第百八十九話 仮面の眼
火の鳥戦──決着
溶岩に飛び込み炎を吸収し終えた火の鳥が戻ってきた。
再び俺たちの前に現れ、早速レイリスが斬撃を放つ。
「それそれそれ!!」
マナの消費を抑える為に小型の斬撃を連続で放つ。
火の鳥はそれを炎の羽根の誘爆で打ち消し、爆発により消えなかった斬撃は身を翻し躱している。
別にこれは自暴自棄になってやっているわけではなく、俺がニールに作戦を伝える間の時間稼ぎをしてもらっているのだ。
本当はティアーヌにも手伝ってもらいたいのだが、先程火の鳥の連続爆発を防いでもらった時の疲労がまだ残っており、立ち上がれずにいた。
だからこの作戦は、俺とニールの二人で行わなければならない。
俺たち二人にしか。
「本当に、それで上手くいくのかい?」
「おそらく……でもチャンスは一回だけ。あの魔物は一度見た技にはすぐに対応してしまいます。道具の関係上、やれるのも一回だけ」
「一か八か、ってことか……」
「だけど……やる価値は、あるわ」
会話を聞いていたティアーヌが俺の作戦に賛同してくれる。
まだ息が整わないのか大きく肩で息をしている。
「あの羽根を……少量落とされても、滑空で突進されても、防ぐ手段はあるわ。でも、さっきのような小規模の爆発による連続攻撃は何度も防げるものじゃない。私でも耐えられるのはあと一回が限界よ。
なら、同じ攻撃をされる前にこちらから仕掛けるべきよ。それにバルメルド君の作戦は、貴方だけにしかできないことなのよ」
そうだ、俺の考えた作戦はニールでなければできない。
レイリスやティアーヌにも、俺にもできない。
ニールでなければできないのだ。
彼女の言葉が後押しとなり、ニールは「わかった。やるよ」と承諾してくれる。
そのやり取りの間にもレイリスは一人で火の鳥の相手をしてくれているが、そろそろ俺も加勢しないと!
「じゃあ、これを渡しておきます!準備できたら教えてください!」
作戦で使うのに必要な物を全て渡し、レイリスの元へ駆け寄る。
何発も斬撃を撃ち火の鳥を足止めしてくれていたので助かった。
「悪いレイリス!助かった!」
「平気だよ。勇者になってから体に貯めておけるマナの量が増えたから、まだまだ余裕!」
「え、なにそれ、羨ましいんだけど」
「それで作戦は?」
「ニール兄さんの準備が整うまで足止め継続だ!」
「わかった!」
内容も聞かずにレイリスは指示に頷いてくれる。
魔石は使わず自前のマナで最小限の威力、最低限のマナで生成した斬撃を放つ。
当然そんなもの、炎の身体に命中したところで大したダメージにはならないだろう。
しかし火の鳥はそれを危険と判断し、律儀に避けてくれる。
炎の翼を羽ばたかせながら斬撃を避けつつ、あの爆発する羽根を撒き散らす。
「ボクに任せて!」
炎の羽根が舞い散るのを見てレイリスが斬撃を放つ。
俺の小さな斬撃と違い、一回りほど大きい斬撃。
それは炎の羽根と衝突すると全てを爆発させ、斬撃も羽根もどちらも消滅させた。
「クロノス君!準備できたよ!」
ニールから準備完了の合図が聞こえ肩越しに頷く。
あとは火の鳥の動きを一瞬止めるだけだ!
「レイリス!威力の強い斬撃を撃ってくれ!」
「了……解ッ!」
まずレイリスに強力な斬撃を撃ってもらう。
予想通り火の鳥は翼を広げると炎の羽根を振りまき、誘爆によって斬撃を打ち消す。
爆発によって発生した煙により姿が見えなくるが、次の攻撃が作戦を始める為に必要な攻撃になる。
動きを見逃す訳にはいかない!
左の青眼にマナを込め視力を向上させる。
火の鳥は斬撃を爆発で防いだら二撃目を避ける為に右か左に必ず移動してた。
なら今度もそうするはず、どっちか右か左か!?
目を細め煙が途切れている左右を何度も注視する。
やがて、煙の向こうで左へと飛行する鉄仮面が見え、
「そこかァ!!」
視界に捉えた鉄仮面に対し斬撃を放つ。
鉄仮面に向かってではなく、奴の進行方向に向かって。
斬撃は火の鳥、ではなく前方の壁を抉り礫を散らす。
目の前を突然斬撃を飛来し壁を斬り裂くのを見て、火の鳥は慌てて飛行をやめて踵を返そうとし──
「レイリス!」
「任せて!!」
俺の行動で自分が何をすればいいのか理解したのか、指示を出すよりも速く斬撃を放った。
レイリスの斬撃は踵を返し、反対側へと飛行しようとする火の鳥の真正面の壁に衝突し、同じように礫を撒き散らす。
またも斬撃が自身の近くの壁を抉り、思わず火の鳥は飛行を止め、その場に滞空した。
「今だ!ニール兄さん!!」
振り返り大声で叫ぶ。
既にニールは準備を終わらせ、弓を構えて待っていた。
引き絞られた弦、目標に鏃を向ける矢。
その先端にはマナの小瓶が二つ紐で括られている。
小瓶二つは俺が先程渡した物だ。
「行くぞ……疾風!!」
ニールが何か呟くと、彼の周囲に風が集まり始めた。
風は弓矢に収束し、矢全体が緑色の光を浴びる。
あれも魔法なのだろう。
矢が風魔法を帯びた瞬間、ニールは弦から手を離すと矢が押し出され、空を切る音と共に火の鳥へと放たれた。
魔法を帯びているからか、その速度は通常よりも速く飛来し、火の鳥の本体である鉄仮面へと直進していく。
だが、矢を脅威と思っていない火の鳥は防ぐことも避けることもせず、無防備なまま鉄仮面で受け止めようとしていた──予想通りに。
「クロノス君、今だ!!」
「よっしゃァ!」
矢に対して防御体勢に入らず、ついに鉄仮面の真正面まで矢が接近する。
この瞬間を待っていたんだ!!
矢に向かって左手を伸ばす。
マナを込めると、矢に括られた二つの小瓶に貯蓄されていたマナが淡い光を放ち始め、そして──
「水よ!大蛇となって、敵を吞み込め!!」
姿形をより正確に再現する為に言葉にしながら魔法を発動させる。
すると矢に括られていた小瓶が割れ、火の鳥と同じ体長の水の大蛇が姿を現わす!
矢にマナの小瓶を括り付け飛ばす。
これはワイバーンと戦った時やモンロープスと戦った時に使ったのと同じ戦法だ。
矢を射るのをニールに頼んだのは、俺だと矢が明後日の方向に飛んで行ってしまうが、ニールなら確実に矢を狙った場所に射ってくれる。
目論見通り矢は鉄仮面付近まで飛来し、目の前で水の大蛇を生成できた!
避けられることも、外すこともない!
「丸呑みだァァァァ!!」
実際の蛇が獲物に巻き付き噛み付く動きをイメージして大蛇を操る。
大蛇が思い通りの動きをしてくれるて水でてきた全身で火の鳥に取り付いた!
しかし、水の大蛇と火の鳥が接触した瞬間にまた大規模な爆発が起きる。
再び周囲が白い煙で覆われてしまうが、煙の中から爆発の衝撃で吹き飛ばされたのか、本体の鉄仮面が飛んできた。
「出てきたぞ!!」
「あぁ、でもまた溶岩に落ちちゃうよ!!」
爆発の衝撃が強すぎたのか、俺たちの遥か頭上を飛び越え鉄仮面は反対側へと飛んでいく。
しかも俺たちの足場ではなく、このままだと下層の溶岩地帯に落ちて行ってしまう!
「だああああ!!行っちゃダメェェェェ!!」
頭上を飛んで行く鉄仮面を全速力で追いかける!
また溶岩に落ちて復活されたら、さっきの攻撃を学習され通用しない!
ここで倒さないともう勝てないかもしれない!
レイリスと二人、全力で走り鉄仮面を追いかける。
しかし鉄仮面の方が衝撃で吹き飛んでいる為移動が速く、放物線を描きながら落ちてしまい……
「《土の精!お願い!!》」
後ろからティアーヌの声が聞こえると、突然壁が突出し鉄仮面を弾き飛ばす。
打ち返されるように鉄仮面は俺たちのすぐ側まで飛ばされ、地面に落ちるとまた中に潜んでいたプービルが額部分から目を出し、触手を足代わりにすると逃げ始める!
「レイリス、破壊しろ!!」
「はあッ!!」
俺よりも足の速いレイリスが一番最初に接近する。
破魔の剣を振り下ろし鉄仮面を破壊しようとするが、触手を器用に運び避けられてしまう。
今度は俺が近づいて剣を振るうが、これも避けられ逃してしまう。
するとレイリスが斬撃を放つがそれすらも跳躍して躱されてしまった。
なんでこいつ鉄仮面の癖にこんなに逃げ足速いんだ!?
このままだとまた復活されてしまう……どうすれば!?
あまりの逃げ足の速さに焦りで憤っていると、
「クロノス君!!」
後方から声が聞こえ、ニールが弓矢を構えているを確認する。
その矢が風魔法で緑色の光を帯びているのが見え、
「クロ、溶岩に飛び込まれる!!」
今度はレイリスの声で正面に向き直ると、崖っぷちまで走り逃げ、溶岩に飛び込もうと鉄仮面プービルがジャンプして──
「逃すかァァァァ!!」
もう間に合わない!
そう感じた瞬間、自分の中で何かが弾けた。
鉄仮面を破壊する程の威力の斬撃を放つマナも、イメージしている余裕もない。
ならば、剣を投げればいいじゃないか!!
などと突拍子もないことを思いついたが最後、突発的発想が脳から全身に伝達され身体が動き出し、右手に持っていた剣を力の限りに振り投げていた!
手を離れ投げられた剣は回転しながら、溶岩に飛び込もうと跳躍していた鉄仮面に激突する。
空中ではさすがに避けることができなかったのか、初めて鉄仮面に攻撃が当たった。
仮面の下部に剣の刀身がぶつかると打ち上げられる形となり、一回転しながら鉄仮面は僅かに宙に舞う。
「これで、終わりだ……!」
ニールの静かな呟きが聞こえ、矢が放たれ空を切る音が耳に残る。
放たれた矢は、宙で一回転している鉄仮面に潜んでいたプービルの一つ目に、深々と突き刺さるのだった。
火の鳥戦は今回でおしまい。
これで残すダンジョンは後一つですよ!
ついに終わりが見えてきた!!
次回投稿は来週日曜22時からです!




