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第二百三話 役立たずなお節介焼き

GWもちょうど中間ですね

そろそろワイも仕事休みたい……


「俺は……この時代に残ります」


 ルディヴァが俺に元の時代に帰ってもいい、と言ってくれた。

 でも俺が帰って何かしても、この未来は並行世界だから変わらないらしい。

 それを聞いてしまった以上、この時代にいるレイリスやフロウたちを放ってはおけない。

 しかし、俺の言葉にルディヴァは無表情になり、


「この時代に残る?残ってどうするのですか?」

「レイリスたちと一緒に魔王と戦う。ただでさえ人手が足りないんだ。俺が参加すれば、少しは負担も」

「はぁ……あのですねぇ?あなたはただの人間なんですよ?勇者のように強力な剣を持ってる訳でも、それに匹敵する能力を身につけているわけでもない。対して相手は魔族の王。勇者と互角……いえ、この時代では勇者以上の力を有している。

 蟻が一匹増えたところでこの時代の歴史には大した変化なんて起きません。あなたが歴史に与える影響がほぼ皆無だから、私はこの時代にあなたを飛ばして経過観察をしていたんですよ?せっかく元の時代に帰そうと提案しているのに、それを断って残りたいなんて……あなた、死にたいんですか?」

「そうだよ相棒!せっかくルディヴァが珍しく許してくれるんだよ!?ここは素直に帰っておいた方がいいって……」


 二人の言うように、おそらく俺一人が残ったところでまともな戦力にはならないかもしれない。

 今度こそ、本当に魔王に殺されるかもしれない……だけど、


「俺は、もう目の前で助けられるかもしれない人を見捨てるのは無理なんだ。トリアを我が身可愛さで見捨てた時、すごく後悔したし、それを誤魔化そうと怒りに身を任せて暴走した。きっと今も、この時代で出会ったみんなを見捨てて自分だけ平和な時間に戻れば、俺はずっと後悔することになる。

 それじゃあ、俺がこの時代で学んだことが全部無駄になる。だから俺は残る。ただの人間でも、勇者の役に立つことぐらいはできるはずだ」

「どちらかと言えば、お節介な役立たず……だと思いますけどね」


 呆れたように指摘し、ルディヴァは目を閉じる。

 しばらく何か考えていたのか、動きを止めるがフフッと笑うと再び杖を振った。

 すると、光の柱が消えて過去に戻る手段が無くなる。


「いいでしょう。好きにしてください」

「えー!?好きにさせちゃうの!?今すぐ帰してよ!!」

「彼が自分で決めた未来なら、私と先輩が口を出すことじゃありませんよ。それに、こっちの方が面白そうですし。ただし、もしまた死にそうになっても私は助けませんよ?」

「構いません。自力でなんとかします」

「よろしい。まぁ、あなたが死んでも暴走して周りを巻き込んだ挙句、先輩を殺して自滅するだけですし、元の歴史とそう変わらないから問題ありませんね」

「問題あるわぁ!僕死んじゃうじゃん!!」

「じゃあ、魔王を本当に倒せたらまた迎えに来ますね。十年ぐらい先でしょうけど。あと、これはサービスです」


 もう一度ルディヴァが杖を振ると布で吊るしていた俺の右腕が光る。

 急に腕の感覚が戻ると、自由に動かせるようになった!


「お?おおおお!?腕が治ってる!?」

「試練の山で面白いものを見せてくれたお礼です。じゃ、頑張ってくださいね〜」


 手をひらひらと振りながらルディヴァの身体が光に包まれる。

 やがてその姿は消え、俺とギルニウスの二人だけがその場に残った。


「はぁ……相棒は馬鹿だなぁ!素直に帰ればいいのに!」

「俺もそう思うよ」


 そう答えて踵を返す。

 もうここに用はない。

 歩き出した俺をギルニウスが追いかけてくる。

 これでもう後戻りはできない。

 でも、自分で決めた未来だ。

 後悔は絶対にしない。


✴︎


「坊主、ここにいたのか」


 森を出て難民キャンプに戻ると影山に出会う。

 どうやら俺を探していたらしい。


「いきなりいなくなったから、元の時代に帰ったのかと思ったぞ」

「え、なんで知ってるんですか!?」

「冗談のつもりだったんだが……帰らなかったのか?」

「はい……まだ、やることがありますから」

「そうか」


 俺の返答に影山は短く答えて帽子で目線を隠す。

 その動作の時に俺の腕に巻かれていた布が取られていることに気づき、


「お前、腕はどうした?」

 「え?あぁ、女神様が直してくれました。もう平気です」

「それは良かったな。なら、早く母親に顔を見せに行ってこい。帰ってきたと聞いて、ずっと探していたぞ」


 あ、ユリーネのこと完全に忘れてた!

 そうだよ、難民キャンプにはユリーネが避難してたんだから会いに行かないと!


「そうだった……!すぐに行きます!あっ、そうだ影山さん!あとで行きたい場所があるので、付き合ってもらえますか!?」

「ああ、わかった。早く行け」

「ありがとございます!」


 礼をしてからその場を走り去る。

 乱雑に立てたられたキャンプ地まで走ると、ユリーネの姿を探す。

 彼女も俺の姿を探して歩き回っていたからすぐに見つけた。


「母さん!」

「……っ!クロちゃん!」


 お互いを見つけとる駆け寄り抱き合う。

 その時にユリーネの身体が以前よりも痩せ細っているのに気づく。

 ちゃんと食べていないのか?


「クロちゃん!大丈夫なの?どこも怪我してない!?また魔王に襲われたりしなかった!?」

「大丈夫ですよ。この通り元気です」

「そう……あら?クロちゃん、あなた……子供の頃と同じ顔つきになったわね。何かいいことでもあったの?」

「あの……子供の頃の顔つきって、どんな顔つきですか?みんなにそれ言われるんですけど」


 母親のユリーネにまで言われるとは思わなかった。

 でも子供時代に一番近くにいたユリーネがそう言うのなら、俺の顔つきは間違いなく子供時代に戻っているのだろう。

 なんで?

 こういうのって普通、色々経験して大人っぽくなったとか言われるはずだよね?

 なんで逆行してるって言われるの?


「ま、まぁとにかく。無事に帰って来れたんで安心してください。レイリスも見つけて来ました」

「ええ、でも聞いたわよ。彼女、勇者なんでしょう?じゃあ、あの子は……」


 ユリーネの表情が暗くなる。

 勇者であることがどういうことか、それは容易に想像できてしまう。

 その結果、どういう結末を迎えてしまう可能性があるのかも。


「大丈夫ですよ。俺もレイリスたちと一緒に魔王と戦いますから、そんなことは起きませんよ」

「でも、それだとクロちゃんも……!」

「俺だって、死ぬつもりはありません。魔王は父さんの仇でもある。だから、絶対に生きて勝ちます……」


 俺が死んだら、封印されてるもう一つの魂が表に出てきてギルニウスを殺す為に周りの全てを巻き込む。

 ギルニウスはどうなってもいいが、レイリスやユリーネまで巻き込ませる訳にはいかない。

 だから、俺は絶対に死ぬことはできない。

 その覚悟が伝わったのか、ユリーネは優しい顔を見せて頷いてくれる。

 納得はしていないのかもしれないけど、俺の意思を尊重してくれるようだ。


「あ、そうだ母さん。この辺に花ってありますか?」

「お花?あるわよ?でも、どうするの?」

「ちょっと、お墓参りに」


✴︎


 ユリーネに花の咲いている場所を教えてもらい、適当な色の花を摘んで鮮やかな花束を作った。

 俺は影山に連れ添いを頼むと、馬車で難民キャンプを離れる。

 ギルニウスも付いてきたがっていたが同行は拒否した。

 どうしても、あいつには付いてきて欲しくなかったから……


「すいません影山さん。疲れているのに付き合ってもらっちゃって」

「構わん。一人で行って、魔物に襲われて帰ってこなくなった……なんて事態になられるよりはな」

「そんな子供じゃないんだから──すいません、年齢的にはまだ子供でした」


 そうだよな、成人の見た目にすっかり慣れてきたけど、実際俺って中身は九歳そこらなんだよな。

 全然子供だったわ。


「しかし、なんでティアーヌさんも付いてきたんですか?休んでてもいいのに」

 

 馬車の隅に座っているティアーヌを見る。

 俺が影山と馬車で難民キャンプを離れるところを目撃し、そのまま馬車に乗り込んできたのだ。

 俺が頼んだ訳でもないのに。


「貴方が暴走した時に、止める人がいないと困るじゃないかと思ってね」

「心配してくれるはありがたいですけど、俺はもう暴走はしないですよ」

「あらそう?それならそれでいいのだけれどね」


 ティアーヌなりに心配して付いてきてくれたのだろう。

 俺たちが今向かっているのは旧難民キャンプ地──魔王ベルゼネウスに攻められ撤退した場所。

 ジェイクたちが眠っている場所だ……

 馬車が近く程に胸が締め付けられるような感覚を覚える。

 影山に頼んで少し離れた場所に止めてもらうと、花束を手に一人で馬車から降りた。


「じゃあ、行ってきます」

「坊主。ここはもう人の手が入っていない。だから、あまり騒げば魔物が寄ってくるのを忘れるなよ」

「わかってますよ。そんな大声出したりしないから心配ないですって」

「バルメルド君……本当に一人で平気?」


 馬車を降りた俺をティアーヌが心配そうに見ている。

 ティアーヌだけじゃない、態度には出さないけどおそらく影山も……だから俺は、


「大丈夫ですって。すぐ戻りますから」


 笑顔を作って歩き出す。

 一度両眼の能力を使って、周囲に魔物がいないか確認しつつ、警戒して進む。

 剣も弓矢も壊れて、今の俺は武器を持っていない。

 それでも、フェリンとの戦いを経験したからか、盾と魔道具のグローブとブーツがあれば何とでもできる気がする。

 一人旧キャンプ地を進む。

 焚き火の跡や、誰にも拾われなかった武具が地面に転がっているが、目もくれず歩き続け、魔王襲撃の際に命を落とした人たちが埋葬された墓に辿り着いた。

 その中の一つ、ジェイクが埋葬されている墓の前に立った。

 木の枝で作られた墓標。

 立てかけられたジェイクの剣。

 そこに持ってきた花束をそっと備え、俺は片膝を着いて語りかける。


「ちゃんと挨拶に来るのが遅れて、すいませんでした。俺は……なんとか元気です。色々……本当に色々なことがあったけど、まだ生きています。クロノスとして。

 魔王に殺されかけた時、父さんは身を呈して俺を守ってくれた。でも俺は、あの時、斬られたのが俺じゃなくて良かったと……心の中で、思ってしまいました」


 ジェイクは魔王ベルゼネウスの凶刃から俺を庇って倒れた。

 俺は、ジェイクの死を受け容れることができず、死んだのが自分ではなくて良かったという安堵感を覚え、その罪悪感に苛み、もう一つの魂に乗っ取られて暴走した。

 守ってもらえたのに……そのことに俺は感謝も、悲しみの涙さえも流せなかった。


「俺は、自分のことしか考えてなかった。この時代の人たちのことを、自分とは関係ない、自分が知ってる人たちとは別人だと考えてた。だから、ジェイクが死んだ時……悲しくなかった。この時間のジェイクが死んでも、過去に帰れば生きているジェイクにまた会えるのだから……だから、死んだのが自分じゃなくて良かったと、思ってしまったんです」


 口を開く度、ジェイクの墓に溢す度、目頭が熱くなる。

 腕の中でジェイクの体温が冷えていく、あの感触が思い出され、胸が締め付けられる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!守ってくれて──ありがとう、ございました──ッ!!」


 瞳から流れる涙が、頬を伝って地面へと落ちる。

 一度流れ出せば、それはもう止められない。

 もはや自分の意思で、それを止めることはできなくなる。

 堪えられずに溢れ出す涙をただ流し、張り裂けそうなほど苦しい胸を押さえ、今にも叫びたいのに、泣き喚きたいのに……喉の奥から出てくる物を必死に抑えて、静かに噎び泣き続ける。

 誰にも聞かれていない、懺悔の言葉。

 もしかしたらこれも、俺の身勝手で独りよがりな慚愧なのかもしれない。

 でも、でも今は……あの時流せなかった涙と、感謝の気持ちと後悔を──身を震わせ、涙が収まるまで俺はずっと、一人泣き続けるのだった。

次回は明日20時からです!

まだまだよろしくお願いします!

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