第百八十三話 旧試練の山
新年明けて2回目の更新です!
最近朝も夜も寒くて辛い!
イトナ村のすぐ側の火山。
俺たちはようやくその内部へと入ることができた。
と言っても、まだ洞窟入り口に足を踏み入れたばかりで暗い通路を進んでいるだけだが。
夜目の効く能力を持った俺が先頭に立つ。
右眼のおかげで光源がほとんどなくてもハッキリと洞窟内部は見えている。
「この洞窟、どこまで続くんですかね?」
「わからないわ。ここは元々『試練の山』と呼ばれていたのよ。ある程度人の手が入っているから、そう複雑な構造ではないと思うけど」
「『試練の山』?なんですかそれ?」
「初代勇者が“勇者”としての資質を問われ、修行をした山だと言われてるわ。魔王が現れる前、ここは雪に覆われていたの。雪山という厳しい環境下で鍛え、神殿で課される試練の乗り越え勇者は強くなったと言い伝えられてるわ。
勇者が魔王を倒した後も、同じ試練を受けようと何万人もの剣士がこの山に修行に訪れたそうよ。だけど年々訪れる人が減って、数十年前には管理する人もいなくなって無人になったそうよ」
じゃあここは、元々勇者に所縁のある山ということか。
しかし今は火山となり雪も溶け、誰も近寄らない。
寂しい話だ。
「てことは、レイリスはその試練を受けるつもりだったのか?勇者だし?」
「ううん。ボクはただ火山を活発化させる魔物を退治しに来ただけで、その話は初耳だよ。ギルからは何も聞いてない」
「そうか。ならギルニウス……は、まだ気絶してるんだった」
さっき溶岩に落ちかけた恐怖から失神したギルニウスは、未だに白目をむいて紐にぶら下がっている。
信仰心を失い力が弱くなったせいで、心まで弱まってしまったみたいだ。
「それで、試練ってどんなことをするんですか?」
「そこまでは私も知らないわ。人によって内容が異なるから、どういうものか見当もつかないわ」
初代勇者が受けた試練、か……どんなものか興味はあるが暢気に受けに行っている場合でもない。
興味は尽きないが、今は目の前の問題に集中しよう。
「なんか、暑くなってきたと思わないか?」
進んでいるとニールが気温の変化を感じ取ったのか、そんなことを聞いてくる。
立ち止まって振り返ると、ニールの額には薄っすらと汗が垂れていた。
同じくレイリスの額にも汗が見える。
「そう、ですか?俺は何とも」
「気のせいかな?進むごとに肌がヒリヒリするんだけど」
「気のせいじゃないと思うわよ。私も帽子とマントの中が蒸れている気がするもの」
「ティアーヌさんの場合は着込んでるからでしょう?」
なるべく肌を露出しないようにと着込むティアーヌに熱のこもる洞窟内部はキツイだろう。
しかし俺は汗が出る程の熱は感じない。
エルフは熱に敏感なんだろうか。
「みんな、あそこ見て。奥の方、ちょっと明るいよ?」
汗を拭うとレイリスが指示す先、松明でも灯されているかのように照らされている。
右眼の視界を絞っても特に人影も魔物の姿は見えないが……
「行ってみましょう」とティアーヌの提案に頷き慎重に進む。
やがて洞窟の出口が見え、火山内部の構造が俺たちの視界に広がる。
模様の入った柱や橋などといった、明らかに人の手によって造られた建造物に床。
それが火山内部の足場となる全てと繋がっており、上まで螺旋状に続いている。
中央には塔が聳え立ち、頂上の火口付近まで伸びていた。
「な、なんだこれ……これが火山の中?アトラクションパークの間違いじゃね?」
「昔の名残ね。訪れた人に試練として、あの頂上まで登らせたんでしょう」
「ボクたちもこれ、登るんだよね?」
「ええ。本当に火山を活性化させている魔物がいるのなら……たぶん頂上でしょうね」
全員で火口へと聳え立つ塔を見上げる。
あそこに一体、どんな悪魔がいるのだろう……
「それより……かなり暑くないかい?矢とか服が燃えたりしないよね?」
うっ、暑さのことを気にしないようにしてたのに、ニールの一言で一気に溶岩の熱を意識してしまった。
本当に服とかマントが燃えるんじゃないかと不安になり、全員大急ぎで洞窟に引き返す。
確かにここは暑い……いや、暑いなんてレベルじゃない!
灼熱の溶岩が満ちたこの空間は天然のサウナ、それ以上のものだ。
こんな場所に普通の人間が長居するなんて無理だ!!
「どうします!?これじゃあ頂上着く前に俺たち火達磨ですよ!?」
「何か溶岩の暑さを防げたりするものがあるといいんだけど。レイリス、何か神様から聞いてはいないのかい?」
「聞いてないよ……何か考えがあったのかもはしれないけと」
「どうせロクな方法じゃないぞ、きっと」
ギルニウスがどうやって火山の暑さを防ぐかは分からないが、本人が気絶している以上知る術はない。
俺たちが魔法で洞窟内を冷やすとかできないぞ。
しまったなぁ、今から引き返してもフロウや影山さんたちには追いつけないし……
「あ、そうだ。フロウに貰ったこれ、なんだろう?」
「え?クロ、今フロウって……」
「お前も山登る前にイトナ村に立ち寄っただろ?あそこの村長、フロウなんだぜ」
「そうなの!?なんでギルは教えてくれなかったんだ!」
「こいつ、自分の信者の居場所は把握してるらしいし……けど、今もその力が使えるのかはわからない。あった」
軽鎧で隠した懐から取り出したのは瓶。
ティアーヌから貰ったマナを溜めておく小瓶とは違い、これは細長い形状をしている。
試験管ぐらいの長さだ。
白い固体が閉じ込められており、ほんのりと冷たい。
既視感があると思ったのだが、氷の魔石に触れている時と同じだとわかる。
「なんだこれ?」
「それってもしかして、氷の精じゃないの?開けてみて」
ティアーヌに言われ瓶の蓋を開ける。
すると、中に入っていた固体が散り散りになり、綿みたいにふわふわと瓶の外に飛び出し始めた。
「《氷の精よ。私たちを包みたまえ》」
杖を取り出しティアーヌが呟くと、瓶から飛び出した綿たちが俺たち全員の身体に降り注ぐ。
綿たちは染み込むように服や軽鎧に触れると広がり消えてしまった。
だけど、綿たちが染み込んだ場所からひんやりと冷たい空気を感じる。
まるで氷に触れているみたいに身体が冷え始め、灼熱の暑さに噴き出?ていた汗が引き、暑さを感じなくなる。
冷えた身体に溶岩の熱が丁度いいぐらいの温度になったのだ。
「なんか、身体が冷えて快適になった気がする。これもティアーヌさんの魔法ですか?」
「ええ。ニール君とレイリスさんもこれなら大丈夫なはずよ。用意してくれていたニケロ村長に感謝ね。
ただし、これは氷の精が放つ冷気で冷えているだけだから、溶岩に近づき過ぎたり落ちれば当然焼け死ぬわ。効果時間もあまり長くない。保って一時間ってところかしら」
「それだけあれば十分!行こう!」
体温が下がり快適になったからか、ニールとレイリスの調子が戻ったみたいだ。
元気になったレイリスが先頭を切って歩きだし、それに全員でついて行く。
のだが……
「みんな、止まって……」
「……?レイリス?」
意気揚々と真っ先に歩き出したレイリスが足を止める。
レイリスの制止に全員が足を止めると、レイリスは鞘に納め背負っていた破魔の剣の柄に触れた。
「……来る!」
剣を抜き溶岩へと向き直る。
同時に、溶岩の中から子供ほどの大きさをした岩が三つ飛び出してきた!
いくつもの岩が固まってできた物のようで、隙間から溶岩が溢れだしている。
溶岩を纏う岩は一人でに宙に浮き、燃え上がりながら、ゆらゆらと俺たちの前を漂う。
すると岩の隙間、真っ暗で中身の見えない箇所から、くわっ!と大きな一つ目が見開いた!
「魔物か!!」
「当然いるわよね!おそらく寄生タイプの魔物よ!溶岩で燃えてるから迂闊に触れないで!!」
魔物だとわかり全員武器を手に取る。
遠距離タイプのティアーヌとニールは後ろに下がり、俺とレイリスは守るようにして前に出た。
「クロ、行くよ!!」
「任されて!!」
次回更新はいつも通り日曜22時からです!




