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第二百五話 決戦前日② 未来の友達


 作戦本部のテントを出てから影山とティアーヌを探し、俺とニールを含めた四人はレイリスと魔王城に潜入作戦に参加することを伝える。

 二人はすぐに了承してくれ、後はニールに伝えるだけなんだけど……どこに行ったんだあの人?

 探しても全然見つからないんだけど……


「あ、いたいた。おーい相棒!」

 

 なんか、俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど──周囲に人はいないし、気のせいだなきっと。


「さてと、ニール兄さんはどこにいるのかなー?あっちかなー?」

「ちょっと無視しないで!お願いだから!」

「……なんか用ですか?」


 難聴のふりして離れようとしたのだが、足元に抱きつかれ、仕方なくギルニウスに耳を傾ける。

 試練の山の一件で、俺はギルニウスに紐で括り傍で監視するのは止めた。

 といっても、あれは俺がまだギルニウスに心のどこかで期待していて、助けてもらおうとしたからやっていたので、正確には監視ではなく甘えだったのだけど。

 だがもうギルニウスに一切の期待と信仰を捨てた為、今は縛ることも監視することもなく自由にさせている。

 なにかしでかそうとすれば消せばいいし……いかんな、この考え方はルディヴァの影響だな。


「いやね、レイリスたちに君を呼んできてって頼まれちゃってさ」

「レイリスに?」

「そうそう。あっちのベル専用テントで待ってるよ」

「……わかった」


 まぁ、嘘ではないだろうし向かうことに。

 レイリスがいるのなら、ニールの居場所も知ってるだろうし、ついでに聞くとしよう。


「てか、なんであんた小間使いみたいなことしてんの?」

「いや、なんかね?君は偽物だとか殺せとか、あれこれ吹き込んでたせいで信用を失っちゃってさ……結果、あれこれ指示をされるように」


 自業自得すぎるな。

 だからって同情もしないけど。

 それでもまぁ、ギルニウスがレイリスに吹き込んだことで一つだけ本当のことはある。


「クロノス・バルメルドの偽物って点だけは……本当だと思うけどな」

「君はこの時代の、もっと言えば並行世界から来てるからね。ある意味では偽物だよね」

「そうなるだろうな。レイリスたちにとっては」

「教えなくていいのかい?この時代の君は本当に六年前に死んでて、目の前の君は過去から来たって」

「教えてどうするよ。泣かれるに決まってるぜ?少なくとも、今伝えるべきじゃない」

「でも魔王を倒したら君は元いた時代に帰る。今回の戦闘で魔王が倒せるかは僕もわからないけど、もし本当に倒せたら、きっとルディヴァは君をすぐに過去に送り帰す。別れの言葉も慰めも、言えないかもしれないよ?」


 帰る俺を目の前にして泣き出すレイリスか……やばいな、こっちの時代でも容易に想像できる。

 まさか未来に来てまで、レイリスと別れを告げる時にどう言葉をかけるかを考えなければならないとは。

 十年前で王都の学校に行くかニケロース領に残るか、もし王都に行くならどうやって泣き出すレイリスを納得させるかって考えていたのと全く同じだ。

 だけれども……


「もしそうなっても、俺がどうするかはもう決めてる。今も、昔もな」

「そうかい……なら、僕から言うことは何もないよ」

「まぁ言ったとしても、あんたのアドバイスを聞くつもりはないけどな」

「いや聞いて!一応、神の啓示ってことにはなるからさ!せめて心の隅に留めて!」


 ギルニウスの心からの叫びを聞き流しつつ、ベル専用に設置されたテントまで足を運ぶ。

 見張りにベルの護衛に付いてきたエルフの里から来た人たちが立っている。

 挨拶するとすんなりと通してくれ、テントの中に入るとレイリス、フロウ、ベルの三人が和気藹々と談笑をしていた。

 なんか、俺が知らない間にめっちゃ仲良くなってる。


「楽しそうだな」

「あ、クロ。やっと来た」

「もぉ、遅いわよ。クロくん」

「紅茶を淹れますね。座っててください」


 木製の簡易テーブルと椅子がテント内には設置されており、三人はテーブルを囲んでお茶を楽しんでいたようだ。

 俺も椅子に座ると紅茶が差し出された。

 さすがにカップは木彫りで上品な物ではないが、紅茶飲んで談笑するだけなら見た目は問題ない。


「クロ君、先程はすみませんでした。あのようなことを言ってしまい」

「へ?あ、あぁ作戦会議でのことね?いや、大丈夫だよ。あれは多分、俺が悪かったんだ。みんな理解して呑み込んでたのに、俺だけ騒ぎ立てたから」

「いえ、そんな!気持ちはとても嬉しかったです。でも、どうしてもやらなければならないことなので、理解をしていただけると」

「わかってる。だから謝らなくていいって」


 手をひらひらと振り、もうベルに謝る必要はないと伝える。

 ベルが覚悟を持って挑むのなら、俺がこれ以上口を挟むのは悪い。


「その代わり、レイリスとしっかり魔王討伐をやり遂げてみせるさ」

「もしかしてクロくん、レイリスちゃんと一緒に行くの!?」

「ああ、レイリスと同行するように言われた。影山さんとティアーヌさん、ニール兄さんも一緒だ。俺たち以外にも、同行する人がいるらしい。あとで招集かけるってさ。だからレイリス、ニール兄さんにも今の話をするから探してたんだけど、ニール兄さんの居場所知ってるか?」

「うん。多分、武器保管庫にいると思う」


 武器庫か……よし、紅茶飲んだら向かうか。

 まだ熱そうだから、もう少し冷ましてから飲まないと。


「あぁそうだフロウ。この盾、ありがとな。すごい役に立った」

「本当?なら良かったわ」

「なんか、すげー変な隠しギミックがあったけど。おかげで命拾いしたよ」

「ギミック?」

「あれだよ。盾がガバって展開して、魔法攻撃打ち消すやつ……あれ、もしかして知らない?」

「そっか……その盾は、本来はそういった使い方をするものだったのね」


 俺の説明にフロウは遠い目をして盾を見つめる。

 やっぱり、盾に何かしら特別なのは知っていたけど、魔法攻撃を打ち消す効果を持ってるのまでは知らなかったのか。


「クロくん、それどうやって使いこなしたの?」

「えっと、さぁ……?なんか死んでたまるかー!って叫んでたら、いきなり盾が開いて発動したんだ」

「ボクも見てたけど凄かったよ。相手の必殺の攻撃を完全に無力化してたんだ。あれには驚いたよ」

「かなりマナの燃費悪いけどな。攻撃を防げてもマナ不足で死ぬかと思ったわ」

「そっか……クロくんみたいな気持ちが足りなかったのかな。ワタシには」


 俺たちの話を聞いて、フロウは物寂しげな表情を見せ紅茶を一口飲むと一人頷き、


「うん、クロくん。その盾、そのまま持って行っていいわよ」

「え、でもお前どうするんだ?」

「ワタシは後方で前線に出る人たちの援護をするから、それは必要ないの。むしろ、クロくんの方が必要なんじゃない?あの魔王に挑むのなら尚更」

「……わかった。ありがとな、フロウ」


 魔王戦でも、おそらくこの盾の性能にかなり頼ることになると思う。

 問題はマナの消費が激しいってことなんだけど……でも贅沢は言えないか。

 性能が良い分扱いが難しいって思えば。

 そろそろ紅茶も冷めただろうと、木製カップに口に付け一気に飲み干してから立ち上がる。


「じゃあ、俺そろそろ行くよ」

「兄さんの所に行くの?ならボクも」

「大丈夫。武器庫に居るのならすぐ見つかるって。ベル、紅茶ご馳走様」


 ニールは武器庫にいるとレイリスから教えてもらえたし、会えたらついでに弓のことも相談するか。

 席を離れテントから出て行こうとして、「ねぇ、クロくん」とフロウに呼び止められ振り返る。


「懐かしくなかった?こうして、四人(・・)で御茶会をしたの」


 その質問に思わず「え゛……?」と変な声が出てしまう。

 さぞ今の俺は変な顔をしていることだろう。

 俺、このメンツで御茶会なんかやったことないぞ?

 あ、でも待てよ?

 過去の俺は無くても未来に俺はしていた可能性がある。

 なんせ未来の俺は死ぬ直前、レイリスとフロウと一緒に王都に向かう途中だったはずだ。

 そう考えればこの三人の打ち解けるスピードが異様に早いのも納得できる。

 即ち、この三人は俺がまだ過ごしていない時間の中ですでに顔見知りなのかもしれない。

 ならばここでの返答は、


「そうだな!また四人でやれて嬉しかったよ。じゃあ、またあとでな」


 手を軽く挙げテントから出る。

 よし、吃らずに返答できたぞ。

 これなら怪しまれはしないだろう。

 滑らかに返答できたことに内心ガッツポーズしながらその場を足早に去る。


「あぁ待って待って相棒!僕もついてくよ!」


 慌ててギルニウスが追いかけてくるが、まぁ別に気にしない。

 ニールは武器庫だったな、急いで向かうか。


─────────────────


 クロノスがテントから去るのをレイリス、フロウ、ティンカーベルの三者は見送る。

 姿が見えなくなってからレイリスが、


「ねぇフロウ、ボクたち四人で御茶会なんてしたことあったっけ?」


 と疑問符を浮かべた。

 それに対しフロウは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「開いたことはあるわ。もっとも──三人で(・・・)、だけど……」


 悪い予感が的中してしまったとフロウは手で顔を押さえる。

 ティンカーベルも同様に複雑な表情で心に影を落とし、側頭部に咲くピンクファイアーも少し花弁が萎びていた。


「レイリスさんを探しに、クロ君の故郷を訪れた時からずっと感じていた違和感……それがようやく、わかりました。信じたくはありませんけど」


 暗い表情を見せるフロウとティンカーベルにレイリスは戸惑う。

 二人の言葉の意味することがわからず、つい尋ねてしまう。


「二人とも、どういうこと?クロがどうかしたの?」

「………レイリスちゃん」


 ティンカーベルと顔を見合わせてからフロウは口を開く。

 言うべきか言わないべきかしばし迷うが、胃を決し語り始めた。


「レイリスちゃん。今から言うことは誰にも言っちゃダメよ。ニールさんにも、もちろんクロくんのお母さんにも」

「……?うん、わかった」

「クロくんは……あのクロノス・バルメルドくんはね?──ワタシたちの知ってるクロくんとは、別の(・・)クロノスくんかもしれない」

次回も20時となりますのでよろしくです!

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