第百九十二話 奇妙な共闘?
3月になりましたねぇ!
今月は何を目標にしようか……
試練の間に足を踏み入れた俺たちを二十体のスケルトンが取り囲む!
どのスケルトンも錆びたついた剣や槍、斧を手にしており、白骨体ながらもそれらを振り回して襲いかかってくる!
「相棒、後ろ後ろー!!」
耳元でギルニウスに叫ばれながらも、振り返り突き出された槍を盾で受け止める。
剣を持っていない俺は拳か盾、または足蹴りによる攻撃しかできない。
もう魔石もマナの小瓶も使い切ってしまい、肉弾戦以外できないのだ。
フェリュム=ゲーデも相手が同類だからか、攻撃を受け止めても反撃に転じることができずにいる。
「くそっ!骨だけの癖によく動く!おいギルニウス!こいつら何なんだ!?ここは天使が管轄している場所なんだから魔物は出ないんじゃないのか!?」
そう、ここはギルニウスの部下である天使が管理しているらしい。
だから魔物は出ないと思ってたのに!
錆びた武器を使う癖に、身体の骨が磨かれたように白く綺麗なのがなんか腹立つ!
斧を振り回すスケルトンの攻撃を下りながら避けていると「あ、思い出した!」とギルニウスが声を上げる。
「このスケルトンは、この試練をクリアできず倒れた者たちの怨念によって動き出したものなんだ」
「怨念!?」
「そう……勇者のように強くなりたい、逞しくなりたい、英雄になりたい。そういった志を持った者たちが、試練の厳しさに志半ばで倒れ、スケルトンとなり新たな挑戦者の行く手を阻み、仲間にしようと襲ってくるんだ!」
振り下ろされた斧を盾で受け止め片膝を着く。
こいつら全員、試練に挑んで倒れた人たちなのか!?
試練の山は数千年前から存在してたはず、つまりこの人たちは、その間ずっと試練をクリアできずに倒れた無念を抱え、成仏できずにずっとここで……
「って設定で僕が作った魔道具だよ」
「設定かよッ!!」
錆びた斧を弾き飛ばし、スケルトンの胴体部分を蹴り飛ばす。
するとスケルトンの身体を構築していた白骨は簡単に崩れ、積み木のようにバラバラと地面に転がった。
「紛らわしい解説するんじゃないよ!一瞬本気で信じちまったじゃないか!!」
「いやぁ、試練中に敵が出てこないのも寂しいと思って造ったんだよ。まさか初っ端に配置してるとは知らなかったけど」
「あんたもうちょっと部下の現場内容を知れェ!」
斬りかかってきたスケルトンを盾を装着した左腕で殴り飛ばす。
殴られて飛び散った骨が他のスケルトンにも衝突し、ドミノ倒しみたいに他のスケルトンもバラバラになった。
「あ、ちなみにその武器、刃は付いてるけど軽い素材で出来てて壊れ易いからそんなに危険でもないよ」
「うわっ本当だ、軽ッ!」
試しにスケルトンが落とした斧を拾い上げてみると、驚く程に軽々と持ち上がった。
片手で回転させるぐらいには扱い易いぞこれ……外出るまで借りとこう。
「フェリュム=ゲーデ!これあんたの仲間じゃないらしいから、壊しても大丈夫らしいぞ!」
「紛い物ということか。どうりで骨が小綺麗な訳だ。では遠慮なく!」
偽物と分かるとフェリュム=ゲーデが防御から反撃に転じ剣を薙ぐ。
その一振りだけで群がっていたスケルトンを全て薙ぎ払った。
それだけで二十体近くいたスケルトンが八体まで減る。
試練と言ってもそこまで危険を強いる内容でもないみたいだ。
ならさっさと残りも倒して先に──
「相棒、また湧いてきたよ!」
「はぇ?」
地面を見ると散らばっていた骨が土に還り、また別のスケルトンが武器を持って出現する。
せっかく減らしたのにまた二十体ぐらいに増えたぞ!?
「どうやら、我が思ったよりも楽な試練ではなさそうだ」
「同感。とりあえず全部倒そう!」
「承知!」
フェリュム=ゲーデと群がるスケルトンを薙ぎ払う。
手にした斧を片手で振い回し、とにかく凪飛ばす。
斧使うのは初めてだが、軽いおかげで剣と同じように振り回しても次々倒せる。
しかし、薙ぎ払った直後にまた別のスケルトンが湧いて出てくる。
一体一体に対して斧を振り回すのが面倒になり、両手で柄を掴むと回転しながらスケルトンの群れに突撃する。
「どっせェェェェい!!」
回転しながら斧を遠心力で回し続け、スケルトンを吹き飛ばす。
しかし最後にフルスイングで振り抜くと、握っていた柄を残して斧の刃が吹き飛んでしまった!
「あっ、やべ!」
手元に残った柄を見て焦っていると、また別のスケルトンが湧いて斬りかかってくる。
それを盾で受け止めると、フェリュム=ゲーデが足元に落ちていた槍を足で拾い上げ、
「クロノス、これを使え!」
「サンキュー!」
そのまま足で投げ寄越してくれた。
残った斧の柄をスケルトンに向かって投げつける。
槍を受け取ると突いた槍を肋骨に引っ掛け、他のスケルトンへ投げ飛ばしてまとめて倒した。
だが、さっきから相当な数のスケルトンを倒しているのに一向に終わる気配がない。
倒したそばからまた新たなスケルトンが湧いてきている気がする!
「どうなってんだこいつら!?倒しても倒してもまた湧いて来るぞ!?」
「一体一体が弱いとは言え、こうも数で押さ 押し通されるとキリがないな」
一度退いてフェリュム=ゲーデと背中合わせになる。
その間にもスケルトンはまた数を増やし俺たちを取り囲んだ。
一体、いつになったら終わるんだよこれ!?
キリの無さにウンザリしていると、「あ、思い出した!」と耳元で何か考えていたギルニウスがまた声を上げる。
「なんだ?今度は何を思い出した?」
「あのスケルトン魔道具で造ったんだけど、この部屋自体が魔道具なんだよ」
「え?どういうことだよ?」
「だから、部屋にいる間はどれだけスケルトンを倒してもまたスケルトンが生成されるってことで……」
「つまり……無限に湧き続けるってことか?」
「まぁ、そうです」
「「最初に言え!!」」
ギルニウスの発言に呆れ、右肩に向かって二人して声を荒げる。
なんでそういう大事なことを後から思い出すかなぁ!?
つまり、こいつらの相手を律儀にする必要はなかったってことじゃないかよ!
「じゃあ、こいつら無視して先に行くぞ!」
「では先陣は我が請け負おう!」
フェリュム=ゲーデが先頭に立つのが決まり、俺は手にしていた槍を通路前に群がるスケルトンたちに向かって投げ飛ばす。
投げつけた槍の柄に巻き込まれ、何体かスケルトンが崩れ落ち道が開く。
そこに向かって俺たちが走り出すと、行く手を阻もうとスケルトンたちが群がってくる。
「我らの道を開けよ!!」
先頭を走るフェリュム=ゲーデか剣を一振りし、斬撃を放ってそれを吹き飛ばした。
またスケルトンが湧いて来る前に骨の残骸を踏み越え、通路へと急ぐ。
途中錆びた剣を拾い上げておき、俺たちは部屋を出て通路へと走り抜けた。
通路を駆け部屋から離れると、再び湧いたスケルトンは俺たちを追いかけようとはしてこなかったのだった。
そのまま通路を駆け続け、十分に部屋から離れるとお互いに速度を落とし、歩調を緩めやがて立ち止まった。
「ここまで離れれば追っ手はこないだろう」
「ああ。はぁ、なんか無駄に体力を使った気がする」
息を整え大きく溜息を吐く。
ギルニウスがもう少し早く思い出してくれれば、無駄な戦闘を避けられただろうに。
「と言うか、なんでスケルトンが無限湧きする部屋なんかあるんだよ。何をさせたかったんだ?」
「確か、『時には撤退する勇気も必要だよ?』みたいな教えの為に造った記憶があるんだけど」
「なるほど、理に適っているな。力で優っているとは言え数で不利ならば時には身を引くのも必要だ。流石はギルニウス神だ」
「ふふん、そうだろうそうだろう。君、悪魔なのに中々分かってるじゃないか」
「褒めることないぞフェリュム=ゲーデ。考えたの絶対こいつじゃなくて部下だろうから。一応聞いておくけど、もう忘れてることないよな?」
「うーん……多分?僕、全体的な試練内容の構想に関わってなかったから」
「そこ関わっててくれよ……」
結局全部部下に丸投げしていた事実に呆れ、拾っておいた錆びた剣を鞘に収める……のだが、鞘の口に刀身が合わずにぶつかり仕舞えなかった。
俺の使ってる剣より刃が大きいのだ。
仕方ないのでこのまま手で持ち歩くことにする。
「それで、この試練ってどれぐらい長いんだ?」
「えーと、多分三つの試練を乗り越えれば終了にするって昔取り決めた気がする」
「つまり我らは、最低でも後二つの試練に挑まなければならないと言う訳か」
「マジかよ……また無限湧きの部屋とかあるんじゃないだろうな?」
「どうだったかな……もう千年近く前の出来事だから覚えてないよ」
予想通りの答えが返ってきてガックリと肩を落とす。
自分の目で確かめるしかないか。
大きく深呼吸をしてから俺たちは歩き出す。
残す試練は後二つ。
地上はまだまだ遠そうだ。
次回投稿は来週日曜日22時です!




