り出していれば何人かは尻尾を出さないと考え、坂田たちが逆に利用することを考えたそうだ。お前たちが悪魔に流した情報は全て嘘だ。実際には別の計画が既に実行されてる」

「オレたち炙り出す為に、勇者の存在も囮にしたってことか!?」

「そういうことだ。諦めろ。お前たちにはもう帰る場所はない」


 影山が重圧を与えるように強い口調で告げる。

 獣人はそれに当てられたのか、立ち上がると大慌てでその場から走り去って行ってしまう。


「いいんですか、逃しても!?」

「放っておけ。今更あいつが悪魔にこのことを話したところで、もう間に合わん。どうせ教えたのは嘘の情報だからな。おいフェレット、周囲の様子はどうだ?」

「大丈夫、悪魔の気配はないよ」


 フェレット?と一瞬、その呼びかけに疑問を抱くと、全身鎧の人物からギルニウスのくぐもった声が聞こえた。

 鎧の隙間から白い影が出ててきたと思ったら、ギルニウスが満足気な顔で姿を見せる。


「いやーみんなお疲れ様!いい糺弾だったよ!」

「ギルニウス!あんた見かけないと思ったら、その人の鎧の中に隠れてたのか」

「悪魔の気配を感知できるのは僕だけだからね。情報を漏らされて悪魔がこっちに奇襲をかけようと待ち伏せしてないか、確認の為に同行してたんだ。もしその気配があったら引き返させるつもりでね」

「じゃあ、あんたが途中で口を挟まなかったってことは」

「平原で待ち伏せはしてないみたいだね。多分城下町に入ったところで取り囲んで、袋叩きにするつもりなんだろう。ま、僕たちは城下町には行かないけどね」


 てことはやっぱ、内通者がいるのも炙り出すことも俺とレイリス以外は知ってたっことだ。

 ギルニウスが一枚噛んでたのも。


「いやーしかし、悪魔に寝返った者を追い詰めるのは楽しいねぇ!胸が空く思いだよ!あ、そっちの男は縄で縛って放置でもしといて」

「でもギル、ボクたちの方について来たらベルの方は?あっちについてなくて大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」


 レイリスの問いにギルニウスではなく、肩に乗られている鎧の人物が代わりに答えた。

 しかも聞き覚えのある声で。

 鎧の人物は頭を覆う兜を外そうと重そうな両腕を上げ、ゆっくりと兜を脱ぎ素顔を晒す。

 外した瞬間に森の色のように綺麗な長い髪が溢れ、側頭部に咲く花が揺れる。

 鎧の中は蒸していたのか、額は汗に濡れており、「ふぅ!」とベルは息を吐いた。


「だって、本人はここにいますから」

「「ベル!?」」

「はぁ、重鎧って結構重い蒸れるんですね。ここまで歩くの結構大変でした。もう脱いでもいいですよね?」


 そう言って鎧を脱ぎ始めると、他の面子がベルが鎧を脱ぐのを手伝い始める。

 どうしてここにベルがいるんだ……本陣の指揮を取るって話だったのに?


「ごめんなさい。本当はお二人にもお話しておくべきだったのですが、カゲヤマさんに口止めをされてました」

「密告者が誰か教えれば、必ずお前たちはそいつを警戒するだろうとな。口が軽いか堅いかより、態度に出やすいと思ったからあえて黙っていた」

「じゃあ、ボクとクロ以外はみんな知ってたってこと!?兄さんも!?」

「いや、まぁ……うん」


 兄であるニールには教えられて、妹の自分には知らされてなかったことに落胆するレイリス。

 でもその判断は俺も正しかったと思う。

 だって、俺もレイリスも戦争未経験だし、そういった駆け引きができる程成長してないし。


「ちょっと待って?じゃあ、誰が本陣の指揮を取ってるんだ?」

「私の影武者さんが代わりに立っています。妖精族の里から呼び寄せました。勇者であるレイリスさんが行くのに、巫女である私が付き添わない理由はありませんから」

「そうそう!神様の僕もいるしね!敵に情報が流れてるのは知ってたから、巫女が本陣、勇者が潜入って教えとけば、絶対王城の守りと巫女を捕らえる為に魔王軍は戦力を分散させざる負えない。しかぁし!僕たちは最高戦力で魔王の虚を突いて討ち取ろうって寸法さ!凄い作戦でしょ!褒めて褒めて!」

「あぁ……それ聞くと素直に凄いって思うよ」


 少なくとも今の俺には思いつかない。

 密告者がいるとわかったら真っ先に捕らえようとするだろうけど……なるほど、そういう泳がせ方もあるのか。

 覚えておこう。


「ねぇ、それで結局……本当の作戦ってなんなの?ボクたちはどこから潜入するの?」

「答えはあちらにあります。皆さん、ついてきて下さい」


 ベルに誘導され全員で丘の下に降りる。

 近くに崩れた古い小屋があり、瓦礫を退かすようにお願いされ、撤去してみると深い穴が開いていた。


「この穴は数年かけてサカタさんたちが掘ってくれてた物で、ライゼヌス地下の下水道に繋がってます。ここから城下町、王城の庭園の井戸に向かいます。それが本来の作戦です」

「下水道かぁ……嫌な思い出しかねぇ」

「私もです」


 過去にインスマス教会に潜入する時に使った物だろう。

 あの時のことを思い出しているとベルが苦笑いする。

 でも、もう深きものもインスマスの奴らもいないはずだし、前より危険はなさそうだ。


「魔物が棲みついてる可能性があるけど、僕と勇者の持つ破魔の剣で探知はできるから、いきなり襲われるってことはないよ」

「下水道内の構造は私が完璧に記憶しているので迷うことはありません」


 自信満々なギルニウスと下水道内の誘導は任せて欲しいとベルは胸に手を置く。

 その時、遠方から大勢の雄叫びが聞こえてきた。

 大勢の足音と雄叫びで大地が震えているような錯覚を感じる程だ。


「戦闘が始まったようだな。全員急ぐぞ」


 影山の言葉に頷き全員穴に飛び込む。

 穴の中はかなり広く、立って歩いても余裕がある。

 ただ、さすがに横幅までには手が回らなかったのか、一人ずつしか前に進めない。

 全員が入ると最後尾のティアーヌが杖の先端を魔法で光らせ内部を照らす。

 光源を得ると俺たちは穴の中を進み始めるのだった。

クロノスとベルたちで城の呼び方が「魔王城」「ライゼヌス城」と違うのですがワザとです

次回も明日更新でーす!

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