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第十七話 一難去ってまた一難


 フロウと言う少女は、村に住むいくつかの貴族の家の一つだった。

 彼女から聞いたのではなく、メイドさんが「この方は有力貴族の家の子です」と耳打ちして教えてくれたからだ。

 レイリスの兄であるニールの営む屋台でフロウが落ち着くまでしばらく休んだ後、バルメルド家の屋敷まで連れて行くことにする。

 もちろんレイリスとニールも一緒だ。

 メイドさんは先に屋敷で準備をしておくと言い残し走り去って行ったのだが、何の準備をしておくのだろう?

 屋敷までの道のりで、俺とレイリスはフロウとずっと話しをしていた。


「クロノスくんがさっきやってたのは、もしかして魔法?」

「そうだよ。クロはスゴイんだ!たくさん魔法が使えて、使い方もボクが思いつかないような事ばっかりなんだよ!」

「魔法は使い方次第で、色んな技にできるからな。訓練する内に楽しくなって、色々できる様になったんだ」

「へぇ、魔法が使えるなんてすごいですね!レイリスさんも魔法が使えるんですか?」

「うん。でもクロみたいに、まだ上手くできないんだよね」

「レイリスは飲み込み早いから、すぐに上達するさ」


 だいぶ気持ちが落ち着いたおかげか、フロウは先程の様に言葉に詰まる事がなくなり、自然に話ができるようになっていた。

 話す内容は魔法や俺とレイリスの遊びとか、そんな話しばっかりだ。

 でもフロウは俺たちの話しをとても興味深そうに聞いており、何度も驚いては笑っていた。

 もう突然泣いたりしないから安心って言えば安心なんだが、結局どうして虐められていたのかとか、何で俺とレイリスが答えた時に泣いたかは分からずじまいのままだ。

 まぁ言いたくない事を無理やり聞くのも良くないので、この話はこれ以上聞きはしない。

 屋敷に着くまでずっと楽しくお喋りしていたのだが、屋敷に着いた俺を待っていたのは、険しい表情をした父ジェイクと母ユリーネの姿だった。


                    ✳︎


 屋敷に戻ると風呂を沸かして待っていたメイドたちにフロウを預け、ニールとレイリスはリビングで待っててもらい、俺はジェイクの仕事部屋に連れて行かれた。

 ジェイクの仕事部屋は二階の玄関側の部屋で、俺は今回が入るのは初めてだ。

 普段は入ることが許されないその部屋は、中央にソファーとテーブルが置かれ、窓側に仕事机と仕事の書類が入った本棚だけの簡素な部屋だった。

 俺は机の前で正座させられ、ジェイクとユリーネは仁王立ちで俺を見ている。

 ヤダなー、これ絶対怒られるやつだよ。

 一部始終を見ていたメイドさんが一度屋敷に戻ってたし、多分その時に説明を受けたんだろうなぁ。

 言い訳すると怒られるだろうし、本当の事話しても約束破ったから怒られるだろうし、どうしようもねぇなぁ。


「クロノス」

「は、はい……」


 ジェイクのいつにも増して圧のある声に俺はビビってしまう。

 こんな声で話しかけてくるジェイクは初めてだ。


「呼ばれた理由はわかってるな?」

「すいません。あれほど喧嘩はするなと言われながら、貴族の子に手を挙げてしまい」

「クロちゃん──」


 頭を下げ謝るとユリーネが俺の肩に手を置く。


「俺はフロウと言う子を助ける為に」

「あれほど魔法は無闇に撃っちゃいけません、って言ったじゃない!」

「相手を……え?」

「同じ魔法を習得してるレイリスちゃんはいいわ。二人が遊ぶ時はちゃんと力を制限できるように教えたし、遊び方もそんなに危なくないから許したわ。でも魔法が使えない相手に雷属性なんか使っちゃダメよ!」


 ……はい?

 怒るところそこ?


「それに火属性まで使って!火事になるかもしれないから使っちゃダメって口を酸っぱくして言ったじゃない!」

「え、ちょっと待ってください?あの、俺が魔法を使ったから怒ってるんですか?」

「そうよ!雷属性と火属性は危ないから人に向けて撃っちゃいけません!って言ったの忘れたの!?」

「いえ、ちゃんと覚えてます……でもあの時は一番穏便に」

「だったら水属性の魔法を使いなさい!水をぶつけるだけなら危なくないから!」

「え、いや、あの……はい。ごめんなさい」


 なんとなく謝ってしまった。

 いや確かに、あの時は悪ガキ共を怖がらせる為に雷と火属性の魔法を使った。

 でも水属性の魔法を使ってもあいつらを撃退することはできたかもしれない。

 あの時は相手にするのが面倒だからと一番手っ取り早い手段を選んだ。

 短絡的な手段を選んだのは確かに間違いだったかもしれない。


「いやそうじゃなくて!俺が貴族の子供と喧嘩したのを怒ってるんじゃないんですか?」

「どうして私たちがその事を怒るの?」

「え、だってお義父さんが喧嘩はダメって……」

「私は確かに喧嘩をするなとは言ったが、今回はあのフロウさんを助ける為にしたことなのだろう?騎士の子として弱き者の味方になろうとしたのなら、怒る理由などないだろう。むしろよくやったと褒めるところだ」

「お、おう?」

「だが君はお母さんとの『魔法を人に向かって撃ってはいけない』と言う約束を破ったんだ。それは褒められたことではない。君はもう普通の子供より何十倍も強いんだ。その自覚を持ち、相手との力量差を考えて──」


 あれ?あれ〜?

 俺が思っていたのと全然違うことで怒られてる?

 喧嘩したことじゃなくて、魔法を使ったことを怒られてる?

 ダメだ、喧嘩したことを怒られると覚悟して臨んだのに違うことで怒られてるから頭が混乱してきた。


「聞いてるのかいクロノス!?」

「ご、ごめんなさい!次からはもっと安全な解決策を考えます!」

「よろしい」

「もう魔法を人に向けて撃っちゃダメよ。でも偉いわね。虐められてる子を助けるなんて、お母さんクロちゃんが立派な子で嬉しいわぁ」

「ああ、偉いぞ。良くやったな」


 どうやらこれでお説教はお終いらしい。

 もっと色々怒られると思ったのだが、俺が喧嘩をした理由にはちゃんと納得してくれるらしく、むしろ両親は褒めてくれた。

 あかん、ちょっと涙出そう。

 俺この家に来て良かったかも。

 ありがとう神様。

 お礼に今度会った時はヘッドバットしてあげる。


「そう言えばお義父さん。カーネ・モーチィって名前の子供をご存知ですか?」

「モーチィ家の子か?知っているよ。親御さんとも面識がある」

「今回俺が喧嘩した相手はその家の子なんですけど、カーネ君がご両親に当家について文句を言ったら、バルメルド家に苦情とか……」

「苦情?ハッハッハッ!無いから安心しなさい。逆にあの子には良い薬だろう。父親は息子の我儘に最近手を焼いてるらしいからな」


 それを聞いて俺はホッと胸を撫で下ろす。

 良かったぁ、あの小太り君の言う通りバルメルド家に何か嫌がらせとかあったらどうしようかと思ってたんだけど、問題なさそうだ。


「でもこれから大変なことにはなるだろうな」

「や、止めて下さいよ〜。そうやって脅すの」

「脅してる訳じゃないぞ?ほら」


 見てみなさいとジェイクが窓を示す。

 立ち上がって窓から玄関を見下ろすと、えらい豪勢な装飾が施された乗合馬車が屋敷の前に止まっていた。

 白塗りの乗合馬車には赤いカーテン、金色の装飾、加えて旗まで掲げられている。

 旗の布は赤く、大きく一角獣の紋様が縫われていた。

 あの紋様は見覚えがある。

 ここら一帯を統治している現首領貴族の家のものだ。

 馬車を操っていた従者が扉を開けると、中から煌びやかな白のドレスに身を包んだ貴婦人が降るのが見えた。

 貴婦人は屋敷を見上げると、窓から見下ろしていた俺と目が合いクスッと恐ろしい笑みを浮かべる。


「あ、あの、お義父さん?あれは一体……?」

「さ、今回のことを全て説明しに行くよ」


 説明……なるほど、今回のことをあの貴婦人に説明。

 と言うことはあの貴婦人はカーネ君の母親、もしくは二人いた子分のどちらかの母親なのだろう。

 そんな子供に危害を加えようとしたのは俺だ。

 ならばキチンと経緯を説明しなければならない義務があるだろう。

 誰に?

 あの貴婦人に。


「……嫌だァァァァ!行きたくねぇ!」

「急いで、あの方を待たせては悪い」

「俺も行くんですか!?俺も行かなくちゃダメなんですか!?」

「当然だよ。今回の件は君が一番関わっているからね」

「嫌です!行きたくないです!」

「駄々コネてないで、ほら行くよ。私も一緒に立ち会うから」

「助けてお母様ァァァァ!!」


 ズルズルと引きずられながらユリーネに助けを求めるけど、「後でお菓子持って行くわね〜」とにこやかな笑顔で送り出されてしまう。

 悪ガキを倒したら、まさかのラスボスが出てくるとか言う最悪の展開を迎える羽目になってしまった。

 俺、今日打ち首になるかも……


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