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第百八十一話 エルフとフェレット

今回で本年度中は最後の更新となります!

一年間ありがとうございました!


 レイリス、ギルニウスとの再会を遂に果たした。

 この時代のレイリスは魔王を倒す勇者。

 ギルニウスは勇者を導く為にフェレットの身体を借りてレイリスの傍にいた。


「クロが死んで、村に戻ってからすぐにギルはボクの前に現れたんだ。魔王が復活して、多くの人たちが魔物の犠牲になる。だから君の力を貸して欲しいって」

「それで突然村からいなくなったのか」

「ごめんなさい。言えばきっと兄さんも付いて来ると思ったから」

「そりゃあ付いて行くさ。でも、黙っていなくなるより、書き置きぐらいは残してほしかったかな」


 再び山を登りながらレイリスが村を去った理由を話してくれる。

 兄を巻き込まない為に取った行動だと判明しても、そのことに関してニールは叱責はしなかった。


「それで、ギルに広い世界を見るんだって言われて、この六年間ずっと世界各地を回ってたんだ。先月ぐらいに戻ってきて、勇者の剣を手に入れる為に禁断の森に」

「ちょうどそのタイミングで私たちは禁断の森に入った。そして、レイリスさんが勇者になると巫女様に御告げをしたのが」

「はーい、それが僕でーす!」


 フェレットの姿をしたギルニウスが声高らかに名乗る。

 だが動物の姿で神様などと主張しても信じてもらえるはずもなく、ティアーヌもニールも疑り深い目でフェレットの神を見る。


「アレが、慈愛の神ギルニウスねぇ」

「にわかには信じられないですよね。アレが神様だなんて……肖像画だと人の姿してますし」

「もしかしたら、絵画や彫像の姿は信徒が想像で創られた姿で、アレが本当の姿なのかもしれないわね」

「まぁ、レイリスとクロノス君が言うのなら本物なのは間違いないんでしょうけど」

「ちょっとそこのお二人!?さっきからアレアレって、神様に対して失礼だと思わないの!?」


 アレ扱いされ抗議の声を上げるギルニウス。

 しかしそれも無理もないだろう。

 外見がフェレットな上に中身も言葉遣いも全然神様っぽくないのだから。

 威厳とかもないし。


「確かに!今でこそ僕はフェレットだよ?でもこれは世を偲ぶ仮の姿で、本当は絵画とか彫刻なんかより断然いい男なのさ!見たら君たちだってきっと僕が慈愛の神ギルニウス本人だってわかるさ!

 ねぇ、そうだよね相棒!!二人に言ってくれよ相棒!!後いい加減この縄解いてくれないかな相棒!?さっきから宙ぶらりんでクルクル回ってて、そろそろ目が回りそうなんだよ相棒!?」

「うっさい」


 紐で縛られ、俺の右手に摘まれ宙ぶらりんにぶら下げられ声を張り上げるギルニウスを一蹴する。

 逃げられないように胴体を紐で括って俺が手綱を握っている状態だ。

 手を離してしまえばまたこいつだけ逃げるかもしれない。

 当然そんなの許す訳もなく、ぶら下げたギルニウスを眼前に近づけ、


「俺は今、あんたのことを一切信用してない。何と言おうが俺は絶対この紐を(ほど)かないぞ。俺は知ってるんだからな?あんたが俺にしたこと全部」


 睨みつけながら最後だけ小声で囁く。

 俺にしたこと、という部分でギルニウスはビクッと身体を震わせ視線を逸らす。

 歩みを止めたので、すぐ側をレイリスが通り過ぎた。


「あっ、レ、レイリス……?助けてくれないかな〜?」

「嫌だよ。だって、ギル言ってたじゃないか!クロは偽物で兄さんたちは騙されてるって、だけど騙してたのはギルの方じゃないか!さっき一緒に戦ってはっきり感じた。クロは偽物じゃないって!だから助けない。知ってるでしょ、ボク嘘つかれるのは嫌いなんだ」


 ふんっ、とレイリスにそっぽを向かれてしまうギルニウス。

 どうやらレイリスの信頼までも失ってしまったみたいだ。

 自業自得としか思えんけど。


「そ、そんなぁ……」

「身から出た錆ですね」

「同感だわ」


 ニール、ティアーヌも追い打ちをかけるように呟きながら通りすぎる。

 俺たちの中でのギルニウスの印象は最悪のようだ。

 全員から見放され、紐に縛られたギルニウスは萎びたみたいにぐったりと項垂れる。


「残念だったな。レイリスに何をさせるつもりだったかは知らんが、俺みたいに思い通りの駒にできなくなったな」

「駒って……どんだけ僕のこと嫌ってるのさ……」

 「言ったろ。俺はあんたが俺に何をしたのか、俺の身体(なかみ)に何が入ってるのか知ってる。その上で今まで通り、あんたを信用なんてできる訳ないだろ」

「知ってるって、それは一体誰から」

「あんたを困らせるのが大好きな後輩」

「ルディヴァかぁ……!」


 ある程度予想はしていたのだろう。

 女神の名を聞いてギルニウスは頭を抱える。

 やっぱりルディヴァはギルニウスにとって、普段から頭痛の種なのだろう。


「これではっきりした。やっぱり君、この時代(・・・・)のクロノス・バルメルドじゃないね?一体どこの時代から来たの」

「十年前。初等部卒業間近って時にルディヴァに襲われて、未来(こっち)に飛ばされたんだ」

「あぁ、なるほどねぇ……ルディヴァめ、意地の悪いことをする。丁度その頃の君は、推薦状を貰った王都の学園に行くか、フロウとレイリスと一緒に近場の中等部に通うか悩んでた時期だ。なるほどねぇ、なるほどなるほど」

「何がなるほどだ。一人で納得して」

 「いや、なんで十年前の君がこの時代に飛ばされたのかわかってね。ルディヴァは君にも頭を抱えて欲しいんだよ」

「俺はもう充分?頭を抱えたぞ」

「もっとだよ」


 もっと頭を抱えて欲しい?

 ルディヴァが俺に?

 自分のもう一つの魂のことも、自分の屑さや非力さも、俺はかなり頭を抱えている。

 それなのに、まだこれ以上頭を抱えろというのかルディヴァは。

 サディスティックにも程があるだろ。


「その時期の君を選んで寄越したってことは、こっちで死んだクロノス・バルメルドとは違う選択をさせたい……んだとは思う。思うよ?けど、あの子のことだから、ただ僕と君を引っかき回して暇潰しに楽しんでるだけなのかもしれない」

「……否定できないな」


 確かにルディヴァは未来に来てから、俺が苦しんだり悩んだりする姿を見て楽しんでる節があった。

 そもそも何故この時代に俺を飛ばしたんだ?

 俺の中の封印された魂を呼び起こして、それを見たギルニウスを困らせる為なのは間違いない。

 でもだったらこの時代じゃなくてもいいはず。

 魔王に会わせるだけなら魔王が活動してた時代に飛ばしてもいい。

 封印を壊して暴走させるだけなら未来に飛ばす必要もない。


「あの女神の考えることは全然わからない……」

「僕もだよ……でも、さっきも言ったけどルディヴァは君が選ばなかった未来を選ばせたいのかもしれない」

「それさっきも言ってたな。あんた知ってるんだろ、未来の俺が王都に行くか村に残るかを。こっちの俺はどうしたんだ?」


 「それは──」と言いかけ、ギルニウスは慌ててフェレットの小さな手で口を押さえた。

 見ると僅かに身体を震わせている。


「どうした?」

「今ルディヴァが『余計なことを言うと消しますよ』ってテレパシーを……」

「そんなことできるのかよ」

「受け取った気がする」


 気がするだけなのか。

 てっきり神同士では思念が使えるのかと思った。


「やめやめ!この話やめ!話して本当にルディヴァに消されたらたまったもんじゃない!!僕と一緒に君も消されるかもしれないし!!」

「それは困るな。よし、やめとこう」


 ルディヴァだったら本当に消しに来ないとも限りない。

 今後未来の自分が王都に行ったか、村に残ったかを聞くのはやめておこう。

 時の女神の恐ろしさに一人と一匹で震え上がっていると先に進んでいたレイリスがこちらに手を振ってきた。


「クロ、見つけたよ!!」


 その言葉に俺は山道を走って登る。

 レイリスたちに追いつき、三人の視線の先を見る。

 火山の麓から溢れ出た溶岩の溜まり場、溶岩の海とも言える場所が見えた。

 割れた地面も溶岩が噴き出し、ぐつぐつと音を立てて泡立っている。

 まだ足場となりえる岩山がいくつか残っており、その先には火山内部へと続く洞窟の入り口がある。


「あの洞窟が火山内部への入り口ね」

「あそこまで行けば……」


 ティアーヌとレイリスが洞窟の入り口をじっと見つめる。

 レイリスと合流した俺たちの目的は、山を下山することではなく、火山内部へと入ることだった。

 内部にいるであろう、火山を噴火させようとする魔王軍の魔物を倒す為に。

 溶岩の海の向こうに待ち構える洞窟を見つける俺たちの耳に、火山麓から鳥の鳴き声が響き渡るのが聞こえるのだった。





二年目を迎え、次は連載三年目を目指していこうと思います

今年一年お世話になりました!

来年もよろしくお願いいたします!

それでは良い年末を!!


次回投稿は1月1日火曜日22時となります。

いつもと違うのでお気をつけください!!

それではまた年始にお会いしましょう!

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