第百九十五話 偽りと影
今月も後一週間で終わりですね!
次のシーズンもアニメが楽しみです!
第二の試練を攻略し門を出たフェリュム=ゲーデは火山の外にいつのまにか出ていた。
「ここは……外か?クロノス?」
辺りを見回すが共に行動していたクロノスの姿が見当たらない。
フェリュム=ゲーデが立っていたのは火山の中腹。
クロノスたちが内部に入る為に利用した洞窟の入り口近くだ。
もっとも、既に火山を活性化させていた魔物がいなくなった為、溶岩は完全に沈黙し固まっている。
自分だけ出てきてしまったのか?
クロノスを探しに戻るべきか……
「いや、あの男なら大丈夫だろう。ギルニウス神も一緒にいるはずだ」
首を振り戻ろうとするのを止める。
あれは本来悪魔が受ける試練ではなかった。
ならば自分だけ弾かれ、クロノスは未だ試練の途中なのかもしれない。
そう考えフェリュム=ゲーデは野暮なことはせずにクロノスが戻ってくるのを待とうとする。
だが……
「クロー!どこー!?」
「バルメルド君!!」
「おーい、クロノスくーん!!」
すぐ近くでクロノスの名前を呼ぶ声を耳にする。
それがクロノスの仲間だとフェリュム=ゲーデは理解すると、飛び立ちレイリスたちの前に降り立つ。
「我が名はフェリュム=ゲーデ!悪魔界最強の戦士!」
クロノスを探す為に山の周りを巡っていたレイリスたちは、フェリュム=ゲーデの出現に驚き武器を構えた。
「フェリュム=ゲーデ!?クロは、クロはどうしたの!?」
「安心しろ。今は訳あってまだ火山の内部だが生きている。その内出てくるであろう」
クロノスが無事だと言われ、レイリスたちはほっと胸を撫で下ろした。
だが、そんな彼女たちにフェリュム=ゲーデは長剣の切っ先を向け言い放つ。
「勇者レイリス、オマエに決闘を申し込む!!」
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『ゼェヤァ!!』
「うぐっ……!」
壁も床も黒く、金の柱に支えられた謎の部屋で、俺はもう一人の俺に攻撃をされていた。
もう一人の俺と言っても、髪は黒いし眼の色も水色黄色と両眼とも違うし、盾は濃い青緑色で右腕に装着しているしで全然違う。
容姿は似ているものの、殴りかかってくる時は毎回左腕からで、脚による攻撃も左脚でしてくるのだ。
俺は利き手も利き脚も右。
まるで鏡写しの自分と戦っているみたいでやり辛い!
「相棒!一度下がるんだ!」
「わかってる!」
相手の盾で殴られ続け、自分は盾でそれを防ぐ。
一度後方に飛び退き息を整える。
もう一人の俺は追撃してくることもなく、依然として俺を睨んでいる。
「ギルニウス、あれは何なんだ!?魔物なのか!?」
「わからない。人の心を読んで、会いたい人物と同じ姿をする魔物はいるけど、あれはそういう類いとは違う!君は一体何者なんだ!?」
『だからさっき言っただろう。俺はお前が肩に乗っている男、クロノス・バルメルドだと……俺はお前なんだよ』
「まさか、ギルニウスが封じ込めたって言うもう一つの魂の方か?」
『ハズレだ。何度も言ってるだろう?俺はお前、本当のお前、本物のクロノス。お前の影なんだよ』
「俺の……影?」
もう一つの魂とは違う影って、どういうことだ?
黒い髪の俺の言っている言葉が理解できず困惑していると、そいつは左手で床を指差す。
下を見ろと促しているのだとわかり視線を床に向け、俺は驚愕した。
この部屋は一面黒い壁と床で、磨き上げられており自分の姿が反射する程だった。
なのに、さっきまで映っていたはずの自分の姿がない!
映っているのは俺の肩に乗っているフェレットのギルニウスだけだが、宙に浮いているかのように映っており完全に俺の姿はそこにはなかった!
「な、なんだこれ……なんで俺の姿だけ!?」
『この部屋はそういう部屋なのさ!入った者の影を実体化させ、自我を持たせる。だが所詮は影、形は同じでも色彩や動きまでは同じにはならない。だから利き手や脚、装備している物も真逆になる。あくまで俺は、この部屋に映し出された影だからな。もちろん、戻せるよ?俺を倒せれば』
影の俺を、倒せれば?
なら倒せなければ、俺の影は一生戻らないままってことなのか?
だったら話は簡単だ、こいつを倒せば!
「待った待った!」
戦おうとすると肩に乗っていたギルニウスが床に降りて間に入り、俺たちの戦いを止めようした。
「えーと、影のクロノス?僕はギルニウス、慈愛の神だ。ここの創設者でもある。僕らは火山に棲みついた魔物を倒して、ここに迷い込んだんだ。決して試練を受ける為に来た訳じゃなく、脱出する為に入っただけなんだ。
ここは僕の部下が管理してる。だから、戦うのは止めて管理しているはずの天使を呼び出してくれないかな?ね?」
影の俺はギルニウスの話を黙って聞いている。
でも、俺にはあいつがギルニウスの言葉に素直に従うと思えない。
だってあの影が俺なのならば……
『黙れ』
影の俺は一言、怒りを含んだそれだけの言葉を発すると左手を握り振り下ろす。
すると、ギルニウスの足元の床から黒い手が続々と伸び全身を覆い尽くした!
黒い手は獲物を掴むとそのまま床に沈んでいき、その場にいたはずのギルニウスの姿が消えてしまう。
慌てて近づき床に手を着くと、反射する黒い床にギルニウスの姿が映し出されていた!
「え、ちょ!?なにこれ!?どうなってるの!?」
「ギルニウス!?」
『いいザマだな!神といっても、所詮信仰を失くしてしまえばただの動物だ』
「お前……!」
『何故俺が怒りを覚える?これはお前が望んでいたことだろう?』
俺が……望んでいたこと?
『もう一人の俺よ、お前の心は矛盾だらけだ。そもそも何故俺たちがその偽神の言葉に耳を傾ける必要がある?俺たちはそいつを憎んでいたはずだ。レイがそいつに誑かされ、利用されているのではないかと危惧し、最初はギルニウスを殺すつもりで後を追いかけていた。
だがしかし、お前はあろうことかそいつに再会した瞬間、抱えていた激情を全て心の奥底に押し込み隠した。口ではギルニウスを責めていても、決して報復しようとは考えなかった』
「そ、それは……ギルニウスがいなくなれば、魔王に対抗する神がいなくなるから……」
『違うだろ?そうじゃないだろ?お前はまだ──期待してたからだ。その神に助けてもらえるのを』
立ち上がり否定しようと口を開く。
なのに……そこから言葉を口に出せない。
それは違うと言い返したいはずなのに、否定することが俺にはできない。
そんな俺を嘲笑い、影の俺は部屋の中を周るように歩き始める。
『そうだよな?否定できないよな?わかるよ。だって、俺はお前だ。お前が心で感じることは俺も感じてる。図星なのも』
「ち、違う……違う!俺は、本当にこの神のことを恨んでる!だからこいつが何も出来ないようにレイリスから引き離して!」
『半分本当で半分嘘だ。どうして自分を偽る?何度も言ってるだろう?俺はお前なんだから、お前が心で感じていることは俺も感じるんだ。
俺がこの時代から過去に戻るには時の女神ルディヴァに俺の存在を認めさせる必要がある。だが、あの女は問答無用で俺を消そうとするだろう。そこで必要になるのがギルニウスだ。ルディヴァの攻撃から俺を守れるのはそいつだけ。だからどうしてもそいつを傍に置く必要があった。何だかんだと理由をつけて、お前は守って欲かったんだよ!まだ信じているんだよ!その神を!!あぁ、情けない!!』
影の俺が声を荒げながら、腰のツールポーチから黒く薄い長方形の物体を取り出す。
それを左手首のスロット部に挿し込むと黒い炎が両手を包み込んだ!
影クロノスは俺へと距離を詰めると右腕を振り上げる。
また盾を装備した方で殴られると思い、俺は左腕を上げて正面を盾で塞ぐ。
しかし影は振り上げた右腕では殴らず、手で俺の盾上部を掴み力づくで抑えて下げさせ、無防備になった胸部に何度も左拳を打ち込んでくる!
強烈な攻撃に思わず仰け反り壁にぶつかり、反動で前に倒れそうになる。
だが影はそれを許さず、倒れかけた俺の背後に回ると背中に蹴りを叩き込んだ。
それも魔法付与されていたのか、強い衝撃で突風に吹き飛ばされ、俺は床を転がり何度も咳き込む。
「ゲホッ!ゴホッ!な゛ん゛て゛……ぞの、グローブ……!?」
『あ?ああ、どうして魔石を持ってるかか?俺の全ては影と記憶力で構成されてる。だから所有物も当然影、記憶にあるものだけに限定されるがこうして生成できる。お前はポーチの中身は空だろうが、俺は際限なく魔石を使えるのさ』
「そんなの、あり、かよッ!?」
殴られた胸部を手で押さえながら立ち上がり、影だけが魔道具の魔石を無制限で使えることに憤る。
これじゃあ、剣も魔法も使えない俺が一方的に不利だ!
『どうして怒りを膨らませる。俺たちにはまだ力があるじゃないか。魔王を退け、神をも殺せる力が……使わないのか?俺の最強の力を』
「ッ!?それって……」
もう一つの魂のことを言ってるのか!?
でも、あれは自力では使えないし、制御できるような力じゃない。
そもそもアレが出てくれば俺は……
力を使うよう誘惑されるが戸惑い顔を下げてしまう。
迷う俺を目にし、影のクロノスは溜息を吐き、
『そういうとこだぞ』
また左手に黒い炎を纏い殴りかかろうと迫ってくる!
咄嗟に盾を構えるが、拳を振り上げたのはフェイントで、盾で塞がれた死角に回り込まれて回し蹴りを腰に決められてしまう!
蹴られた反動で床にうつ伏せに倒れてしまい、すぐに起き上がろうとするが、俺の頭を影のクロノスに踏まれ起き上がるのを阻止された。
地面に顔を擦り付けられ、満足な抵抗もできずに何度も靴の裏で頭を踏みにじられる。
顔を踏まれながらも見上げて睨み付けるが、影のクロノスは失望の眼差しで俺を見下す。
『結局お前は自分のことしか考えていない。もう一つの力に頼ればもっと強くなれるのに、自分が闇に飲み込まれ個が消えることを恐れ、あの力を制御するという選択を決して選ばない』
「だって、あの力を使えば……!俺も、お前も……もう一つの魂に飲まれて消えるってルディヴァが……!」
『お前は制御できなかった時に自分が消えるのが怖いだけだ。トリアの時もそうだったろ?ワイバーンに殺されたくなくて、トリアを見捨てた。ジェイクの時も、死ぬのが自分じゃなくてホッとした』
「確か、に……そうだったけど、俺は……!!」
『影山のおかげでそれと向き合えたってか?馬鹿が!向き合う気持ちになっただけで結局まだ何も自己解決もできてないだろ!未だに目を背けて、後回しにしているだけだ!』
声を荒げ、また頭を思い切り踏みつけられる。
だが今度のはただ踏まれただけじゃない、黒い床に僅かだが顔が沈んでいる!
「ちょ、相棒!顔!顔がこっちに入り込んで来てる!」
「なっ!?どうなって!?」
頭部の一割が沼に浸かったみたいな感触を感じ、また頭を踏まれると今度は右頬まで沈んでしまう!
そのままゆっくりと、顔が床に沈んでギルニウスが閉じ込められた側に取り込まれ始めた!
『情けない俺に居場所なんかない。これからは俺が代わりに生きてやる。俺が本体になる。だから、お前は影になれ!!』
頭部が沈むにつれて、相補色だった影のクロノスの色が……左眼の色が橙から青に変化し、髪の一部も白く染まり始める。
俺の頭を踏みつけながら、高揚に満ちた抑揚で、影のクロノスはニヤケた笑みを浮かべるのだった。
次回投稿は来週日曜日22時からです!




