第百八十七話 鉄仮火脚
今回は 鉄仮火脚です
タイトルだけサッと決まるのなんなん……
火の鳥が空に向かって咆え、下層の溶岩から火柱がうねりを上げその身体に集まっていく。
炎でできた身体の体積は変わっていないように見えるところから見て、あの爆発する羽根を生成するには大量の熱が必要なのだろう。
それを補給しなければ身体を維持できないのだろうけど、ここは奴の根城。
炎なら無限に補給できる!
力を蓄える火の鳥に舌打ちしているとニールが前に出た。
弓を構え、本体である鉄仮面に向かって矢を放つ。
すると火の鳥は炎の補充を止め、自らの仮面を守る為に右翼を振るう。
振るわれた翼を矢は当然貫通はするものの、炎で出来た身体にはそんな物では傷を負わせることもできず、矢は炎に包まれ燃え尽きると、先端の鏃だけが残り落ちてしまった。
「やっぱり矢じゃ駄目か!」
「でも今のは良かったわよ、ニール君。あの魔物は仮面を庇うようにして矢を無力化したわ。やはり、あの鉄仮面が本体と見て間違いないわ!」
「だけど、どうやって破壊すれば!?弓矢は効かない。クロノス君とレイリスの斬撃も通用しない。魔法攻撃も誘爆する羽根で防がれてしまう可能性もある。この人数で相手をするには手段?が少な過ぎる」
ニールの言うことはもっともだ。
どう考えても四人で相手するには不利だし、手数が足りない。
でも足りないなら……
「増やせばいいでしょ!レイリス!」
未来に来てから格上の相手と戦うことが多かったせいか、そろそろ自分の力が通用しないのを目の当たりにしても大きく動揺しなくなってきた。
特にフェリュム=ゲーデとの戦った時以上の絶望感はない。
対応されたら対応する。
斬撃を防がれただけで、破壊された訳じゃない。
なら、まだやりようはいくらでもある!
レイリスを近寄らせ作戦を話す。
俺一人じゃ出来ないことなので、レイリスに協力を頼むが……
「わかった!タイミングは任せるね!」
「ああ!」
快く了承してもらえた。
その間に火の鳥は炎の補給を終えたらしく、翼を羽ばたかせている。
あの余裕そうな振る舞いを止めさせて、引きずり下ろす!
装填された水の魔石から剣にマナが流れ込む。
「準備はいいな、レイリス!?」
「うん!」
「よっしゃ、行っけェェェェ!!」
空を薙いで斬撃を放つ、俺の放った斬撃は真っ直ぐに火の鳥に直進し……火の鳥は先程同様、身を守るように両翼で身体を覆う。
そして両翼を勢い良く広げ羽根を撒き散らし、俺の斬撃に近づくと先刻と同じように誘爆が起きた。
無数の羽根による連続爆発。
当然斬撃はかき消され、黒煙が立ち込め周囲の視界を遮りながら火口へと昇って行き──
「レイリス!!」
「ぜやああああ!!」
黒煙に向かってレイリスが斬撃を放つ!
二発目の斬撃が黒煙を切り裂き、空中で煙が晴れるのを待っていた火の鳥に直撃した!
やった!と内心ガッツポーズしその様子を見つめる。
さっき俺の斬撃を防がれた時、奴は煙が収まるまで滞空しその場を動かなかった。
だから今回も動かずに煙が収まるのを同じ場所で待っていると踏んでいたが、見事に的中した!
斬撃を浴び胴体が真っ二つになる火の鳥。
だがそこに追い打ちをかけるように斬撃が破裂し水飛沫に変わる。
レイリスの斬撃も水属性が付与されてた為、斬撃を形成していたマナが水魔法に変化し、水風船が割れたみたいに勢い良く拡散する。
拡散する大量の水が火の鳥を形成する炎に触れた瞬間、爆発が起き今度は白い煙が辺りを包む。
爆風と煙を盾で遮ると、金属が地面に落ちる音が耳に届く。
煙が収まると、俺たちの乗る足場に先程まで火の鳥が被っていた鉄仮面が転がっていた。
仮面の周囲に火の気は無く、完全に沈黙している。
「あれが、あの魔物の本体……なんですよね?」
「そうよ。魔道具の一種と思われるわ。仮面に刻まれた術式が炎を吸収して、鳥の姿を模すようになっていたのでしょうね」
地面に落ちた鉄仮面を左手で拾い上げ、刻まれた文字を眺める。
結構重いし分厚い、2cmぐらいの厚さがある。
こんなの人が装着したら、重くて顔を上げるのも無理そう……誰も装着せず、火の鳥を創ることだけを目的とした物なのだろう。
表にも裏にもびっしりと文字が刻まれていて、意味は全くわからないが、この文字が火の鳥の姿を保つ為の術式になるのか。
なるほどねぇ……
穴が空くほど術式を見つめているとレイリスがティアーヌに尋ねる。
「ティアーヌさん、これで火山の噴火はもう収まるの?」
「いいえ、仮面を破壊しない限り影響は続くわ。というわけでバルメルド君、早めにそれを破壊して。もしかしたら、溶岩の中にいなくても、火の手が近くにあればまた炎を集めて復活するかもしれないから」
「そういうの先に言ってくださいよ!!」
もう戦闘は終わったと思って、じっくり観察してしまっていた。
復活すると言うのなら早々に壊さなければ……
でもこれ、厚い鉄だからそう簡単に壊せないよな?
どうやって壊せばいいんだこれ?
手にした鉄仮面の硬さを剣で軽く叩いて確認する。
ちょっとやそっとじゃ壊れそうにないけど、とりあえず斬撃ぶつけて壊せるか試してみるか。
ぱっと思いついた手段をとりあえず試そうと思い、仮面の中央部分を狙うかと決めると──鉄仮面の額部分がパカっと開く。
「……え?」
突然鉄仮面の額が開き唖然としていると、その部分から目が覗き出てきた。
目はキョロキョロと周囲を見回し、手にしていた俺と目が合う。
え、何これ気持ちわる。
と思っていたら、鉄仮面の下部にシュルシュルと触手が伸びて足の形になり、足を振り被ると俺の顎を蹴り上げられ、
「はがっ!?」
「クロ!?どうしたの!?」
「蹴られひゃ!しひぁ噛んひゃ!!」
足が生えた時に声を出そうとした瞬間に蹴られ、思い切り舌を噛んでしまった。
そのせいで呂律が回らず上手く喋れない。
「蹴られたって何に!?」とニールに問われ、舌を噛んだ際に手放し地面に落とした鉄仮面を指差す。
しかし、全員鉄仮面を目にした瞬間に自分の目を疑っていた。
さっきまでただの鉄仮面だった物に、目と触手が生えていたのだ。
額部分から覗く目は全員を一瞥すると、驚いたみたいに跳び上がり、仮面下部から生える触手を器用に動かし小走りで逃げ始めた!
「あれは被り魔よ!」
「え、あれも魔物なんですか!?魔道具のはずじゃ!?」
「その魔道具に取り憑いているのよ!捕まえて破壊して!」
「は、はい!」「はひ!」
魔道具なのに魔物でもあるとわかり混乱するニールに答えながらティアーヌは杖を構える。
まだ舌がヒリヒリするなか、レイリスと一緒に逃げた鉄仮面を追いかける。
捕まえようと飛びかかるが、軽やかな身のこなしで避けられた!
レイリスも剣にマナを帯びさせ一振りで破壊しようとするが、跳躍し躱されてしまった。
ニールも矢を撃ち、ティアーヌも魔法を撃つが、鉄仮面のプービルは足の触手を動かし続け全て回避してしまう!
鉄仮面が小走りで逃げるその姿はあまりにもシュールすぎるのだが、捕まえることも攻撃を当てることも難しすぎて全然笑えない!!
「逃げるな!!」
舌の痛みも引いて叫びながら斬撃を放つ。
が、プービルはちらりと振り返ると、斬撃が迫るのを見て走るのをやめて地面を滑るように転がり斬撃の下を掻い潜った!
斬撃を避けられ、マズイ!と思った時にはもう遅い。
走るのをやめ、地面を転がっていた鉄仮面が崖縁から落ちてしまい、溶岩のある下層へと落下してしまった……
レイリスと一緒に崖縁から下を覗き込むと、鉄仮面がどんどん遠ざかり黒い点になると、溶岩の中に沈んでしまうのだった。
鉄仮面が沈むとすぐに溶岩が活発化し始め、上昇しながら迫ってくる!
「クロ、これって……」
「復活して飛び出てくる……二人の側に戻るぞ!!」
崖下を覗くのを止め踵を返し走り出す。
それと同時に下層から火柱が天井まで上がってきた。
ティアーヌとニールの元に駆け寄り振り返ると、火柱を振り払い甲高い鳴き声を上げながら、再び火の鳥が姿を現した!
「また復活したのか!矢が効かなくて、ただでさえ厄介なのに!」
一番の武器である矢が効かない相手を前に、ニールが苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
でもそれは俺も同じだ。
あの火の鳥は一度受けた技にはすぐに対応してくる。
また別の手を考えなければ、本体の鉄仮面を破壊するのは困難になっていく!
難易度が増していくことに歯を食いしばる。
すると、突然火の鳥が俺たちの立つ岩の塔の周囲を旋回し始めた。
「な、なに?なにをするつもり?」
理解不能な行動にレイリスが慄く。
何の意味があるのかと俺も疑問に思っていると、塔の周囲を炎が包み始める。
まるで鳥籠のように俺たちを包む炎。
やがてそれは巨大な爆音と共に炎を撒き散らし、火山内の全てを焼き払った。
ストックがだいぶ溜まってきたので、来週の連休あたりに久々に連続投稿するかも……?
まぁ、あまり期待せずに期待しててください!
次回投稿はいつもどおり日曜日です!




