第百八十四話 火山内部を攻略せよ
毎日寒くて身が縮まりますね!
風邪だけは引きたくないです
火山内部を進もうとした矢先、溶岩の中から魔物が現れた。
集合体なのか、岩石を纏い隙間から一つ目を覗かせ宙を漂う。
目以外の隙間からは溶岩が流れ、その身体は燃えている。
その魔物が三体、俺たちの前に立ち塞がった。
「ティアーヌさん、こいつら何ですか!?初めて目にする魔物なんですけど!」
「おそらく《被り魔》よ!鉱物で身を隠す魔物、それで身を守るのよ!中心の目を狙って!」
炎に包まれながらプービルが俺たちに突撃してくる。
レイリスは躱し、俺は盾で受け返したが、プービルが盾に触れた瞬間に一気に盾の温度が上がり、腕が焼けるように熱くなる!
「あっつ、アッツ!!」
「触れてないのに、近づいただけで肌が焼けそうだよ!」
「これ素の状態じゃ無理だ!水属性の魔法じゃないと!」
触れても触れなくても、接近しただけで火傷しそうな熱を帯びたプービルが相手に魔法を使っていない状態じゃ、剣を扱う俺とレイリスじゃまともに相手をできない!
そう判断し、ポーチから水の魔石を取り出すとグローブのスロット部に装填する。
魔石の効力が魔道具であるグローブから剣に伝わり、刀身が水を纏った。
「これならどうだ!!」
旋回して再び突進してくるプービルに水の斬撃を一発放つ。
しかしプービルはその斬撃を軽やかに躱して見せた。
躱された!?ともう一発斬撃を放つが、それすらも躱されてしまう。
三発四発と連発するが全て躱されてしまい、プービルの突進を全員飛び退き避けた。
「なんだあいつら!?見た目より動きが速い!?」
「岩を纏ってるから鈍そうに見えるけど、クロノス君の斬撃の速さを上回るなんて!あれじゃあ、たぶん矢も躱される!」
再び宙で旋回し、こちらに向かってくるプービルだち。
スピードが速いから、ティアーヌの詠唱も間に合うかどうか……
「だったら……!!レイリス、準備しておけ!」
「う、うん!」
旋回してくるプービルを止める方法を思い付きレイリスより前に出る。
奴らの動きは速くて斬撃による迎撃は無理……なら、正面全部だ!!
グローブに装填されている魔石と自前のマナを練り上げ、刀身に全て注ぎ込む。
そして剣を振り上げ、叩きつけるようにして地面に突き刺す。
「立てよ、水柱ァ!!」
突き刺した地面から横一列に間欠泉のように水柱が噴き出た。
水柱は俺の背より二回りも高く噴出し、俺たちとプービルを隔てる。
地面から噴出する水柱を前にプービルたちが避けようと慌てて進路を変え回避した。
しかし先頭を切っていた一体は突進の勢いが強すぎたのか、水柱を避け切れずに激突したのだった。
思い切り水柱の中に飛び込んだプービルは、その身を包んでいた炎が鎮火しただの岩の塊となって、俺たちの頭上を通り過ぎると地面に墜ちる。
炎が消え落下したプービルの一つ目に、レイリスは剣を突き刺し止めとする。
「クロ、一体倒したよ!!」
「助かる!でもまだ生き残りがいる!」
プービル一体倒すのに魔石一本に蓄積されてたマナを全て使い切ってしまった!
確実に仕留める為とはいえ、あれだけやって一体しか倒せなかったのは割に合わない。
無駄な使い方をしてしまったと反省しながらスロット部の魔石を引き抜き捨てる。
新たに水属性の魔石を装填し直して、これで水属性は残り三つ。
ペースを考えて使わないとあっという間に使い切ってしまう。
水柱を避けた残り二体がまた戻ってくる。
さっきと同じやり方はしたくないし、何か別の方法で仕留めないと!
「ティアーヌさん、魔法で動きを止められますか!?」
「難しいわね。魔物の方が動きが速いわ、私が魔法を発動させる頃には衝突する!」
ティアーヌさんの魔法でも対処は難しいとなると、もう俺にはさっきと同じ手しかないぞ……!
ええい、魔石が勿体無いけどやるしか!
「待ってクロノス君、俺がやる!レイリス、クロノス君と同じ斬撃は出せるか!?」
「で、できるけど?」
「威力は無くてもいいから、一体に狙いを絞って撃つんだ!クロノス君はティアーヌさんの詠唱を援護して!」
「わかりました!」
どうやらニールには考えがあるようだ。
指示に従い俺はティアーヌの正面に立ち援護の体勢に。
レイリスは破魔の剣を構え、旋回するプービル一体に狙いを定めていた。
ニールはその後方で片膝を着いて弓矢を構える。
「ティアーヌさん、俺がプービルを防ぐから魔法の準備を」
「お願いね。《土の精よ……》」
「レイリス、準備ができたら斬撃を撃つんだ!威力は控え目で、三発ぐらいで頼む!」
「わかったよ、兄さん!」
全員の準備が整い、旋回したプービルたちが三度突進してくる。
それに対しレイリスは一体のプービルに対して斬撃を複数放つ。
斬撃の威力は抑えめで大きさは然程小さく、おそらく当たっても大したダメージはないだろう。
だがプービルは律儀に全ての斬撃を躱している。
岩を纏った身体なら受けても平気だろうに。
小さな斬撃の雨を右へ、左へと最小限の動きで避け続ける。
ニールは斬撃を避け続けるプービルに弓矢を構え、じっと機を窺う。
彼の目はプービルの姿を正確に捉え、弦が切れるのではと思うほど引き絞られ、矢の先端はずっと同じ角度に固定されていた。
レイリスの放つ小型の斬撃を、何度も、何度も、何度もプービルは避け続け、そして──
「そこだ!!」
ついにニールが矢を放った!
しかし矢を放った瞬間、矢先にプービルの姿はない。
早過ぎたのか!?
そう思い俺が焦りを感じたが……斬撃を避けたプービルが放たれた矢の正面に移動してきた!
斬撃を避けた先にいきなり矢が飛んでくる。
さすがに動きの速いプービルでもそれを避けることはできなったのか、大きな一つ目に矢が深々と突き刺さる。
弱点と思われる一つ目を矢で射抜かれ、プービルは苦しむように宙で暴れ進路を変える。
もう一体突進してこようとしていた別のプービルに側面から激突し、溶岩の中へと落ちて行った。
「やった!」
「まだもう一体いる!」
歓喜の声を上げるレイリスにニールは矢筒から新たな矢を取り出し構える。
別の個体に激突されたプービルはコントロールを失い壁に衝突していた。
めり込むように壁に衝突していたが、またすぐにゆらゆらと宙に浮かびながら壁を離れると、再び俺とティアーヌに向かって突進を仕掛けてきた!
「ティアーヌさん、準備は!?」
肩越しに振り返ると、詠唱し終えたのか頷き返してくれるティアーヌ。
グローブに装填した魔石を発動させて刀身が水を纏う。
ニールが矢を放った。
矢はプービルの目を目掛け放たれるが、プービルはそれを軽く躱してしまう。
だがそれこそが好機。
レイリスとニールの時と同じように、矢に気を取られたプービルの注意が逸れる。
ここが狙い目!!
「《ロック・ブラスト》!!」
「ドリヤァァァァ!!」
ティアーヌが魔法を発動させ、溶岩の中から複数の砲岩が飛び出しプービルを打ち上げる。
それに合わせ、俺は打ち上げられたプービルに向かって斬撃を放つ。
溶岩により炎に包まれた身体が、水の斬撃により鎮火され、岩石で固めた身が真っ二つに引き裂かれる。
岩石ごと斬られたプービルが俺たちの足元に転がり落ちてくる。
これでひとまず障害は無くなった。
「早く先に進みましょう。いつまた噴火するかわからないし」
「そうね。急ぎましょう」
プービルたちの亡骸を後にし、俺たちは螺旋状に続く坂道を走り出す。
溶岩が少しずつ、せり上がっているような錯覚を覚えながら。
次回投稿は来週日曜日22時からです!




