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第百九十六話 灯すは心の火

もうすぐ200話行きそうですよ!

ぶっちゃけここまで描き続けられるとは思ってなくて驚いてます!

ちなみにストックの方はもう208話まで出来てる模様

これはGWは連続投稿するしかないですね……


 三つ目の試練の部屋で影の自分と対峙していた俺。

 でも、影の俺から発せられる言葉に幾度となく心を抉られ、俺は今から頭を踏みつけられている。

 沼に嵌るかのごとく徐々に黒い床に沈んでいく頭部、顔面右半分が埋もれてしまい、そんな俺を影のクロノスは楽しそうに見下してくる。


『もう少しだ……もう少しで、俺が(おまえ)に、お前が(おれ)になる!』

「相棒!!」


 既に黒い床に飲み込まれ、鏡面に姿を映すギルニウスが耳元で叫ぶ。

 俺がお前になるって言うのは、このまま全身が黒い床に飲み込まれたら、俺が影としてい一生生きていくってことか!?

 そんなの、冗談じゃない!

 なんとか頭を踏みつける影のクロノスの足を退かそうと暴れ回るが、影は一切力を緩めず踏みつける力をより一層強める!


「離せ……!」

『ほら、どうした?早くしないとどんどん沈んでいくぞ?俺がお前になるぞ?』


 いよいよ左眼までも黒い床に飲み込まれ始め、影のクロノスの水色だった左眼が濃褐色に変色し始める!

 全身も沈み始めており、このままだと本当に影と俺が入れ替わってしまう!


「離せって……言ってるだろ!!」


 明確な敵意を影のクロノスに対して持ち始めると身体中に力が漲る。

 失っていたマナが全身に満ち、魔法が使える程に回復した。

 沈みかけていた全身を風魔法の突風で包み込み、影クロノスの脚を退かせる。

 抑えつけるものが無くなり自由になった体を操り、飲み込もうとする黒い床から頭を引っ張り上げ、突風でバランスを崩した影クロノスを地面に屈み込んだまま蹴り飛ばした。

 急いで黒い床に浸り沈んだ身体を引き剥がして立ち上がり、影クロノスの正面に向き直ると、瞳の色が元の水色の左眼と橙色の右眼に戻る。

 白く染まっていた髪も黒に戻っていた。


『チッ、そのまま埋もれちまえば楽になるのに』

「悪いけど、お前と入れ替わるつもりはない」

『別に消える訳じゃないんだぜ?弱い心のお前と強い心の俺、心の表層が入れ替わってどちらかが影になるだけだ。クロノスって人間が死ぬ訳じゃない。どっちも同じ人間なんだからな』

「でも、影になった方の心はどうなる?」

『そりゃもう表に出てこれないさ、影なんだから。でもよぉ、未だに目を逸らしてるお前より、ちゃんと向き合おうとしてる俺の方が、よっぽど上手く生きれると思うぜ?

 思い出せよ、俺は元々童貞を捨てたくて転生したんだぜ?別に世界を救うは必要はないし、この時代に元々いたクロノスはもう死んでる。過去から来た俺たちが、死んだ未来のクロノスの代わりになる必要はない』

「でも、この時代の皆を放ってはおけないだろ!レイリスや、フロウにベルだっている。それにこの時代で出会った人たちだって」

『帰れるってなったら、すぐ帰るつもりなのに言い訳するなよ。わかってるんだよ。お前の感じていることは全部』


 駄目だ……影クロノスに口では絶対に勝てない!

 俺が表面上では思ってなくても、心の何処かで考えてしまっていることは全部こいつには見透かされてしまう!

 否定しようとすればするほど情けない自分を浮き彫りにされてしまい唇を噛み締める。

 すると、黒い床の鏡面に映るギルニウスが真下まで走ってきた。


「相棒、あいつは君の影だ。口を開けば開く程、冷静さを失っていく!口より手を動かすんだ!君を黒い床に押し付けて、僕みたいに閉じ込めて影にしようとしたのなら、あいつにも同じことができるはず……」

「ッ!あいつを元の影に戻せるってことか!?」

「おそらくね……」


 なら、それをやってみるしかない!

 幸いマナは回復して魔法は使えるようになっている。

 自分と同じ顔に攻撃するのはちょっと気が引けるけど……影にされるなんてまっぴらごめんだ!

 今度は俺の反撃が始める。

 両手にマナを込め、影クロノスに接近する。

 盾を持つ左腕を振りかぶると、影も同じように盾を持つ右腕を振りかぶり、同時に相手に殴りかかる……瞬間、俺だけ身体を大きく捻り影の拳を空振らせると、右手で相手の脇腹に手を当てた。


「……ブラフだよ」

 

 一言呟いてから右手に溜めておいたマナを雷属性の魔法に変換し放つ。

 影クロノスの全身に電流が駆け巡り、激痛に悲鳴をあげた。

 まだ終わらせない、電流から逃れようと一歩引いた影に追い打ちをかけるべく、俺は今度こそ左腕の盾で顔面を殴り打つ。

 盾の表面で顔面を打たれよろける影に続けざまに風魔法をかけた右足で回し蹴りを三回喰らわせる。

 連続攻撃にさすがに堪らず、影クロノスは崩れ落ちるようにして黒い壁によりかかった。


『ぐうっ!流石俺、中々やるじゃ……うッ!』


 立ち上がろうとした影クロノスの顔を掴み壁に押し付ける。

 すると先程俺が床に押し付けられた時と同じく、影の身体が黒い壁に沈み始めたのだ。

 やっぱりこいつも俺と同じ条件で、壁か床に当てられると飲み込まれて元の影に戻せるみたいだ。

 なら抵抗される前に、このまま元の影に戻して!


『くっふっふっふっ……あっはっはっはっ!!』

 「何がおかしいんだ?」

『まだ分からないのか?俺はお前の影。俺を否定すると言うことは、自分自身を否定することと同じだ。ギルニウスを恨む自分の気持ちをなァ。結局お前は、またギルニウスの言いなりか。これもギルニウスに言われて実行しただけで、お前の判断じゃない。お前は所詮ギルニウスの操り人形。ギルニウスを殺す、もう一つ魂を抑えつける為だけに利用される手駒のままなんだよ!!』


 手駒のまま、その言葉に思わず頭を掴んでいた手の力を緩めてしまう。

 その隙を突かれ、影クロノスの左足で脇腹を蹴られ手を離してしまい、今度は俺が胸ぐらを掴まれ持ち上げれて地面から足が離される。


『まるでギルニウスの犬だな』


 嘲笑われ、放り投げられて地面を転がる。

 影クロノスが左手を差し出して拳を握ると、黒い床から無数の影が飛び出して俺の全身を包み込んできた!

 抗おうとするが抵抗虚しく、身体は影に捕らえられ、足元から床に沈み始める。

 それも先程よりも早い速度で!


「ぐっ!離せ!」

『無理だ。それはお前が拒絶しようとすればする程沈むのが早まる。情けないお前じゃ解けはしない。安心しろ、影になっても消える訳じゃない。ただ影になるだけだ。これからは俺がお前になってやる。大丈夫……全部、俺がお前の代わりをやるからな』


 したり顔のもう一人の俺を見つめながら、俺は影に引き込まれ黒い床に完全に沈んでしまう。

 真っ暗な闇の中で、(かげ)を見下ろす(おれ)を見たのを最後に、本体だった俺の意思は溶けて消えていった……








 真っ暗な暗闇の中で──赤い光が見えた。

 火花を散らし、不規則に揺らめくそれは焚き火。

 焚き火が闇に包まれた視界を照らしている。

 俺は、影となった俺は座ってただじっとその炎を見つめ続けていた。

 自分がどうなったかはわからない。

 ただ影の自分に敗北し、本体と影が入れ替わってしまったのは覚えている。

 自分が影になったから、心も影となっていつか俺の自我も消えるのだろう。

 そうなれば、あの影のクロノスが主導権を握りこれから生きていく。

 情けない心の俺は、強い心の影になるのかもしれない。

 結局俺は、自分自身の心に否定されて消えるのか……


「──────」


 声が聞こえて顔を上げる。

 知らぬ間に白くぼやけた輪郭をした何者かが焚き火の側に立っていたのだ。

 何か言おうとしているのだが、言葉が聞き取れない。

 コミュニケーションが取れずに困るが、「座りたきゃどうぞ」と適当に促すと、白い輪郭は焚き火を挟む形で俺の正面に座る。

 俺は特に話しかけることもせず、ただ黙って焚き火を見つめ続ける。

 心の無しか、炎は少しづつ弱まってきている気がする。

 それにつれて、周囲を包んでいる暗闇をじわじわと背後に迫ってきているが、もはやそれもどうでもよく感じている自分がいる。

 焚き火の炎が消えてしまえば、そうすれば……


「──────」


 また白い輪郭が何かを話しかけてくる。

 でもそれは言葉になっていないし聞こえない。

 

「何て言ってるかわかんねぇよ……」

「──────」

「だからわかんねぇって……」

「──────」

「だぁかぁらぁ……!!」

「ホントウニ ソレデ イイノ?」

「っ!?」


 理解できない言葉で話しかけられて続け、そろそろ怒鳴り散らそうとした瞬間、声が見えた(・・・)

 聞こえたのではなく、本当に見えたのだ。

 いや、見えたという表現もおかしい。

 実際に声が文字となって浮かび上がったのか、そういうのではなく、とにかく理解することができたのだ。

白い輪郭の言葉を。


「ホントウニ ソレデ イイノ?」


 俺からの返答がないのを理解されていないと思ったのか、また同じ内容で問われる。

 声を理解できることに若干戸惑いながらも俺は、


「いいんだよ。俺は、情けない心の俺だから」


 質問に答える。

 また焚き火の炎が、少し弱くなり始めた。


「ソレデ クロノス ハ ナットク デキルノ?」

「できるわけ、ないだろ……でも、無理なんだよ。俺には影の俺を否定することはできない。全部──本当のことなんだから」


 影のクロノスに指摘されたことは、全部本当のことだ。

 俺は、自分のことしか考えていない。

 トリアのことも、ジェイクのことも、ギルニウスのことも……全部自分が助かることを、自分が助かった時の安堵感を感じてしまっていた。

 ギルニウスがいれば、ルディヴァから守られ元の時代に戻れると思い甘えようとしていた。

 そう心の何処かで思っていたのは間違いなく事実なんだ。

 だって、あいつは俺の心の影なのだから。

 影が俺を否定できても、俺はあいつを否定できない。

 なら、俺がいくら自分の心で思ったことを言っても、俺は……


「ドウシテ ヒテイ スルノ?ドッチモ オナジ ココロ ナノニ」

「……え?」

「ダッテ ナサケナイクロノスモ カゲノクロノスモ ドッチモ クロノス。ドッチモ オナジココロ。ドッチモ ヒトツノココロ」


 その言葉にハッとする。

 そうだ、どっちも俺だ……一つの心で赤の他人じゃない。

 影の奴もずっと言ってた、俺はお前だって。

 否定しようとすればする程弱い俺の部分が浮き彫りにされるのは、指摘しているのが俺の心だから。

 隠そうとすればする程暴かれるのは、俺の心を知っている俺だから。

 否定しようすればする程……俺は俺に否定される!

 だって、俺の本当の心を知っているから……


「ははっ……そりゃ、負けるはずだわ……」


 つくづく俺の方が情けなくて笑ってしまう。

 俺はずっと自分の心を否定していのだ。

 弱い心と向き合おうとエルフの里で決めたはずなのに、また俺は自分の弱い心から目を逸らそうとしていたのだ。


「何をしていたんだよ俺は……」

「カゲニ ユダネル?マタ ジブン イガイニ ミライヲ ユダネル?」

「……いや、それはもう無しだ。答えは出せた!」


 自分がどうするべきか、どうやって影の自分と対峙すべきか答えはわかった。

 俺はもう、ここを二度と訪れないだろう。

 彼は返答に満足気な表情で微笑む。

 白い輪郭だけなのに、何故かそんな風な気がして、


「いや、と言うか……結局あんた誰なの?」

 

 全てを諦めかけていたせいで気にしてなかったけど、今更になってこの白い輪郭の人物が何者なのか気になった。

 全然名乗ならないし、当然のように会話してたが、相変わらず声を理解できるという不可解な現象も意味がわからない。

 しかし白い輪郭は微笑むだけで何も答えない。

 だが、ふと手を炎に向かって伸ばすと、徐々に小さくなりかけていた炎が一気に遥か空高くまで燃え上がる。

 これに入れってことなのか?


「ありがとう。行ってくるよ」


 白い輪郭に礼を言い炎の中に立つ。

 熱さは全く感じない。

 そのまま炎に包まれると身体が炎と一緒に空高くまで昇っていく。


「クロノス モット ツヨクナッテ。ツヨクナッテ アノヒト ノモトへ ツレテッテ」


 白い輪郭は炎と共に空へ昇る俺に何かを呟く。

 どういうことかは理解できるが、俺はサムズアップで応えると闇の中から飛び出した。




 黒い床を炎と共に突き破り、影クロノスの背後に飛び出る。

 沈んだはずの俺が出て来れたことに影は驚き戸惑ってい、ギルニウスが歓喜の声をあげている。


「うおおおお!!相棒おおおお!!」

『どうやって!?影に沈んだらもう戻れないはずなのに』

「そんなこと、俺が知るか!戻れるから戻れたってことだろ!」


 影クロノスと再び対峙する。

 剣も魔石もないけど、魔法が使えれば考えついたことは何とかやれるはず!

 影は戻ってきた俺を見て、グローブのスロットから魔石を抜き取り、別のに差し替えようとポーチに手を伸ばし、


「させるかッ!」

『なっ!?』


 影の視線が一瞬ポーチに逸れた瞬間を狙って距離を詰める。

 体当たりで腰にしがみつき、ツールポーチに手を伸ばすが影クロノスに膝蹴りを受け、投げ飛ばされてしまった。


『ポーチを奪おうとしたみたいだが、残念だったな。ポーチは奪えず、まだここに……魔石がない!?』

「へへへ……狙いはこっちだよ」


 右手に零れ落ちそうな程の量の黒い魔石を掴み、影クロノスに見せてやる。

 俺は魔石ポーチが戦闘中に落ちないよう、ガチガチに腰ベルトに固定して持っているから、外すのは無理だとわかっている。

 影クロノスの方も絶対同じだろうと思って、最初からポーチ内の魔石を奪うつもりでしがみついたのだ。

 手にした魔石は黒が抜け落ち、見知った赤や青などの鮮やかな色合いを取り戻した。

 どの魔石が何個あるか数えるのも面倒なので、火属性の魔石だけ残して他はツールポーチに突っ込んでおく。


「お前だけ魔石を無限に使えるのは不公平だからな。ちょっとぐらい分けてくれよ」

『お前……!なんだ!?戻ってくるまでに一体何があったんだ!?』

「それも俺にはよくわかってねぇ!でも、どうするべきか答えは出せた。決着付けようぜ。俺とお前、どっちかがぶっ倒れるまで!」


 

 

次回で影クロノス決着となります!

表のクロノスはどうやって影と決着をつけるのか?

次回投稿は来週日曜日22時からです!

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