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第百八十二話 溶岩の海を渡れ

皆さん、新年明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします!


 目の前に広がるは溶岩の海、視線の先には火山内部へと続く洞窟の入り口。

 レイリスとフェレット姿のギルニウスに合流できた俺、ティアーヌ、ニールは火山の中へと入る為にここまで登ってきた。

 目的は火山内部で噴火を活発化させている魔物を倒すこと……らしいんだけど、


「本当にいるのかよ魔物……」

「いやホントだって!僕の言葉を信じて!!」

「なおさら信じられんわ」


 火山の噴火は魔物の仕業だと言っているのがギルニウスなんだよなぁ……

 もちろんこいつだけの言葉なら、信じてここまで来たりはしなかったのだが、それでも俺たちが魔物の仕業だと思い登って来たのにはもう一つ理由がある。


「ギルは嘘は言ってないと思うよ。ボクの剣が、火山に反応してるから」


 レイリスの持つ剣、破魔の剣が淡い光を浴びている。

 鞘から引き抜き火山麓へと向けると、刀身が帯びていた淡い光が徐々に強くなっていく。


「山を登り始めてからどんどん反応が強くなってるんだ。間違いなく火山の中にはいるよ。大物が」

「便利だなその機能。魔物探知か」

「うん。邪悪な力とか、悪意とかを察知して教えてくれるんだって。ギルが言ってた」

「破魔の剣の標準機能さ!しかも探知だけじゃなくて、対峙した時に悪魔に対して封力も発揮し、更に攻撃を与える時に少しの傷でも悪魔にとっては大ダメージを与える効力も付いてるのさ!」

「悪魔族特効二倍みたいな感じか?」

「そうそう、そんな感じ!」


 胴体を紐で括られ宙ぶらりんのフェレットギルニウスが自慢気に頷く。

 今は俺の腰ベルトに繋がれている為、まともな身動きが取れない状態にしてある。

しかし悪魔に対して与える傷が大きくなるとは、さすがに破魔と言う名前がついてるだけあって悪魔泣かせな性能を持っている。


「ちなみに封力ってなんだ?」

「擬似結界みたいなもので、破魔の剣の周囲にいる魔物と悪魔は力が弱まるんだ。強力な力を持ってる相手だとあまり効果ないんだけどね」

「どおりで、さっきから肌がチリチリするとと思ったわ」


 ギルニウスの説明を聞いてティアーヌがローブに隠れていた腕を撫でている。

 そうか、ティアーヌも悪魔だから影響を受けてしまうのか。

 あっ、しまった。

 ティアーヌが悪魔だってことをレイリスに説明してない。


「あー、レイリス。ティアーヌさんは……」

「知ってる。悪魔なんだよね?最初に会った時に剣が教えてくれた。でもクロと兄さんが気づいてない、なんてことはないかなって聞きはしなかったんだ」

「そっか……」

「うん。大丈夫。二人が信頼してるなら、斬ったりしないよ」


 斬ったり、という言葉を耳にした瞬間背筋かゾワッとする。

 それは確かな殺意。

 俺とニールを裏切るならば躊躇無く斬り捨てると言う一種の警告。

 ティアーヌに向けられたそれは溶岩の熱に当てられる俺たちの肝を冷やすには十分過ぎる程。

 だがティアーヌは、涼しそうな顔を見せ小さく笑う。


「裏切るなんてことはしないから安心して。私、悪魔嫌いだから」

「……わかった」


 とりあえずこの場はそれで納得したのか、レイリスの殺気を感じなくなり深く息を吐く。

 知らぬ間に呼吸を止めてしまってたみたいた。

 いきなり斬り合いに発展するようなことにならず安堵する。


「と、ところでどうしようか!?あの洞窟に行くには、この溶岩の海を越えなきゃならないけど」


 空気を変えようとニールが話題を戻す。

 洞窟のある場所からは距離がある。

 だが俺たちのいる場所から洞窟までの間の溶岩には足場はない。

 まだ沈んでいない岩山が散在しているものの、都合よく平たいなんてことはなく、全てが足を着くには不安定な形をしている。

 かと言って、他の道がある訳でもない。


「まぁ、飛び越えるしかないわよね」

「飛び越えるったって、どうするんですか?俺たちカエルじゃないんだから、岩山ピョンピョン跳びながらなんてできませんよ?」


 俺の指摘にティアーヌはマナを溜めた小瓶を四つ取り出し、「ちょっと勿体無いけど」と蓋を開けると中身を地面に振り撒く。

 そして杖を取り出し、


「《風の精たち、私たちに力を貸して》」


 その声に応えるかのように振り撒かれたマナが淡く光り始める。

 するとマナは風の魔法となり、膝元ぐらいの高さの小さな台風みたい物が目の前にできあがった。

 小さな台風は地面に降り立つとじっとその場に留まっている。


「魔法で風の塊を作ったわ。それに乗って跳躍すれば、向こう岸まで飛べるはずよ」


 そう言ってティアーヌは小型台風に飛び乗り、一気に跳躍し、溶岩の海を飛び越え対岸の洞窟前に着地してみせた。

 俺がインスマス教会を覗く時に使ったのと同じ感じみたいだ。


「時間が経つと消えるからなるべく急いで!一度の跳躍でこちらに来れるか不安なら、岩山を中間地点にするのよ!」


 ティアーヌの言葉に従いニールが恐る恐る続く。

 小型台風に飛び乗ると戸惑いの表情が次第に消え、跳躍すると空高く飛び上がった。

 しかし、勢いが弱かったのかあまり飛距離がない。

 ニールはティアーヌとは対照的に、一気に対岸まで飛ばずに一回一回慎重に岩山に着地しながら洞窟前に降りていた。

 続くレイリスはニールの動きを見たからか、それとも飛び乗って感覚を掴んだのか、一度の跳躍で半分の距離を飛んで見せた。

 一度岩山に着地すると二度目の跳躍で対岸に辿り着いた。


「すげーなレイリス。二回で到達かよ」

「あの子、勇者だけあってセンスは結構いいからね。じゃあ、次は相棒の番だけど……落ちないでね?絶対落ちないでね?」

「落ちてたまるかよ」


 念押ししてくるギルニウスを軽くあしらい小型台風に飛び乗る。

 その瞬間、とてつもない突風が足元から吹き荒れた。

 足は地面から離れ、数センチ程浮いた状態となる。

 まるで台風の吹く靴を履いているかのような感覚だ。

 でも飛び方は俺が普段やってる風魔法と対して変わらないはず。


「準備はいいかギルニウス?行くぞ!」


 膝を曲げ風を蹴るようにして跳躍する。

 すると足元の台風が風を巻き起こし俺の体は空高く飛び上がった。

 何度も経験した感覚。

 もはや風魔法で飛ぶのも慣れたもので、自分以外が発動させたモノでも問題なく操れる。

 俺も慎重に渡るべく、対岸までの中間距離にある岩山に一度着地する。

 もう一度跳躍して、今度は対岸付近の岩山に跳び移れば、


「……ん?何だ?」


 岩山に着地した瞬間、足元に違和感を覚える。

 少しだけ揺れているような気が……?


「……クロ!」「ッ!相棒!」

「「早く跳んで!!」」


 レイリスとギルニウスの催促に「え?」と反応する。

 だけど、その言葉の意味を理解するには遅すぎた。

 次はどの岩山にしようかと選別していると、乗っていた岩山が突如として揺れ始めた!

 いや、岩山が揺れているんじゃない!

 山全体が揺れているんだ!!


「じ、地震!?また噴火するのか!?」

「全員伏せて!揺れは大きいわよ!」

「クロ!!」


 既に対岸に着いている三人は揺れの大きさに立っているのが困難なのか姿勢を低くしている。

 しかし岩山の上にいる俺はそうはいかない。

 ただでさえ不安定な足場に加え周囲は溶岩の海。

 体勢が崩れ落ちようものなら、灼熱のマグマの中にダイブし原形を止めることなく焼け死んでしまう!

 そんなの冗談じゃない!とその場にしゃがむと岩山に腕を叩きつけ、土魔法で腕を土のドームで包み固定させる。

 少なくてもこれで落ちることは多分ない!


「何してんの相棒!早く、早く跳んで!!」

「揺れてて脚に力入らないんだよ!こんなんで跳んだら落ちるわ!!」

 「なら耳で空を飛べばいいでしょ!!」

 「できるかァ!!ダンボじゃねぇんだよ俺は!!」


 口論している間にも揺れはどんどん大きくなっていく。

 最悪なことに揺れで溶岩が波を打ち、寄せては返すのを繰り返し、目の前に浮かんでいた岩山が波に呑まれてしまった!


「「ひぎゃああああ?!」」

 

 マズイマズイマズイマズイ!!

 岩山に腕を固定してる限りは落ちはしないだろうけど、このまま地震が続けば俺たちも溶岩の波に呑まれてしまうかもしれない!!

 揺れにより次第に波が大きくなり、溶岩に呑まれ岩山の数が減っていく。

 俺が乗っている岩山にも波が打ち付け、後数回もすれば足場に溶岩が届きそうだ。


「ああああ相棒うううう!!」


 地震のせいか、それとも自ら徐々に迫る溶岩に震えているのか、小刻みに揺れながら喋るギルニウス。

 もはや地震が収まるまでこの場に止まるという選択肢はない!

 一か八か対岸まで一気にジャンプするしかない!

 立つことができないので、しゃがんだ姿勢のまま着地するべき対岸を見据える。


「うわああああ来たああああ!!」


 溶岩の高波が他の岩山を巻き込みながら迫ってくる!

 飛沫を浴びただけでも大火傷になる。

 焦るな、焦ったら足を滑らすぞ……!


「あばばばばば!!」

「行くぞ!」


 高波が岩山を覆う瞬間に跳躍する。

 身を屈めたまま飛び出すように波を避け、対岸の崖端ギリギリに着地した。

 その頃には先程まで立っていた足場は溶岩の波に呑まれて消えてしまう。

 対岸に着地する頃には地震も収まり、俺もギルニウスも大きく息を吐く。


「「はああああああ〜……生きてる」」


 かなり危なかった……でも何とか落ちずにまだ生きてる。

 地震が収まって活発化していた溶岩も波も収まるが、振り返ると足場となった岩山は一つ残らず無くなり、一面の溶岩だけが広がっていた。


「バルメルド君、大丈夫?」

「なんとか、どこも火傷してないです」

「ぼ、僕も無事です……」

「そう、なら良かったわ。早く洞窟の中に入りましょう。また地震で高波が来るかもしれないわ」


 ティアーヌが洞窟を示し、俺たちはそれに頷く。

入り口へと向かう三人の後に続こうと歩き出し──足元の崖が崩れた!


「いっ!?うわぁ!!」

「クロ!?」


 地震で崖に亀裂が走っていたのか、左足を乗せていた箇所だけが崩れ、そのまま崖から落ちてしまう!!

 崖下には当然溶岩の海、このままだとギルニウスと一緒に溶岩の中に落ちる!


「いやああああ!!死ぬうううう!!」

「ぬ、ぐぅ……!!」


 落下と共に悲鳴を上げるギルニウス。

 しかしフェレットの姿をした神には何も期待していない。

 咄嗟に剣を引き抜くと刀身にマナを流し込み斬れ味を強化し、岩壁に剣を突き刺した。

 剣は深々と絶壁の崖に刀身が突き刺さり、そのおかげで俺は宙にぶら下がった状態となった。


「クロ!!生きてる?!クロ!!」

「クロノス君!!」

「あー……生きてるよ。ちゃんと生きてる……」


 顔を覗かせ安否を尋ねるレイリスとニールに生返事で答える。

 今のは流石にもうダメかと思った……


「おいギルニウス。あんたは大丈夫か?」


 紐にぶら下がっているギルニウスに話しかける。

 紐で結んでいたギルニウスもしっかりと繋がれたままだが、溶岩に落ちかけたのが相当恐怖だったのか、白目をむき泡吹いて気絶していた。

 情けねぇ、神のくせに恐怖に対して耐性なさ過ぎだろ。

 失神しているギルニウスに呆れていると上からロープが降りてきた。


「クロノス君、それに掴まって!」


 ニールが垂らしてくれたロープを掴むと剣を絶壁から引き抜く。

 ロープを伝って崖を登りきると、ようやく胸を撫で下ろすことができた。


「はぁ、助かった……」

「よく無事だったね。助からないかと思ってしまったよ」

「咄嗟に剣を崖に突き刺したんです。失敗したら溶岩に落ちてました」

「機転の効くことで」


 だけどのんびりもしていられない。

 今いるこの場所も、いつ崩れるかわかない。


「早く洞窟に行きましょう」

「そうね。地震のせいで足場が脆くなっているのかもしれないわ。また崩れる前に急ぎましょう」

「うん。あれ、ところでギルは?」

「気絶してる」


 白目むいたまま気絶したギルニウスをレイリスに見せながら歩き出す。

 火山の噴火まで、あまり時間がないのかもしれない。

 一抹の不安を覚えながら、俺たちは洞窟へと進むのだった。

次回投稿はいつも通り日曜日22時からです!


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