第百九十四話 鏡の瞳
今回の話もこの後の話も、連載してからずっと書きたかった内容なので、最近は執筆がノッてます(進んでるとは言ってない)
第二の試練で無限に続く部屋に挑んでいる俺たちは、出口を求めて様々な行動を試していた。
まず俺が隠しコマンドを元にした動きを試したが失敗。
続けてフェリュム=ゲーデが上右下左、と時計回りで部屋を巡ってみたがこれも不正解。
その後も、部屋の壁を壊そうとしたり適当に部屋の進む順番を変えてみたりと色々試してみたのだがどれも試練クリアにはならなかった。
結局時間と体力を消耗するだけで何の解明にも至れていない。
一度休息を取ることとなり、出現したスケルトンを倒して部屋の隅に座って休むことにした。
もちろん、フェリュム=ゲーデとは少し距離を離して。
休戦中とはいえ、そこまで仲良くなるつもりはない。
「しかし、とんだ試練に巻き込まれたものだ。ヒント無しで全ての試練をクリアしなければ出られないとは」
「そうだな。どっかの誰かさんが部下に丸投げしないで関わってくれていれば、こんな苦労しなかったのにな」
「それはひょっとして僕のことかな!?」
他にいないだろ、と喉まで出かかったけど言えば面倒になりそうだから黙っとく。
レイリスたちは大丈夫だろうか……ちゃんと火山内部から脱出して地上に出れているだろうか?
俺のこと、探してるかな?
仲間たちのことを考え、大理石の天井を見上げる。
ギルニウスもフェリュム=ゲーデも、一言も喋らずに各々何かを考えていた。
しかし、何もない空間でこの沈黙に耐えるのはちと苦しい。
部屋が真っ白なのもあるが、このまま黙っていると気が狂ってしまいそうだ。
どうにかして会話をしようと、俺はフェリュム=ゲーデに声をかける。
「なぁ、フェリュム=ゲーデ」
「フェリン」
「なんて?」
「フェリンと呼べ。毎回律儀に家名まで呼ばなくてもいい」
「アッハイ」
ゲーデって家名だったのか。
フェリュム=ゲーデ……ではなく、フェリンに呼び方を変えるよう言われ頷いておく。
「それで、フェリンって何者なんだ?悪魔界の頂点に立つ最強の戦士、って最初に会った時は言ってたけど……魔王ベルゼネウスの直属の部下とか、魔王軍四天王みたいな立ち位置の悪魔なのか?」
「いや、我は魔王様の部下でも四天王でもない。そもそも我は魔王軍の一員ではない」
「ん……?悪魔なのに魔王軍の一員じゃないのか?」
「我ら悪魔とて一枚岩ではない。オマエたちのように派閥や属する組織が存在する。悪魔だからといって全ての者が魔王の考えに賛同し仕えている訳ではないのだ。オマエの仲間にいる淫魔のようにな」
「ティアーヌさんのこと、悪魔だって気づいてたのか……」
「ニオイでな。だが、我は別に身内が地上の者たちに味方しようと咎めはせぬ。他の悪魔は知らぬが、我は戦士にしか興味がないからな」
「なら、なんで勇者と戦おうとするんだ?」
「決まっている。ただ単純に己の強さを確かめたいからだ」
さも当然のように答えるとフェリンは長剣を掲げ刀身を見上げる。
そこに映る自分の姿をじっと睨む。
「我は、ただ剣士としての道を極めたい。その為に強い戦士と戦い腕を磨きたいのだ」
「なんでそんなに戦士としての強さに拘るんだ?」
「戦士としてただ己が最強であると証明したいだけだ。それ以外の理由などない。数年間、その想いだけを剣に込め多くの戦士と剣を交えた。剣を魔法で操る戦士、二刀流の戦士、身の丈の何倍もある大剣を振り回す戦士、そして……剣聖とも」
「ケンセイ?」
「人族最強の剣士、勇者の血を引く一族の長男に与えられる称号だよ」
聞き慣れない単語に疑問符を浮かべるとギルニウスが補足してくれる。
会話に混ざらずにポケットに入っていたのに、顔を出すと俺の膝の上まで移動してきた。
「その一族は言葉通り初代勇者の子孫。他種族の血が一切混じっていない人族の純血の一族さ。何千年という歴史の中で、一族の長男は剣聖の称号を代々受け継ぎ最強の名を守り続けている。そして世界を脅かす存在と幾度となく戦いを繰り広げ、平和を守ってきたんだ」
「へぇー。もしかして、そいつらも俺と同じ……?」
「いや、彼らの中に転生者はいない。ちゃんとした、この世界で産まれた存在だよ。それは僕がいつも確認してる」
「ふーん……?あ、もしかして、レイリスが勇者になったのって」
「うん。彼女が勇者の血を引いてるからだ。いくら純血に厳格な家系といっても、恋する男女の仲を引き裂くことはできないからね〜。まぁ、レイリスにとって剣聖は遠い遠〜い、ものすんごおおおおく遠い親戚だけどね」
やっぱりレイリスが勇者になれたのは、血筋の関係だったのか。
あれ?でもそうなると、兄のニールも勇者になれるのでは?
「じゃあさ、ニールさんは?あの人も勇者の血を引いてるんだろう?」
「彼は勇者にはなれないよ。勇者に選ばれるには血筋だけじゃ駄目なんだ。神である僕が認めて、なおかつ破魔の剣にも所有者として認められないといけないんだ」
「剣にも?どゆこと?剣が使い手を選ぶって言うのか?」
「まぁ、そんな感じ」
剣が使い手選ぶねぇ……もしかして、意思を持ってて喋ったりするんだろうか。
と、かなり話が脱線してしまった。
ギルニウスから聞いたことは記憶の隅にしまっておいて、フェリンに続きをお願いする。
「悪い、で……剣聖と戦ったってところまで聞かせてもらったんだっけ?」
「ああ。剣聖とは数年前に剣を交え、彼を倒せばそれで最強の剣士の称号を手にできる──と、その時は思っていたのだがな。それでは満たされなかった」
「満たされない?最強の戦士と戦ったのに?」
「納得のいく戦いではなかったからな。その戦いで剣聖も命を落とし、再戦することも叶わなかった」
「あ、剣聖を殺したのは君だったのか!旅の途中で亡くなったとは聞いてたけど!」
「そうだな……あれは、我のせいだろう」
肯定するも、どこか物悲しげな表情を見せ、当時のことに想いを馳せているフェリン。
何があったかはわからないが、「納得のいく戦いではなかった」その部分がどうにも気にかかる。
しかし、フェリンにとってはもう昔の話だ。
根掘り葉掘り聞くのは野暮だろう。
「その後は放浪の旅をしていたのだが、勇者が目覚めると聞き戻ってきた。そして、オマエたちに出会ったと言う訳だ」
「あんたが名乗ってる最強の戦士って、自称じゃなくて事実に基づいてのことだったんだな……。じゃあ、フェリンってベルゼネウスよりも強いのか?」
「剣の腕では魔王様よりは上だが、魔法やその他の才では下だ。我はあくまで剣士としては最強を自負しているのであって、悪魔族の中では五本の指にも入れぬ」
この剣士でも入れないとなると、どんだけ強いんだよ魔王は……
前戦ったのは偽物だったみたいだし、このまま戦い続けて本当に勝てるのか疑問を抱いてしまう。
「さぁ、長話はここまでにしておこう。もう十分休息も取れてたであろう。攻略を再開するぞ」
「あ、ああ……」
一抹の不安を覚えながら立ち上がる。
とにかく今はここを脱出しよう。
その後のことは、またみんなと相談して考えよう。
しかし攻略を再開するものの……
「実際問題どうするよ?何かいい案思いついたか?」
「いや、妙案はこれといって……奇策なら思いついたがな」
「へぇー、どんなのだ?もうこの際だし、全部試そう」
「そうか?では、まずは直進するとしよう!」
何を思いついたがわからないが、とりあえず従ってフェリンと並走する。
出現するスケルトンに対し、正面の一体だけに錆びた剣を投げつけ倒す。
スケルトンが落とした槍を拾い上げながら二つ目の部屋へ。
出てきたスケルトンは今度はフェリンが斬撃を放ち倒したので、そのまま三つ目の部屋へと入り込む。
するとフェリンが放っておいた斬撃が三つ目の部屋に湧いてきた正面のスケルトンも倒した。
そして問題はこっからなのだが……
「で、ここからどうするんだ!?」
「決まっておろう!飛べ!!」
「とべ……?飛べェ!?」
空飛べってことか!?
そんなのできるわけ……って、フェリンは自力で飛べるんだった!!
助走の勢いでフェリンは背中の翼を羽ばたかせ滑空飛行を隣で始める。
そのまま先行し、床が抜け落ち大穴の空いた四つ目の部屋に飛び込んでいった。
「ちょっと待て!当然のように言ってるけど、俺は飛べないんだぞ!!」
「落ちても拾い上げてやる!迷わず跳べ!」
「いやいや無理でしょ!?駄目だよ相棒!跳んじゃ駄目!!」
フェリンの奇策に当然ギルニウスが制止に入る。
しかし、空を飛んで四部屋目を越えようとするフェリンの考えもわかる。
部屋の床が抜けるギミックを攻略するのならば、跳ぶ以外の選択肢が今のところ思いつかない!
「ギルニウス、落ちたら悪い!」
「ちょっ、嘘でしょ!?」
ギルニウスに謝り走る速度を速める。
跳ぶのをやめさせようとギルニウスが必死に叫んだり耳たぶを引っ張ってくるが、構わず四部屋目に続く門へと向かい、槍を捨てて少しでも身を軽くしておく。
そして足下が途絶える直前、力の限りに地面を蹴り対岸に向かって跳躍した!
床が全て抜け落ちた部屋を飛び越えようとする。
しかし……やはり飛距離が足りない!
部屋の半分を越えた辺りで落下し始める!
「だから言ったじゃないかー!」
「クロノス!」
耳元でギルニウスが叫び、フェリンが落下する俺に手を伸ばす。
その手を掴もうとするが僅かに届かずお互いに空を掴んてしまう。
虚しくも空振り離れていき、俺は落下し大穴の空いた部屋に──着地した。
「「「…………」」」
俺が穴の空いているはずの部屋の床に着地して、全員無言で床を見つめる。
足場なんて何もない……はずだ。
少なくとも俺たちの目には大穴が開いて奈落へ続く部屋にしか見えない。
でも俺は今そこに立っている。
穴の中心、その真上に。
試しに地面を足で何度も踏んでみる。
それでも俺は落ちることなく、靴底から確かな床を踏む感触と靴音が聞こえくるのだ。
「おい、ギルニウス……なにこれ?」
「……あっ、思い出したぁ!この部屋は『恐怖心に煽られても活路を見出せる勇気』があるかを試す試練の部屋で
「だから、そういうことは……最初に思い出せェ!!」
ギルニウスを掴むと、背後の部屋から然も当然のように足場のない部屋に入ってくるスケルトンの群れに投げ飛ばす。
ボーリングのようにギルニウスが直撃すると、スケルトンたちはピンが倒れるかの如く巻き込まれて次々と崩れ落ちていった。
「なぁにが活路を見出す勇気の試練だ!床が抜けているのはフェイクだなんて、こんなんわかるわけないだろ!」
「本来は魔法で跳ぶか、道を創るかなどで攻略させるのを想定していたのではないか?ほとんどの者がそうするだろう」
「ああなるほどね!そうだよね、俺今マナすっからかんだから思いつかなかったわ!!」
つまり俺がいつも通り魔法を使えたら、すぐに攻略できてたかもしれないってだよね!
なんか自分が情けなく思えるわ!
投げられてスケルトンにぶつけられたギルニウスがとぼとぼと戻ってきて、
「いや、でも結果オーライじゃない?これで試練クリアだよ多分!」
「あんたがちゃんと覚えてればもっと早くクリアできたんだよ!」
肩の上に戻ってくるギルニウスに文句を言う。
ぶつかった衝撃で縛っていた紐が無くなってしまったみたいだが、まぁもういいや。
ここから出るまでは放っておこう。
「それで?今度はどっちに行けばいいんだ?」
「いや、どの門から出ても大丈夫だよ。四番目の部屋の中心部まで入った段階でクリアになってるはずだから、門を潜れば次の試練に行けるはずだよ」
「さよで。じゃあもうとっとと次行こうぜ……なんか疲れた」
「うむ。次はどんな試練だろうな!」
「なんでちょっと楽しそうなんだよ」
ウキウキ気分のフェリンと一緒に正面の門を潜る。
門を通る瞬間、眩い光に包まれ思わず目を閉じる。
光が収まり再び目を開いた時、目の前に広がっていたのは先程の大理石の部屋とは打って変わり、一面黒の壁と床で金の柱に支えられた部屋にいたのだ。
部屋全体が常に磨かれているのか、部屋一面を反射する中に俺とギルニウスの姿が映し出されている。
「ん?フェリン?」
さっきまで隣にいたはずのフェリンがいない。
この黒い部屋にいるのは俺とギルニウスだけだ。
部屋を移動するまでは確かに隣にいたはずなのに。
「フェリン!?」
「こりゃ、僕らだけ別の部屋に飛ばされたみたいだね」
「俺たちだけ?三つ目の試練は別々にやるってことか……ギルニウスこの部屋は何の試練なんだ?」
「ごめん。わからない」
「あーハイハイ。覚えてないのね」
「いやそうじゃなくて、本当に知らないんだ。僕は……こんな部屋を造った覚えはない」
一面黒と金の部屋に困惑しているギルニウス。
その声と反応からして、本当に知らないようだ。
なら、この部屋は誰が造ったというのだ?
「あんた以外に、誰が造るんだよこんな趣味の悪い部屋」
「わからないけど、おそらくは……ッ!相棒、後ろ!」
慌てて背後に振り返る。
何もなかったはずのそこには、黒い影が立ち上がりユラユラと揺れ動いていた。
それは俺の足元から伸びている。
まさか俺の影なのか、これは?
揺れ続ける影の中から、俺と同じ背丈の黒い髪の男が姿を現わす。
水色の左眼、橙色の右眼をしているが、どちらも黒く濁っている。
右腕には俺と同じ形をした濃い青緑色の盾を装着していた。
髪も、瞳の色も、身につけている物も、俺と全く正反対──相補的な色をしていた。
そいつは俺と同じ顔をしており、開いた口の塞がらない俺をじっと睨みつけている。
「なんだ……お前は……?」
『俺はお前だ……本当の、クロノス・バルメルドだ!!』
もう一人の俺だと名乗った黒い髪のクロノスが突然襲いかかってくる!
右腕に装着した盾で殴りかかってくるのを、俺は左腕の盾で受け止め押し返す。
それでも再び、もう一人の俺は雄叫びを上げて飛び蹴りを繰り出してきた!
まさかこれが、第三の試練なのか!?
次回投稿は来週日曜日22時
いつも通りでございます!




