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第百九十七話 自分で選ぶ未来

影クロノス戦決着です!



 影から脱出した俺は、影クロノスから奪った魔石をツールポーチに突っ込むと火属性の魔石だけを残して右グローブのスロットに装填する。

 影クロノスも黒い魔石を左グローブに装填していた。


「火よ!」

『水よ!』


 同時に利き手を伸ばし魔法を発動させる。

 俺は火魔法を影は水魔法を。

 火柱と水柱は正面から激突すると爆発し、周囲を煙が包み視界を遮る。

 今のでマナを全て使い切ってしまったので魔石が濁りただの石に変わったのを認識し、スロットから抜いて別のをポーチから取り出そうとする。

 しかし煙の中から黒い魔石が飛んで来るのが見え盾で防ぐ。

 だがそれは囮で、背後の煙から影クロノスが姿を現した!

 跳び蹴りを繰り出し、狙ってくるのは俺の頭部。

 咄嗟に風魔法を発動させ、跳び蹴りと頭部の間に突風を生成して勢いを殺そうとするが、防ぐことができず蹴りをもらってしまう。

 蹴りと突風の勢いで吹き飛ばされてしまうが、威力は抑えることはできたのかそれ程痛みはない。

 転びながらも何とか起き上がり、ポーチから雷の魔石を取り出し、スロットに装填を


『土よ!奴を撃て!』


 阻止しようと影が砲岩を放ってくる。

 装填を止めて十程度の砲岩を盾で防ごうとするが、それだとまた背後から奇襲を受けるかもしれない。

 なら、別の方法で……!


「水よ!曲がれ!!」


 砲岩を水で受け流そうと正面に巨大な水の球体を創り出す。

 球体で受け止めず砲岩を打ち返そうと閃き、身体を回転させ水の球体を引き延ばしてUの字に変形させると、左側で受け止めた砲岩を右側から水と一緒に放出させた。


「全部返すぞ!」

『うわぁぁぁぁ!!』


 砲岩と水を盾で受け止めようとする影だが、水圧と岩の衝撃を防ぐことはできず吹き飛ばされた。

 その隙に俺は雷の魔石を装填し、右手に全てのマナを込める。

 すると、よろよろと立ち上がりながら影は、


『お前、何があった……?さっきまで、あんなに心が不安定だったのに……』

「そうだな……俺は、さっきまでお前に図星を突かれて動揺してた。俺が思ってなくても、心の何処かでそう思ってしまっている自分がいるってのが認められなくて、認めたくなくて否定してた。

 でも、否定なんかできないんだ。お前の言う通りお前は俺の影で、俺と同じ心を持っているんだから、お前を否定なんかできない。俺が否定していたのは俺自身だったんだ。

 お前の言う通り、俺はまだギルニウスに期待してた。ギルニウスに甘えようとしていた」


 思い返せば、この世界に来てからずっとそうだった。

 何をするにもギルニウスの指示通り。

 俺は一度も、自分の未来を自分で決めてこなかった。

 それが俺の弱さ、情けない心。


「でも、それはもうお終いだ。俺はもう、惰性でギルニウスに甘えない。現実から目を逸らしはしない。自分の未来を他人に委ねたりしない!俺は俺の意思で、未来を選び取る!!」


 雷属性を帯びた拳を握り締め、影クロノスに一気に距離を詰める!

  右腕を振りかぶると、影は盾で防ごうと構えるが、その盾ごと俺の拳はもう一人の俺の胸部を貫いた!

 拳で貫いたもう一人のクロノスからは、熱も何も感じない。

 ただ冷たい感触だけが俺の手に伝わってきて、彼が影だということを再確認させる。

 血も、涙も、何もでてこない影のクロノス。

 静かに、貫かれた自分の胸を見つめている。


『俺はまた……影に戻るのか』

「ああ。でも、お前の心は影には戻らない。ちゃんと俺と一つになる。俺はお前、現実に怯える情けない心。お前は俺、現実に立ち向かう強がりな心。どっちも俺の心で、どっちもお前の心。それが一つに戻るだけ、元通りになるだけ。お前は、俺が忘れかけてた心を思い出させてくれたんだ。だから消えない、影にもならない。目を逸らしたりはしないよ」

『怖くないのか……俺は、特別な力を持ってる訳でも勇者でもなんでもない、ただの人間なのに』

「怖いさ。でも、それともちゃんと向き合う。現実の全てを受け入れられなきゃ、強くはなれない。きっと、影山さんが言ってた『心を鍛えて強くする』ってのは、そういうことなんだと思う。だから、受け入れる。自分の弱さも、現実も、全部」

『……そうか』


 満足そうに頷くともう一人の俺の身体が闇に溶け始める。

 そのまま黒い床に沈んでいくと、鏡面に映っていたなかった俺の姿が映るようになった。

 そして部屋一面に亀裂が走ると砕け散り、一面白い大理石の部屋が現れる。

 部屋も本来あるべき姿に戻ったのかもしれない。

 閉じ込められていたギルニウスも元に戻っており、俺の影もちゃんとそこに存在していた。


「うおっ!?戻ってこれた!?やった!やったよ相棒!!」

「火よ!!」


 戻ってこれたことに感激し近づいてくるギルニウスに対し、魔法で火の粉を散らして拒絶した。


「アッツ!ちょ、何するのさ!危ないでしょ!?」

「俺ともう一人の俺の会話を聞いてただろ。俺はもうあんたに期待も信用もしない。今までは、恩人だったから、まだあんたを僅かでも信じようと心の何処かで思っていた。だけどそんな甘さはもう捨てる。俺はもうあんたを──信仰しない(・・・・・)

「え……あ、嘘嘘!?」


 信仰しない。

 その言葉を口にした瞬間、ギルニウスが借りてるフェレット身体から淡い青白い光がほんの少し飛び出した。

 青白い光はふらふらと宙を舞いながら空へと昇っていき、ギルニウスは光を取り戻そうと必死にジャンプするが手が届くことはなく、光はすぐに消えてしまった。

 儚くも消えてしまった光を目にしたギルニウスは、悲鳴を上げながら膝から崩れ落ちる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「なんだ今の光?」

「先輩に対する信仰心が消えて、力を失ったんですよ」


 突然第三者の説明が入り驚き辺りを見回す。

 聞き覚えのある声に俺もギルニウスも本人を探すと、すぐそばに白い光が降りてくる。

 光の中から杖を持った女性の姿が見え、光が収まるとそこにはルディヴァが立っていた。


「「ルディヴァ!?」」

「どーもー先輩。この時代(・・・・)ではお久しぶりですぅ」


 手をヒラヒラと振りながら笑顔で挨拶をしているのは時の女神ルディヴァ。

 俺を未来に飛ばした張本人でギルニウスの後輩……らしい。

 今までは眠ったり、ルディヴァの空間に呼びされてるかしないと現実には姿を現さなかったのに。


「いやー実際に間近で見ると、フェレットの先輩も可愛いですねぇ」

「うるさいよ。僕だってなりたくてなったワケじゃないやい!」

「でもその姿、とぉっても先輩に似合ってると思いますよ?先輩の威厳と偉大さが全身で表現されてると思いますぅ」

「え……そ、そうかな?」


 見事に乗せられてるじゃねーか……しかもそれ絶対褒めてないぞ。

 目の前のやり取りで二人がどんな関係性かよくわかる。

 普段からこんな感じで踊らされるのだろう。


「ところでルディヴァ様。さっき言ってた力が消えたってのは?」

 「クロノス・バルメルドという一人の信徒から信仰心を失って、神としての力が弱まったのですよ。先輩は人々の信仰する心が神としての能力値になりますからねぇ。過去(あなた)の時代でなら、一人の信仰心を失っても大した損失にはなりませんが、未来(こっち)の先輩はほとんどの信仰心を失って、存在しているのがやっとの状態ですからぁ〜。たった一人でも失えば消えてしまうかもしれないのですよ」

「なるほどねぇ。それであんなに光を取り戻そうと必死だったワケか」

「わかったんだったらもう一回僕を信仰してよぉ!!嘘でもいいからぁ!!」

「嫌だよ」


 神としての力を失っているのは知っていたが、存在が危うくなる程まで信仰を失っていたのか。

 だからって慈悲でもう一度信仰しようなんて思わないけど。

 となると、今ギルニウスが存在を保っていられるのはイトナ村でフロウがギルニウスに祈りを捧げる習慣を行なっていたからだろうな。

 あの村の人たちの信仰心もきっと、ギルニウスが存在を保てる要因だろう。

 

「で、ルディヴァ様はどうして姿を現したんだ?話をするならいつもみたいに自分の空間に呼べばいいだろうに」

「それだとあなた一人としか話ができないんですよぉ。せっかくだし先輩の憐れな姿……偉大な姿を直視しておきたかったですし?」

「ねぇ、今憐れな姿って言わなかった?言ったよね?」

「それに、今この『勇気の試練』の管理をしているの私ですからぁ」

「はぁ!?僕が管理するよう指名した天使は!?」

「死にました」

「嘘つけぇ!?勝手に解任したでしょルディヴァ!?」


 試練の管理をルディヴァがしている、と聞いた瞬間、なんか色々と腑に落ちた気がする。

 入った時にギルニウスが話しかけても無視されたのは、ルディヴァがあえて無視したのだ。

 大方その方が慌てふためくギルニウスを見れて楽しいからとかそんな理由だろう。


「あ、じゃあ三つ目の試練が僕の知らない物になってたのもそのせいだな!?」

「はい〜勝手に変えさせてもらいましたぁ」

「なんで!?なんでそんなことしたの!?ちゃんと考えて用意したのに!!」

「あんた試練の内容部下に丸投げして忘れてただろ」

「まぁ、一と二の試練がどうしようもないほど下らなかったので……最後だけは本気で殺しにかかろうかと」

「いやさ……確かに殺しにかかってきたけども、なんであんな内容に」

「元々ここの試練は、脳筋だった勇者に引き際を教え込む為に作られたもので、『逃げる勇気も必要』がテーマだったのです。なので最後だけ『自分から逃げると殺される』をテーマの試練に変えて、一と二で学んだことと全く逆の要求を迫らせる……というのにして本当に殺そうかと。失敗したら抹消すれば済む話ですし」

「あんたほんっっっっとうに趣味が悪いな!!」


 つまり最初と二つ目で『逃げることも時には必要』っていうのを認識させておいて、あえて三つ目で自分の心の影に精神的に追い詰めさせ、『自分の心からも逃げる』という状況になる試練を作ったのだ。

 だから俺みたいに惰性で誰かに甘えたり、自分の心の奥にある黒い本音を受け止められてないと影にされてしまう。

 つーかこれ、完全に俺ピンポイントで狙った試練内容じゃねーか!!


「これでも時の女神ですので〜、あなたがここに来るの最初から視て(・・)わかってましたから」

「だから人の心勝手に読むのやめてくれます!?なんか恥ずかしいから!」

「いえ、でも私はあなたを見直しましたよ。どういう結果になるか楽しみで、あえて未来を視ておかなかったのですけど、まさか試練を乗り越えた上に先輩への信仰心を完全に捨てるなんて……私、感動で腹を抱えましたよ」

「おい!!ルディヴァおい!!」


 本当はルディヴァは、ギルニウスのことが嫌いなんじゃないだろうか……?

 本人的には勝手に転生者を生まれさせて歴史を狂わせた仕返しなんだろうけども。

 いや、それよりも俺のこと見直したって……!

 あのルディヴァが!?


「じゃあ、俺の存在を認めてもらえるんですか!?」

「それとこれはまた別です」

「アッハイ……ソッスヨネ……」

「私の仕事は歴史を観察し記録すること。あなたという存在が無断で介入して乱れた歴史のせいで、私の仕事は終わってませんから」


 少し苛立ちを含んだ物言い。

 どうやらルディヴァが俺の存在を認めてくれるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 というか、この調子で本当に認めてくれるのだろうか?


「たぶん一生認めないと思いますよ?」

「だから人の心を……だぁ、もういいや。そういや、俺と一緒にいた悪魔知りませんか?同じタイミングで第二の試練をクリアしたんですけど」

「あの悪魔なら邪魔なので先に外に出しました。アレに受けさせても面白くなさそうだったので」

「そうなんですか?じゃあ、俺も早く外に出してください」

「僕も僕も!もうここには居たくない!」

「わかりました」


 承諾するとルディヴァが手にしていた杖を掲げ、杖の先端に嵌め込まれた青い宝石が光り始める。

 すると「あぁ、そうそう」とルディヴァが何かを思い出したかのように笑い、


「あの悪魔、この時間だと勇者一行と絶賛戦闘中です」

「「……は?」」

「ちなみにこの時間軸だと、勇者レイリスは負けます。運命でーす」

「「そういう大事なことは先に言って!!」」

これで4章のやりたかった話の七割が終わりました!

でもまだ三割残ってるんだよなぁ……

それでも残りの話はオチも考えてあるし、ストックで書いている部分もほぼ終わりの方なので、今年こそ!今年こそは夏までに終わらせたい(去年もこれ言った)


次回投稿は来週日曜日22時です!

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