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第百九十八話 勇者の剣に認められしは

最近ようやくFGOの第一部をクリアしました!

ちまちまやっててようやくですよ……熱くのめり込めるシナリオでした……


「ちなみにこの時間軸だと、勇者レイリスは負けます。運命でーす」

「「そういう大事なことは先に言って!!」」


 いきなり衝撃的な未来を告げられ、思わずギルニウスとハモってしまう。

 ルディヴァが杖を掲げた際に生まれ光に包まれる。

 光が収まり周囲の光景を目視できるようになる頃には、俺たちはいつの間にか火山の外──岩山に囲まれた場所に立っていた。

 外はもう朝のようで、暗雲に陽の光が阻まれてはいるが僅かに視界が明るい。


「外だ!やったよ、外に出れたんだ!うおおおお相棒ぅぅぅぅ!」


 感極まったギルニウスが抱き着こうと顔に飛びついてくるが、無視して岩山を駆け登る。

 背後から「ぎゃふ!」と声がしたが、放っておいて両眼の能力を全開にし、周囲に人影がないか確認する。

 ルディヴァは、レイリスとフェリンが戦っていると言っていた。

 そして敗北するとも……だが、戦闘中であって既に決着がついているわけではないはず。

 時の巫女が負けると言った以上、本当に負けるのだろう。

 しかし戦闘中の今なら、割り込んでレイリスの敗北を阻止できるはず!


「ちょ、ちょっとクロノスぅ。せっかく外に出れたんだから、この感動を共有しようよ……」

「知らん!いいからあんたもレイリスかフェリンを探せ!ルディヴァの言葉が本当だとしたら、まだ近場で戦闘をしてるはず……」


 少なくとも両者が山から降りた──はずはない。

 俺がどれだけ第三の試練のクリアに時間を要したかわからないが、ルディヴァがわざわざ知らせたということはこの付近で戦闘中なはずだ。

 だって俺が知れば間違いなく助けに行くし、ルディヴァは未来が視えるのだから、少しでも彼女にとって面白いと思える状況なら絶対に俺に教えるはず!

 手の平で踊らされるのは癪だが、相手は未来が視える女神だ。

 お望みならいくらでも踊ってやる!

 マナの消費も気にせずに眼の能力を全開にして二人を探す。

 すると遠くから爆発と黒煙が上がるのを目撃する。

 視界を絞り眼を凝らすと、フェリンが空を飛び地面を見下ろしている姿を見つけた!

 間違いなくあそこにレイリスもいるはずだ!

 岩山を飛び降りて走り出すと「待って!僕も行くって!」とギルニウスが服の袖に飛びつく。

 それも気にせず両足にマナを込めると、風魔法で一気に加速して黒煙が立ち込める場所を目指す。

 徐々に視界にティアーヌ、ニール、影山の姿も確認できるが、全員ボロボロで地面に倒れていた!

 フェリンは剣士以外には手を出さないはずなのに……まさかみんな、フェリンに勝負を挑んだのか!?

 三人とは少し離れた位置にレイリスの姿も見つけたのだが、同様に身体に切り傷があり、地面に膝をついて破魔の剣を支えに立ち上がろうもしている。

 あのままだとマズイ──足に込めるマナの量を上げて更に加速する。

 間に合え、間に合え、間に合え!!


「これで終わりか!呆気ないな!」


  遠くからでもギルニウスの声はよく響いて耳に届く。

 言葉の割には楽しんでいたのがよくわかる。

 それでも、楽しい時間が終わってしまうのが悲しいのか表情は哀しそうだ。

 しかしまだレイリスは諦めていない。

 戦おうと剣を支えに立ち上がるのだが、破魔の剣を弾き飛ばされ、喉元に長剣の剣先が向けられる。

 その光景を目にすると、脳裏にトリアがワイバーンの炎に包まれた時の記憶が蘇る。

 救えたはずの命を、我が身可愛さに手を伸ばさなかった情けない自分を。

 長剣はゆっくりと振り上げられ、武器を失くしたレイリスを斬る為、頭部めがけ振り下ろされて──


「させるかァァァァ!!」


  一気に加速してレイリスとフェリンの間に入り込む!

 振り下ろされた長剣を腕を上げて盾で受け止める。

 衝撃と剣の重さが、盾を装着した左腕全体に伝わり、少しの痛みと痺れに震える。

 でもその痛みと痺れが、今度は間に合うことができたことを実感させてくれた。


「クロ……!」

 「悪い、だいぶ遅れた!」


 一言謝り、フェリンの長剣を押し返して弾く。

 数歩後退してから、フェリンは俺を見て小さく笑う。


「遅かったではないか、クロノス。試練に倒れたかと思ったぞ?」

「ご心配どうも。この通りピンピンしてるよ」

「そうか。だが実際のところ、あまり心配などしてはいなかったがな。しかし……あの時とは逆だな」


 あの時、というのはフェリンが初めて俺たちの前に現れた時のことだろう。

 俺がフェリンの剣で倒れそうになって、破魔の剣を手にしたばかりのレイリスが間に割って入って俺を助けた──確かにあの時とは逆だな。

 レイリスが斬られそうになったところに、今度は俺が邪魔に入った。

 あの時は興が冷めたと言ってフェリンは帰ってくれたが……


「なんだ、俺が邪魔したからまた興が冷めたか?」

「いいや、オマエは必ず邪魔しに来るだろうと思っていたからな。今回は気にしていない」

「ちぇ、せっかくだから冷めて欲しかったんだけどなぁ」


 ぶっちゃけ、これで興が冷めて帰ってくれるのが一番良かった。

 俺にはフェリュム=ゲーデという剣士に勝てる自信が全くない。

 前に戦った時、俺は手も足も出なかった。

 剣士としての技量もセンスにも、俺は敵わない。

 今度こそ本当に死んでしまうかもしれない……でも、現実の全てを受け入れると決めたんだ。

 ここで逃げたら俺はもう、きっと一生何も受け止められない。


「レイリス、俺の剣は拾っといてくれたか?」

「あ……う、うん。カゲヤマさんが持ってるよ……」

「ありがとな。あとは俺が何とかする。……フェリン!俺と勝負だ!禁断の森での決着、ここでつけようぜ!」

「良かろう!我も同じ考えだ!しかし、オマエは剣がないだろう?その状態で戦うのか?」

「仲間が持ってきてくれてる。少し準備をしてもいいか?」

「当然!」


 俺の提案を快く承諾し、長剣を岩に突き刺すと腕を組んで仁王立ちで待ってくれる。

 ほんと、剣を持ってない俺とは戦わないと言った時といい、戦いの為の準備をさせてくれるのといい、器が大きいというか何というか。

 まぁ今はその器の大きさに感謝しよう。

 レイリスの肩を持ってニールたちの元へ連れて行く。


「ニール兄さん、レイリスをお願いします」

「わかった。さ、こっちで落ち着こう」

「ティアーヌさん、斬撃飛ばしたりとかするだろうから……」

 「わかってるわよ。こっちに来るのは対処するから、貴方は私たちに気にしないで、思い切りやりなさい」

「ありがとうございます。影山さん、俺の剣を」


 影山は頷くと革袋から布で刀身が巻かれた剣を出してくれる。

 ようやく右手にしっくりする武器が戻って来てくれた。

 やっぱり錆びた剣とかよりも、使い慣れた剣の方がいいな。


「じゃあ、あとは頼みます」

「待て坊主、これも一緒に持っていけ」


 フェリンに挑もうと踵を返したのだが、呼び止められて進もうとしていた足が止まる。

 影山は革袋から剣とは別に、革のグローブとブーツ一式を取り出し渡してきた。


「ブーツは俺の予備だ。坂田に預けておいたのを持ってきた。今のお前なら使えるだろう。グローブも補修したとは言え、一度は切れた物だ。新しいのに替えておけ」

「おぉ、ありがとうございます!グローブの方、火山入ってちょっと焦げて穴空いてたんですよね。助かります」

「魔石はまだ残ってるか?俺の分で補充もできるが……」

「そっちは大丈夫です。たんまり受け取りましたから」


 左腰のツールポーチを軽く叩いてジャラジャラと魔石同士が擦れる音を響かせる。

 それを聞いて「誰にだ?」と影山に聞かれるが、答えずに小さく笑っておいた。

 この魔石は全部影の俺との戦闘中に拝借した物だ。

 外に出ても消えずポーチに残ったままだったので、受け取ったことにして持ってきたのだ。

 もちろん、受け取ったのは魔石だけじゃないけど。


「ギルニウス。お前も邪魔だからレイリスたちと待ってろ」

「邪魔って……こんななりでも、サポートぐらいはできるんだよ?」

「だからって、俺と一緒に死地に赴く必要はないだろ。俺は、俺自身の力であの剣士と戦いたいんだ」

「クロノス……」

「それに、あんたがいても耳元でギャーギャー喚くだけで煩いしな」

「何をー!?」


 右肩に乗っていたギルニウスを掴むとレイリスに放り投げる。

 別にギルニウスの身を案じたという訳でもない。

 ずっと右肩に乗られて邪魔に感じていたのは本当だしな。


「じゃあ、行ってきます」


 新しい魔道具のグローブとブーツに履き替え、フェリンの元へ移動する。

 ブーツのサイズが少し大きいが、紐をガッチリ縛って固定しておいた。

 戦ってる最中に脱げたりはしないだろう。

 仁王立ちで待っていたフェリンは、ようやく戦えるとうずうずしている。


「悪い。待たせたな」

「構わぬ。この時間もまた格別だ。では……早速あの黒いのを使って見せろ!」

「黒いの?」

「禁断の森での決闘の際、オマエの全身に見えたあの黒い力だ。まだ隠している力があるのならば、我はそれとも戦いたい!!」


 あー……そういや、あの時は飲まれそうになったんだっけ。

 俺は覚えてないけど、影山からは聞いていた。

 しかし参ったな。


「あー……えっと、悪いけど、その力は使わない」

「使わない!?何故!?」

「アレは、俺の力じゃないんだ。自分で制御ができない。そんな力は、使いたくない」

「そうか……ならば、勇者の力を使うのか?」


 フェリンの示す先には、レイリスの手を離れ弾かれた破魔の剣が地面に刺さっている。

 そういや、回収するの忘れてた。

 でも……


「いや、勇者の力も使わない。そもそも俺は勇者じゃないから、破魔の剣を持てないだろうしな」

「ギルニウス神がいる。あの者に頼めば、オマエも勇者になれるのではないか?」

「かもな。だとしても、俺は勇者にはならないよ。ギルニウスに頼った生き方はしないって、もう決めたからな。それに勇者はレイリスなんだ。俺じゃない」


 数時間前の俺なら、もし自分が今からでも勇者になれると判れば、きっとギルニウスに頼んででもなっていただろう。

 でも影の──心と対面した今の俺には、レイリスを蹴落としてまで強くなろうとする自己顕示欲はもうない。


「俺はずっと、他人の用意したレールの上を走ってるだけだった。そいつに任せておけば、ただ決められた道を進んでれば、それで全部上手く行くと思ってたんだ。でもそれじゃあ……俺は一人じゃ何もできない、ただの人形だってことを思い知った。俺は、自分の意思で進まなきゃならなかったんだ。

 だから俺は、もう頼るのを辞めた。俺は俺自身の力で未来を選びたい」


 きっと、俺の未来は一度、ずっと前に失っていた。

 ルディヴァに初めて会った──未来に飛ばされたあの日から。

 未来を無くした日からずっと、この時の為に旅をしていたのかもしれない。


「俺は、勇者でなくともいい。特別力なんていらない。俺はただ俺のまま、俺の意思を持って進めばいいんだ。

 誰かに未来を委ねて、自分じゃどうにもできないからって現実から目を逸らして耳を塞いじゃ駄目なんだ。我が身可愛さ優先の情けなくて弱い心の俺に……未来なんかない!」

「しかし、そのままの力では我には勝てるのか?中断したとは言え、我は一度オマエに勝っているのだ。以前と変わらぬままならば勝ち目はないかもしれぬぞ」

「確かに、情けなくて弱いままの俺じゃ勝てない。だけど、他人から与えられたり自分以外から得た得体の知れない力なんかに頼って生きてたら、結局何も変わりはしない!!俺はもう自分の情けなさを知ってる。現実の全てを受け入れる心も思い出した。俺はもう弱くても──情けなくて弱い心の俺じゃない、弱いだけの心を持った俺になれた!

 勇者にならなくても、化け物の力になんて頼らなくても、俺は弱いまま戦って強くなる……!特別でもなんでもないただの存在で……!」


 そうだこれが、俺がこの時代でずっと悩んで、失って、泣き喚いて、みっともなく生きて、やっと見つけた俺の──答え!!


「俺は戦う!人間として、クロノス・バルメルドとして!!」

 

 突如、俺の答えを聞いた瞬間に破魔の剣が眩い光を放ち始めた!

 地面に刺さっていた破魔の剣は独りでに揺れ始めると、地面から抜け宙に浮かび上がる。

 そして飛び回ると俺の前で止まり、ゆっくりと回転すると、大地に向かっていた剣先が空を示し、目の前に近づいてくる。

 え、なにこれ、どういうこと?


「ギル、あれって何が起きてるの!?」

「破魔の剣が認めたんだよ……クロノス・バルメルドが勇者に、自分の持ち主にこそ相応しいって認められたんだよ!相棒は剣に選ばれたんだ!!」

「剣に選ばれた……クロが?」

「相棒!破魔の剣を手に取るんだ!そうすれば、君は勇者クロノスだ!!」


 俺が、勇者……?

 興奮し叫ぶギルニウスに肩越しに振り返り、もう一度目の前で浮遊する破魔の剣に目を向ける。

 早く自分を手に取れと急かすように破魔剣は近づいてくる。

 俺は……剣へと左腕を伸ばす。

 徐々に手が剣に近づいて、そして──


「俺は……こんな剣いらねぇつってんだろうがァァァァ!!」


 拳を握り締め、腕を振るって盾で破魔の剣を殴り飛ばす。

 破魔の剣は地面を転がると光を失う。


「ええええええええええ!?」


 そんな俺の行動にギルニウスの素っ頓狂な声が響き渡った。

正直この剣殴らせる話をしたいが為に勇者出しました


次回投稿は来週日曜日22時からです!

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