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第百九十話 剣士再び

190だぁー!もうすぐ200話行くけど、それでもまだ四章オワンネェ!

終わりは見えてるのにそこまでが長い!頑張ります!


「終わりだ……!」


 静かに、しかし殺気に満ちた一言がニールの口から放たれる。

 彼の構えていた弓から矢が放たれ、風の魔法に包まれていたそれは通常の矢よりも疾く、そして鋭く鉄仮面に潜んでいたプービルの一つ目に突き刺さった。

 魔法付与がかかっているからか、矢は突き刺さるだけに留まらず、一つ目を貫き壁にまで貫通した。

 打ち付けられる形で壁にぶら下がるプービル。

 呻き声のようなものが聞こえるが、それがプービルのものだったのかは定かではない。

 プービルの瞳が充血したかのように赤くなると、鉄仮面が真っ二つに割れ落下する。

 矢に貫かれたままのプービルは触手をうねらせ暴れ回るが、空気が抜けたみたいに次第に萎んでいく。

 それが、プービルの最期だった。


「た、倒したぁ……」


 一番最初に緊張が解けたのは俺だった。

 その場に尻餅を着くと、手足を投げ出すようにうつ伏せに倒れた。

 レイリスたちもプービルを倒せたことに安堵したのか膝を着くか座り込む。

 戦いが終わったからか、今までずっと気にならなかったのに全身が汗でびっしょりなのに気づいた。

 ぴったりと汗で張り付いたシャツに不快感を覚えるが、今は脱ぐ気にもならない。

 それに、心なしか火山内部が涼しくなってきた気がする。


「倒せましたね……なんとか」

「ええ、四人で相手するような魔物じゃなかったわね……あれは少なくとも十人規模で挑むべきだったわ」


 ニールとティアーヌもさすがに今回の戦闘は苦しかったようで脱力している。

 特にティアーヌは爆発を防ぐのに一番マナを使っていたから疲労がまだ抜けていないようだ。


「でも火山活性化の原因だった魔道具の仮面は壊せたわ。影響力が無くなってこの火山も沈静化するはずよ。内部の温度もだいぶ下がってきてるわ」


 あー、だから涼しく感じていたのかとティアーヌの説明で納得する。

 とりあえず、これでもう火山が噴火する心配はないみたいだ。

 ふと、そこで自分の右手に剣が握られていないことに気づく。

 あれ、剣どこにやったっけ?

 さっきまで持ってたはずなのに。


「すいません、誰か俺の剣知りませんか?」

「剣?剣ならクロ、さっき投げてたよ?」

「え、嘘!?どこに!?」

「プービルに向かって、ブオーン!って」

「ウソーン……」


 全く記憶にねぇ……あぁでも、ニールが弓矢で仕留める前に何か投げた気はする。

 あれって剣だったのか……


「えぇ……どこにいったんだよ俺の剣」

「下層の方まで落ちていったんじゃないかい?気持ちいいぐらい思い切り投げ飛ばしてたからね」

「溶岩に落ちて溶けたりしてないよね……?」


 剣を投げたであろう方角から崖っ縁から顔を覗かせる。

 火山を活性化させていた火の鳥を倒したからか、先程までグツグツと煮え滾っていた溶岩が火成岩になっており、一面に灰色の地面が見えている。

 本当に魔道具である鉄仮面が壊れたから活性化が一気に止まっているんだな。

 けれども、俺の剣はどこにも見当たらない。

 やっぱり溶岩に落ちてしまったのか?


「どこにもないんですけど……俺の剣」

「別の場所に落ちてるんじゃないかい?探しに行きますか?」

「そうね。外に出てる為にも一度降りないといけないし、バルメルド君の剣を見つけに行きましょう」


 出口に行くついでに、俺が投げ飛ばしてしまった剣をみんなが探してくれることに。

 申し訳ない気持ちになりながらも立ち上がり、一番近い足場の魔法で跳ぶことになる。

 中央の塔に登るまでの橋は火の鳥に壊されてしまったので、跳躍で飛び移るしかないのだ。

 ティアーヌとニールが先に切り立った縁に到達し、俺たちが来るのを待ってくれている。

 レイリスが俺の先を歩き、その後ろをついていき、


「……」

「レイリス?どうした?」


 前を歩いていたレイリスが突然立ち止まる。

 急に立ち止まるので声をかけると、レイリスはバッと振り返り火口を見上げた。


「来る……ッ!!」

「え?来るって、何が……?」


 一緒になって火口を見上げるが何もない。

 いや、でもレイリスの持つ破魔の剣は魔物や悪魔の気配を察知できると聞いた。

 もしかしたら空から何か来るのかもしれない!

 と、そこまで考えて背筋に悪寒が走る。

 何故だか、すごく会いたくない者が会いに来そうな気がして……まさかッ!?

 やがて、その予感は的中する。

 突如暗雲立ち込める空から一つの影を認識した瞬間、影は火口から内部へと侵入し俺たちの立つ足場に衝撃と共に着地する。

 細身で長身、華奢ながらも鍛えられた筋骨隆々の身体。

 柘榴(ざくろ)のような肌色に、二本の巻角が頭部に生えていた。

 そしてその悪魔は、立ち上がると手を振り上げ、声高らかに、


「我が名はフェリュム=ゲーデ!!悪魔界に名を轟かす、鮮烈の戦士!!」


 最ッ悪だああああああああ!!

 一番来て欲しくないタイミングで一番会いたくない悪魔が来やがった!!

 しかも前回と口上違うし!!

 レイリスも「え?誰?」って顔してるし!

 姿勢正しく手を振り上げ、ポーズを取りながら名乗り口上を述べるフェリュム=ゲーデ。

 こっちは火の鳥との戦闘でクタクタな上に魔石ももう二つしか残っていないのに、こいつとの連戦なんて無理だぞ!?


「久しぶりだな、クロノス・バルメルド。そして勇者よ。前回は勇者が割って入ったので興が削がれ身を引いたが、今回は違うぞぉ!!オマエたち二人、両者との決闘を望む!!」


 やっぱそうなるよなぁ……子供みたいなキラキラした目で決闘なんか申し込んで来やがって……

 しかし俺たち全員疲労が溜まっている。

 こんな状況で戦っても、フェリュム=ゲーデに勝てるビジョンが全く見えない。

 ここは上手く言いくるめて帰ってもらうしか手はないな。


「悪いがフェリュム=ゲーデ。俺たちはお前が来る前に既に魔物と戦っていたんだ、だから万全な状態では戦えない。それだとあんたも満足できないだろう?だから、俺たちの力が万全の時にまた改めて……」

「ふむ。では逆に問うが、オマエたちの万全とはどのような状態を指すのだ?身体がマナに満ちている時か?それとも魔王を倒した時か?」

「あ、いや……それは」

「フフフッ、わかっていないなクロノス・バルメルド。戦いは常に万全ではなくとも起きる!いついかなる状態においても万全以上の力を発揮し戦う!それこそが真の戦士!!それが出来なければ死、あるのみ!!故に、戦士が戦うのに万全な状態など必要ない!!」


 うぐっ……全く持ってその通りだ。

 普通に正論で返されてしまい、逆に言いくるめられてしまった!

 これじゃあもう戦いは回避できない……!


「ねぇクロ、あの悪魔は何者なの?」

 「あいつはフェリュム=ゲーデ。悪魔界最強の戦士……らしい。自称だから本当のところは分からないけど、実力は確かだ。俺は前戦った時、手も足も出なかった」


 小声で尋ねてくるレイリスに答えながら前回の戦闘を思い返す。

 奴は俺の最大の武器であるマナの斬撃を片手で破壊した。

 あの時はレイリスの乱入で命拾いしたが、あのまま戦っていれば間違いなく殺されてた。

 どうする、どうやってこの場を逃げ切る!?


「まずはクロノス、前回つかなかった決着をここで決めようぞ!まだオマエが隠している力を、我は見れなかったからな!」

「あの、力は、使う訳には……!!」


 フェリュム=ゲーデが言っているのは、俺がもう一つの魂に支配された状態の時だけ使える力のことだろう。

 でもあれは俺の精神が不安定となった時しか出てこない。

 しかもあれに飲まれれば、俺の存在ごと消えてしまう。

 絶対に使うことはできない。

 しかし、そんな事情を露とも知らないフェリュム=ゲーデは御構い無しに決闘することを強要してくる!


「言い訳無用!いざ尋常に……勝負!!」


 感情を昂揚しながら迫ろうとフェリュム=ゲーデが力強い一歩を踏み出す!

 地面を揺らすほどの勢いで踏み込む姿は、足場の塔を割るのではないかと思えるほどの気迫だ!

 と言うか……本当に足場が割れてた。

 フェリュム=ゲーデが踏んだ箇所がパキッと割れた音を立て、小さく亀裂が入る。

 その音に本人も気づいたのか、恐る恐る足元に目線を下げていた。

 最初は小さなモノだった……しかし、徐々に亀裂が広がり始め、まるで氷に亀裂が入った時を連想させる。


「クロ……ボク今、凄く嫌な予感がするんだけど」

「奇遇だな、俺もだよ」


 もしかして、火の鳥の爆発で塔が脆くなってしまっていたのだろうか?

 そこにフェリュム=ゲーデが強い衝撃を与えるような着地の仕方をしたから、耐えきれなくなった……?

 さすがにフェリュム=ゲーデも足場が崩れそうになるのを目にし、冷や汗をかいている。


「お、おいフェリュム=ゲーデ……ゆっくりだ。ゆっくりと、地面から足を離せ」

「う、うむ……」


 そろりとフェリュム=ゲーデが右足を上げ、亀裂の入った箇所から足を離す。

 上からの圧力が無くなり、亀裂はそれ以上広がりを見せなくなった。

 ふぅ、どうやら脆くなっていたのはあの場所だけみた


 バリバリバリバリ──!!


 不快な音と共に亀裂が更に広がる!

 それは足場全体にまで及び、まるで何かの模様みたいに見えていた。

 周囲を見回す為首を動かしていると、右足を上げて片脚立ちしたままのフェリュム=ゲーデも同じように首を左右に振って亀裂を確認する。

 そんな俺とフェリュム=ゲーデの目が合う。


「「………」」


 お互い無言で見つめ合い、やがて引きつった笑みを浮かべ、


「……あ、あはは。あはははは」

「……ぬ、ぬはは。ぬはははは」


「「ぬあっはっはっはっは!!あーっはっはっはっはっは!!」」


 もうどうしたらいいか分からず、乾いた笑いを繰り返す。

 そして、足元からパキッと嫌な音が聞こえた途端お互いに笑うのをやめると──塔が崩れた。


「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺とフェリュム=ゲーデの悲鳴が瓦礫が崩れる音に混じって響き渡る。

 もちろんレイリスやニール、ティアーヌの悲鳴も。

 塔全体が崩壊し全員落下していく。

 この高さで地面に叩きつけられたら間違いなく死ぬぞ!?


「くっ!《風の精よ!私たちを抱き上げたまえ!!》」


 呪文が聞こえると突風が巻き起こり、ティアーヌの身体を包み込み、自由に空を飛び始めた。

 まず近くにいたニールの襟首を掴むと、一番近い足場に放り投げる。


「バルメルド君!レイリスさん!」


 ニールを救出し、今度は俺たちを助けようと風に乗り近づいてくる。

 だが降り注ぐ瓦礫が多く、中々こちらに接近できず手を伸ばした。

 でも空中では身体の自由が効かず、ここからじゃ手を伸ばしても距離がありすぎて届かない!

 すると「クロ!」とレイリスが手を伸ばしてくる。

 位置的にはレイリスの方がティアーヌに近い。

 俺と手を繋いで、もう片方の手でティアーヌの手を掴もうとしているのだ。

 確かに、それならティアーヌが俺たちを掴むことはできる。

 だけどそれだと、俺たち二人の重みで……考えている暇ないか!

 伸ばされた手に俺も手を伸ばし返し、


「風よ!!」


 手の平から風魔法で突風を発生させレイリスをティアーヌの元まで吹き飛ばす。

 小さな悲鳴と共に吹き飛ばされたレイリスの襟首を、ティアーヌはしっかりと捕まえてくれた。


「バルメルド君!!」

「クロ!?どうして!?」

「俺は自力で何とかする!!俺の剣を探して、先に外で待っててくれ!!」

「そんな!?クロー!!」


 レイリスの叫び声を耳にしながら、火山の奥深く、どこまでも闇が広がる下層へと瓦礫と一緒に落ちていく。

 一筋の光もない世界に。

 俺は、闇に包まれ姿を消した。


2月も半分過ぎましたね。もうすぐ3月とかうっそでしょ……


次回投稿は来週日曜22時からです!

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